最愛の人にフられたのでAGI/STRに特化しようと思う 作:望月鈴夏
───葵ちゃん、大好きやで。大きくなったら葵ちゃんはウチのお嫁さんになるんよ?
───うん……お姉ちゃんのお嫁さんになる……だから、他の人と付き合っちゃ嫌だよ?
───ウチは葵ちゃん一筋やから、他の人と付き合うたりせぇへんよ!!
茜色の髪をした少女と共に歩く、夕焼けに染まる帰り道。
隣の少女は、僕がこの世界に転生して色々不安定になっていた時に支えてくれたお姉ちゃん。
僕が前世の頃はキャラクターとして大好きで、今世では前世以上にもっともっと大好きになった茜お姉ちゃん。
ちょっと抜けてて、関西人の叔母様に育てられてたから関西弁が混じっているお姉ちゃんと交わしたこの会話は、ずっと本気だと思っていて。
毎朝お姉ちゃんの方からキスをせがんできて、お風呂も一緒に入ってきた。
一緒のお布団で寝て、下着なんかも色違いのお揃いにしたりしてずっと恋人らしいことを続けてきた。
中学校を卒業する日にも、朝から一緒に登校して、卒業式が終わった後にも告白しなおしてオッケーを貰って、その日からもずっと幸せな日々が続くんだと思っていた。
なのに……
「葵ちゃん、ウチな?恋人が出来たんよ。やから、あかり以外とは付き合えへんし、ずっとウチのこと騙して彼女面しとった葵ちゃんとは会いたないからあかりん家にお邪魔さして貰うことになったわ。もうウチに話し掛けへんでよ、浮気者」
高校の入学式の日、僕の事を嫌悪したように睨み付けてそう言った後、それよりも遙かに嬉しそうに
その日以来、お姉ちゃんとは一切話しをしなくなった。
お姉ちゃんを見掛けることはあっても僕から話し掛けることはしなかったし、お姉ちゃんも僕を見つけると嫌悪したような軽蔑したような視線を向けて近くに居る紲星さんの手を握って去って行く。
僕はお姉ちゃんを騙していたことはなかったし、浮気もしたことはなかったけれど、お姉ちゃんがボクを浮気者と罵ったのだから僕は浮気をしていたんだろう。
僕の浮気相手は弦巻マキというあったことも無い人だったけれど、僕とその弦巻さんが一緒に居る写真を紲星さんは沢山沢山持っていたんだとか。
後日お姉ちゃんから郵送されてきた写真は本当に注意深く隅々まで観察しないと解らないほど巧妙に偽装された合成写真で、お姉ちゃんはこんな物に騙されるくらい僕の事を信用してくれなかったのかと笑いそうになった。
まあ、そんなことはもうどうでも良くて、お姉ちゃんと一緒にプレイしようと思って内緒で買っていたVRゲームのヘッドギアとNewWorld Onlineが昨日、二組届いた。
お姉ちゃんがやりたいと呟いていたから結構無理して入学式までバイト漬けの日々を送ってきたのだけれど、それが裏目に出て紲星にお姉ちゃんを盗まれるとは思わなかった。
……辛気くさい話は置いておくとして、先ずはNewWorld Onlineをプレイしてみたい。
取り敢えず説明書を読み込んで仕様は理解しているので、VRギアを被ってカセットを挿入し、ギアの電源を入れてゲームを起動した。
──数秒ほど視界が暗転した後、タイトルロゴが視界いっぱいに広がっているのを無視して、オプションからダイブ中の五感の再現度を現実と同じになるまで引き上げてからキャラ設定画面へと移る。
容姿はそこまで変えられないので髪の毛を腰辺りまで伸ばしてブロンドにし、瞳を至極色にして僕である要素を消しておく。
ステータスはAGIとSTRに50づつ振り分け、武器は長剣を二本選択してキャラネームにノワールを入力して……いざログイン。
先程同様数秒程視界の暗転。肌に触れる心地良い風の感触と人々の喧騒に目を開けば、複数の大通りが延びる中央広場のような場所に沢山の人々が行き交っていた。
中世のような雰囲気の街並みを眺めながら、大通りを歩いて西の森へと向かう。
唯歩いて行くだけでも現実より速く流れていく景色が楽しくて、段々と歩く速度が速まっていく。
僕の前を歩く人達にぶつからないように注意しながらどんどんと歩きから駆け足に、駆け足から走りへと変わっていき、いつの間にか西の森エリアに入っていた事にも気付かずに走り続ける。
途中で現れる邪魔なモンスター共は蹴り殺したり二振りの長剣で切り捨てたりして、ふと我に返った時には周囲が薄暗くなっていた。
「……なんだろ、ここ。多分さっきまで居た西の森ではある筈なんだけど……」
取り敢えず、考えても仕方が無いのでステータスを開いてみる。
ノワール
Lv10
HP15/15
SP10/10
【STR 75〈+30〉】
【VIT 0】
【AGI 75〈+10〉】
【DEX 0】
【INT 0】
装備
頭【空欄】
体【空欄】
腕【空欄】
右手【初心者の長剣】
左手【初心者の長剣】
足【空欄】
靴【空欄】
装飾品【空欄】
【空欄】
【空欄】
スキル
【全力疾走Ⅲ】【ランナーⅢ】【体術Ⅲ】【格闘術Ⅲ】【剣術Ⅱ】【蹴脚術Ⅲ】
何だか敵が居そうな雰囲気なので30あったステータスポイントはささっと半分づつSTRとAGIに振りわけ、パネルを握り潰して腰の長剣を両手に持つ。
よく見れば薄暗いのは瘴気が周囲一帯に発生しているかららしく、その瘴気が濃い場所に元凶が居るのだと仮定してゆっくりと歩みを進めていく。
瘴気が纏わり付いて気持ち悪い感触に集中を削られながらもたどり着いた先にいたのは、瘴気を纏う黒い竜だった。