Vividの二次創作   作:駆け出し始め

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「肉体面及びリンカーコアの双方が448日以上安定。

 内、週に10時間から15時間魔力を使用したストライクアーツが180日を経、週に20時間から30時間魔力を使用したストライクアーツがに移行して70日。

 身体成長は同肉体年齢女性の平均の近似値内。

 問診から推測される心的抑圧も極めて軽微と推測。

 

 ……私では此れを超える結果は望めないだろう、理想の回復経過です」

「…………ってことは…………」

「はい。魔力の使用限界の制限こそ設けさせて頂きますが、それ以外は特に制限を設けません」

「…………………………っぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!♪!♪!♪」

 

 歓喜の大声(たいせい)こそ上げていませんが、間違い無くアレはその充填中ですね。 

 

 流石に今回の様な時に大声を出すなと注意するのは無粋でしょうし、カルラ医師も予測しているだろうにも拘わらず制止しないということは、然して問題が無いということでしょうね。

 ならば此処は素直にヴィヴィオの喜ぶ様を温かく見守るとしましょう。

 

「ねえねえねえっ!?ならならなら、これから思いっっっっっっきりっ運動してもいいんだよねっ!?学園でみんなと同じだけ授業受けていいんだよねっ!?放課後とか休みの日にみんなと一緒に色んなことしていいんだよねっ!?くたくたになるまで走ったり泳いだりだけじゃなくって、ストライクアーツも立てなくなるほどやってもいいんだよねっ!?!?魔力溜まりがある秘境をみんなと探検したりしてもいいんだよねっ!?!?デバイスも持っていいんだよねっ!?!?ママ達と模擬戦してもいいんだよねっ!?!?それにそれにそれにっ!!!これから元気に楽しく思いっきり生きていけるって事だよねっ!!!???」

 

 ……凄まじい質問攻めですね。

 まあ、真面目に治療に取り組んでいたとはいえ、矢張り色色不満が溜まっていたのでしょうね。

 ヴィヴィオ位の歳ですと、男女問わず遊び疲れて眠ってしまう程に全力で行動するのが普通ですから、常に余力を残す様に……それも自分以外の者が決めた規則に従って力の配分をしなければならないのは、本来なら人格が歪みかねない程のストレスになりますからね。

 にも拘らず、鬱憤は溜まれど鬱屈せず、しかも歪まず明るく毎日を楽しんで過ごせたのは、偏えになのはさん達の愛情の賜物でしょうね。

 それと、恐らくカルラ医師を公私共に此れ以上無い程に信じているからこそ、直ぐに効果が現れない治療指導を疑わず、常に真摯に取り組み続けたのも理由でしょうね。

 

 ……編入当初は可也制限が在りましたから、魔力行使どころか単純な運動すら碌に許可が下りずに少なからずクラスへ馴染むのが遅れましたし、漸くストライクアーツが出来る様になっても健康そうに見えるにも拘らず度度見学に回られていた為に徒のサボりだと陰口を叩かれたりもされましたから、其の度に自分の身体が健康でないことに多多思う所が在ったのでしょうね。

 他にも、漸くクラスへ馴染めて来た時に遊びや部活に誘われた際、治療指導を破ってしまいたくなる様な誘惑が多多在ったことでしょうに、その度に必死に誘惑を振り切りつつも未練は振り切れていなかったのでしょうね。

 だからこそのこの大はしゃぎ様なんでしょう。

 

 そして其れを察しておられるだろうカルラ医師は、ヴィヴィオの余りのはしゃぎ様に微笑を浮かべながらも全て聞かれていましたが、表情を微苦笑に変えつつ緩んでいた雰囲気を引き締められると、ヴィヴィオの質問に答えを返され始めた

 

「取り合えず全てに応答しますので、一旦質問を中断して下さい。

 それと、返答に対して疑問が在れば直ぐに答えさせて頂きますが、新たな質問は先の質問に全て答えさせて頂く迄御控え下さい」

「う、うん」

 

 取り合えず質問攻めは止んだものの、相変わらずヴィヴィオのテンションは限界迄高まった儘ですね。

 と言うか、下手したら暫くの間は躁状態になってそうな気がしますが、……カルラ医師が今から行う応答で落ち着かせてくれるでしょう。

 

「先ず運動制限の有無ですが、自己治癒力を超える運動を継続的に行う等でない限りは、特に此方から制限を設けたりは致しません」

「分かり易く言うとどれくらいなのかな?」

「食事及び休息を取ろうとも身体が衰弱していく運動量です。

 食事量と休息量と運動量次第で変動する為具体的な運動量は提示出来ませんが、食事と休息を取って尚痩せさばらえていく状態と思って頂ければ結構です」

「うん、分かった。

 そしてそんなことしたくもないから大丈夫だよ」

「では二つ目の学園での行動制限の有無に関してですが、履修科目及び学園行事並びに部活動に於いては学園側に再三確認を取った末に問題が無いと判断致しましたので、此れに関しましても制限は御座いません」

 

 特に疑問点が無いのか、今度は軽く頷くだけで先を促すヴィヴィオ。

 返事をせずに先を勧める様は、成長したと見るべきか話す場合よりも早く相手に先を促せると逸っているのかの何方かと問われたら、……まあ、ほぼ確実に逸っているだけでしょうね。

 そしてカルラ医師も同じ様に思われているのか、ほんの少しだけ微苦笑を増されて話を進められる。

 

「三つ目の放課後及び休日の行動、並びに四つ目の長時間の陸上及び水中上の運動及びストライクアーツに関してですが、此れも基本的に制限は御座いません。

 但し、一つ目と同じく、明らかに度を越した行為は其の限りではありません。

 叉、明らかに過剰な魔力干渉……特に非物理設定……純粋魔力攻撃を受けてリンカーコアへ干渉された場合、直ぐ様安静にした上で私へ連絡して頂くことになりますので、此の件に関しては若干普通の方よりも大事を取って頂きますが、其の点は御容赦下さい」

「……あれ?倒れるまで走るのは大丈夫かもしれないけど、倒れまるで魔力を使うのも大丈夫なの?」

「以前説明致しましたが、前後不覚になる程の魔力枯渇は健常者ですら明らかに度を越した行為ですので当然不許可です。

 叉、此の後予定通りに魔力行使の限界測定を行われ、其の際に魔力行使に不安要素が無いと判断致しましても、当然此の判断は覆したりは致しません。

 

 呼吸すら儘ならない程に疲弊することはほぼ在りえませんが、一時的にと雖もリンカーコアの全機能が休止する程の魔力行使が生命維持に支障及ぼすのは当然の推測と判断と思われます。

 理解し難いならば、魔力行使で息切れや眩暈を起こしている以上、余力を残さず魔力行使をする危険性を考慮して下されば御理解頂けると思います」

 

 ……確かに、そう言われると凄く納得出来ますね。

 リンカーコアという一つの生体機関……若しくは生理機能が停止する運動……と言いますか行為が、単なる過剰運動と同じだなんて考え難いですよね。

 実際なのはさんは無茶な魔法行使をしてリンカーコアの出力が低下しましたが、これを単純な過剰運動に置き換えたならば、運動のし過ぎで筋骨や臓器や神経へ生涯回復し切れない程のダメージを負わせるのと同じ様なものですから、下手をしなくても死にかねませんね。

 

「えっと……それじゃあ思いっきりストライクアーツとかできない気がするんだけど…………」

「自滅する迄肉体や魔力を酷使することを思いっきりと言われるのならばそうでしょうが、生命の危機どころか死へ直結する事態へは幾つもの痛苦や恐怖が忌避感となって立ち塞がりますので、其処迄説明せずとも構わないだろうと勝手に判断してしまった為に制限を設けていないと言いましたが、それ故に誤解させてしまったならば謝罪させて頂きます。

 

 尚、衰弱死する程の肉体酷使が困難なのに対し、リンカーコアは容易に其の領域へ行き着きかねないと受け取れるだろう発言をしましたが、魔力の外部供給、若しくはオーバークロックの様にリンカーコア自体に出力向上と引き換えに負荷を掛けつつ安全装置を取り外す様な改造を行わない限りは衰弱死する前に気絶する場合が殆どですので、恐らく衰弱死する困難さは同等と思われます。

 ですので、健常者且つ外部供給系の術式やカートリッジ等を持たれない方には肉体面と同じく本能的に死の危険を感じられる筈ですので、リンカーコア酷使の危険性は肉体酷使と然して変わらないと思われて構いません」

「で、でも、それじゃ両方使うストライクアーツって凄く負担を掛けるんじゃ…………」

「負担に関しては否定しませんが、一般的な常識の範囲内ならば超回復や成長を促す要因足りえますので、最悪の場合を御理解さえして頂ければ、現在に至る迄の貴女の自制や判断から考慮する限りは問題無いと思われます。

 要約しますと、〔事の成否に拘わらない恐怖を感じた時は命の危機〕、と言うことです。

 つまり、其れを踏まえた上で尚何らかの推したい事が無い限りは御自愛為される様にということです」

 

 ……もっと簡単に纏めるなら、〔常識を弁えるべし〕、ですね。

 言い方は悪いですが、所詮ストライクアーツで命……と言うよりも人生を賭けて挑んでいる方など居られないでしょうし、そう考えるならば実質制限無しですね。

 

 そして少なくてもカルラ医師が何と仰りたいのか分かっているヴィヴィオは、一度軽く頷くと再び元気を取り戻してカルラ医師に返事をします。

 

「とにかく軽はずみに無茶はしないようにするし、無茶するならきちんと良く考えた上でどうなるかも覚悟しろってことだよね?」

「医師としては抑無茶自体を控えてほしいですが、其の解釈で問題在りません。

 重ねて述べますが、呉呉も流されたり乗せられたり、何よりも勢いで無茶をしない様に願います。

 

 人生を語る程の経験を重ねていない若輩ですが、自他と競う事に命を賭ける価値は無いとは確信しておりますので、せめて貴女が命を賭けたいと思う時に此の言葉を思い出され、そして其の上で熟慮されることを願っております」

「「………………」」

 

 ち、治療とかの最中、此方から訊いたわけでもないにも拘わらず、個人的な意見を話されるなんて初めてですね。

 普段は足元を掬われない様、執拗に訊ねられない限りは個人としての意見を控えられているにも拘らず、言う必要も無い場面で態態言われるということは、それだけヴィヴィオを心配しているか伝えたいことが在るかの何方かだという事でしょうね。

 

 ……化粧と言いますかメイクでも誤魔化しきれていない目の下の隈や色濃い疲労から考えると、案外疲れて口を滑らせただけという可能性も捨てきれないところですけど、そこは敢えて無視しましょう。色色台無しな感じがしますし。

 

「個人的な話をして申し訳在りません。

 話を戻しますが、特に御質問も無いので五つ目の魔力溜まりに関してに話を進めますが、此れに関しては此の後の限界値測定の結果次第になりますが、恐らく健常者と同等の扱いになると予想されます。

 

 六つ目のデバイスに関してですが、常時魔力大量消費型の類でない限りは制限を設ける心算は在りませんが、御家族の方が用意されるかは与り知る所では無く、更に特に擁護したりはしませんので、悪しからず御容赦下さい。

 尚、デバイスを持たれる際、緊急時の封印術式(リミッター)展開の機能を搭載されたいと仰られるならば、修正及び閲覧不可領域(ブラックボックス)化しても構わなければ請け負いますので、御参考にどうぞ。

 但し、リミッターを搭載するならばブラックボックス化した部分は軍事医療機密に属しますので、幾つかの誓約書に署名して頂くことになります」

「リミッター用のデバイスを作ってもらえたりとかは…………できない……かな?」

 

 …………上目遣いで小首を傾げながらお願いとか、ほぼ確実にフェイト執務官の影響ですね。

 普段は明朗快活にも拘わらず、お願いする時は庇護欲を擽る仕草が普通とか、真面目にヴィヴィオの将来が心配ですね。

 それに、カルラ医師が居らっしゃるので辛うじて性倒錯に走っていませんが、身近なお二人が性倒錯しているとしか思えない上、交流関係で既婚未婚問わずに男女間の仲を構築されている方は見当たりませんし(ルシエ一士とモンディアル一士は、ヴィヴィオ的に家族間の好意にしか見えてなさそうですし)、数少ない男性のスクライア司書とモンディアル一士に会うのは低頻度で、ザフィーラ殿は男性ではなく狼の友達としか認識されてませんし、普通に考えれば健常な恋愛観念を育成する要素が見事に欠乏していますね。

 …………これでヴィヴィオがオリヴィエ陛下の記憶に自我も引き摺られ、イングヴァルト陛下の記憶を色濃く残すストラトスさんに懸想でもされれば、上層部は荒れに荒れますね。

 

 出自は兎も角、現存する最後だろう聖王の血筋の少女が同性愛に走るとか、利権云云以前にオリヴィエ陛下の名誉云云ででも騒ぎ立てる方方がどれだけ居るのか予想が付きませんね。

 まあ、ストラトスさんは同性愛の気は無さそうですし、ヴィヴィオと言いますかオリヴィエ陛下とイングヴァルト陛下の事に関しても、[悼みもしますし哀れみもしますが、既に終わったことです。後、人類全員叩きのめして覇を唱えるという極論には賛成出来ません。目立ちたくないですし]、と言っていましたから、ヴィヴィオにオリヴィエ陛下を重ねもしないでしょうし、仮に重ねても全然問題無いでしょう。

 

 っと、思考が脇道に逸れましたね。

 しかし……カルラ医師はヴィヴィオの上目遣いに少しも動じませんね。

 数瞬瞑目して思案するだけとは、ヴィヴィオとは違った意味で将来が心配ですね。

 

 そんな益体の無いことを私が考えている間に考えが纏まったのか、カルラ医師は極自然に話を再開されます。

 

「…………機密保持の為にデバイスの機能維持(メンテナス)を受ける場所が限定されて手間が掛かりますし、治療上必要ではない為保険が適用されずに高額であり、軍事医療機密の塊である以上要求される誓約書等は数十枚にも及ぶ上、保証人に至る迄精神鑑定を受けて頂く必要が在りますので、諸諸の煩雑さを考慮する限り御勧めは出来ません。

 尚、術式を貸与する場合はリミッター専用デバイスの術式と比して精度や効果が可也劣りますので、誓約書への署名以外には然して煩雑な手間は無く、メンテナスに関しましてもブラックボックス化している領域に干渉さえしなければ問題は在りません」

「えと、……デバイスから用意してもらうとどれくらい面倒なのかな?」

「貸与したデバイスの解析及び盗難を防ぐ為に交流関係と行動範囲に大幅な制限を設け、接触の制限が掛けられている人物乃至施設へ赴く際には監視若しくは監視員の帯同は必須です。

 他にも本人以外に御家族並びに保証人の素行に問題在りと判断されれば速やかに貸与許可を取り消される上、監視が付くことも少なくありません。

 更に、メンテナスを受ける際にどの様な環境化にデバイスが置かれていたのかを報告する為、日日の仔細を記した報告書を提示する必要が在ります。

 其の上、何かしらの犯罪乃至災害に巻き込まれると判断された際は、犯罪乃至災害の大元の除去若しくはデバイスを所持者諸共消滅させることで機密を保持する為、危険時には危険を増幅させる要素にも成り得ます。

 

 そして先ほど述べた通り、貸与する前段階での誓約書を一人当たり数十枚署名する必要が在り、且つ綿密な精神鑑定を経、最後に交友関係や私生活を徹底的に洗われた末に貸与の許可が下りますが、当然不適格と判断されたならば精神分析をされた挙句私生活が筒抜けになるだけに終わりますので、本当に御勧め致しかねます」

「あ……うん。

 ……さすがにそこまでするのはヴィヴィオもちょっといや……かなぁ……?」

 

 まあ、普通の反応でしょうね。

 寧ろ此れだけ聞かされて尚欲するならば、生きる為に最善を尽くされる方か、はたまた監視の目を盗んでブラックボックスを解析するかデバイスを売り払おうとしている輩かの何方かでしょうね。

 しかし…………高ランク魔導師を安全に収監や護送する為、専門施設でなくともデバイス一つでリミッターを即座に科すことが出来るだけあって、機密保持のハードルが非常に高いですね。

 

 恐らく聖王教会が圧力を掛けたとしても、危険時に犯罪者や災害の大元の様にヴィヴィオが対象にならない様にするのが限界でしょうね。

 万が一リミッターを科せられる条件だけでも知られてしまえば抑止力の低下は必至ですし、仮に全容が明らかになれば犯罪者達が使用するという最悪の事態に発展しますから、寧ろ治療に必須でないにも拘らず貸与させることが可能なカルラ医師の破格さが良く分かりますね。

 

 ですが…………収監された戦闘機人達を無力化する為に開発成された技術だと思っていましたが、矢張り使い様によっては医療行為にも転用可能な辺り…………違いますね、戦闘機人達の無力化にも転用可能な医療技術を開発成されたと言うのが正解でしょうね。

 まあ、肝心の戦闘機人の無力化は、最低限の機能維持関係以外の全機能を阻止する為には胴体部分に抑制棒を突き入れる必要が在るという、何とも微妙な成果で終わったみたいですが、若しかしたらそれ以上は医療の分野を完全に逸脱するからだったのかもしれませんね。

 

 しかし…………ヴィヴィオの仕種は要所要所で庇護欲を誘いますが、影響を与えているだろうフェイト執務官が御自宅でどの様に暮らされているか透けて見えますね。

 そしてそんなヴィヴィオの仕種を全く気に留めた風も無いカルラ医師の職務振りは頼もしい反面、医師として活動する余り人間として大事なモノが削れ落ちていったのではないかと本当に心配ですね。

 

「その様な帰結に至るのは普通ですので、術式のみの貸与されることを重ねて御勧めします。

 …………ですが、専用に調整されたデバイスと比した場合可也性能が落ちるモノを勧められるのも心情的に納得しかねると思いますので、術式を少しでも効率的に運用可能な様、インテリジェントデバイスやユニゾンデバイスは控えられた方が宜しいと進言させて頂きます」

「え?インテリジェントデバイスやユニゾンデバイスって高性能じゃないの?」

「下限値がストレージデバイスやアームドデバイスよりも高いだけで、上限値は恐らく全て同等と思われます。

 ですが、少なからず自立判断及び自立行動が可能なインテリジェントデバイスやユニゾンデバイスは擬似人格に容量を割く必要が在りますので、設計思想上演算速度ではストレージデバイスに劣ります。

 

 緊急時に術式を自動展開することを期待しておられるならば、ストレージデバイスに生命兆候情報(バイタルサイン)が一定値を下回った際に自動発動する様に此方で定することは可能です。

 叉、ストライクアーツを行う為にデバイスを必要とする場合、防御を完全に聖王の鎧に任せての大威力瞬間開放型、若しくは聖王の鎧に防御を恒常的に重ねる防御特化型の何方かになると思われますので、ストレージデバイスとの相性は決して悪くないと思われます。

 但し、此れ以外に御自身で新たな適正を開花される、若しくは目指される場合も在ると思われますので、いざとなればリミッター専用のストレージデバイスを用意されるという選択肢も在りますので、御自由に判断下さって構いません」

「………………私って、ストライクアーツやるならその二つのタイプが良いってことなの?」

「易え、聖王の鎧という常時発動型の極めて高い防御能力を有している以上、一般的な防御力を前提としている通常の教導では超一級と言われる位階に立つ迄は殆ど意味を成さないのは素人でも分かりますので、到達可能な境地かも分からない一般の教導を行うよりも、直ぐに効果の見込める特化型を推奨するのは至って普通と思われます。

 但し、特化型は相性次第で可也力量が上の者も打倒可能な反面、相性次第で可也力量が下の者にも打倒されてしまう為、一般的……つまり平均型……若しくは万能型が必ずしも特化型に劣っているとは限りませんので、其の点は留意して下さい。

 

 まあ、此の件に関しては医師の私よりも御家族に現役の教導官が居らしゃられるので訊ねられるのが宜しいでしょうし、付き添いのヌエラ氏は警護や育成に明るい御方ですので、此の場で訊かれるのも宜しいでしょう」

 

 い、いきなり話を向けられましたが、ヴィヴィオが居る状態で私に話……と言いますか説明を求めるなんて、本当に今日のカルラ医師は珍しいですね。

 なにかしら思う所が在って人との付き合い方が変わられた可能性も在るでしょうが、寧ろ改めて注意深く見ると、時折微妙に痙攣している瞼や、メイクをしていない箇所の肌の荒れ方や、メイクでも隠し切れない目の下の隈だけでなく窶れた頬等等、如何見ても極度の睡眠不足としか思えませんね

 職務に影響こそ出ていませんが、人付き合いに違和感が出る程度には影響が出ている辺り、僭越ながらも注意した方が良いでしょうね。

 

 ゴミ箱に栄養ドリンクや携帯バランス栄養食の瓶や袋が溢れる寸前ですし、他にもデスクの下から僅かに覗くクリーニングされただろう大量の衣服に、診察用ベッドに備え付けられている清潔で使用された形跡が無いものの診察用にしては生活実用品としか思えない枕と毛布。止めに機密と押印された張り紙の張られた口の開いたダンボールから覗く大量の書類(流石に一番上には白紙が乗っていてどんな内容かは分かりませんが)。

 ……如何見ても缶詰状態ですね。

 

 確か、今度ベルカ自治区に設立する医師養成所の運営方針や利権調整の大詰めで大変だった筈ですね。

 他にも、養成所での教習内容の決定及び教科書の作成、並びに臨床者の確保。

 しかも通常通りの業務と並行し、後進育成の一環として担当されている患者でカルラ医師以外でも担当可能な方への担当医交代への説得に引継ぎ。

 おまけにシャンテへの指導関連全般。

 止めとばかりに戦闘機人を完全生身に回復可能か否かの研究、及び機械による肉体代替サンプルとしての研究。

 …………人伝で聞いた通り此れだけだとしても、眠る暇どころか身体が2つか3つないと捌けなさそうな仕事量ですね。

 

 ……休めと言われても迷惑でしょうが、現状でカルラ医師の代わりを出来る方など居られない以上、過労で倒れられる可能性が万に一つを超えているだろう現状では進言させて頂くしかありませんね。

 

「…………その件に関しては私、若しくは高町一尉が御説明すると思われますので、今は話を進められた方が宜しいかと。

 僭越ですが、衰弱して人格に迄影響が出始める程の睡眠不足と御見受けしましたので、速やかに診察を終えられて御休みになるべきと思われます」

「ふえっ!?カ、カイ、体悪くっ…………じゃなくてっ、……カルラ先生って体悪くするほど寝不足なのっ?」

「易え、職務に支障が出る程ではありませんので御気に為さらないで下さい」

 

 職務以外には既に支障と言いますか影響が出ているみたいですけどね。

 後、極上機嫌が説明を聞いている間に上機嫌へ落ち着いていたヴィヴィオが、私の言葉に今度は一気に軽いパニック寸前の不安状態になってしまいましたね。

 ……今更ながらそれとなく暈して休息を促せばよかったと思ってしまいますね。

 まあ、呼び間違えは在っても直ぐにカルラ医師と呼び直せる辺り、大事だとヴィヴィオは思っていない様ですが、恐らくそろそろ幻覚や幻聴が発生する頃でしょうから、実際は可也の大事と思いますけどね。

 

 私生活時に悪目立ちせぬ様に普段は化粧と言うよりは特殊メイクの如き化粧をされていますが、それでも尚顔に隠し切れない窶れが…………と言うよりも特殊メイクの精度が下がってしまう程の疲労と言うのが正しいでしょうね。

 そして複雑骨折しても尚冷静に行動出来たカルラ医師が、疲労で職務以外と雖もミスし始める程なのですから、想像される疲労は凄まじいでしょうね。

 ゼストさ……元い、騎士ゼストがカルラ医師は15分の睡眠を10回前後取るだけという生活習慣を1月以上続けることが偶に在るそうですが、その時でも衰弱には至っていなかったと御聞きしましたし、……って半月前(前回)どころか1ヶ月前(前前回)の検診の段階で可也疲労してらっしゃられた様な……。

 なら、前前回の検診の時点で既に1ヶ月以上無茶をなされていたとするなら、今は既に2ヶ月以上無茶をされているということですよね?

 未成熟な体躯故に成人と比べて体力が圧倒的に劣る未成年……と言うよりも少年が、2ヶ月以上の睡眠時間が2時間前後?

 

 …………取り敢えずヴィヴィオの診察を終わらせない限り梃子でも言う事を聞きそうにありませんので、押し問答するより一秒でも早く話を流してヴィヴィオの診察を終えてもらいましょう。

 

「少なくとも此の診察と此の後の検査がが終わらない限りカルラ医師は休まれないでしょうし、診察中に脱線して御時間を取らせてしまえばそれこそ負担を増やすだけですから、私の失言から始った会話の流れですが、取り敢えず此の話は一旦流された方が宜しいかと。

 それと、戦技関連に関しては保護者の高町一尉達に本日の報告を致す際、ヴィヴィオも同席すれば問題無いと思いますので、此の場で説明せずとも宜しいかと。

 

 ヴィヴィオもそれで構いませんね?」

「あ、う、うん」

「と言うわけでヴィヴィオも納得しましたので、強引でしょうが、話を先に進めて頂けませんか?」

 

 

 

 その後は特に脇道に逸れることもなく説明は終わり、最終的には一般常識の範囲内ならば行動制限が無いという仔細が改めて明らかになりました。

 そして診察が終わるとヴィヴィオの限界測定へと移り、測定相手として騎士ゼストが居られたのには驚きました。

 

 限界測定は肉体とリンカーコアの単体使用だけではなく双方を使用した場合も在り、更には変身魔法で肉体年齢を10歳程進めた状態での負荷等も測定されました。

 結果、レリックウェポン時の能力行使は体力を除外した場合、最長でも、〔残魔力の割合の二乗 × 約190秒〕、と予測され、実際後日以降に何度か行われた検査でも予測を裏付ける結果ばかりでした(常時魔力全力開放の場合は、乗算される時間は約30秒とのこと)。

 流石に疲労困憊で測定後即座に気絶する様に眠ってしまったヴィヴィオですが、全力で動けたことが嬉しかったのか、輝く笑顔で眠っていたのは微笑ましかったです。

 

 尚、後日に120万文字以上の一般生活時と戦災時と災害時に於ける行動制限に抵触する事例を纏めた(●●●)冊子を送られた高町一尉達は呆然とされたとか。

 当然流し読みででも読まないわけにはいかないので、ヴィヴィオの回復記念の旅行にカルラ医師を誘おうとされて取られていた休暇が急遽読書の日に変わってしまい、ヴィヴィオは大層不満そうにしてました。

 

 まあ、意図せず気の毒なことをしたと思ったカルラ医師が、激務が一段落したので静養も兼ねて御友人のメガーヌさんが御息女と暇を見つけては造られていた温泉施設への旅行に誘われると可也回復しましたが。

 勿論高町一尉達の知り合いもメンバーに入れなければ不安だろうと、ヴィヴィオの護衛も兼ねた私だけでなく、クイントさんの御息女にして元六課メンバーのスバル一士と六課に派遣されたギンガ曹長もクイントさんと一緒に誘われることで無事解決されました。

 それと、カルラ医師はストラトスさんも誘ったらしいですが、知らない人と会うのは面倒だということで断られたので不参加と相成りましたが、シャンテは全く気にせず即座にOKしましたね。

 後、流石に首都防衛の要が大量に抜けるのは拙いということで騎士ゼストとレジアス大将とオーリス二佐は欠席されましたが、女子会のノリに成れば静養出来ないという打算も働いたのか、ゲンヤ二佐をクイントさんと一緒に可也頼み込んで招待されました。

 その上スバル一士が勝手に六課のフォワード陣を全員呼んだりしたのが当日発覚しましたので、凄い大人数になりました。

 

 終始マイペースを崩さず、序に素顔を知らない方の前では特殊メイクも崩さないカルラ医師以外は、全員混沌の只中にいるかの如き温泉旅行でした(沢遊びも在りましたが、旅行発案者のカルラ医師は一貫して温泉と休息と食事と就寝の繰り返しでしたから、温泉旅行が正しいでしょうね)。

 後、カルラ医師のマイペースと言うか老成と言うか卓越したスルースキルが凄まじく際立った為、見ていて涙を誘うどころか頭痛を誘う悲惨な目に遭っていた数少ない男性の一人が、騎士ゼストに抱く尊敬とは違った尊敬の念をカルラ医師に抱いたりするという一コマも在りました。

 それと、温泉旅行からヴィヴィオが帰って来た時、高町一尉達は難解な言い回しで字数を圧縮した冊子の前でオーバーヒートされていたらしく、後日ヴィヴィオの提案でスクライア司書を呼んで翻訳と言うか説明を頼んだらしく、その際にヴィヴィオがスクライア司書のお話に有った術式や無限書庫に甚く興味を抱いた様で、頻繁にスクライア司書を訪ね、着実に文武両道の道を歩み始めました。

 

 

 


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