「初めまして、カイ・カルラ医師の助手見習兼専属護衛見習いにして、カイ・カルラ名誉司教がベルカ自治区で行動する際に護衛及び補佐をするべく聖王教会に仮所属してシスターにして騎士見習いとなっているシャンテ・アピニオンです。
此の前一緒に旅行で羽を伸ばしてたら、やらなきゃいけないことがまだ4回気絶するくらい溜まってて凄く時間が無いんで、宜しくしなくて構わないのでさっさと帰らせてもらいますね。
会うだけで構わないって聞いてましたし」
「シャンテッ。確かに会うだけで構わないと言ったのは私ですが、せめて話くらいは聞いて下さい。
……私の顔を立てると思って、話を聞くだけ聞いて下さい」
……シスター・シャッハがあたしに頭を下げるって、…………よっぽどの事なんだってのは分かるけれど、………………激しく面倒な……しかも知るだけで面倒事に巻き込まれる類の予感がぷんぷんするんだけど?
しかもあたしの前に居るのが教会のお偉いさんにして本局のお偉いさんの…………カーム・グラッサ? って人みたいだし、面倒要素が2倍とかホント勘弁してほしいなぁ。
…………だけど、色色とあたしの為に骨を折ってくれてるし、他にもカイに面通ししてくれって言う教会側の要請を可也無茶して断ってくれてるし、それでも今回の事を断れなかったってことは、此処で話も聞かずにバックレても直ぐに同じことになるってことかぁ。……シスター・シャッハの顔に泥を塗った上で。
恩には誠意で酬いるものなんだろうけど、迂闊にあたしが喋るとカイにまで飛び火しちゃうかもしれないし、正直、普段ならシスター・シャッハにお説教されるくらいの言葉遣いで否定しなきゃ、知らない間に墓穴を掘ったりドツボに嵌ったりしそうで、迂闊に相槌も打てない話とか凄く聞きたくないんだけどなぁ…………。
「シャンテ。あなたが何を危惧しているのかは察せます。
そしてあなたが聖王教会に仮とはいえ所属して直ぐに此の様な話を通してしまった私が言うのは憚られますが、私の
「…………」
クビって……まさか宗教裁判でも開いて罪人として斬首されるとかじゃないよね?
でも、聖王復活の為に一部じゃ可也血生臭い上に
易や易や、若しもそんなことになればカイもゼストのおじさんも黙ってないし、どっちもシスター・シャッハの首が飛ぶ前に自分の所で匿うくらい…………ハッ!? 自発的にゼストおじさんに身柄を引き取ってもらって其処から済し崩しにそこそこ若い肉体を駆使して事実婚に発展するっていう輝かしい未来が在るなんて!?
………………シスター・シャッハ。誠心誠意で行動して理想の未来を手繰り寄せる行動が出来るなんて、矢張り貴女は人間としても女性としても尊敬に値――――――。
「何やら凄まじい勘違いをしていそうな気配ですが、若しや、私だけでなく他の何方か迄巻き込んだ誤解をしていないでしょうね?」
――――――します…………って、察しが良過ぎ!。
拙いまずいマズイ。早く適当な理由を言わないと後で耳たこなお説教と惚気を聞かされる破目になるっ!
「い、易え、此のご時勢に宗教裁判を開いてまで斬首刑にするのは物騒だなぁ、と……」
「ざ、斬首などと……一体あなたの中の教会の上層部は何処の戦乱時代の価値観なんですか?」
「ええと、…………ベルカ史でゆりかごが消えた後にベルカが滅ぶ寸前の混乱期辺り?」
「リアルな例えを出せる程ベルカ史を学んでいたことに驚きですが、教会の上層部は其処迄混迷を極めていません。
と言いますか、何処を如何したらそんな認識を持てるんです?」
「…………ゼストのおじさんが、[俺達……特にベルカの古いタイプの人間は、良くも悪くも考え方が戦乱期のソレだ。感謝の念こそが信賞であり至高の名誉だ。そして極刑にて恥を雪ぐことこそ購いであり必罰だ]、って言ってましたから、似た様な感じのシスター・シャッハが命を賭けて場を収めようとしたり、古風そうな上層部がその意気込みを買うくらい在り得るかな~、って」
「………………」
うん。良く考えてみるとホントにシスター・シャッハがそうしてても違和感無いね。
と言うより、寧ろしてない方が違和感有りそうな感じだよね。
自らの力不足が原因で面倒事を阻止出来ない(と抱え込む)ばかりか、面倒事の対応を間違えると破滅させてしまうと気に病んだ末、いざと言う時は自分の命で場を収めようとする。
………………凄い納得!
「…………シャンテの心構えも出来たみたいですので、騎士カリム、遅くなりましたが御話を……」
「「………………」」
何事も無かったかの様にスルーしたよ!?
シレッてスルーするなんて、何かズルイ! …………って言いたいけれど、言っちゃうと知らない方が良い事を知ってしまいそうだから黙ってよ。
……大丈夫。シスター・シャンテは好奇心で破滅しない賢い子。
好奇心や悪戯心で動くなら、状況を把握して逃げ道を確保してから。
……面倒なのは大嫌いだけど、働かないで好きな人とイチャイチャしたり気の合う人達とワイワイしたりとか、只管楽しいことだけして生きていく為にも、危ない場面じゃ警戒心をガンガン働かせないと。
後、名前、カームじゃなくてカリムだったんだ。
この分じゃファミリーネーム(だと思う。カイみたいに本当は逆じゃない限り)のグラッサも多分間違えてるだろな~。
……墓穴掘らない様、呼ぶ時は騎士カリムで徹そうっと。
それと今更だけど、シスター・シャッハの顔を立てて、話を聞くならシャンとしないとね。
「一介のシスター如きが口にするのは憚られますが、所要が御座いますので、速やかに用件に入られる様御願い申し上げます、騎士カリム」
「……………………」<……シャッハ。もしかして私、思いっきり敵と思われてるのかしら?>
「………………………………」<私の目が曇ってないならば、可也の警戒態勢ですね。
後、秘匿念話の内容はバレていないかもしれませんが、秘匿念話をしていることはほぼ確実にバレていますから、早く話を始めた方が宜しいかと>
「……………………」<間に居るわけでもなければ魔法を展開しているわけでもないのに秘匿念話に気付けるなんて、探査系の一流どころか勘が並外れた超一流前後の騎士ぐらいなのに、どうして騎士見習いのこの子が察知出来るの!?>
「……………………………………」<こうも黙っていれば秘匿念話をしていることくらいシャンテは直ぐに気付きますよ。
無礼で短絡的な行動が殆どですが、高等科を首席で卒業出来る程の学力は既に持ち合わせていますし。
後、勘は騎士ゼストに最優先で叩き込まれながら紛争地を幾つか渡り歩いていますから、勘と度胸と思い切りは既に超一級品とのことです。
それと、大概に話を進めないと不審さが洒落にならないかと思いますよ?>
……実は全部傍受してたりして。
易や、デバイスの索敵機能も騙くらかす幻影の術式を即興で組み立てるのがあたしのスタイルの一つだから、術式の解析とかは得意なんだよね。
それに重傷者とかが騎士甲冑とかエリア型のバリアとかを展開した儘気絶してたりすると、インテリジェンスなら兎も角ストレージやアームドのデバイスだと、こっちが態態素早く強制解除してから応急処置とかから始めなくちゃいけないから、術式の看破や強制解除はすんごい得意なんだよね。一般的な秘匿念話の術式なら、片手間って程じゃなくても少し気合入れれば筒抜け状態だし。
易やホント、カイに色色教えてもらって医者の怖さが身に染みたなぁ。
治す為には負傷する理由も知らなければいけないということで色色教えてもらったけど、応力を上手く使えば明日は我が身と不安になるくらい簡単に骨が折れるのを教えられたり、雪とかベッドとかに倒けて頭から突っ込んだ1週間後辺りに高エネルギー外傷で脳の血管が破裂して死ぬとか教えられたりして(巻いた体操用マットを半旋回させた時程度の一撃を頭に食らっても最悪そうなるみたいだし)、一時期全ての行動にビクビクしながら生活してたっけ(流石にマット云云は熟練者が狙ってやらなきゃ滅多に起こらないみたいだけど、それでも偶然在りえるだけでも怖いって)。
っと、思考に没頭すると不正傍受と言うか解析出来なくなるってのに、思考没頭するとか駄目じゃん、あたし。
まあ、さっきの話の流れ的にもう秘匿念話はしてないだろうし、そんな魔力の流れも感じなかったから、多分騎士カリムが思考で時間を削っただけかな?
何て今度は頭の片隅で考えていると、考え事が終わったらしい騎士カリムがあたしに話し掛けて来た。
「……これから訊ねる事は貴女が物凄く不快になることもあると思うけど、取り敢えず最後まで聞いてちょうだい。
その上でなら一括して返事をしても構わないから。
そして一括して返事が出来るように纏めて質問するから、確り聞いていてちょうだいね。
後、一応公式だけど記録はしてないから楽にしてて構わないわよ」
「御気遣い下さり感謝しますが、御気になさらず御質問下さい」
「…………それじゃあ早速質問といきたいところだけど、一応前置きをしないといけないから、面倒だけど取り敢えず聞いて下さいね」
外れる予感のしない退屈な前置きなんて聞きたくないなぁ。
CMの代わりに流れてたら、ほぼ確実にチャンネル変えるぐらい聞きたくないなぁ。
後、頬を引き攣らせながら口調が結構変わるから、キャラ掴み難いなぁ。
「既に非公式ながらも陛下と御会いし且つ大まかな生い立ちも知っているものとして話しますね。
……出自は如何あれ、止ん事無き血を持たれる彼の御方は間違い無く聖王教会の信仰対象であり、御存命は何を措いても優先されます。
現状は御快復なされたと多くの方が思われていますが、担当医のカルラ医師は問題の無い域へ回復したと仰られるだけで、一言も全快されたとは仰られていないことから、何時叉御健勝さを失われるか分かりません。
そして特殊な出自であられ且つ極めて稀な症例であられる彼の御方を、診察し且つ治療することが出来る程の信と腕を併せ持たれるのはカルラ医師以外に居られません。
何より、カルラ医師は彼の御方から絶大な信を預けられ、
勿論聖王教会も彼の御方の絶大な信を得た上で無二の腕を持たれるカルラ医師が担当医を外れられるなどという事は断じて認められません。仮に引き継がれる医師が聖王教会の者であってもです。
しかし、それほど聖王教会にとって重要な位置に居られるカルラ医師ですが、私達が知り得ている情報は極めて少なく、これからどの様に御付き合いするべきかすら分からないのが現状です。
況してや、カルラ医師は彼の御方と友誼も築いておられ、此れまでの功績を抜きにしても敬意を払うべき御方であるにも拘らず、前途した様に私達が知り得るカルラ医師の情報は極めて少ないのです。はっきり言って知らぬ間に無礼を働いてしまいかねない程に。
そして万が一、私達が知らぬ間に致命的な無礼を働いてしまった結果、彼の御方の担当医を外れられると仰られる可能性が僅かながらでも在り得る以上、私達は少しでもカルラ医師の情報を得る必要が在るのです。
カルラ医師個人の趣味志向も可也不鮮明ですが、生い立ちに関しては極めて不鮮明であり、辛うじて御両親の御名前と御父君の死因とレジアス大将が後見人になられた大まかな時期しか分かっておりません。
御母君の生死やレジアス大将が後見人になられた理由どころか、血縁者の有無すら私達は知りません。。
そしてこれは常識的に考えたならば、カルラ医師が尋常ならざる生い立ちである事を示す要因となっており、その様な生い立ちの方ならば触れられたくない傷を抱えておられるでしょうが、生憎私達はそれすらも把握出来ていません。
故に、カルラ医師に引き取られ、自立し始めた今でも同棲している貴女に知り得る限りのカルラ医師の情報を提供して頂こうと思い呼んだわけです。
……この命令は聖王教会の趨勢と彼の御方の生命に関わるモノである為、聖王教会に所属するシスター・シャンテ、貴女には理性在る判断と返答を期待します」
……そ、想像してたよりも馬鹿らし過ぎる話が飛び出してきたんだけど、此れってギャグなの?
若し本気で言っているんなら、もう
ギャグならギャグで、頭痛と腹痛とかを振り撒く、愛すべからざる馬鹿とかの蔑称が付くよね?
………………もう何て言うか、馬鹿らし過ぎて怒る気も失せるよ。
小刻みに聞けば怒る気も湧くんだろうけど、纏めて聞けばSAN値が地面を抉る勢いで減っていくから、気を抜けば茫然自失になりそうだよ。
……狙ってやってるんなら凄い遣り手だとは思うけど、そんな遣り手が居るんならもう少しマシな容でカイにアプローチ掛ける筈だから、狙ってやってないよね、コレ。
……………………早く戻って臨床記録の残りを頭に叩き込もうっと。
…………残り3万飛んで12も在るし、夕方からはゼストのおじさんによる模擬戦と言う名の虐待擬きで多分睡眠不足だから気絶したらその儘寝ちゃうだろうから、課題どころか急に大量に降って湧いてきた業務も滞るから、起きたら半日デスクワークしただけで3キロ痩せる程事務とかにに励んで、その儘明日もゼストのおじさんに気絶させられて、以降多分1週間程気絶が睡眠になる毎日が待ってるってのに、気力を葬られる馬鹿な話で時間を無駄にさせられるとか、気力0を通り越して自失か鬱になりそ。
…………………………もう面倒だし、全部シスター・シャッハに丸投げしよ……。
お詫びに今度ゼストのおじさんと二人きりで買い物出来る様にセッティングするから勘弁……。
「…………頭が頭痛で痛いんで早く早退するんで退がらせてもらいますそれと返答はシスター・シャッハの考えと一緒なのでシスター・シャッハに御聞き下さいでは」
棒読みで言って、騎士カリムの方を向いているとも取れる角度でシスター・シャッハの眼を見て頭を下げる。
シスター・シャッハが呆れてるのか怒ってるのか困ってるのか分からない顔をしてたけど、此の場にあたしが居る限り話が終わりそうにもないから、下げた頭を上げてる途中、今度は、〔後は任せます〕、という意図を視線に籠めてシスター・シャッハを見る。
すると、溜息を吐きながら視線で退室を促してくれる。
流石シスター・シャッハ。話が分かるし意図も分かってくれる。
デートのセッティングだけじゃなくて、溜息で逃げた幸せ分の帳尻が合う様に招福の御守りとかを沢山渡してやろうっと。
「それでは所要が膨大に在りますので失礼します」
引き止められるとすっごい面倒そうだし、走っている様な速度で歩いてドアの前まで行って、悪戯用特技の高速静音開閉術でドアを開けると、1秒ちょいで廊下に出てドアを空けた時と同じ様に素早く静かに閉めた。
……シスター・シャッハに怒られない様に走ってるみたいな速度で歩く技術とか、静かに素早く部屋に忍び込んで驚かしたりする技術が始めて悪戯とか以外で役に立ったよ。
此の調子なら声紋分析したら別人の声になるとか、歩調を変えて熱探知とかで別人と誤認させるとか、壁の鋲を足場にして壁を登るとか、カメラやマイクやサーチャーの位置と効果範囲を瞬時に把握するとかも役に立ちそうだね。
っと、いけないいけない。叉呼び出されちゃ堪んないし、取り敢えずカイ達以外の通信は緊急回線以外暫く切っとこっと。
あ、それと事務室(って言うか殆どあたしとカイの私室)を暫く、〔機密扱い中〕、ってしとけば大丈夫かな?
小言対策なのは見え見えだけど、レベル低いといっても一応機密(医療の)扱ってるのは事実だから文句は言われないでしょ。うん。
さて、とっ、……それじゃあさっさと臨床レポート読み終え……るのは無理そうだけど、4千位はゼストのおじさんが来る迄に何とか読み終えられる……かなぁ?
すんごい頭が疲れるけど、動かないで5時間くらい本とか読むだけでカロリーというかブドウ糖をやばいレベルで消費出来るのは役に立つスキルだよね。
お蔭で蛋白質とか脂質系食品は限度が在るけど、糖質系食品の食べ過ぎで太るなんて事実上在り得ないし。
けど、今更改めて考えたら、カイから教えて貰ったのって、矢鱈と女子力上げたりするのばっかだよね。
医療と言っても肌とか髪のケアは美容師も真っ青級だし(化粧やパーマは別だけど)、調理とか掃除も健康に直結するから凄いレベルだし(若干ゲテモノ料理が多いけど)、人体縫合の練習でした裁縫は凄いレベルになったから(仕立ては出来ないけど)、自分で言うのも何だけど、超優良物件だよね、あたし。
……………………まあ、全部が全部カイの完全下位互換なんだけどね。
●
■
◆
▲
▽
◇
□
○
「…………ねえ、シャッハ?」
「はい」
「さっきの遣り取りで私の好感度って…………どれくらい上がったかしら?」
「…………本気で好感度が上がる要素が在ったと御思いなら、執務から3年程離れて人付き合いのみに集中された方が宜しいかと」
そこで皮肉じゃなくて心配して言われると流石に傷付くのだけど?
でも、…………やっぱり好印象は全然持たれなかったみたいね。
もしも忠誠心や信仰心が狂った域なら好感度が右肩上がりの会話だったから、予想通り普通の感性…………かは分からないけれど、少なくても狂信者とかじゃなさそうよね。
「……まあ、それはそれとして、…………シャッハ」
「はい」
「簡潔に訊くけれど、アピニオンさんがどういう考えなのか教えて頂戴」
「一、内ゲバ等の面倒事に関わる気は皆無。
二、クビにするなら寧ろ願ったり叶ったり。
三、早く残った課題や業務を片付けたい。
四、面白可笑しく楽しく退廃的に生きたい。
此の四つかと」
…………四つ目が無ければ我が道を進む自由人ていう評価よね。
と言うか――――――
「……最近の修道騎士って精神修養とかしてないのかしら?」
――――――ていう素朴な疑問が湧くんだけど?
課題とか業務とかに責任を持っているみたいだから自堕落とは思わないけれど、シャッハに言葉を濁させずに退廃的に生きたいと言わせる辺り、アピニオンさんの考えは相当なレベルだと思うわね。
現にシャッハの顔が何とも言えない表情になってるし。
「…………易え、…………一応精神修養はしてはいるのですが、…………シャンテの言い分は何とも注意し難いと言いますか…………」
「? 退廃的に生きたいって、シャッハからしたら鉄拳矯正指導を出来る格好の大義名分じゃないないのかしら?」
「……後で私にどの様なイメージを持たれているかじっくり話し合わせてもらいます。
話を戻しますが、シャンテの言う退廃的とは、要約すると、〔気が置けない者達とだけ楽しく過ごしたい〕、と言うもので、[意図的に信用出来る身内だけで固めた何とか六の課とか在った気がするんですけど?]、と切り返されまして……」
「………………」
「しかもハイレベルで文武両道ですし、可也早い段階で隠居する心算の様ですが将来設計は確りしていますし、度度サボっている様に見えても潰れた休憩時間を勝手に業務時間を使って休んでいるだけですので、労働基準の観点で見ても叱責は非常にし難く、課題や業務に影響が出ない様にしているだけに尚のこと叱責し難いのが現状です。
まあ、他の者達が業務中なので冷やかす様に休憩するのは止める様にとは言ってはいるのですが、邪魔はギリギリしていないので押し問答が続く次第でして……」
……カルラ医師に推されていた時(と言うか、殆ど事後承諾でしたけど)から普通じゃないとは思っていたけれど、凄い問題児ね。
あ、問題児じゃなくて、面倒児とかの方が正しいかしら?
そんな益体もないことを考えていると、まだまだ言い足りないのか、シャッハは溜息を吐きながら話を続ける。
「それにシャンテはカルラ医師と同じく管理局で医務官……厳密には医務補佐官として活動していて一尉……ではなく三佐待遇ですので機密医療に触れる機会も少なからず在りますから、無茶な命令はそれを盾にして回避出来る事も理解していますが、主な使い道が小言回避に使うので性質が悪いです。
しかも騎士ゼストに手解きを受け且つそれに付いて行けるだけあり、既に精神面や実績以外では十分騎士として通用する程で、此の調子ならば精神面や実績を無視して騎士に成れる程というのが益益頭を痛ませてくれるのですが、外から見ただけでは理解し難くとも精神面では十分騎士として申し分ないだけに、此れ叉文句を言い難いんですよ。
おまけに力に対する認識が護衛や悪戯に使える便利なモノ程度という、力に呑まれても振り回されてもいないだけに注意し難かったり、貞操観念は在っても羞恥心が医療行為を重ねる毎に欠落していった為に騎士甲冑がフェイト執務官と変な所で張り合ったかの様なモノを考案中だったり、手術する際に切開したりするので人体を傷付けることへの割り切り方や流血への耐性が矢鱈と高いとか、本当に注意し難い要素が多過ぎるんですよ!」
「………………」
愚痴に聞こえるけれど、実際は自慢話の様に聞こえるのは気のせい……ではないわよね。
戦闘関係は騎士ゼストと一緒に鍛えたみたいだし、シャッハにとっては自分だけでなく騎士ゼストと一緒に鍛えた愛弟子なんだから、アピニオンさんの高評価は自分だけじゃなくて騎士ゼストにも直結するから、騎士ゼストを尊敬しているシャッハにとってはアピニオンさんが評価に値することは二重の意味で嬉しいんでしょうね。
シャッハは意識してないと思うけれど、アピニオンさんは騎士ゼストと一緒に養子に迎えたみたいなポジションなんでしょうね。
……多分後数年もすれば自覚すると思うけれど、騎士ゼストがシャッハ以外の方と結ばれたらややこしい事に成りそうだから、私としては早く自覚するか告白するかしてほしいけれど。
そんな事を多分生暖かい視線をシャッハに送りながら考えていると、私の視線に気付いて咳払いをした後、軽く頭を下げながらシャッハは話を続ける。
「……失礼。少少興奮し過ぎました。
……話を切り替えますが、シャンテが退室する際にカリムへの問いに対して私と同じ考えと言いましたので、カリムの問いを私が代弁しますが、〔了承する気も湧かなければ了承する訳にもいかない案件で呼び出さないでほしい〕、だと思います」
「……何方に対してとは言わないけれど、シャッハの心遣い溢れる代弁ね」
多分私とアピニオンさんの両方に対する心遣いだと思うけれどね。
「本音を修飾して言葉にするのは、対人関係のみならず社会や政治を円滑にする極普通のことです。
寧ろカリムの本音を隠したからかいの方が大抵の場合に於いて厄介ですので、少しはその辺りを自覚して下さい」
……うっ。
よ、余計な一言だったわね。
「話を戻しますが、恐らくあの儘シャンテが残っていれば無意味な押し問答が続いたでしょうし、そうなればシャンテも教会関係者以外の身分を盾に拒否しなければならなくなったでしょう。
当然そうなれば報告書なりに纏めた上で報告する義務が生じ、最悪証人喚問を行う事態に発展する可能性も在ります。
そしてそうなればシャンテが諸諸に費やすべき時間は大きく割かれ、更には不必要に注目を集めた上、聖王教会を起点に纏まり掛けた関係が再び荒れ始める以上、シャンテが聞かなかったことにして私に丸投げして退室したことは英断でしょう。
尤も、シャンテにすれば政治背景を憂いた故の行動ではなく、自身に降り掛かる面倒事を回避する為の行動でしょうが、カルラ医師と半ば一蓮托生状態である以上、自身を優先することは結果的にカルラ医師を優先することにも繋がりますので、強ち間違った判断ではないでしょう。
自分が政治的判断を下せる程の判断材料を持ち合わせていないと自覚していれば尚更に。
…………まあ、仮に政治的判断を下せる判断材料を有していたとしても、自分……と言いますか自分達への面倒事回避を優先させるのがシャンテですが」
「此方への攻撃材料が在っても面倒事回避を選択してくれる可能性が高いけれど、同時に権力や名声に興味が無いだけに手綱を握るのが極端に難しそうだから、上の人達にとっては一長一短でしょうね。
しかもシャッハの話を聞く限りじゃギフテッドとしか思えない程に優れているから、平凡であることへ劣等感を持っている方達が好からぬ事を企てはじめそうよね。
……カルラ医師と違って、凄く優秀だけど所詮は優秀と言う枠組みに納まるだけに」
はやてと違って復讐者を量産してしまう過去じゃないけれど、それでもストリートギャング擬きだったアピニオンさんも十分糾弾されてしまう過去を持っているのよね。
いくら育児放棄されてて碌に衣食が儘成らなくても、窃盗や万引きが正当化されるわけじゃない以上、再発防止と更正を兼ねて自分こそがアピニオンさんを預かるのに相応しいとか本気で言っている方が多くて呆れるわよね。
常識で考えて、保護や引き取る際の手続きを一切してないどころか一番大変な荒れている状態から互いに信を築くこともしていない上、医師や戦闘者として一角に成ってから引き抜こうとしてカルラ医師だけでなく騎士ゼストにシャッハも含めて喧嘩を吹っ掛けているとしか思えない台詞を吐き散らすんだから、もしもカルラ医師と騎士ゼストが抗議してきたら聖王教会の上の方がガタガタになるんじゃないかしら?
ただでさえ恥知らずな発言なのに、名誉司教と実質王と称えられているカルラ医師と騎士ゼストに厚く保護された上に教導されているアピニオンさんを、よりにもよって巣立ち始めている時に横から浚って鎖で繋がれている首輪を付けて飼おうとしているのだから、恩義や信義や徳義に厚い騎士やシスターの殆どが敵に回るわよね。
しかも一般信者からすれば姿を碌に見せない上の方達よりも、ある程度身近に接することの出来る騎士やシスター、それに功績が分かり易く世に知られているカルラ医師と騎士ゼストに付くのは当然の流れよね。
そして迂闊な発言をした上の方達が集中砲火で退陣した時には上はガタガタになっているでしょうから、管理局に対して大きな隙を晒してしまう、と。
……今更だけど、人望厚く名声も得ているのに地位が高い人へ迂闊に権謀術数を仕掛けると、物凄いしっぺ返しが返ってくるわよね。
「……カリム?」
「あ、ああ、ごめんなさい。
少し在り得たかもしれない破滅の未来とかについて考えてただけだから、なんでもないわ」
「……十分何でもあると思うのですが、……まあそれはいいでしょう。
あ、それと話は戻りますが、シャンテをギフテッドと思われている様ですが、シャンテは後天的に自力でその域に立っただけですので、その認識は誤りです」
「…………余計凄い才能と思うのだけど?」
「第二次成長が終わる迄ならば誰もにその可能性が在ると仰られていたので、才能の開花ではなく可能性の開花が正しいと思います。
実際、自我すら置き去りにする程の集中力が半月も持続した者は、常人の数十年に及ぶ研鑽を遥かに凌駕する成果を成す者が殆どですから」
「…………そこまで集中し続けたら普通は死ぬんじゃないかしら?」
「はい。普通は死にます。そうでなくても廃人になります。
仮に廃人にすらならなくとも、集中状態で睡眠へ移行するなどほぼ不可能ですので衰弱死してしまいますし、睡眠へ移行できたならば集中が解除され覚醒時に再び同レベルの集中が出来るかは極めて怪しいです。
しかし、睡眠を取らずに休養することに慣れる、若しくは覚醒と同時に再び自我すら置き去りにする程の集中を可能とした者は、後天的にギフテッドの域へ至る事が可能との事です」
「………………」
ああ。
つまり、アレね。
ようするにアピニオンさんも――――――
「――――――変態というわけね」
私の万感の篭った一言に、シャッハは苦笑いだけを返した。
【後書】
・呼称の原作との相違点
シャンテがシャッハの事を師匠ではなくシスター・シャッハと呼ぶのは、シャンテが師事した者が他にも居るからです。
カリムがシャンテをアピニオンさんと呼ぶのは、殆ど面識が無い上にシャンテが可也難しい立場な為です。
他にも、シャンテは一応畏まって応対する時は一人称をあたしから私に切り替えたりしますし、二人称や三人称もそれに相応しいものに切り替えますので、オリジナル主人公と並んで口調や呼称が安定しないと思います。