Vividの二次創作   作:駆け出し始め

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「破っ!」

 

 鋭い呼気と共にグランガイツさんの槍を持つ手目掛けて右手で掌底を放つ。

 ですが、石突で攻撃するかの様に槍が動いたことに私が其方に意識を集中させるとほぼ同時に左膝蹴りで右肘を蹴り上げられ、攻撃が防がれたばかりか肘の内側に衝撃が走った際特有の痺れが原因で暫く右腕を使用不能にされてしまう。

 しかも膝蹴りした左足を地面へと叩き付ける様に戻しつつ、槍から離した右手で私の脳天目掛けて肘を打ち下ろしてきます。

 

「っ!?」

 

 離脱は間に合わないので、咄嗟に体当たりをして何とか打点を肘と二の腕の中心の半ば辺りにずらしたものの、それでも脳への衝撃と首への負荷が凄まじく、気を確り持っていなければ気絶しているところでした。

 ですが、それでも気絶する事無く何とか耐え切ると、半歩だけ踏み込んでグランガイツさんを押しやって距離を開けさせてから左掌底を叩き込もうとしましたが、私が半歩踏み込むより早く――――――

 

「むんっ」

 

――――――グランガイツさんは然して力の篭っていなさそうな呼気を吐いただけで肘を打ち下ろした手で私の襟首を掴んで持ち上げると、素早く脇に投げ飛ばしました。

 

 何とか空中で態勢を立て直そうとするも、投げられている最中に上下を確認した僅かな時間にグランガイツさんは私から5歩程離れた所で石突近くで握った槍を大きく振り被り、遠心力を負荷した槍で私を叩き潰しに掛かっていました。

 

 兎に角手足を地面に叩き付けて避けようとしたのが功を奏し、辛うじて攻撃を回避出来ました。

 ですけど、凄まじい勢いで槍が地面に激突した為土砂が巻き上げられ、目に入らなかったものの地面に近い位置に視点が在った私の視界は大きく奪われました。

 

 急いで視界を確保すると同時に体勢を立て直そうと横に跳躍するものの、完全に読まれていたのか、グランガイツさんの薙ぎ払いの一番威力の出る箇所と瞬間に私が飛び込む様に攻撃を調整しており、自分から突っ込んでしまったので最早回避が間に合わない為、何とか堪えようと防御するも間に合わず、頭部に衝撃が走ると同時に私は意識を手放してしまいました。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 ……        …………      ………………    ……………………。

 

「もう起きたか」

「グラン…………ガイツ…………さん?……」

「起きたばかりで悪いが、関節や骨に異常が在るか軽く確認してみてくれ。

 一応加減はしたが、肘打ちと最後の薙ぎ払いで首と背骨に可也負担を掛けた筈だからな」

「…………」

 

 えと、…………首は……動かすと痛いですけど筋肉が痛いだけですね。背骨は………………背筋もですけど背骨が一寸痛いです。

 

「首は大丈夫ですけど、背骨を少し痛めたみたいなので、此れ以上は一寸出来そうにないです。

 ……態態付き合っていただいているのにすみません」

「君は一度の模擬線で何時も此方が驚く程に自らの血肉としているのだから、一度の模擬戦で終わっても無駄足だと思ったりはせんから気にするな。

 事実、初めて槍を持つ者と戦ったみたいだが、何処で手加減されていたか十分分かっているのだろう?」

「……払いや振り下ろしの全てが手加減で、そしてその殆どが本来ならば防御も回避も不可能な刺突だった筈ですし、仮に防御や回避が成功しても追撃でほぼ確実に刺し貫かれて終わっていました」

 

 ……悔しいですけど、見事なくらいの完敗でした。

 運や気持ちや相性なんかの要素で覆ったりしない、圧倒的な壁の存在を知らされました。

 

「それが分かっていれば十分だ。

 だが、君はそれだけでなく対処法も同時に分かったのだろう?」

「はい。

 …………左右に避ければ切り返す前に再び突かれますから、余程実力差が無い限りは前に出ながら躱すか逸らすしか無いと思います」

 

 仮に空を飛んでいたとしても、上下左右に避けたならば運動エネルギーを吸収なり相殺なりしなければ再突撃は出来ませんし、どちらにしても一瞬の隙が生まれますので、対処法は陸戦の時と変わらない筈です。

 ……カートリッジ等を使って瞬間的にブーストした飛行魔法で強引に隙を無くすことも出来なくはないでしょうが、グランガイツさんの槍の引き戻し速度を上回れるかは凄く疑問ですし、カートリッジを使うなら回避前に使い始めなければなりませんから、グランガイツさん程でなくてもある程度の強者なら十分躱すか反撃かが可能だと思いますので、矢張り前に出ながら躱すか逸らすしかありませんね。

 

 そして私の言ったことは正解だったらしく、グランガイツさん微苦笑を浮かべながら私に語ります。

 

「君の言う通り、余程実力が離れていない限り槍に対して飛び道具を持たない者の対処はその2点に収束する。

 故に槍を使う者は刺突の速度と同等以上の引き戻しを修め、接近される前に怒涛の連撃で刺し貫こうとする。

 無論接近されての対処も修めはするが、基本は、〔接近すらさせずに突き殺す〕、で、極意はその究極の容である、【先先の先で以って突き殺す】、だ。

 即ち、槍使いにとって初撃以外は全て余技とも言え、最も警戒するのは初撃だとも言える」

「…………あの……一つ質問してもいいですか?」

「何処か分からない言い回しでも在ったか?」

「易え、分かりやすく丁寧な上にとても深い御話しでしたけど、…………それでしたら何故槍斧の様な形状をしているのかと思いまして……」

 

 私の指摘にグランガイツさんは微苦笑だった顔を、悲しそうとも悔しそうとも取れる遣る瀬無い顔へと変えながら理由を話し出します。

 

「純粋に武技のみを追求するのであれば刺突に特化した棒の様な槍にしたのだが、高ランク魔導師のシールドを破壊する際に遠心力付加に拠る破壊力の増加幅を上げる為や、対人ではなく対物の破壊を念頭に置いた状況等を考慮した結果、セイリュウヘンゲツトウと言われる此の形に落ち着いたわけだ。

 まあようするに武人としてではなく管理局員に…………奴と共に夢見た理想を切り開くことに重きを置いたわけだ」

「…………………………詰まらない質問をしてしまい…………申し訳在りません……」

 

 此の人の言動や雰囲気から、武を極める以外の理想が在って、そしてそれに対して殉じても舞わないという強い想いを、……話して下さる迄察することが出来ないなんて、…………模擬戦とは言え何度も戦ってきて何も感じれなかった自分が、…………余りにも情け無さ過ぎます。

 

 自分の人を見る眼の無さに激しく落ち込み、こんな私がグランガイツさん程の方の時間を削ってしまって本当に申し訳無いと思っていると、グランガイツさんが余り笑顔らしくない笑顔で私の頭を力強く撫でながら――――――

 

「子供が大人を察せないことに非は無い。

 そして大人が子供に自身の在り方を説き、世界の広さや人の在り様の一つを伝えるのは義務でもある。

 況してや、模擬戦を通して感じた君の真摯さや才能、そしてカイの傍に居続けるだろう君には是非知ってほしかった。

 …………理想の為にそれ以外を妥協する選択を。その悔しさを。そして………………全てを選ぶ愚かさと尊さを」

 

――――――私の未来を想った言葉を紡いで下さった。

 

 …………覇王の特色を色濃く受け継いだことを喜び、それにしか興味の無い両親と違い、グランガイツさんの在り様に触れた私は、生まれて初めて誰かを大人だと実感出来た。

 同時に、世間一般で言われる父親は多分こんな人を言うんだろうなとも思ったりした。

 

 

 

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「背骨を傷めてるのが分かっているなら無闇に動くな」

「傷めていると言っても疲労骨折したりする程でないですから大丈夫です」

「背骨の部分骨折は痛覚での判断は医者でも非常に難しいんだよ。

 歩いている最中に脊髄を損傷して下半身不随になりたいのか?」

「心配は素直に嬉しいですけど、心配のし過ぎです。

 私の身体は私が一番良く知っています」

「椎間板ヘルニアになりかけていたとは思えない台詞だな」

「無理せず一日休めば完治していた筈ですから問題ありません。

 事実、私は無理せずその後の模擬戦や鍛錬を今日は行っていませんし」

「階段の降り時は腰に体重の3倍程の負荷が掛かると知っているか?

 君の体重なら七じ――――――」

「それ以上喋らない下さい」

「――――――ゆぶっっっ!?」

 

 流石に張り倒すのは傷に響くので、後頭部を左手で支えて右手で口を塞ぐに留めました。

 私は優しいです。

 

「前から思っていましたけど、カイさんは優しいですけどデリカシーと言う文字が頭の中に在りませんよね?

 診察する為といっても肝心のその言葉を抜かして脱衣を促せば徒の猥褻行為の強制ですよ?解ってますか?」

「安心しろ。俺が君の身体を診る時、塵程も劣情なんて抱いていない」

 

 カイさんの口を塞いでいた右手を離すと、物凄くイラッとくる発言が飛び出してきました。

 ……如何しましょう? 2ヶ月ぶりに直接逢ったというのに、全然気の利いた言葉を言わないなんて…………、悩んでいた私は一体何だったんでしょうか?

 

 此れはもう胸のモヤモヤをカイさんにぶつけるしかないと思いますから、そうしましょう。

 

「若しかして喧嘩売ってますか?若しかして喧嘩売ってますか?若しかして喧嘩売ってますか?若しかして喧嘩売ってますか?

 流石に今叩きのめすのは拙いですけど、指相撲程度なら構いませんよね?」

「……あ~……すまなかった。

 女性としての羞恥心だけでなく、自尊心まで芽生えていたとは思ってなかった。

 

 だが、そんなことをしなくても此の後のリハビリを見れば十分溜飲は下がると思うぞ?

 数百回は転倒したり立ち上がり損ねたり這いずり回ったりするだろうからな」

「……………………失言の理由は納得いかないですけど謝意は伝わりましたからとりあえず矛を収めようと思ったんですけど、続くその言葉は悪意に満ちている様な気がするんですけど?

 如何聞いても周囲の人には私がカイさんの無様を見て悦に入る下衆にしか思えないと思うんですけど?」

「易や、単に誰かを痛め付けて気分を晴らすよりも、必要に迫られて自傷行為の様な真似を繰り返す奴を見て気分を晴らす方が倫理的にマシだと思っただけだぞ?

 幸い見られる俺は赤の他人なら兎も角、君なら気にならないしな」

「…………………………」

 

 如何切り替えしたら良いか分からなくて、部屋の隅で私達の様子を見ていたグランガイツさんとアルピーノさんに助けを求めました。

 するとアルピーノさんが笑顔でフォローを入れてくれます。

 

「チャンスよアインハルトちゃん。

 さっきのカイ君の言葉を翻訳すると、〔傍で見ててほしい〕、よ?

 なら此処はカイ君のリハビリを近くで見守って二人の想いを育てる絶好の好機よ?」

「…………若しかしてカイさんは自分の失敗とかを見せたい性癖の持ち主なのですか?

 そして私にそれを見せて悦ばせたかったりするんですか?

 ……だとしたらドン引きです…………」

「清清しい程に名誉毀損な大ボケだな。

 俺も大概明後日の解釈をするが、君も同じ程明後日の解釈をしてるぞ」

 

 失礼ですね。

 少なくても私はカイさん程変な解釈はしないです。

 

「痛罵は見苦しいです。

 私がカイさんと同じ程明後日な解釈をするなんてありえません。

 

 何しろカイさんは女心が分からなければ乙女心も分からないですし、自尊心は在っても羞恥心が無いですから胸を張らなくていいのに矢鱈と胸を張って注目を集めては一緒に居る私が恥を掻くなんて事が頻繁に在りますし、他にも敵意には敏感なのに罵倒とかを本気で気にしませんから、変な解釈して話を拗らせては大きな面倒ごとに発展させたりとかしているカイさんと同じ程私が変な解釈をするなんてありえません」

「告白してきた学生に、[何処でお会いしましたか?]、や、[あなたは私の邪魔をしたいのですか?]、等と言って男子学生を塞ぎ込ませた君の台詞とは思えないな。

 それに騎士甲冑の姿をミニスカートにしようとしてるが、君は下着を周囲に見せたい痴女か何かか?それとも痴漢と騒いで世の男性を留置所に叩き込みたいのか?

 他にも、下校後の待ち合わせの時間に30分も遅れた上に君へ直接連絡が付かないなら、学園へ連絡を入れて安否を確かめるのは当然のことだと思うぞ?そしてその際自分の名前を告げるのは常識だと思うぞ?」

「一寸待って下さい。何故貴方が学園での出来事を知っているんですか!?」

「とある患者が君の学園生活での出来事を話してくれているお陰で、君が俺に直隠ししたいだろう学園生活での出来事は殆ど知ることが出来ると言うわけだ」

「そ、そういうのは知っていても本人が黙ってるなら知らない振りをするのがマナーですよ?

 と言うか、如何して私には矢鱈と遠慮が無いんですか?

 若しかして好きな子は虐めたくなると言う小児特有の行動ですか?」

「一応最低限の遠慮と言うか気遣いはしてる心算だぞ。

 それに好意を寄せている相手を虐めるなんて心算は欠片も無いし、此れからもする心算は欠片も無いぞ。

 

 抑、好きな相手とは笑って過ごしたいし労わりたいから虐めるなんて以ての外だ。

 自分で言うのもなんだが、俺は君を十分労わっていると思うぞ?」

「な、な、な…………」

 

 そ、それだと私はカイさんにとって――――――

 

「良い所悪いけれど、カイ君、聖王教会からの診断依頼……と言う名目の治療以来よ」

 

――――――好…………お仕事ですか……。

 

「分かりました。

 …………済まないがアインハルト――――――」

「――――――それではお仕事の様なので退室させて頂きます。

 白熱した長話をした身で言うのも憚られますが、御身体を壊さぬ様に御気をつけ下さい。

 

 ……それでは失礼します」

 

 名残は惜しいですし言いたいことは在りますが、変に話を膨らませて次から逢い難くなるのも嫌ですし、カイさんの仕事の邪魔をしたくありませんから、此処は素早く退室しましょう。

 それで次に会う時は何時も通りですから、何も問題は在りません。

 

「……理解が速くて助かる。

 見舞い、楽しくて嬉しかった」

「元気になられたみたいで良かったです。

 グランガイツさんの都合と重なれば叉来ます」

 

 そう言って軽く一礼し、気密室のドアが開く特有のガス排出音の後に退室し、振り返ってカイさんを視認した瞬間にドアが閉じてカイさんは見えなくなった。

 

 

 視界からカイさんが居なくなった途端、カイさんが私を好きだと言ったことを思い出し、今更ながらに凄い嬉しさが身体を包み込みます。

 両親は覇王の記憶に関する期待は掛けてもそれ以外は事務的な言葉しか掛けてくれず、私の事情を知っている方は私と深く関わろうとしませんし、そうでない方は私の虹彩異常や人付き合いの下手さもあって距離を取られてしまうだけでしたけど、ああも正面から自然に好きだと言われるなんて……………………嬉しいですし感激です。

 

 覇王の悲願を蔑ろにする気は在りませんが、実質滅んでいるベルカに如何やれば覇を以って和を成せるのか全然分からない上に出来るとも到底思いませんし、最強を証明する為に人類全員鏖にするわけにもいきませんから、実質私に出来ることは覇王がした後悔を繰り返さない様に強くなって…………守りたいと思う人を守り抜くと誓える程に成ることだけです。

 そしてその為には楽しい時間にばかり浸っているわけにはいきませんから、鍛錬をしないならベルカの古代文献から覇王流の痕跡を探したりする時間に充てないといけません。

 

 目指す場所は遥かに遠く、其処に至る道には途方も無い壁が幾つも立ちはだかっていますが、辿り着けば守りたい人を守り抜けずに失う恐怖を感じずに済むのですから、少しも辛くありません。

 ですけど…………私が守り抜きたい人はそれまでに見付かるんでしょうか?

 ソレが一番の問題です。

 

 少なくてもカイさんは今回の様にどうせ勝手に一人で大怪我しても勝手に一人で生き延びるんですから、守ろうとするだけ損です。

 まあ………………近くに居たなら助けるくらいはしてあげますけどね。

 

 

 


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