Vividの二次創作   作:駆け出し始め

7 / 19
007

 

 

 

「どうも耳が遠くなった様なので、今一度問おう。

 聖王教会教会騎士団上級騎士にして時空管理局理事官のカリム・グラシア殿。今し方、何と言った?」

<……レリックウェポンに関する全データ、及び戦闘機人の中で更生に前向きな通称5番から12番までをリンカーコア干渉実験に対する臨床被験者としてカルラ医師への譲与を願います。……と、申しました…………>

「…………」

 

 漸く……漸く海が巻き起こした騒動も爪痕は残るものの収束し、そして奴もリハビリを出来る程には快復して一息吐けると思った矢先に、…………如何して儂の胃に回復期間を与えようとせんのだ!

 同じ腹痛でも、先日の奴とストラトスと言う少女の、腹が痙攣する程笑わせてくれた漫才と言う名の見舞いとは天と地どころか月と腐った泥団子程の差が在るぞ!?

 

「先ず、儂の権限でそれらが可能かどうかに関してだが、……交渉を持ち掛けた其方の読み通り、一応は可能だ」

<…………>

「だがな、その要求を受け入れるに足るメリットが地上には存在しない。少なくとも儂にはそうとしか判断出来ん。

 先日、本局が巻き起こした騒動の直後なので今はそれ程ではないが、徒でさえカルラ医師の有用性は高過ぎて本局からの露骨な引き抜きと難癖が横行している。

 自宅での待ち伏せや多人数からの高頻度に及ぶ通信での勧誘は日常茶飯事であり、本局とは無縁の患者を本局に召喚して留めさせることで強引に本局へ来診させるなども珍しくなく、そこそこ酷い時は都合良く護送中の犯人が逃げ出した際に本局の輩が保護と言う容で本局へ転移させようとしたことなどもあり、常に周囲に護衛を潜ませていなければ出し抜かれただろう場面も多多存在する。。

 

 当然、レリックウェポンの全情報をカルラ医師が得たならば、本局は、[本局の者が解決(●●)した事件の極秘情報を知る以上、本局に所属させるのは当然だ]、等と言うのが容易く予想出来る。

 しかも本局が解決したなどと言い出せば、その言葉だけでも相当荒れるのは火を見るよりも明らかだ。

 そしてそうまでして此方が得るものなど面倒事以外無いにも拘らず、其方はオリヴィエ・ゼーゲブレヒトのクローン体である少女が完治した上、レアスキルなのかレリックウェポン化に因る賜物なのかは扨置き、聖王の鎧復活の可能性も決して低くはないという、正に濡れ手に粟状態。

 

 扠…………地上が其方の要求を呑むメリットが何処に存在するかを伺いたい」

 

 少女の治療にナンバーズという被験者が必要ならば分からなくは無いが、遺伝子調整された末に持って生まれる能力を生来のモノと言えるかの判別が難しい聖王の鎧を復活させようとする為だと言うのは治療(●●)に分類される行為に必要と言えるかは非常に怪しい。

 縦しんば治療だとしても、無くても日常生活に支障を来たさぬ以上、聖王教会が圧倒的に得をし且つ本局がお零れに預かれるにも拘わらず、地上は泥を被るだけなど、舐め切っているとしか思えんな。

 

 ……扠、一体どんな言い訳とカードを切ってくるのか、…………今から胃が痛いな。

 

<カルラ医師の情報取得に関する諸問題は全て此方が解決して其方には迷惑を掛けません。

 叉、聖王の鎧に関しましては仰られる通りに治療と呼べるかは疑問視されますが、彼の御方はベルカに於かれましては最上位の要人で在らせられ、安全を考慮した場合必須である事は明白です。

 

 彼の御方が不慮の事故や凶刃に晒され、しかも崩御された場合、最悪ベルカの民が管理局に自制を超える程に甚大な憎悪を滾らせる事を想像に難くありませんので、如何か理性在る判断を願います>

「此方に理性を求める前に其方の知性を高めるのが先ではないかね?

 要求を呑まなければ何か在った際に管理局に憎悪を抱く?阿呆かね?そしてそれ以上に恥知らずだな」

 

 表情と声音から察するに、恐らく予め用意された交渉とも言えないカードを切っているのだろうが、此のカードの使用を強制しただろう奴等は本気で通じると思っていたのか?

 少なくとも言った本人が羞恥の余りに泣き出しそうになっていなければ即刻通信を叩き切っていたが、恥を知っているならば……まあ…………強制されただろう事を考えてギリギリで我慢してやろう。

 

 だが、こんな虚仮にした交渉カードを切らせた背後の奴等には、相応の報いを受けてもらうぞ。

 

「少女の状態を鑑みるに被験者を必要とする要素は見受けられず、事実カルラ医師からの口添えも無い。

 そして少女のリスクを減らす為と言っているが、ソレは本来ならば誰もが負うべきリスクであり、後天的付与と言えるレベルの能力により軽減されていたリスクが本来の状態に戻っただけでしかない。

 自らの組織の要人を護衛するのはその組織の務めであり、自らの組織の要人を治療するのもその組織の勤めであるが、それを自らで成せないが故に外部に委託する際に受け入れられなければ然も相手側に非が在るかの様に言うその言動、……組織の管理運営に携わる者の思考にしては粗末に過ぎる。

 

 責任の所在を転嫁する輩と話を交す価値など無い。

 自身の発言や行動に責任を持たない者との契約など、何時気紛れで履行を拒否した挙句責任を転嫁されるか知れたものではないからな。

 故に、此方が其方の要求を呑むかを考慮する一つ目の条件として、此の様な虚仮にした交渉カードを切らせようとした輩の退陣だ。

 当然だが交渉が纏まれば必ず退陣させるなどという、寝言にすら成らん徒の虚言に耳を貸したりはせんぞ。

 

 抑、治療をして下さるカルラ医師に機密情報を取得させるという危険に晒し、服役中の者を被験者の立場でと雖も一時的に外に連れ出して守るべき民を危険に晒し、にも拘らず此方側への利益は無いにも拘らず其方は恐らく大きな利益を得られ、更に断れば組織の管理が出来ずに暴走しかねないことを仄めかして脅迫するなど、恥も無ければ誇りも誉れも無い限りは出来ん真似と思わんか?うん?」

<………………仮に其方の指摘された上層部を退陣させたならば、他に如何様な条件を呑めば此方の要求を呑んで下さいますか?>

「………………一つ。カルラ医師に想定される危険を過不足なく伝えること。

 二つ。地上とカルラ医師へ非合法及び超法規的措置による契約を結ばないこと。

 三つ。地上とカルラ医師が有事の際に責任を負わずに済む手配をすること。

 四つ。地上とカルラ医師に相応の対価を事前に支払うこと。

 五つ。臨床被験者に関するカルラ医師の事前要求には無条件で承諾すること。但し後に地上と合議し、正当性が無いという結論に双方至った場合のみ承諾を撤回可能とする。

 六つ。契約後に想定される危険に際し、カルラ医師若しくはそれに準ずる者から護衛要請があった場合、カルラ医師及びその関係者へ護衛を目的とした者の即時派遣の容認及び実行を認めること。

 七つ。如何なる理由に因ろうとも上記項目の不履行及び欺瞞並びに妨害行為発覚時は、対価の返却義務を負わずに契約の一方的破棄を地上とカルラ医師が行えること。

 八つ。これらを原則とした旨を記した契約書及び念書のオリジナルとコピーを地上とカルラ医師が所持すること。

 九つ。聖王教会は聖王教会の威信に懸けて上記項目の遂行を誓うこと。

 

 以上を満たすならば其方の要求を呑んでも構わん。が、3・4・7の項目で大荒れして此方に噛み付いてくる馬鹿が湧く前に断っておくが、此方は提示した要求を呑めば其方の要求を呑んでも構わないのであって、交渉を成立させたいわけではない。

 寧ろ時間を取られぬ為にも交渉すらしたくないというのが本音だ。

 そして其方が脅迫しようものなら、服役中の者を臨床被験者として釈放乃至仮釈放する為に刑期の相殺乃至短縮する様に圧力を掛けたと証拠を提示しながら公表すれば、ベルカ以外の世論から袋叩きに遭うのは目に見えておるので、不安を煽る馬鹿な発言はその儘自身へ返りかねんと覚悟しておくがいい」

 

 …………奴とそれ以外の者の差は余りにも開き過ぎているが、劣化した技術であっても徐徐にだが治安や超過剰超過勤務状態が緩やかにだが改善され始めてきているのだ。

 地上への平均就職率を考えると人材不足が解決するには恐らく後30年は必要だろうが、それでも本局へ横暴な態度の文句を呑み込んで迄人材の一時派遣を頼む必要もなくなり始めたのだ。

 更にはほぼ奴の私的研究機関兼次世代育成機関(と言うか奴自身が次世代だが)が陸の施設内に建造され、地上の医師以外に医師会からも助手や受講者を募った結果、1日で倍率250と言う脅威の数字が記録され(医師会と奴が半半で決めたらしい)、医療の発展と言う名目で様様な企業から奴の研究機関兼次世代育成機関を擁する地上へと巨額の援助金が寄付され、奴だけでなく奴の助手や受講者達の安全確保という名目でクラナガンに要人護衛に重きを置いた(だけで捕縛や鎮圧や殲滅に対応した課も在る)戦闘局員養成所という、一流戦士を養成する場を資金の捻出に悩む事無く建設する事も出来たのだ。

 

 時間は掛かるものの徐徐にだが人材消耗率を大幅に抑制出来且つ理想の能力値迄誘導出来る状態に移行しており、更に奴の安全の為という名と実を守りさえすれば潤沢に使える資金が一気に舞い込んで来且つ現在追試中の老化の大幅減衰乃至微回復という新医療技術が在る以上、恐らく向こう10年程は無駄に使わない限り十分に地上を運営出来るだけの寄付金が集まる当てが在るので、設備や人材のレンタルの為に聖王教会の狂信派や本局の横暴を呑む必要は薄くなり、結果的に強気な対応が可能になった。

 そしてそれは本局が医師会に喧嘩を吹っ掛けた時に痛い程認識しただろう事を考えるに、徐徐にだが虚仮に出来なくなる環境が整いつつあるという事だ。

 

 当然此方の展望と予測が見当外れでないのを直ぐに理解するだろう事を事を考えるに、遠からず聖王教会と本局が地上の現状を以前の様に戻して都合の良い弱者にしようとする動きが無いなどとは考えられん。

 だが、聖王教会は兎も角、本局は先日の不祥事発表と医師会へ大大的に喧嘩を売ったので現在は凄まじい逆風に晒されており、文句や妨害の封殺が極めて容易である以上、地上の地位向上は地上が団結して事に当たれば早ければ数年、遅くても10年で必ずや成し遂げられる。

 そしてそうである以上、儂はその日迄飴と鞭を使い分けて離反や暴走や造反を防ぎ続け、日日の平和が当然であるという儚くも尊い幻想を現実にする為にも、恐らくソレが儂の最後の大仕事となるだろうな。

 

 失敗して本局や教会に舐められた儘で在り続けぬ為にも、世論の追い風を受けている今こそ馬鹿にすら劣るカス共を挑発で炙り出して一掃してくれよう。

 ……まあ、道理と倫理と能力を持ち合わせ、その上で恥を知る此奴が巻き添えで消えでもすれば余りに惜しい以上、煽りを受けぬ様に気を遣っておくか。

 

<…………直ぐに議会で纏めてみせます。

 それと対価に関してですが、無形であっても構わないのでしょうか?>

「所有権が地上やカルラ医師に帰属しない類は容易く撤回が可能な以上、原則として不許可だ。

 但し、仮に報道機関の前で誰もが認める功績を大大的に謳い上げ、深い謝礼と共に幹部陣に連なる名誉職を贈与するなどならば構わない。

 無論、ソレが対価として相応しくないと判断された場合は当然拒否されるがな」

<分かりました。

 それと、此方の意思を纏めましたら、是非一度カルラ医師も交えて直接話をさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?>

 

 …………当然と言えば当然の要求だな。

 通信で話を決めるには重要過ぎる以上、何処を会談の場とするべきか……。

 

 迂闊に地上へ教会の重鎮を呼び付ければ騒ぎ立てられるのは必至。

 逆に教会へ儂が赴いても同じく騒ぎ立てられるのは必至。

 かと言って本局で行えば足を掬われるのは目に見えている。

 だからと奴の家で会談をした日には、どんな風に騒ぎ立てられるかサッパリ予想出来ん。

 最悪、奴と此奴の交際報告とかいう明後日の噂が飛び交って、女性週刊誌に恋路を阻む頑固親父と言う見出しが躍るなどという、平和なスキャンダルを提供しかねん。

 

<……場所で悩まれているのでしたら、機動六課にしては如何でしょうか?

 場所と所属は地上で、派閥は本局。そして支援は教会が行っておりますし、彼の御方も頻繁に出入りされておられますのでカルラ医師も赴き易いので、最も波風が立たない場所かと思われますが……>

「止むを得んか。

 ならば会談日は半月以内にカルラ医師が自宅療養になられるので、掃除や買い置き等が済まれるであろう4日目になるよう調整するので、それ迄に話を纏めておいてもらおう」

<分かりました。

 それでは此方の話が纏まりましたら連絡しますので、その時にでも会談の詳細はその時にでも>

「ではそうするとしよう。

 ああ、それと交渉を上手く運べずに責任を擦り付けられそうになったなら、儂が君とは違う馬鹿な恥知らずの能無しを遣せば即刻交渉を打ち切ると言っていたと伝えれば良い」

<……気遣い下さり感謝します。

 …………それでは失礼します>

 

 …………終わってみれば然してストレスにならんかったな。

 矢張り本人が望んで虚仮にしていないと分かってさえいれば、話していても然してストレスにはならんな。余裕が在ればの話だがな。

 それに物腰や言動が淑やかなのも要因だろうが、持って生まれた人柄が一番の要因だろうな。

 

 

 …………扠、と。それでは先ず本局に踊らされたり尻尾振って足並みを乱す奴らへ注意や宣告寸前の警告を出すとするか。

 それと、以前に激昂して踊らされた輩は適当な副官や補佐官を就けて、本局の犬や金目当ての輩は監査官を常駐させるとするか。

 そしてそれでも馬鹿な真似を起こしそうなら更迭だな。

 …………易や、義侠心や誇りを刺激されて暴走した輩は厳重注意と再教育で、舐めた真似をした本局の犬は無人世界の現地監視員にでもして飼い殺しにし、金目的の小悪党は能無しならば懲戒解雇して豚箱に叩き込み、能力が在るならば次は無いと厳重に警告した上で昇給と昇進と言う飴を与えて扱き使うとしよう。

 

 後は…………機動六課に赴く際にゼストとナカジマ一尉かアルピーノ一尉を、儂と奴の護衛に出来るよう調整するようにオーリスへ連絡するか。

 

 

 

 その後、オーリスに通信で要件を伝えた際、迂闊にも先の上級騎士の様に少しは淑やかに成れと口を滑らせてしまい、暫くの間まるでセクハラ親父を見るような白い眼で見られ続け、可也凹むことになった。

 何より、臍を曲げている間に矢鱈とオーリスとゼストの距離が近くなり、何とか誤解を解いた後もゼストとの距離が変わらなかった気がしたのに色色な危機感を覚えた。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告