Vividの二次創作   作:駆け出し始め

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「お早う御座いますカルラ医師」

「お早う御座います」

 

 ……。

 

「失礼ですが、御用はシスター・シャッハに御有りなのでしょうか?」

「そうですが、御気になされているのでしたらその必要はありませんので、気兼ね無く歓談を続けて下さい」

「易え、取り立てて重要な話でも無い上に会話も途切れ、丁度失礼しようと思っていたところですので……。

 

 ではカルラ医師、シスター・シャッハ、失礼させて頂きます」

 

 …………見事な他人への対応ですね。

 ここだけ見ると、とてもお二人がご友人とは思えませんね。

 

「お早う御座いますヌエラさん」

「お早う御座いますカルラ医師」

「挨拶もそこそこに本題となりますが、本日14:00(ヒトヨンマルマル)より初等科の第二養護室を御借りして定期診療となっておりますが、児童達の健康診断に掛かる時間に因っては御待たせてしてしまう場合が御座いますので、先日御連絡致しました通り、宜しければ今からでも定期診療とさせて頂きますが、如何なされますか?」

「あ、それでしたら事情をお話ししたら一足先に定期診療をお受けするよう言われましたので、早速ですが今からお願いしても構わないでしょうか?」

「分かりました。

 では今から事務室で来訪の手続きを済ませ次第直ぐに第二養護室へ向かいますので、暫し第二養護室にて御待ち下さい。

 

 ……それでは失礼します」

 

 初等科の4~5年程の年齢にも拘らず見事な対応ですね。

 しかもお会いする度に威厳や貫禄が増していることから、男子三日会わざれば刮目して見よ、という言葉をそのまま体現されていますね。

 

 ……以前はご自身の能力に関しては過不足なく把握されていましたが、逆に言えばそれだけとも言えましたけれど、今はご自身の社会的立場や寄せられる期待や羨望や嫉妬を全て過不足無くご理解され、その上でご自身の在り方を揺るがず保たれていることが威厳や貫禄に繋がっているのでしょうね。

 騎士ゼストには一歩及ばないものの、逆に言えばこれほどの若さで騎士ゼストへ後一歩という所まで迫る器の持ち主と考えると末恐ろしいですね。

 

 ……っと、余り長々とここで考え込む時間はありませんでしたね。

 カルラ医師を待たせるわけにはいきませんから、素早く第二養護室へ向かうとしましょう。

 

 

 

 しかし…………カルラ医師の護衛がアルピーノ一尉なのは残念ですね。

 まあ、女性の生徒だけでなく教職員も健康診断を受ける以上、護衛も女性になるのは致し方ないですが、それでも騎士ゼストに来ていただき、後ほど稽古をつけていただきたかったものです。

 アルピーノ一尉とは相性の関係上あっという間に終わってしまい、試合としては有意義でも稽古としてはかなり微妙ですからね。

 

 

 

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「流石はベルカで名高いSt.ヒルデの児童や教職員の方方ですね。

 春先には新入生や編入職員には若干肥満や運動不足の方方が居られましたが、僅か約7ヶ月で肥満どころか運動不足の方すら殆ど居られない様に成るとは、素直に驚きです」

「知識や教養だけではなく最低限心身を鍛える事にも重きを置いていますので、皆が皆とはいきませんが平均的な教育機関と比べて高い水準だとは自負しています」

「しかし心身を鍛えることに重きを置いている弊害か、可也の疲労が蓄積して成長に阻害が見られる児童が散見されますので、教職に付く方がその辺りを確りと見極めて休息を取らせることは心掛けて下さい。

 一応本人にも注意を促しましたが、成長期が終わる迄は健康を当然のものと認識しがちですので、周囲の方……特に指導に当たられる方がある程度の抑止力に成っていただかなければ危険ですので、疲労の度合いによっては実技を座学に切り替えることも視野に入れていただきたいですね」

「肝に銘じておきます」

 

 やはりお気付きになられましたか。

 恥を見抜かれる思いですが、カルラ医師からの注意となれば無碍にする方は早々居ませんので、むしろ注意を受けることが出来て幸運と思うべきですね。

 

 しかし……何故私がSt.ヒルデの教職員代表としてカルラ医師から診断結果等どを聞くことになったのでしょうか?一応私は非常勤なのですが……。

 まあ、後ろには一応各学年主任が居られますので、私に不手際があればフォローして下さると思うのであまり気にしてはいませんが。

 

「正直、公式魔法競技会(Dimension Sports Activity Association)、通称DSAAに出場される方は全体的に成長が歪な傾向が強く、熱を上げられている本人には失礼ですが、医師として言わせてもらうならば、他者を害する競技に自身の健康を害して迄取り組むのは全く以って賛同出来ませんので、せめて自身が何をしているかの認識が不足している者の出場自体を規制していただくなどしてほしいところです。

 無論、其方にも教育方針や伝統等も在りますので、今の発言は強制や進言ではなく一医者の意見ですので、現状を維持してDSAAの出場権や優勝を目指す過程で得るモノを重視されるというのも一つの教育方針とは思います。

 

 ですが、如何に幾重もの安全処置を施そうとも、ショック死という危険が常に付き纏い、更には安全処置が外れれば徒の障害行為でしかない行為を、法を犯した者の捕縛乃至撃退、若しくは正当防衛以外で行おうとする過程、若しくは行う過程での傷を癒すことは自他に新たな傷を齎す行為の助長とも言え、医師の掲げる仁術に悖る行為として、そして患者自身の自傷行為を抑える為にも一部の治療を断らせていただく場合がありますので、その点は留意して下さい」

「…………貴重なご意見ありがとう御座います。

 DSAAに関する方針変更に到るかは分かりませんが、ご意見を深く受け止め、今まで以上に精神的成長を促す教育を行えるように尽力いたします」

 

 武闘派としては幾つか反論したい所もある内容でしたが、非常勤とはいえ教員としては碌に考えもしなかった耳に痛い言葉の数々ですね。

 背後の方方も全員カルラ医師のご意見を重く受け止めているみたいですし、カルラ医師に投じられた一石が大きな波紋をを生むことは間違いなさそうですね。

 DSAAを野蛮とだけ言って反対していた方などは酷く感銘を受けていますし。

 

「……診断報告から外れた脇道に長長と逸れてしまい済みません。

 

 話を戻しますが、此方が疲労蓄積の激しい児童と教職員の一覧です。

 幸い肉体やリンカーコアの矯正や整形が今直ぐにでも必要な方は居られませんが、一覧の上位に記載されている大半の方は此の儘だと矯正が間に合わずに肉体面では15%~35%、リンカーコアでは20%~40%は力を発揮出来なくなると思われます。

 勿論日常生活に支障を来たす程ではありませんが、聖王教会で武闘派として活躍されている若しくは活躍される予定の方は十分な注意が必要です」

「あの、…………先のJ・S事件でカルラ医師程ではないにしても大きな負傷をされました高町一尉ですら、リンカーコアの出力が約8%の減少なのを考えると、20%~40%という数値は俄かには信じ難いのですが……」

「説明が足りず済みません。

 私が申しました減少値の数値は、予測される生来の限界値を基に算出していますので、現在値からの減少値ならば肉体とリンカーコア双方マイナス3%~プラス1%程と思われます。

 但し、成長期にも拘わらず上昇する事無く減少することは単純な数値以上に深刻な問題ですので、その点は失念されないように注意して下さい」

 

 わ、忘れてました……。

 あくまで肉体やリンカーコアが持つ生来の限界へ、矯正や整形を行って到達させるという理論の根底を忘れるなんて、恥ずかしすぎます。

 

「こ、こちらこそカルラ医師の医療技術の根底を失念した質問をしてしまい、申し訳ありませんでしたっ。

 

 後、成長期の児童の成長率につきましては、実技や部活動などでの指導にも反映させるように働きかける所存です」

「御理解頂けて何よりです。

 

 それでは今回の健康診断での報告や注意点は以上ですね。

 ……前回と違い細かい注意点迄述べた為に長くなりましたので、叉機会が在った時は書類として其方に上げた方が宜しいでしょうか?」

「いえ、実に矯めになる注意や意見でしたので、カルラ医師のお時間があればまた今回のようにしていただければ幸いです」

「分かりました。

 医師としては兎も角、教育の実情を理解していない素人で恐縮ですが、出来る限り其方の御要望に応えられる様に助力は惜しまぬ心算です。

 

 ……それでは失礼します」

 

 そう言うや否やカルラ医師は立ち上がり、既に荷物をまとめて下さっていたアルピーノ一尉から荷物を受け取ると軽く一礼し、私達の横を静かに通って出入り口のドアまで歩いていかれる。

 

 

 流石にこの場で見送るだけと言うわけにも行きませんので、代表の私がお見送りをするということで、駐車場まで随伴することにしました。

 

 

 

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「時にヌエラ氏」

「(さん付けではなく氏?)……はい。なんでしょうか?」

「来期、若しくは来年度に編入するだろうベルカの要人のヴィヴィオ氏に関してですが、〔すぐに泣かない強い子になる〕、ということを目標とされているようなのですが、迅速に治療しなければ早晩に永逝する負傷すら隠し続けるという前歴が在り、更に第二保護者は自身の攻撃に対する認識以前に他者が負傷するという当然の認識が欠落していると判断されますので、ヌエラ氏が保護者の方よりも注意されなければ万が一の事態が起こりかねないと思っています」

「……はい」

 

 レリックウェポンと化していたヴィヴィオをレリック諸共に砲撃し、都合良くレリックが壊れただけと納得されていたのを知った時は目眩がしましたね。

 

 カルラ医師がヴィヴィオは既に最低限の治療を受けている最中で、時折見せる辛そうな素振りは当然保護者が気付いているものと思っていたと仰られた時、医師としての観察眼か個人としてヴィヴィオを見ていたからなのかは兎も角(多分医師としてでしょうが)、カルラ医師が読み上げたヴィヴィオの診断結果は聞いていた全員を戦慄させましたね。

 何しろ肉体は筋骨以外のほぼ全てが致命一歩手前まで機能低下し、リンカーコアは約1%まで機能低下するという、カルラ医師をして有史以来稀に見るだろうリンカーコアの損傷度合いと評していましたから。

 

 当然そんな状態に気付かなかった両保護者に対するカルラ医師の信は殆ど無く、愛情を注いでいると判断しなければ虐待として訴えるつもりだったようですし、こうして私にそれとなくヴィヴィオを気に掛けるようにと話される気持ちも分からなくはないですね。

 ……まあ、なのはさんもいきなり母親になって失敗もあるから少しは多めに見てほしいのですが、非殺傷設定を妄信しているミッドの魔導師の方とは壊滅的に相性が悪いのは有名ですし、下手になのはさんを弁護すればするほどドツボに嵌りそうですし、この話題に関してはスルー一択ですね。

 

「所詮私は医師ではあっても関係者ではありませんので、私生活に密着して様子を見るなどという真似が出来ません。

 ですので、保護者や後ろ盾の方方の中で本人の意思と健康との何方を尊重するかを最も正確に見極めて制止する事が出来るだろうヌエラ氏が気に掛けてあげて下さい。

 

 無論、私とヌエラ氏はその様な個人的願いを無償で叶える様な間柄でないことは十分承知しておりますので、代わりに私が他者に被害が及ばぬ範囲で出来ることならば尽力は惜しみませんので、是非とも引き受けて下さいませんか?」

「…………」

 

 これは要するに貸し借りしたくないという意味なのでしょうか?

 それとも私と個人的に親しくなりたくないという意味なのでしょうか?

 と言いますか、そもそも私は聖王教会所属でヴィヴィオは聖王教会の最重要要人の一人で、カルラ医師の願いが無くとも護衛や健康への気遣いは最大限に払いますので、カルラ医師の願いはまるっきり無駄なのですが、…………分かってないはずは無いのでしょうけれど、一体どういう意味なのでしょうか?

 

「お心遣いはありがたいですが、カルラ医師に言われずとも聖王教会から同様の命が下ると思いますので、あえてそのお言葉は受け取らないでおきます。

 後、カルラ医師程の方が対価でと雖も尽力するなどと仰られるのは控えられた方が宜しいかと思われます。

 

 私にその気が無くとも、上の者が私を介してカルラ医師にどの様な願いをするか分かりませんので」

「ですので、シャッハ・ヌエラ氏個人へとお願いしているのです。

 そして聖王教会が私と同様の命を下すと仰られていますが、排斥派も存在すると予想される以上、学院周囲の守りを固めて特別扱いをしない様にという提案が可決される可能性が無くも無い以上、予め先んじて打てる手段は打てる時に打っておこうと思い実行に移しています。

 

 少なくともカイ・カルラ医師が聖王教会修道女のシャッハ・ヌエラにではなく、一個人のシャッハ・ヌエラへ事前に対価を支払ってまで依頼しているならば、聖王教会も決して無碍には出来ないでしょうから、此の話は貴女にとっても悪い話ではないと思いますよ?」

「………………」

 

 本当に凄まじい速度で成長なされていますね。

 ヴィヴィオの治療を勤め、更にしっかりと驚異的な治療結果を示し続けているカルラ医師が、個人取引を行ってまでヴィヴィオの学院生活でのサポートを頼まれたならば、たしかに聖王教会は簡単に無碍には出来ません。

 しかもその依頼は恐らく聖王教会が命じるだろう内容からはみ出さない以上、特に文句を言うことも出来ませんし、仮にカルラ医師が予測した通りに排斥派が暗躍したとしても、医師会の寵児であるカルラ医師の機嫌を損ねる様な真似を聖王教会が簡単に認めない以上、どちらに転んでもヴィヴィオの安全はある程度確保されるということですね。

 

 問題は聖王教会がカルラ医師が私に払った対価を強引に返却すること出来ず、且つカルラ医師が払った対価の大きさを慮って依頼を阻害することに二の足を踏む程の無形の要求をしなければならないということですね。

 しかし…………誰もがカルラ医師の依頼の邪魔立てをすることに二の足を踏むに足る無形の要求とは、…………一体何がありますかね?

 …………一般には知られてなく、その上でそれをカルラ医師の口から語らせることへの精神的負担が甚大だと納得させられるモノが無難と言えば無難ですが、私程度だと隠されていることを知ること事態が非常に困難で、隠されていると知っている情報は…………――――――

 

「それではお受けする対価に、カルラ医師の人となりを知るためにご両親についてお話をお聞かせ願えますか?」

 

――――――本来ならば絶対に訊ねないだろうことだけです。

 

 

 

 その後、静観していたアルピーノ一尉が展開した対盗聴特化のフィールドの中で聞いた話は、眩暈のあまり倒れたくなる程の内容でした。

 そして吹聴するにはあまりにも危険すぎる内容であり、同時にヴィヴィオの安全のために話してくれたカルラ医師の想いに少しでも報いるため、この件を知らぬ者には聖王教会に属す者の誇りと私個人の誇りに懸けて決して伝えないことを固く誓いました。

 

 正直これだけでも十分すぎますし、個人的信頼を殆ど築いていない私が知るには不相応でしたので、強引に途中で話の打ち切ってもらいましたので全ては聞いていませんが、………………恐らく全てを知っているストラトスさんが凄まじい大物に感じました。

 

 

 


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