運がいい人が飛ぶと…… 作:空を飛びたいチキン野郎
「卒業試験としてミラージュ教官と」「模擬戦「だとッ!?」」
おい最後の誰だ。チャックか、後で三枚に下ろしてやる。ハヤテも協力──―ってアイツ逃げたな。
チャックの悲鳴を聞きながらも俺は包丁片手に走りながら考える。アイツの肉厚な腹は三枚程度で足りるのか……っと。
「って、そんな事考えてる暇ねぇ! どういう事ですかアラドさん!」
「お、戻って来たな。続きを話すぞ」
スルメを齧り、酒を煽りながら端末を操作する。こんな真昼間ってか朝っぱらから酒なんてよく注意されねぇよなぁ。
「率直に言うとまずお前たちには決闘をしてもらう」
「決闘? ハックションッ!」
いつの間にか戻って来ていたハヤテが聞き返す。おいハヤテ、頭にウミネコ張り付いてんぞ。ハヤテへ引っ付くウミネコを取りながら聞いた説明の内容はこうだ。
生徒であるハヤテと教官であるミラージュ少尉が一対一のドックファイトを行う。どちらも使うのは俺達が訓練で使用したVFー1で弾はもちろん模擬弾であるペイント弾らしい。公平を期すためにメッサ―が同行するとの事。俺の場合はメッサーが相手みたいだけど──―勝てるのかね?
「なぁアラドのおっさん」
「何だインメルマン」
「その条件だとヒビキがちっとキツクねぇか? ハックションッ!」
「そーだ! そーだ! ってかコイツ取れねぇぇぇ」
墜落回数総数289回。平均一日に9回は墜落している俺にとってはこの条件、かなり厳しい。だってドックファイト所かまだまともに飛んですらないんだぜ。機体自体に問題は無いしシュミレーターを使った訓練では俺はちゃんと飛べてる。けど実機を使った訓練となるとまた話は違って来て、俺はまだ自由に飛べてすらねぇ。そんな状態の俺を模擬戦に連れ出そうだなんてちょっと厳しすぎません?
「その点は問題ない。お前にはマキナ、レイナ両名からのとっておきが用意されているからな」
「とっておき?」
「あ、何だか嫌な予感が──―っとわぁッ!?」
「取れたか」
「ヒビキ! だいじょ──―ふぅふぁッブックションッ!」
妙な胸騒ぎを感じながら俺はウミネコと共にぶっ飛んだのだった。ってかメッサ―いたんだね、影薄かったから気付かなかったぜ。
※※※
やはりアンラッキーの異名は伊達じゃないって事か。
「なぁアラドさん」
「何か言いたげだなチャック。大方何故一度もまともに飛べていないヒビキを模擬戦なんかに出したかを聞きたいんだろ?」
「うっす」
確かにチャックの気持ちも分からない訳でもない。俺だって今の所新米以下の腕であるアイツを空に出し戦わせるだなんておかしいと思いが……あのデータを見ちまったからなぁ。
「だがチャック、思うにアイツが毎度の如く墜落する理由はなんだと思う?」
「うん~……色々と考えられますが単純に機体操作の腕とかそんなんじゃないっすかね?」
「だよなぁ、俺も最初はそう思ってたんだが────これを見て見ろ」
「これって────」
渡したのはアイツ、ヒビキのこれまでの飛行データ。これを見る限り何らオカシイことはないのだが────同時に表示しているもう一つのデータと比較しちまうと誰だって驚くよな。
アイツの飛べない理由、それは単純でソフト側ではなくハード、つまりは機体側にあった。ヒビキの入力速度そして反応速度は異常なほど速い。
普通の人間が操縦桿を握り一つの動作をする間にアイツは5つも操作しやがる。だから常人用に調整されたOSじゃアイツの操作に付いていけず、機体のコントロールがおぼつかず毎度の如く墜落しているって訳だ。でもそれぐらいなら直ぐに発覚して機体を調整すれば済む事なんだが、タチの悪い事に今回はOS側が悪さし瞬間的に複数回操作するアイツの入力に認識が追い付いておらず、最終入力したコマンドしか履歴に残っていなかったから発覚が遅れやがった。
マキナとレイナが見つけたからよかったものを見つからなかったらこんな提案できなかったからなぁ。
「でも! これに対応する時間はないんじゃぁ―――」
「大丈夫だ心配ない。言ったろ、マキナとレイナが何とかしてくれるってな」
もうすぐハヤテ達の演習が始まる。恐らくハヤテにとって重要な戦いになると思うが俺的にはそれも楽しみだがその後にあるメッサ―VSヒビキも楽しみだな。
「さてさて、どうなることやら」
※※※
「────っで、マキナ、レイナ。これの言い訳を聞こうか」
「えっと……」「これは……」
二人して正座する後ろに存在するは真っ黒の機体。エメラルドグリーンのラインが入ったその機体は色は一緒の物ではあるのだが、俺の知らない機体がそこにあった。え、マジで俺の機体どこ行ったの?
「俺は確か機体の全面オーバーホールとしか聞いていなかったんだが……何故機体そのモノが変わってるのかな?」
「実は……電ッチのデュランダルちゃんは──―」「──酷使し過ぎ、ズタズタ、ボロボロ。既にお釈迦で使い物にならない」
「マジか」
確かにアルシャハルでの戦いの後、現地パーツのでの応急修理で飛んでいた状態だったけどそんなにボロボロだったとは……流石に8年乗ってたら乗り潰す事にもなるか。でもさぁー
「なぁーんで一言も説明してくれなかったのかなぁ?」
機体としては俺の元の機体、YFー29とそう違いはない。4発のエンジンにフォールドクウォーツの散りばめられたコックピット周り。けれど何だか一回りぐらい大きくなってんだよなぁ。延長された機首に前の機体にはなかったカナード翼。明らかに大幅に改造されてるだろコレ。
「その言葉を!」「待ってた」
なぁーんて考えてたらその言葉を待ってましたと言わんばかりに二人が勢いよく立ち上がった。ッうぉ! ビックリした。
「この機体の名は電ッチもご存じVF-31 ジークフリート! でもただのジクフリちゃんじゃなくて────」
「──―整備クルーの皆で改造してロマン装備を満載した専用機、実用性皆無、最高」
待って、二人とも待って。情報が渋滞起こしてる。俺の理解力の低い脳じゃ一遍に理解できないからちょっと待って。いや、そんな満面の笑みを浮かべながら二人してピースされても俺が困るだけだから。ホラ、整備員のハリーさんまでピースし始めちゃったじゃない、だから止めなさいったら──────―ハァ。吐息を一つ吐くとレイナが渡すには端末。何だよ、コレ。
「お兄さんコレが仕様書」
「お、おう」
紙じゃないんだな。S.M.Sにいた頃は機体の仕様書は紙で渡されたけれどここじゃ情報端末なんだな。──―いや、むしろこの時代で紙ってのがおかしかったのか?
「よぉーっく読んでメサメサに勝ってね♪」
そう言ってマキナはウィンク残して行ってしまった。いや、そう言われても明らかにコレ初見の機体だよね? こんな機体に乗って戦えって……コイツはキツわぁ。
「大丈夫お兄さん、私がちゃんと説明するから」
「た、頼むわ」
レイナ、お前だけが頼りだ。ほんとに頼むぞぉ。
「任せて。気分は泥船乗船、安心安全」
……それって最後沈むよね?
「さぁーってやってやりますか」
メインモニターに映るシステムを手順道理に操作し、アビオニクスを起動。すると自動的に機体のシステムチェックが行われ、エンジンに火が入った。徐々に回転数が上がりそれと共に画面が黄色へと切り替わる。
出発手順には前のデュランダルとそう変わりないな。
エンジンの回転数が上がり轟音をあげ出すと機体は待機状態からモニターと共にモードが切り替わる。それと同時にカタパルトへと続いた運搬装置が機動し機体を所定の場所へと移動を開始した。操縦桿を握り、フットペダルとでスラスターの可動域とフラップなどのチェックを行う。システムチェックも終了しモニターには機体がオールグリーンで表示され、異常なしと表示されたのだった。するとメインモニターに頭にクラゲを乗っけてるミズキさんが表示された。
「こちらデルタ6システムチェック完了。こっちは処女飛行だ、お手柔らかに頼む」
「アイテール了解。分かりました激しくいきますね」
「ど、ドS──……」
アイテールからの返しは衝撃的だったがそんな事は構わずに俺の乗る機体────VFー31
「全システム同調完了。発進タイミングをデルタ6へ譲渡します」
「了解」
機体出力を上昇させて行く、エンジンの回転数が極端に上がり同時に唸りをあげ始めた。
そろそろかな? もう一度簡易的ではあるが各部のチャックを終えると俺は操縦桿を握り直す。
「デルタ6、発進します!」
俺の声と共にカタパルトが始動。急激なGが全身を襲い操縦席へと押し付けられるが結構キツイ。これで軽減されてるのかよ……ISCさまさまだな。
機体が甲板から離れるのと同時にエンジンの出力を上げる。四つあるエンジンからものすごい推進力が吐き出され、機体はまるでロケットのように飛び出し空を、飛んだのだった。
あ、相変わらず重力と風があると飛びにくいなぁ……
前の機体と同じ操作を行い細かな操作を省略する為、AIの補正を受けてそのまま高度を上げ空へ空へと上がる。その後、モニターの誘導に従って所定のポイントへと進路を取る。
さてさて、仕様書は流し読みして分かった事だかコイツはユニーク過ぎるぜまったく。好き勝手に弄り過ぎてコイツにどんな戦いが出来てどこまでやれるか気になるじゃねぇか。そんな思いを胸に俺はこれからの戦いに胸を躍らせていたのだった。