運がいい人が飛ぶと…… 作:空を飛びたいチキン野郎
「アイテール分離開始、重力制御異常ありません」
「フォールドエネルギー、コンデンサーより順次解放します」
「恒星間航行モード始動。アイテール、トランスフォーメーション開始」
「艦内重力制御モードCへ移行完了、ヒートパイルクラスタ接続開始、各部異オールグリーン」
艦内アナウンスが響き、ぼぉーと待機場所で座っていた俺達の体に多少であるが振動が伝わって今発進したんだなぁーっとなんとなくわかる。隣に座るハヤテは初めての発進でテンションが高いのか落ち着かない様子。そして、そのハヤテとは逆に落ち着き過ぎてウトウト頭を揺らしているミラージュ少尉がいた。早くベルト外せないかなぁ、いつもの感覚で調整してたら運悪く失敗していたみたいで息苦しくていけねぇ。
「ラグナ発ランドール行きアイテール便ただいま発進します。足元の揺れにご注意ください」
……ん?
「なぁハヤテにミラージュ少尉」
「ん? どうした?」
「ぐぅ〜zZ、ぐぅ〜zZ、ぐぅなぁー…………ッは!! ど、どうかしましたか?」
「……さっきの艦内アナウンス最後おかしく無かったか?」
ミラージュ少尉の可愛い瞬間を脳内スクショ、コレは売れる!
ってそれよりも今のって完全に惑星間シャトルで言ってるアナウンスだよな? あまりにも自然に混じるもんだから違和感がなかった。
「そういえば艦長が言ってたぞ、パイロットの数を全体的に増やすつもりで今までの人数じゃ対応出来なくなるからオペレーターを新しく雇ったって」
「へぇー」
「なんでも民間からの移動人員らしいですね。先程のは恐らくその時の癖が抜けきれていないんでしょう」
「民間からの……」
そんなハヤテみたいな人が────ッ!
突如として走る悪寒。なんでだろ、すっごい嫌な予感がして来た。俺ってばその人と会わない方がいいかも……
「どうしたよ、いきなり体震わせて……もしかしてビビってるのか?」
「び、ビビってねぇーし! 」
「大丈夫です中尉、私も初めての時は痛くて泣いちゃいましたから」
おっと、ミラージュ少尉。君は突然どうしたよ。君はそんな事言うキャラじゃないだろ。てか貴方以外と遊び人だったのね……
「み、ミラージュ少尉はいきなりナンの話をしてるんですかねぇ」
「ナニって、それはアクロバット飛行の事ですけど?」
「────」
あ……あぁ! なるほどなる、アクロバット飛行の事な! そりゃーISC聞いてても慣れてない状態であれだけ無茶苦茶な軌道で飛び回ればどっか体を打つだろうさ!
「だ、だよなぁ! アハハハハ「……心の汚れた間抜けは見つかったな」……は、はは」
「?」
……あんまりその残念な奴を見るような目でこちらを見ないでくれ。俺ってばここに座るまではチャックと2人でそんな話をしながらアイツのメンタルケアしてたから脳が汚染されてたんだよ。許してクレェ。
何とも居心地が悪い空間となってしまった待機室、俺はシートベルト着装のサインが消えると無言のままそそくさとその場を去った……だって気不味いし。
格納庫へ足を運んだ俺は今までのカラーとは違う黒色へと塗装され、ライトグリーンの装飾が施された機体の前に立つ。
俺の専用機、VF-31
ワルキューレ達と同じく地球の伝説の一つ、北欧神話に伝わるヴァルキュリアの1人にてジークフリートと伝説を同じくする竜殺しの英雄、シグルトを屠ったとされる戦乙女。その名を冠したこの機体は苦悩の連続の上に改造され続ける未完品だった。
この機体は最初から欠陥をいくつも抱えており、初飛行の日から毎日のように不具合の修正や個人的な装備の追加、それに加えて基本性能向上の為の強化改修を重ねた結果、名前まで手が加えられ変更されてしまった機体だ。でもその分愛着もあるし何より、前の機体同様自由に弄れるのがいい。
「……でも出来れば追加装備は事前に教えて欲しかったなぁ」
俺の機体の下腹部に取り付けられている異様にピンクの物体。何だコレ、こんな物事前にマキナから渡された改造書にあったか?
疑問に思いながらもとりあえずコックピットへと乗り込んで機体を待機モードで立ち上げる。
【オカエリ、オカエリ】
「ッチ、自己消滅型プログラム混入させてたのに効果なかったのかよ。このAIしぶと過ぎんだろ」
【無駄、無駄】
そんな機体に搭載されてるのがこのAI、通称りんごちゃん。新統合軍総出で隠蔽されたって言う大事件を引き起こしたAIと同じ、進化を続けるプログラムだ。今では下手なコンピュータウィルスより厄介な代物へと至ってしまい簡単には消去出来ない物になってしまった。クソガァ、厄ネタだから2人に内緒で消去しようと試みてるのに何でこいつは毎度の如く生き残ってるんですかね?
「はぁ……ま、今は良い。とりあえずりんごちゃん、武装プログラムをメンテナンスモードで起動」
【ウェポンプログラムオンライン】
メインモニターが切り替わり、現在装備されている武装が一覧として表示される。えっとこの中で見覚えの無いやつはどれだー……ってかなりあるな。
「りんごちゃん、腹に抱えてるピンク色の武装ってわかるか?」
【検索中……検索中……ヒット、情報を提示します】
メインモニターに映し出される情報。えっと何々複合型対エネルギー転換装甲用破砕武装、武装名ハート・ブレイカー……えらく物騒な肩書きと名前してんなぁ。てか、ガンポットか何かの射撃武器だと思ったけどまさかの斧型のガッツし接近戦用の武器かよ。ドッグファイトが主流の可変機戦闘で文字通りの格闘戦をやれと申しますか……コレを載せた人は。
【マキナ、レイナ技術者からのメッセージを確認、再生を開始します】
【電ッチ見ってるぅー?】
「うぉ!?」
りんごちゃんからの知らせと共に武装の詳細が映し出されてた画面から切り替わり、突然マキナのその無駄に成長した胸がドアップで表示された。
いや、確かに魅力的で大きいとは思うけど妹分の胸を見させられても何も感じないんですけど。
【コレを見てるって事はハート・ブレイカーの説明を見てるって事だね!】
【流石はお兄さん、私が隠した秘密兵器をあっさりと見つけるなんてやる】
いや、あれで隠してたとか本当か? それに最近気付いたっていうか思ったけど、何というか会わないうちにアホな子になったのか?
【違う、私はアホの子じゃない】
……ついにムービー越しに心の声を読んで来やがった。
【それじゃあハート・ブレイカーの説明に入りたいと思いまーす!】
【どんどん、ぱふぱふ】
何事も無かったかのように画面は切り替わり、デフォルメされたマキナとレイナが映し出される。ほんと自由な2人だなぁ。
【この装備は元々かったぁーい艦船用のフレームなんかを切断する解体用の試作品だったの、でも────】
【私が廃棄されそうな所を回収した。一目見てわかった、これはロマンを感じる物だと】
【でもそのままだとただの大きいだけの斧で何より可愛く無かったんだ。だから私とレイレイがキャワワな改造を施して扱えるようにした物がこの】
【ハート・ブレイカー、コレでお兄さんのハートもブレイク】
……いや、俺の心を壊しちゃダメでしょ。それからは細かい説明が続くばかりで専門用語も多くて俺の頭じゃあんまり理解できなかった。けど、唯一出来た部分と言えば斧にレドームくっ付けて高速で振れるようにブースターをポン付けしたロマン武器にしてみましたって部分ぐらいだろうか。てか、何で派手に振り回す事を推奨している武装に精密機器の塊であるレドームとブースターくっ付けたし。でもビームの斬撃を飛ばせるのはナイスだ。
【コレで説明は終わり、後で感想待ってる】
【じゃあーねー】
【……再生終了】
「なんつうぅーか、一言で纏めるなら濃かったな」
機体を待機モードに戻し、顔見知りの整備員が来たので機体を降りる。なんつぅーか、疲れたな。
俺はそのままフラフラと気晴らしにでもと思いハヤテ達の元へと歩くのだった。
※※※
ヒビキが逃げるように待機室から早々と退出した後、俺たちは今の所やることも無いので俺の機体をミラージュと確認しに来たが……良い具合に仕上がっていて最高だった。
レイナとマキナのヘンテコ娘達が俺専用にチューナップしてくれて苦手なヘルメットも被る必要がなくて直で風を感じて飛ぶ事が出来るようになっていた。今からでも飛ぶのが楽しみになって来るぜ。
その後一通り機能の確認を終えた後、次はヒビキの機体でも拝みに行こうかとミラージュと話しているとライブの準備をしているはずのフレイアと出会った。
アイツは柄にもなく緊張している様子で何処かぎこちない。そんな不安な気持ちの影響か確か────ルンっていう触覚みたいな部分がいつもと違い暗くなっているみたいだった。
「へぇー、いつも大事そうに待ってたから気になってたけどそいつにはそんな思い出があったんだな」
だから気を紛らわす為、いつも大事そうに持ってる古い音楽プレイヤーの事を聞いたんだけど────予想以上に大事な物だった事がわかった。多分コレとの出会いがコイツの人生を大きく変えたんだろうな。
「うん、これのお陰で外の音楽を知ることが出来た。私もこんな風になりたいと思えた大事な物なんよ」
「それにしても古い音楽プレイヤーですね……型を見るに10年ほど前の物でしょうか?」
「うんー、貰いもんやからなぁ……詳しい事は分からんし」
10年か……何もしてない状態だと中のパーツの一部が丁度寿命を迎える頃だな。まぁ、もし壊れたとしてもマキナあたりに見せると解決しそうではあるが……
「一応マキナ辺りにでも見てもらったらどうだ「古い物と聞いて」うぉッ!? どっから湧いた!」
「ヒビキ中尉……突然人の後ろに立つのはどうかと思いますよ」
「いやぁー、暇だったからどれだけ相手に気付かれずに髪を弄れるかとチャレンジしてたら耳よりな情報を聞いたもので声をかけたのさ」
「ぽ、ポニテになってやがる……」
「ニシシシ、ハヤテは鈍感やね」
お前にだけは言われたくねぇ。突然真後ろに現れたヒビキはフレイアの持ってる音楽プレイヤーを受け取ると手慣れた手つきで点検し始める。その目はいつものふざけた様子と似ても似つかず真剣であり、なんと言うかその……別人を見ているようだ。
「内部基盤は動いてるとこを見る限り無事っぽいな……音も立体スクリーンも問題無し。すると交換が必要なのはバッテリーと……おっと通信機が死にかけてるな、ここも交換しないと……よし」
一通り終わったのかフレイアに返す。その時には元のふざけた顔に戻っていた。
「んー、ちょっとバッテリーが寿命でドッカンしそうなだけで特に問題はなかったよぉ〜」
「ドッカン!?」
「うん、ドッカン。あぁ大丈夫大丈夫、そんな涙目にならなくても部品自体はありふれた物だから知り合いに頼んで部品を手に入れて俺が修理してやるから安心しな」
「よ、よかったぁ」
すげぇな。少し見ただけでそこまで解るって一種の才能じゃないのか?
「でも、フレイアちゃん結構珍しい端末持ってるんだね」
「珍しい?」
「うん、だってそれ記憶が確かならメガロード-04に所属していた軍事向けの限定のモデルだからね。その筋のマニアが見たら涎物だよ」
「へぇー」
へぇ、メガロード-04の……軍事向けってのも軍人にもらったのを考えれば納得のいく話しだよな。てか、マニアの涎物って表現は汚いがつまり高値が付くレア物って事だよな? ……どうせ本人に言っても理解しないだろうから俺がしっかりしないとな。
「そんじゃ、俺はコレからカナメさんの無茶振りに対応する為、君たちワルキューレ全員を乗せても危険が無いよう機体全体にワイヤーフックを付けて来るからそんゆことでー」
そう言ってヒビキはそう言い残すと口笛を吹きながら去っていった……て言うか────
「会議で言ってたアレって無茶振りじゃなくてただの比喩表現だったような……」
「ハヤテもそう思いますよね。ヒビキ中尉、まさか本気で全員乗せるつもりでしょうか?」
「は、ハヤテ。私、カナメさんが冗談で言ってた通り飛ぶんかな? な、何だか怖くなって来たんよ」
は、はは。いくら鈍感なヒビキと言ってもアレを本気────しないよ、な?
一つの疑問を残し嫌な予感をさせながら俺達を乗せたアイテールは惑星ランドールへとデフォールドする。コレから俺らを待ち受けるのは当初の予定通りに進むライブかそれとも違う物なのか……恐らくもうすぐ分かるだろう。だけどどっちに転んでもコレだけは言える。例え確率が二分の一の物で当たりの確率がいくら高くても、運勢は味方にはなってくれないと。
【ワルキューレ小話】
拝啓、おじちゃん今日も変わらず元気ですか? 私は今日も同僚二人に振り回されてストレスが溜まり、お酒を飲む量が増えましたがなんとか元気です。そう言えばこの前言っていたおじちゃんが欲しがっていたワルキューレのサインですが私ではいくら頼んでも誤解され、手に入りそうにありません。ですので考えまして同僚の一人に頼んでみました。
「ヒビキ中尉、この前言っていたワルキューレのサイン何ですが……」
「あ、ごめんすっかり忘れてたわ……コレあげるから許して?」
「さ、サイン付き初回生産版リン・ミンメイのCD!?」
「大丈夫、偽物じゃないから。はいコレ鑑定書ね」
「────」
……何でその同僚はこんな高価な物ポン、っと軽く渡せるのか……私には理解出来そうにありません。
美雲が相談するとしたら誰?
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