彼と彼女は一心同体   作:シロップシロップ

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お久しぶりです。更新遅くなりました。最後まで読んでくださると嬉しいです。

それでは、どうぞ~


心の管理

「ーーー大変なことになりましたね」

 

私、坂柳有栖は優愛さんからの電話を聞いてそう思い、急いでカフェを出た。

 

優愛さんからの電話によって、学校のSシステムの事について大体理解することが出来ました。だけれど、それ以前に私は優愛さんの様子が可笑しいことに気が気ではありません。

 

優愛さん…私の予想が正しければ彼女は今ーーーーーーー人格が入れ替わってしまっているのでしょう。

 

ーー電話越しでもわかる彼女のあのオーラと声。

 

きっと間違いないです。

 

その時、電話に音声が聞こえてくる。

 

『ふふっ、ありがとうございます。…あぁ、そういえぱまだお名前をお伺いしてませんでしたよね。私は1年Dクラスの宮里優愛といいます。以後お見知りおきを』

 

その言葉に私は思わず立ち止まってしまう。

 

優愛さん…無理、しないでくださいよ。

 

『おれ、は3年Dクラスの藤沢孝太郎、だ。…お前Dクラスだったんだな…』

 

ひどく怯えた様な声で言うと、優愛さんは冷たく言い放つ。

 

『はい、そうですが何か問題でも?』

 

『ッ!い、いや、なんでもない、じゃあな、せ、せいぜい頑張れよ…』

 

声を震わせながらそう言うと、足を動かして去って行った音がする。

 

どうやら話が終ったようですね。

 

そう思っていると、突然綾小路くんの心配した声が響いた。

 

『優愛、大丈夫か?』

 

そう言った瞬間、バタンッと、誰が倒れた音が電話を通して伝わって来る。

 

ッ優愛さんーーー!!

 

『おいっ、優愛、しっかりしろ!』

 

『だ、大丈夫かしら、宮里さん!』

 

そして、驚いたのも束の間で綾小路くんの声と、もう1人の少女の叫び声を聞いて私は耳に当てていた端末を下ろした。

 

…ッ、どうしましょうか。これは完全に私の失態ですね。優愛さんの状態ををもっと考慮した方が良かったです…

 

私は思わず端末を強く握りしめた。

 

優愛さん…、ごめんなさい。

 

優愛さんの元へ一刻も早く向かいたい所ですが私はまだ、彼ーーー綾小路くんに会うわけには行きません。その理由は、先ほど優愛さんにも言った事とあともう1つ理由があります。

 

…先ほど優愛さんと会話した中で、私は少し嘘をついてしまいました。

 

ですが、()()()()()()はその嘘ともう1つの理由についてはわからないでしょう。

 

あの方もそう易々と優愛さんにあの理由の内容を言うはずはありませんし。

 

兎に角、今まだ会えないのです。優愛さんの元に行けば綾小路くんに会うことになってしまいますから。

 

…ですが、倒れた優愛さんの状態を踏まえて、まず精神的な問題などがありますがーーー

 

…本当なら私が優愛の側に居たいのですが、仕方ありません。今回は綾小路くんに任せましょう。彼なら何とかしてくれるはずです。綾小路くんは信用出来ますし、きっと大丈夫でしょう。

 

近いうちにまた優愛さんと接触して謝罪しなければなりませんね。

 

優愛さんに嘘をつくのは辛いことですが、これも優愛さんの為です。

 

…ごめんなさい、優愛さん。そして、どうか無理だけはしないでください。でないと、前みたいに貴女が壊れてしまいますから。

 

申し訳ない気持ちでそう思いながら私は、足を進め自分に今出来る事をするためにある場所に向かった―――

 

 

◎◎◎

 

 

ーーーー溺れる

 

身体が重たい…息が苦しい…

 

熱い、痛い、熱い、苦しい、痛い、熱い、痛い、苦しい、苦しい…

 

嗚呼、そっか、戻ったのか…

 

この身体に戻れたってことはーーーーなるほど。私をまだ信用してくれてるって事かな。

 

そう思いながら私は、ゆっくりと瞼を開けた。

 

すると目を開いた瞬間、清隆の顔がドアップで私の視界に写った。

 

「清隆…!?」

 

「!目が覚めたか。具合は平気か?優愛」

 

何時も無表情に見える清隆だけど今は何処か、心配、安堵、そんな表情を浮かべていた。

 

…清隆ってこんな顔してくれるんだ、

 

嬉しい気持ちを込み上げながら私は、上半身を起き上がらせて清隆の方に体ごと向けた。すると、清隆は私が座っているベッドに彼も座って私と向かい合うような形にさせられる。

 

そして、私の顎をクイッと持ち上げて目を合わさられた。

 

えっ…?

 

突然の出来事に頭が追いつかない。

 

すると、清隆は先ほどの質問を急かすように言ってくる。

 

「具合は大丈夫か…?」

 

「う、うん、大丈夫だよ。えっと、ここは…」

 

清隆の言葉を聞いて思わず早口で言ってしまった。

そして私は取り敢えず今の状況確認しておきたいと思い、そんな事を言ってみる。

 

でも、言ってから気づいた。清隆の事だから今取ったその行動はたぶん、私の目を見て話したかったんだと思う。

その方が相手の思っている感情とかが読み取りやすいしね。

 

「俺の部屋だ。突然倒れたからな、ここまで運んできた」

 

「そっかぁ、ありがとう。迷惑かけちゃったね…」

 

申し訳ない…私、結局何時も清隆に頼ってばっかりだ。

 

そう思い、申し訳ない気持ちで清隆の目を見る。

 

「………人格、入れ替わっていたな。」

 

「うん…」

 

私はその言葉に反応して右手を強く握りしめた。すると、突然私の手の上に清隆の左手が重なる。そして、優しく私の握りしめた右手を開いていく。

 

開かれた右手を見ると、手が爪に食い込んで跡が出来ていた。

 

…強く握ったつもりは無かったのにな。

 

「安心しろ、現場に居たのは堀北とあの先輩だけだ。あの先輩はほっといても問題ない。堀北には、ちゃんと口止めしてあるから心配はない。今日は…といってももう夕方だが、ゆっくり休め。今日は俺の部屋に泊まっていくか?」

 

その優しい清隆言葉に私は無意識に頷く。

 

「…お願いしてもいいかな?今は…1人で居たくないから…」

 

どうやら、自分ではあまり気づいていなかったけど結構体と精神に負担がかかってしまったようだ。当然か、現に今まで倒れてたんだから。

 

それに…皆に大変なことしちゃったな。あの先輩にも酷いことしちゃったしそれに、有栖と会えなくなっちゃったし、…清隆にも迷惑かけちゃったしね。

 

今の私の気分はきっと、辛くて、とても苦しくて、叫びだしそうな、そんな気分なんだ。

 

「構わない。」

 

私の状態を察してか、清隆はすんなりと了承してくれた。

 

「ありがとう…」

 

そう告げると、清隆は私の顎に供えていた手を離してそのまま上にあげ、私の頭の上にぽんっと手を乗せた。そしてそのまま私の頭を優しく撫でてくれる。

 

清隆の撫で方は何処か気持ちよく、思わず頬を緩めてしまった。

 

「…なぁ、優愛」

 

「なに?」

 

清隆の目を見つめて、私は微笑む。

 

「無理するなよ」

 

まさかそんな言葉を私なんかにかけてくれるとは思わなかった。

 

…心配、してくれてたのかな?

 

「無事でよかった」

 

そして清隆が私の体を抱き寄せ、気づいたら私は清隆の胸の中にいた。

 

ぎゅっと、腕に力をこめられる。

 

私はーー出来るだけ、清隆の気持ちに答えたい。最後まで、絶対に清隆の側にいて、私は彼を守るんだ。

 

…そう改めて誓いながら私は今出来る精一杯の気持ちをこめてお礼を言った。

 

「ありがとう」

 

すると、彼は腕を解いて私の目をじっくりと見つめた。

 

「…そう言えば、だが。今日、あの先輩が話してた事なんだが…」

 

ああ、そう言えば清隆に言ってなかった。事情を知らせないで無理やりあの人の足止めをしてくれたんだったよね。

清隆が多分、今一番気にかかっている事はその事なはずだ。

 

「あぁ、学校のSシステムについてだよ」

 

まあ、実のところ私もその事はまだ気になってるんだけどね。

 

「あの人の話で色々分かったな。」

 

「うん。…清隆はこれからどうするの?あの…藤沢先輩の話が本当ならこの先荒れるよ?」

 

これからの事を聞きたい、清隆はこれからどうするんだろう。そんな思いを言葉にする。…でもまぁ、清隆の事だ。大体の返答の予想はできるけど。

 

「…俺は別になにもしない。目立ちたくないからな。それに、平穏な日々が…世間で言う高校生活ってやつを送れたらそれで良い」

 

無表情で、当然のごとく清隆は言う。

 

まぁ、本来の目的は清隆の言う通りそれだからね。どんなイレギュラーな事が起こっても私達には特に何ら問題もない。

 

だから…当然と言えば当然か。

 

清隆の返答を予想していた私は笑顔を作る。

 

「そうだね。まあぶっちゃけ、私達にはAクラスに上がる理由も無いしね。Aクラスで卒業すれば得られる特権も私達には意味のない事だし」

 

「あぁ。…だがその代わり、俺は普通の生活を満喫したい。」

 

「うん!清隆がそう言うなら私もそうしようかな。それに、高校生活って結構興味が沸くから凄く楽しみ。」

 

そう言い、気持ちを踊らせていると清隆の声が耳に響く。

 

「…なぁ、よかったらだが今度どっか行かないか?色々行きたい所もあるし、それに初めて体験することは優愛と一緒に体験したいしな。」

 

嬉しいこと言うな。

 

「勿論言いよ!私でよければどんなところでもお供するよ」

 

「ありがとな」

 

「うん!!あ、でも私はまだ清隆がDクラスに振り分けられたって事が納得いかないけどね」

 

清隆は凄いのに、Dクラスって不良品の集まる場所って言われてるんだよね。納得がいかない。

 

「テストだって本気でやってないし、手を抜いてわざと間違えたからな。当然な結果だ。…それよりも俺は、お前の方がどうしてDクラスなのかが疑問に思うな。」

 

そんなの決まってるよ。

 

「それは私が不良品だからに決まってるじゃん」

 

「そんな事はあり得ないと思うけどな」

 

…清隆は優しいな。でも、どんな理由であれ私が不良品であることには変わりはない。自覚だってしているのだから。

 

「ほら、多重人格の事だってあるしさ」

 

「…まぁ、そう言うことにしておく。」

 

「本当、なんだけどな~」

 

こうして、私は色々離しながら清隆の部屋で一夜を明かすのであった。


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