T.S.けーね (ロリ) は彼なのか?   作:ただし忠誠心は鼻から出る

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修正されるべきバグ

 宵と旅を始めて早十五年。総合的に見れば悪くない旅だと思うが一つ気に食わないことが一点ある。人間の死を間近で見続けなけりゃならないこと? 生憎それで気分が悪くなるほど人間らしくない。これはこれで結構悲しい事なんだけど。

 

 でもそうじゃない。俺が気に食わないのは宵である。

「お前はどうしてそんなに背が高くなってしまったんだ。私は悲しいぞ」

 

 ルーミアってチビっこいから可愛いんじゃないの? あんな見た目だから馬鹿っぽいんじゃなかったの?

 それがどうしてこんなに高身長になってしまったんだ。

 

 悲しい。俺は悲しいぞ。初対面時には俺より小さいのにしばらくすると追い抜かれる。これから何度こんな経験をしなければならないのだろうか。

 それにこの子ちょっと嫌味なんだよな。

 

「私からすれば慧音が小さいままな方が気になるけど。私よりも二十も年上には見えないよ?」

 

 ほらね。

 こいつには成長期などないだろうと思っていたころの自分を殴り飛ばしたい。

 

 当初は本当にないと思っていたんだ。特に宵は人々の畏れから自然発生した妖怪だろう。親がいるわけではなく、人間から変化したわけでもない。

 本当に純粋な妖怪。下手すれば即座に消えてもおかしくはないほど儚いはずの存在。実際にそんな妖怪もいくつも見てきた。

 

 

 ちょっとした人間の心の動きで生まれ、力を得る間もなく即座に消えてゆく。

 宵がそうならなかったのは宵闇を司る妖怪だからだろう。闇への恐怖は原始の恐怖。誰しもが持っているがゆえにその恐れが弱まることも無い。そして人間は増え続ける。

 宵が妖怪としてここまで成長できたのはその畏れの肥大があったからなのかもしれない。闇を恐れる人間が増えれば増えるほど力を増す、という点ではもはや俺に勝ち目はないだろう。妖怪として強くなりたいわけではないから良いんだけど。

 

 とまあ俺の考えとしては畏れによってこいつが成長したんじゃないか、と。

 俺と宵じゃ食べてる物も全然違うから一概には言えないが、そう考えれば合点がいくことも多い。まあいずれ出てくるであろう萃香なんかの説明はつかなくなるんだけど。

 

 

 とりあえず宵が成長したのは恐怖が大きいためだろうということで納得させることにした。そうすれば俺が小さいままな理由も勝手に納得してくれるだろうからな。まったく、歴史を恐れる人間が何処にいるというんだ。

 

 

 

 そんなことより、だ

「こら宵、さっきから何を引っ張っているんだ?」

「んー? いつも慧音が食べている山菜よ。どんな味がするんだろうと思って」

 

 え……マジっすか宵さんや。今貴方が引っ張っているようなゲテモノを食った記憶は何処にもございませんが。

 それは明らかに山菜じゃあないよな。関節みたいな物が見えてるんだけど。先端に鉤爪のような物まで見えてるし……やべぇ妖怪だろありゃ。

 

「それにしてもなかなか抜けないわー。慧音はいつもこんな思いをしてまで採ってるの?」

 だから採ってねえよ。いやそれよりも拙いって。

 

 

「お、おい……早くそれから手を放せ。早くしないと…………」

「んんんんんん…………ん? ほう、どこかこそばゆいと思えば柔らかそうな子供が二人とな? 久々の贄か。かかっ、まったく無駄な事をするものよ」

 

 頭に直接響くかのような轟き。姿は見えないのに?

 違う。ここは山でも丘でもなかった。草木の一本も生えていない火山かと思っていた。

 だが違う。宵が引っ張っていたモノはこのバケモノの足のほんの一部。俺たちが歩いていた場所はこのバケモノの身体の上でしかなかったのだ。

 

 黒く光った岩肌ではなく少し苔が生えた鱗。山菜ではなく足の先端。

 気づかなかった。否、気づけなかった。

 あまりにも巨大で強大な妖。龍とも見紛うほど神聖にも思える。

 

「はぁあ? 私たちは別に生贄にされたわけでも何でもないんだけど。それに私はもう十五年も生きているんだから子供じゃあないわ。そもそもあんた誰なのよ」

 

 もはや口の中が渇いて声も出せない。そんな俺を尻目に相手を煽る宵。勇敢なのか命知らずなのか、はたまた相手が何者かを測れないでいるのか。どうにも三つ目のような気がするな。

 俺もそうだが、それ以上に宵はまだまだ経験値が足りていない。格上と言う物を相手にしたことが無いからだろう。

 

 襲う対象は人間か大型の動物程度。人間にとっては脅威でも妖怪の力を以てすれば熊くらいなら問題なく狩れる。

 だから宵は慢心してしまっているのかもしれない。敗北を知らないから、いつも自分より下にいる物ばかりを狩るからこそ自分の力を正確に把握できない。

 それに関しては俺だってできている気はしない。それでも相手と自分の戦闘力の差くらいは嫌でも分かる。しかし宵にはそれが無いのだ。

 

 

 好奇心で無謀な事をする赤子同然の行動。命知らずにもほどがある、と大人は言うだろう。

 だがそれを赤子が理解できるだろうか? 痛みを知らずして成長はない。だが死んだら意味がない。ここは俺が宵を止めなければならないのに……なのに声が出せない。

 

 

「くっかかかか。儂が誰かと問うか。そこな娘よ、その勇に免じて答えだけは与えてやろうぞ。儂は人間からは百足と呼ばれておる。もっとも儂の足は百程度ではないがな」

 

 恐らくこの百足は山に乗っているだけなんだろう。こいつが山自体であるような気はしない。蛇のように蜷局を巻けるわけでもないだろうしな。

 だがそれを考慮しても恐ろしい大きさだ。上を見ても下を見ても山肌などというものは全く見える気配もない。ただただ真っ黒な躰が見えるのみ。今思えばどうして気づかず登ってしまったのだろうか。談笑しながら歩いていたからか? 不思議だ。

 

 考え込んでいる俺を無視して百足は話し続ける。どうやらすぐに喰われるわけではないらしい。どうにかして逃げる手を考えねばならない。

 

「それにな、娘よ……十五など儂からすれば数えるうちにも入らぬわ。人間ならば大人と呼ばれる齢やもしれぬがな。儂を恐れず逃げ出さぬその心意気だけは素晴らしい。どうせ消える命。最後までその炎を消さずに抗ってみよ」

 

 大百足。古来から数多くの伝承が残る生粋の大妖怪だ。勝てるわけがない。

 

 声だけで地震が起きたかのように地が揺れる。無数にあるように見える脚の一本でさえ七尺を超えようという大きさ。

 生きた年月は数千、あるいは数万にも届くかもしれない。

 

「お前と他の蟲たちとはどういった関係なの?」

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「儂を有象無象の蟲と同じように見ること自体が間違っておるわ。今この地のあらゆる場所にいる蟲の王こそが儂だ。人間でいうところの帝か? 儂が一声かければ国を一つ潰すなど容易いわな。鬼や天狗などは相手にもなりゃせぬだろう」

 

 この時代、最も恐れられている種族こそが妖蟲である。恐ろしきはその数とその種類。

 人間を死に至らしめるに足る毒性を持つ蟲。

 病気を運んでくる虫。

 作物を食い荒らす虫。

 人や家畜に寄生する蟲

 

 天狗のように機知に富むわけでもなければ、鬼のように力を持つわけでもない。

 だがありとあらゆる方法で人を苦しめることのできる種族。それこそが妖蟲なのだ。

 

 人間が蟲を恐れるのも無理はない。いくら安全な場所にいても、いくら頑強な結界を張っていても、蟲はどこからともなく入ってくる。どれほど武に優れた者であっても小さい虫の気配を探るなどできようはずもない。

 常に人間の生活空間の内側にいる事によって国一つ潰すことも容易なのだ。

 

 人からの畏れの恩恵により妖蟲はさらに力を増す。この時代の日本において最も強力な妖怪種族はこの蟲であり、その中において王に君臨するのがこの大百足なのだ。

 

 

 

 人間が月に行った後、その文明を消すために投下された爆薬。その威力は超大型隕石にも匹敵すると言われ、その時代に繁栄していた恐竜、蟲も殆んどが姿を消した。

 そしてしばらく経った後に生まれたのがこの百足だったのだ。まだ人間も穴を掘って生活していた時代、噛みつくことで多くの人命を奪った百足は自然と恐れられるようになっていった。

 

 次第に躰も大きくなり、地上ではもはや敵なしとなった百足を人々は崇めるようにさえなった。敵わないのならばせめて神として崇め、鎮めようとするのは当然の動きであった。

 人々は多くの足を持つ様を見て百足と名付けた*1。神として祀られた百足はさらに力を増し、国盗りから土地を守ることもあった。尤もこれは自らの土地を侵されないためだとされており、国のため、延いては人間のために行ったことではないとされている。

 

 いつからか国盗りは無くなり、神ではなく人間が地上を支配するようになった。そうなればもはや百足が地上にいる意味はなく、地下に穴を掘って眠りに就いてしまった。

 

 

 千年も経てば人伝の神話は風化する。もはや百足を神と祀っていたことを知る人間はいなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 蟲の長。天狗で言う天魔、鬼で言う四天王のような存在。しかもその力は鬼や天狗の比ではないという。勝てないならばどうにかして逃げる手段を、と考えても良さげな方法が思い浮かばない。

 

 飛んで逃げようにもこいつが躰を伸ばす方が速いだろう。走ってもこいつの上を移動しているだけの事。宵の能力で視界を奪っても気配で感知されそうな気さえする。

 逃げ場がない。ここから死を回避する方法は、無い。せめて時間を稼ぐために喋らせ続けるのが精一杯か。それも宵が上手く会話を繋いでくれなければお終いだ。今の声が出せない俺には何もできることが無い。

 不甲斐ないし申し訳ない。圧倒的な力を前にして何もできなくなるとはな。

 

 

 俺の今世もここで終わるのか? 来世があるならそこで復讐をすればいい?

 

 違うだろ。

 俺は上白沢慧音。連れはルーミア。どちらが欠けても世界の崩壊は免れない。既に俺は妹紅の件で大失敗しているのだ。これ以上の崩壊は避けたい。

 だがどうやってだ? もう残されている手は存在しない。詰み、だ。諦めたくないのに諦めが先行する。もっと前向きに、そう前向きに考えれば少しは辛さが薄れるだろうか。

 

 

 俺がいなくなって本物の上白沢慧音が後に生まれれれば万事解決かもしれない。

 宵がいなくなって小さくて弱いルーミアが生まれれば世界の歪みは修正されるかもしれない。

 

 だが俺自身には何もできない。

 この世界に数多の影響を与えてきた。しかし世界に対して俺はあまりにも無力だったのだ。

 

 

 

 そうか。俺は、俺たちは世界に消されるべきバグだったんだ。それが皮肉にも(bug)に消される事になるとはね。人生分からないもんだよ。

 

 足元が崩れ、深淵が如き口の方に落下しながらそう思った。

 

 

 死は怖い。でも偽物が本物に成り代わるなんてことは本当は起こってはいけないことなんだ。修正されるべき歴史の汚点だ。

*1
当時の人々が今の彼を見れば恐らく八百足(ムカデ)となっていただろう。もはや足の数は数えきれないほどである。




 滋賀、三上山の伝説として残る大百足がモデルです。体長は三上山を七巻半するほどだとされています。その他設定は捏造ですので悪しからず


 それとちゃっかり登場EXルーミア。こういう二次創作の定番を書いてみたかった
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