T.S.けーね (ロリ) は彼なのか? 作:ただし忠誠心は鼻から出る
ただでさえこの情勢で収入は減ってるでしょうにそれをさらに減らすのがファンだという皮肉
一度故郷に帰ってみよう。
俺がそう思うのも当然の成り行きだっただろう。元々宵と出会うまではそのつもりだったのだ。それが精々二十年弱遅くなっただけ。
人の持つ二十年の価値と妖怪の持つ二十年の価値は全く釣り合わない。俺の場合、時間の価値は妖怪の方に寄っているから
今いるのが
ここのように立派な神社も無い小さな村落が俺の生まれ故郷だ。父上や母上は元気にやっているだろうか。危険な妖怪が入り込めばすぐにでも無くなってしまうそうな、吹けば飛ぶような村。だから宵は連れて行けなかった。
あそこから捨てられたと分かってはいる。でもそれは仕方のない事だったという事も分かっているのだ。
不可抗力による半妖化。それでも人間の敵として存在する妖怪であることには変わりない。幼いうちに捨てるのは彼らにとって当然だと思う。それが最善であるかどうかはともかく。
下手に恨みを買えばむしろ危険になる。有名なところで言えば酒吞童子がそうだろうか。伊吹萃香がどうなのかは知らないけど。
最善なのはもちろん幼いうちに殺してしまう事。捨てても最終的には人間の敵になってしまう妖がほとんどだ。それならば早めに芽を摘んでおくのが一番の選択肢。
俺を殺さなかったのは人間時代の俺をよく知っていたから故の情けだろうか。それとも父母の必死の訴えがあったのだろうか。
追い出された時はまともに生きられるか分からない程未熟だった。力の使い方も、空の飛び方も、食べられる野草も動物の捌き方も何もかも知らなかった。
だが今は違う。あの頃は播磨から大倭に向かうのでさえ数日もかけたが、今では近江から生まれの村に向かうのでさえ二日もかけりゃ十分だった。昼も飛ぶなら一日で着いただろうがそれはあまりにもリスキーだ。
自分の安全を考慮したうえで邑美まで来られたのは良かったのだが少々認識が甘かった。俺は間違いなく邑美で産まれた。だが邑美のどのあたりの村なのかが全く分からないのだ。
大倭のように広くないから都を探すよりもはるかに簡単だと高を括っていたのが裏目に出た。前情報も全く手に入れていない状況で場所を特定できるほど住んでいた村は有名ではなかった。
ちょっと考えりゃあ当たり前の事なのだろうが、帰郷を決めた時の俺はそのことに舞い上がりすぎていたらしい。
こうなりゃ自棄だ。北から順に総当たり方式で覗いて行くより他あるまい。見覚えのある人でもいれば一番なのだが、三十年もすれば村の構成員は結構変わっているかもしれない。
若者は都の方に流れているかもしれないしな。んで年寄りはもう死んでるだろうし。不味いなあ。僅かに記憶に残っているだけの風景を探さないと終わらないかもしれん。
五歳までの俺の記憶に頼るなんざ心配でしかない。当然帰巣本能なんてものも働かないし見つかるまで数か月かかってもおかしくない。
足元が少々ふらついたがこんなところで立ち止まっている暇があるならばさっさと行動した方が良い……ってのは分かってるんだがなぁ。軽く絶望して動く気になれない。夜から動こう。うんそうしようそれがいい。
寝よ。
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お告げなどというものは無く、夢の中で都合よく探している村の場所を教えてくれる人なんていない。目が覚めれば村探し。見つけたら少々の調査と落胆と再出発。疲れたら睡眠。起きたらまた村探し。
そんな単調な日を送り五日目。ついに彼女は故郷の村を見つけることができた。周囲の景色に見覚えがあったわけではない。村人を確認したわけでもない。それでも彼女は此処こそが生まれ故郷の村であると確信していた。
彼女が五年を過ごした家。更に向かいの家と田畑。三十年前と変わらぬものがそこにはあった。一目見て気づいたのならばわざわざこっそり潜入して調査するまでもない。そう判断した慧音は門から堂々と村に入ることを決めたようだ。
しかし彼女は両親が村八分にされた事実を知らない。
『お前は誰だ?』
自分が妖怪であることをも忘れ、久々に見る門番に心躍っていた彼女はしかし、門番が発した言葉をすぐには理解できなかった。
「? 慧音だけど……忘れたの? おじさん。よく話をしてくれたじゃない」
「慧音などという子供は知らん。疾く出て行け、そこな妖よ。
慧音を知らないと言いながらも妖であると断言した門番。彼は間違いなく彼女を覚えているのだった。衝撃的な事件から一人を捨て、二人を村八分に処した。
あの頃はまだ若かった門番の男も今では壮年の頃に達している。男からすれば人生の半分よりも前の事件。それでも忘れられぬ程に衝撃的な事件だったということだ。
あの時よりもはるかに歳をとった彼が、あの頃と何一つ変わらない彼女を目の前にして槍を向ける。彼が何を思って槍を向けるか。或いは彼自身にさえ分かっていないのかもしれない。
ただあるのは妖を村に入れまいとする強い意志の籠った目。真に門番であろうとする彼に油断は全くない。
知っている者を前にして、目の前の少女が昔からずば抜けて賢かった事をも知っていて、それでも尚向けた槍を下げることは無い。
彼には幾度となく妖と戦ってきた経験があり、妖と人が相容れるはずはないと知っているから。慧音はあくまでも妖。元人間の妖怪が人を騙して油断させ、村を、里を潰す。そんな話は何処にでも転がっている。だから油断はしない。
だが彼も鬼ではない。慧音は知らないことだが、あの白澤以来、彼が村にやって来た妖怪を生きて帰したことは無い。妖が村に来ることはすなわち村人を喰らうという事に他ならない。だからこそ門前まで来れば問答無用で殺し合う。
今のように待つなど一度もしたことは無かったのだ。それは相手が子供だからではなく慧音だから。信じられぬ妖怪が山ほどいる中でまだ信じてみたいと思ったから。
慧音がやって来た時に彼に走った動揺を彼自身ですら自覚できていない。或いは気づかぬふりをしたか。どちらにせよ彼に僅かでも動揺があったことは否定しようもない事実としてそこにあるのだ。しかしそれよりも警戒を前面に押し出した彼が、一つの村の門番にしておくにはもったいないほどの人物であることは疑いようもない。
「父上と母上はどこにいるの? 残っていた家に住んでいるの?」
「お前のおっとう、おっかあなんて端からいやしない。平太のところの向かいはずっと空き家さ。さあ四つ……五つ……」
「じゃあ…………じゃあどうしてあの時に殺さなかったんだよ! 来る報復を恐れるくらいならあの時に俺を殺せばよかっただろ! ふざけんじゃねえよ! てめえが妖怪を通したからこうなったんだろうがよ!」
家、田畑、門番まで記憶と一致した彼女にとって、門番が自分の事を知らないと言い張ることには非常に違和感があった。昔あれほど交流があったのにきれいさっぱり忘れている、と言うのはそれこそ天蓋の阿呆か記憶喪失か、あるいはそうさせられているかだ。
しかし慧音は前二つではないと気づいてしまった。どうか自分の事が記憶から抹消されただけであってほしい、慧音の望み虚しく、門番が自分の事をしっかり記憶していることを分かってしまった。
はじめから明らかな違和感があった。どう見ても人間の子供でしかない慧音を見て瞬時に妖だと言い張ったことから。
極めつけは『残っていた家』がどの家かをきちんと把握していたことだ。慧音よりも二つほど年上の平太の家。その向かいにある家こそ慧音たち家族が住んでいた家なのだった。
慧音はここでようやく事態に気づいた。両親は殺されたか村八分としていないように扱われているか、だ。
妖怪化した自分を殺さずに捨てるだけ捨て、悪くないのにその家族を亡き者のように扱う。耐えられなかった。吐き気すら催す気分の悪さに、呆れるほど恐ろしい人間の心の闇に。
自身の立っている現状を正確に理解した慧音は『腐ってんな』と一言吐き捨てるとすぐさま森の方に消えた。
途中から数を数えるのも忘れ、あまりにも激しい慧音の剣幕に仰天していた門番の男はしばらく口を閉じる事さえできずにいた。
それは偏に、慧音に人間に非ざる影を見たからだ。
妖怪は本能に忠実であり、背徳感に苛まれるようなことは決してしない。村八分が敷かれ、『本当にこれで良かったのか?』と思うのが人間。そう思うならば元々そんなことをしないのが妖怪。
人間は迷いながらも非道な事を平気でする。していることは妖怪と変わらない、とさえ思われる事でも村人全員が共通認識として行う。妖怪の行動原理は単純だ。それ故か妖怪の主張は時に正しい。
人間を傷つけることが好きでない慧音にとって村という狭いコミュニティの中での極刑や村八分はどうしても許せないことだった。しかも犠牲になったのは当事者ではなく、門を護れなかった門番でもなく、ただ両親であるというだけの二人。
連帯責任と言うにしてもあまりにもお粗末。不可抗力に対して連帯責任とは笑わせる。慧音はそう思ったのだった。
実際には村という狭いコミュニティだからこそ危険はすぐに排除せねばならないのだ。妖に染まった子を殺して親はお咎めなし、なんてことにしても後味が悪い。
連帯責任とは身内が異分子になった時に、周囲が自責の念に押しつぶされないようにするための、怨みが残りにくいようにするための制度だ。コミュニティから離れようとする者がいるくらいならば強制的にコミュニティから外してしまう。極端な制度なのだ。
平太君は一話に出てきた子の名前ですがこの先は二度と出てきませんよ
本分では妖怪、人間と二分して書きましたが例外は当然います。天狗や河童などの社会を築いている種族がそうですね。ちなみに連帯責任云々は個人的に思ったことを書いただけです。実際はどうだったんでしょうか