T.S.けーね (ロリ) は彼なのか?   作:ただし忠誠心は鼻から出る

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後半にちょいグロテスクな描写があります。かなり軽いですが、苦手な方は視点変更が入る前までで読むのを止めるといいかもしれません

ちなみに忘却ではなく亡却なのはわざとです


亡却の彼方へ

 思わず怒鳴ってしまった。村の現状を知ってしまってどうしても許せなかった。

 俺だけを捨てて平和に暮らしていたのならばきっと何も言わなかっただろう。でも彼らは両親をも同時に切り捨てた。

 

 俺には分からない。理解できない。俺の両親が何をしたと言うのだ。村に不利益になるような事など一度もしなかったはずなのに、奴らは俺の家族であるというだけで村社会から追放した。

 なのにあの時村を護れなかった門番はお咎めなしどころではなく、弱者を虐める側に平然と立っている。

 

 人とはこういう生き物だ。自分に火の粉が降りかかりさえしなければ最悪他者がどうなっても構わない。そのくらいに残酷だ。村でも里でも都でも、人はみんなして人間は善で妖怪は悪だと教え込む。その実心の内は妖怪と見紛うほど醜い。

 自分の身を護るためならば隣で人が殺されかけていても見殺しにできる。結束は強そうだが仲間意識は低く、保身のためなら身内でも切り捨てられる。人と妖に善悪など付けられない。どちらでもあり、どちらも見てきたからこそ分かる。

 

 仲間を大切にする、という点においては妖怪の方がよほど優れている。でも残念ながら人は生まれた地を離れて暮らすことが少ない。離れても精々都に向かうだけ。

 人が一生のうちに築くことができる人間関係と言うのは思いのほか狭い。同じような人が常に周囲にいれば、気づかぬうちに感化されてしまう。大衆心理によって誤った考え方を強く肯定するようになることもある。

 

 

 

 村からの追放と言うのは当然誰でもされたくないことだ。でも過半数がそれに賛成すればその最悪の刑が現実になってしまう。

 自分が執行される側でさえなければどうだっていい、と言うのが大多数の本音だろう。両親の場合だって本来はもっと軽い刑で済んだはず。それどころか刑に値するとも思えない。

 きっと半数は自分の家族の事でないからと賛成したんだろう。さらに半数は妖怪の子がいる家と関わりたくなかったから、かな。

 

 その子は捨てたくせにね。本当に勝手な奴らだよ。こんな村社会腐ってると思ったから思わず吐き捨ててしまった。

 でも実は腐っているのは村の決まり事ではなくそれを盛り込むことを是とした人間の方なのだと思う。

 

 悲しい事に俺もそんな人間のうちの一人。俺は人間が好きだが無条件に愛するわけではなく、粛清されるべき人間を護る気はない。

 今回は俺の私情だけど……この村は俺にとってはもはや愛する対象ではなくなった。故郷なんて言ったってそもそも二度目の人生。あってないようなものだろう。

 

 

 

 と割り切れたらどんなに楽だったことだろうか。たかが五年。それでも俺を愛してくれたはずの両親を置いて、こんな場所とは無関係だと切り捨てることなど俺にはできない。

 泣きたくても、泣けない。ひどく悔しいのに、同じくらい腹が立っているのに。こんなに冷静でいられる自分が今だけは憎い。

 

 あと一つ、確かめたい事が済んだらここを発とう。きっとその後はもう二度と戻っては来ないだろう。

 

 

 

 

 

 少なくとも昼間は森から出られない。きっと今度こそ一突きにされてしまうから。

 夜になるまでは少し、考え事でもしていようか。今となってはもはやどうにもならない仮定。或いは平和に暮らせたかもしれない両親の事。

 

 

 あの満月の夜、白澤が村に入ってきた時点で俺のところに来るのは運命によって定められていたと言える。俺が自分を上白沢慧音だと信じていなかったがゆえに避けられなかった村の中での半妖化。もしあそこで俺が村から抜け出せていたらどうだっただろうか。

 父上や母上は俺を追いかけてきただろうか。それとも自身の危険を理解して追うのを諦めただろうか。

 

 あるいは、あの晩が満月でさえなければ俺は未だに村で暮らせていたかもしれない。てゐ曰く、俺はあの日から既に半妖として完成してしまっていた。

 だが満月ではなく、俺がただの人間の姿だったとしたらきっと捨て子とはならなかった。むしろ妖怪に襲われた子として手厚く保護されたはずだ。

 

 

 妖怪が跋扈するこの世界で、第二の人生を必死に歩むのだろうとただ只管に信じていたあの頃。半信半疑どころか疑いの方が大きかった自分の名前についても強く思う事は無かったあの頃。

 もう変えられない過去がまだ未来だった頃に全てを悟っていれば、気付けたならば結末はまた違っただろうと思う。

 

 でもあの頃は、あくまでも可能性として語る事はできても俺が上白沢慧音であることに確信を持つことはできなかった。

 だってそうだろう。全国に何人いるとも分からない名前で名字も無い。しかもここが東方の世界線であることすら怪しかったのだ。極限まで0に近い確率を引き当てるなど当時はなかなか考えられなかった。そういう意味では半妖化は避けられなかった事だったのだろう。

 

 

 未来を知っていてもプラスに変えられるとは限らないし。妹紅の時が殊更にひどかった。俺のおかげで妹紅は死ねる。だが俺のせいで妹紅は原作から排除されてしまった。

 どちらの方が彼女にとって幸せなのかは分からない。どちらの方が彼女にとって辛いのかも俺にはよくわからない。死んだのに死んでいない。でも死ぬ事はできる。そんな俺には。

 

 結局知っていれば未来を変えられるなんてただの幻想にすぎないのだとこの三十年で嫌と言うほど実感した。むしろ知っていたからこそ失敗したことも多かった。

 誤って失くしてしまった命を、その罪を背負って生きていかなければならない。少なくともこれから千年以上は。辛ぇわ。ホント。

 

 

 

 

 

 森の静寂を切り裂くような甲高い悲鳴で目が覚めた。どうやら考え事をしている間に眠ってしまっていたようだ。一応妖怪の活動時間は夜だからね。仕方ないね。

 

 それにしても悲鳴か。この近辺にはあの村しかなかったはずだから十中八九あそこの村民だろうな。既に黄昏時とはいえまだ明るい。

 何があったのだろうか。ちょっと見に行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 興味本位でフラフラと門の見えるところまで出てきた慧音。そこで彼女が目にした光景は何とも筆舌に尽くしがたい物であった。

 昼間に門を護っていた青年は鋭利な刀で斬られたかの如く首が飛んでおり、夜番としてその青年と交代になるはずの男たちも二人、同じように身体から血を噴き出して絶命していた。

 

 この村では過去に妖怪に侵入された教訓から、夜は二人で門を護るようになっている。交代する時間は昼と夜の境目である黄昏時と、夜と朝の境目である彼は誰時の二回。この時だけ門前に村の守護者である三人が集うのだ。

 

 つまり今回は的確にこの時間を狙った者の犯行であり、しかも村の守護者としてかなりの力を持っているはずの人間を三人も瞬殺できる程の実力者であることがわかる。しかも悲鳴を上げた女性は犯人を見てすらいないというのだ。

 三人が門で話しているところを見ていたら急に首が飛んだと言う。何もせずに門の方を眺めていた女も大層不審ではあるが、この女は正真正銘この村で産まれた人間であり、大の男三人を瞬時に殺害することは不可能と判断された。

 

 それよりも気になるのが急に首が飛んだ、という部分である。誰にも視認されずに一瞬でそれだけの力を出せるのは彼らの知る限りでは天狗くらいである。

 風よりも速く飛び、鋳物に関しては人間の造る名刀でさえも比較にならない程の妖刀を造るという。村民たちにとって犯人として考えられるのはもはやこの天狗くらいであった。

 

 

 しかし直後にそれでは説明しようもない事が起こる。女がまた急に悲鳴を上げたのだ。抑えているのは右腕。

 話を聞いていた男衆がどうした、と聞くまでもなく、そのうちの一人の頭に何かが当たった。落ちてきたのは右腕。悲鳴を上げた女の物であった。

 

 着物の袖を斬ることなく、腕だけを切断して次の瞬間には全く別の人の上に落とす。

 

 村民たちはここに来て得体の知れない恐怖に支配された。まったくもって予測不可能な攻撃とその凶悪性。

 遂に耐えられなくなった男が発狂して逃げ出したが、五間*1ほど走ったところで今度は上半身と下半身が切り離された。

 

 訳も分からぬまま、死ぬまでの数瞬で驚愕の表情だけが作られた。ほどなく絶命し、血をばらまいて内臓を飛び出させた死体に阿鼻叫喚となる門前。

 咄嗟に家の中に押し寄せようとした村民たちも玄関で立ち止まる。部屋は鮮血で染められ、その家の主人と妻子全員の顔面が半分無くなって落ち窪んだ眼窩からは眼球だけが全て綺麗に刳り貫かれていたからだ。

 

 

 まさに絶句といった様子で悲鳴すら上げられない程の恐怖に支配された村民たちはようやく気付いた。自分たちが既に化け物の胃の中にいるという事に。

 力を持っていても、大勢で固まっていても、走って逃げても、建物に隠れていても、死は等しく無差別に彼らに忍び寄る。

 

 

 

 逃げようもない村民たちはどうにかして自分だけが助かろうとする。こうなったのは誰かのせいだと責任を押し付けて自分一人を安心させようとする。

 標的になったのは当然村長だ。

 

『きっとあの時村八分にした彼らの祟りだ。決定したお前が悪いのだ』と。

 決定に賛成したのは誰なのか、そんなことは彼らの心の中には無い。村長が悪いのだから村長一人が贄になればいいだろう、と。醜きかな。しかしこれが人間である。

 

 村長もあまりに理不尽な発言を諫めようとするが、そこで辺りを見渡した彼は更なる事態の悪化を目の当たりにした。

 死体が、消えている。村民たちが何かに一点集中した時を狙ってか、死体が消されていたのだ。門前の三人はもちろん、無惨に上下がバラバラになった男と顔面が切り取られた男もきれいさっぱりいなくなっている。それだけではなく生きていたはずの女もいつの間にか消えているのだ。

 

 ただ地面にしみ込んだ血と飛び出した臓器の一部、そしてかつて女の物であった右腕だけがただ遺されていた。

 しかし村民たちは気づけない。怒りと恐怖で周囲が見えていないからだ。

 

 得体の知れない物への恐怖と自身が治めてきた人民への恐怖。村長ももはや冷静ではいられなくなっていた。

 

 

 

 まるで他人事のようにこの騒動に乗じて村に侵入した幼い娘が一人。ある場所へと一目散に駆けて行った彼女に気付いた者は一人としていない。

*1
大凡9m




こういう時に冷静に民衆を落ち着けて対応できる長なんて普通はいないんじゃないかと思うわけですよ。集団の中で一番偉いと言っても所詮は人間なわけですから

責任転嫁は人間の特権ですよね。文明と同じだからむしろ誇ってもいい。
こうやって人間のダークな部分ばかり書いているから誤解されているかもしれませんが、私は別に人間が嫌いなわけではありません。真に己の責任なのに責任転嫁するような人間は嫌いですけどね
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