T.S.けーね (ロリ) は彼なのか?   作:ただし忠誠心は鼻から出る

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今回はちょっと毛色が違いますし長めです。読みにくい可能性ありです


滅忘の足音

 宵のせいで散々動かぬ肉塊には慣れたと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。グロテスクに耐性はあるけどあそこまで酷いのは見たことなかったから限度があるのを知らなかっただけだった。

 井の中の蛙大海を知らずってか。宵は闇の中で喰ってくれていたからまだ良かったんだけど、あれだけオープンに大量虐殺を見ると、ねぇ。なかなかきついんだなと改めて理解できたわ。

 

 

 それにしても不思議なもんだ。あれだけ気分が悪かったというのに体は向かうべき場所に一直線に向かっている。

 俺は、俺だけはあの理不尽な攻撃を受ける予兆も全くない。まああの攻撃は無差別かつ距離に関係なしだから予兆なんてそもそもないようなものなんだが。

 

 いや~、本当に気分悪くなってきた。ここまで大量の人間が死ぬところなんて一度も見たことが無かったからなめていた。やはり俺の本質は人間か。

『ようやく帰って来たか、慧音。長らく待っていたよ』

 

 声のした方を思わず振り返る。気づかぬうちにたどり着いていた場所。聞き覚えのある声。

「父……上…………? 生きていたのですか?」

 分かっているけど、聞く。だって少しでも希望を持ちたいじゃないか。絶望を想定しながら希望を持つ。我ながら何とも矛盾した思考だよ。

 

 

『……いや。私はもう死んでいる。でも今日、本当の意味で死ぬことができそうだよ』

 

 

 分かっていた。あの頃と何一つ変わらない見た目。少々希薄になった存在感。精神を震わせるような声。その全てが生者のものではない事には気づいていた。

 それから父上は少しばかり昔話をしてくれた。

 

 

『あの日、お前はあの化け物の的となった。それはお前も自覚しているところであろう。当たり前だが村に妖を置いておくわけにもいかん。お前はその晩のうちに遠くへ捨てられたと聞いたよ。私たち二人、私とお前の母の処分が決まったのは翌日だった』

 

 

 父上はそう言って寂しそうに笑う。思い出させることすらやめさせてあげたい。

 でも俺は全てを聞く必要があるような気がした。そうしないと父上が報われない気がした。

 

 

『あの時ほど人が妖に見えた時は無かった。隣近所、どこの奴らも私たちを真っ当に生かす気はなかったようだった。村八分。ある意味で死よりも辛く、惨い罰だ。この村から私たちの存在は消えたようなものだったよ』

 

 

 存在を葬られ、他人と関わる事すら拒絶される刑罰。たかが娘一人が妖怪化したというだけではあまりにも重すぎる。

 村長の決定が、村民全体の決定があまりにも理解不能だった。

 

 

『先にくたばったのは私の方だった。(あいつ)とは一つ決めていたことがあってな。先に死んだ方が亡霊となって慧音(お前)を待つというものだ。亡霊になるには死体が必要だ。だから後を追う方がそれを隠す手筈だったのさ。村八分ってのは勝手なものだ。普段は何もしてくれないのに、死んだ時だけはそれを片付けに来やがる。あいつはそのせいで亡霊となれなかったんだよ』

 

 

 だから母上はここにはいないのか。先に死んだ方が亡霊となり俺を待つ。俺がここに帰ってくる保証も無いのによ。勝手に待って、たまたま俺が帰って来た。だからこそ父上は報われた。でもこんなのは偶然中の偶然。俺が帰ろうと思うかどうかなんてあの時の俺にさえ分からなかった。

 

 

『亡霊には自分が死んだことにすら気づかない奴と、私のように強い未練によって至る者の二つがある。私はお前がここに帰ってくるのを確信していたから亡霊となったのだ。お前はまだ幼かったからな。まさか三十年も帰ってこないとは思っていなかったが』

 

 

 ああ、子供だから寂しくなって帰ってくると思ってたのね。でも俺が強くなる事を優先したから遅くなったと。

 しょうがないよね。すぐここに帰ってくるわけにはいかないってのは分かってたことだし。俺にとっては当たり前だが、何も知らない他者にとってあの歳にしては聡すぎたんだよな。

 

 でも俺がすぐ帰ってくると思ってたのなら亡霊になって待つのもおかしくないか? その程度の時間なら生きていられそうなもんだけど。

 

 

『三十年か。あの頃の私たちはお前が数日もすれば帰ってくるものだと勝手に思い込んでいた。いや、そう信じていたと言った方が良いか。だが慧音、お前は私やあいつが思っていたよりもはるかに賢かったわけだな。慧音も不思議に思わなかったか? あれから時間が経ったのに私は昔と、幸せに暮らせていたころと何一つ変わっていない』

 

 

 確かあの頃の両親はまだ二十代前半。数年も経てば風貌も変わりそうなものだが、今目の前にいる父上はあの門番と比べても何とも若々しい。

 そうするとかなり早い段階で死んでしまったという事か。僅か数年ももたなかったと?

 

 

『情けない事だがな、私は初めの五日で寝たきりになった。私が死んで復活した後、二日もすればあいつも動けなくなった。畑は奪われた。水も共同井戸を使わせてもらえない。私が死んだ後もあいつがしばらく動けたのは、私が備蓄を全てあいつに食わせていたからにほかならない』

 

 

 元より貧しい家だ。俺は何も気にしていなかったが備蓄は相当少なかっただろう。畑の所有権は無くなり、新しい食べ物は村の外から自力で採ってくるしかない。水も村から少し離れた川に汲みに行くしかない。

 

 そんなことができるはずはなかったのだ。村から出れば妖の餌。喰われて死ぬくらいなら餓死を選ぶか。惨い。何故そこまでするのかが理解できない。

 畑の所有権を奪うなどあまりにも非人道的だ。自給自足すらさせる気が無い。殺すための処置としか思えない。

 

 

『苦しかった。だが本当に苦しんだのはあいつの方だったろう。私が早々にいなくなり、心の拠り所とした者の死体は自らが隠さなければならない。私が亡霊として戻るまでの間はまったくの孤独だ。結局あいつは幻を見ながらこの世から……この世から旅立った。これを見なさい』

 

 

 そう言って父上が手渡してくれたのは軽い小さな水瓶だった。何を思ってこれを渡してきたのだろうか。そう思い父上の顔を見るとまた続きを話してくれた。

 

 

あいつは…………あいつは最後までそれを慧音だと思って話しかけていた……。私の、かける声も聞こえていなかったんだ。赤子だった頃のお前を抱くようにして、その水瓶だけを抱いて逝ってしまった……。私は何も、してやれなかったんだ』

 

 

 こんなにも悲壮感を漂わせる父上を見たことが無かった。でも俺にできることなんてない。父上も既に死んでいる身。下手な言葉も選べないので慰めることもできない。

 父上が立ち直るまでの間、手持ち無沙汰になってしまったからふと水瓶の中を覗いてみた。水が入っていないという割には中から音がしたからである。

 

「これは…………押し花?」

『…………すまなかった。迷惑をかけたな。それもあいつが趣味で作ったものだろう。何を思ってその中に入れていたのかは分からないけれど、その花はこの辺りでもよく見る花だ』

 

 

 何処にでも咲いている小さな紫色の花。紫と言えば高貴の象徴だ。家は低俗だから隠していたのだろうか。ただの押し花なのに。

 それにしてもよくここまで良い状態で保存されていたわけだ。この水瓶には何か特別な力が秘められているのだろうか。特に何の力も感じないような気がするんだけど。

 

 

『それがあいつの最後の贈り物というわけか。どれ、私もお前に最後の贈り物をしようか。全てを跳ね返す物を。フフッ、土間の手前……そこを掘り返してみなさい』

「よいしょ。隠した財でもあるのですか? …………ってこれは!! ひどいです父上!」

『私は何も宝があるとは言わなかっただろう? でも助かったよ慧音。お前のおかげで私は救われた。感謝などしてもし足りないだろう』

 

 

 最後の贈り物なんて言うからてっきり隠し財産か何かなのかと思っていたのに、出てきたのは腐敗した父上の亡骸だった。

 確かに土間ならば元々食糧保存に使っていた穴があるから、新しく大人一人分掘るよりは楽だろう。それでもまさかこんなものを掘り返させられるとは思っていなかったのでちょっと気分が悪い。というか最悪。

 

 

『さあ慧音、これが正真正銘最後の願いだ。私の骸を扉の前へ持って行ってはくれないか?』

「……どうしてです? ここに置いておくのはまずいのでしょうか」

『今の私は村から追放されただけの亡霊だ。しかし私があれらに供養されればこの村の民として死ぬ事ができる。ようやくだ。ようやくあいつの許に逝くことができるんだ』

 

 

 死んでいるだろうと思われながらも死体が見えるところに無い故に葬儀をされなかった父上。

 

 俺は、馬鹿だった。両親をこんなにも長く待たせてしまった。

 たかが二十年遅くなっただけだと思っていた。

 それでも両親にとっては二十年も再開を引き延ばされていたんだ。

 

「父上……こんな親不孝者をどうかお許しください」

 

 俺は究極の親不孝者だ。幸せな生活に終止符を打たせ、両親の死後も迷惑をかけ続けた。自分の事ばかりを気にして両親の事なんて心配してもいなかった。

『顔をあげなさい』

 こんな俺に、まだ優しく言葉をかけてくれるのか。俺なんてもはや子供失格なのに。

 

 

『私にお前を責めるつもりは無いよ。あの夜お前を護ってやれなかったのは私とあいつが悪いんだからね。それでもだ、それでもまだ孝行したいというのならば……生きなさい。絶対に、死んでもいいなんて思ってはいけない。もうお別れだね。ありがとう慧音。お前が娘で本当に良かった』

 

「そんな…………やめてよ……逝かないでくれよ。まだ何もできてないのに…………」

 俺はまだ一言も感謝の気持ちを伝えられていないのに…………。もう一度声を聞かせてよ……ねぇ。ありがとうくらい言わせてくれよ。ねぇ。まったく

 

 

「勝手だよ! 父上もあいつらも! こうなったのだって俺のせいじゃねえだろ! どうして、どうして俺ばっかりが苦痛を味わわなきゃならねえんだよ…………ちくしょう……ちくしょう」

 

 地面を濡らす一粒の雫。乱暴に目を拭っても頬を伝う水滴の止まるところは知らない。赤子だった頃以来、初めて泣いた。

 

 悔しい。悲しい。それでもその気持ちを遣る瀬はない。俺にできることは限られている。

 

 

 

 

 

 

 最初で、最後で、最大の親孝行。憎き者たちを救うことによって父上の葬儀を執り行わせる。

 嫌だよ。本当は死にたくなるほど嫌だ。でもあの親不孝を少しでも償うためならこのくらいの事はやってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この襲撃が俺のせいだと思ったのか、俺が村民たちの方に向かうと、彼らはより一層身を寄せ合って警戒し始めた。やっぱり俺の事はばっちり覚えてるんじゃないかよ。

 俺がそのまま奴らに声をかけようとしたところで不意に周囲に声が響き渡った。

 

 

――――愚かなる人間どもよ。彼女の怒りに触れるなかれ。我村人ならぬ者を襲うことなし

 

 

 その直後空から肉片が落ちてきた。顔が抉られた物、手首から先が無い右腕。首と臓器が抜き取られた上半身。先ほどまで人間だったであろうモノが次々に降って来た。

 なるほど喰われたか。それもかなり惨い食人だ。俺が襲われなかったのは村から追放されたおかげで村人ではなかったからか。ならば救う手はもはやただ一つ。

 

 

「村長はお前だな? これからお前たちを救済してやろう。……………………よし。この村はもはや村ではなくなった。もう金輪際妖に怯えることは無いだろう」

「あ、ありがとうございます……? しかしどうして……?」

 

 

 ありがとう、か。別に感謝されるためにやったことでもなければ感謝されるような事をやったわけでもない。俺がやったのはこの村の歴史を抹消すること。俺の能力が続く限り、ここの歴史は創られない。そんなひどい仕打ちだ。

 もはやここは村と認識されることが無い。村八分のさらに強力な形態、国八分とも呼ぼうか。今のこの村はそんな状態になった。これにて妖怪がわざわざここに寄り付くことは無い。救済なんて言う言葉で片づけられるのは今だけだ。

 

「貸しだ。私の住んでいた家の玄関に父上の骸を置いておいた。手厚く供養しろ。そうすればもう私がこの村に来ることも手を出すことも無いだろう」

 

 本当にこれで良かったのかは分からない。わざわざこの小さな村を襲撃した妖怪の詳細も分からない。確かなのは、結局俺は真に帰るべき場所を失ったという事だ。

 

 

 

 願わくば父上と母上が黄泉で再会できますように。




父親が闇落ちする世界線なんてありません。慧音が闇落ちする世界? それはどこかにあるかもしれません


この後の時代しばらく原作キャラとの絡みが少なくなると思うので急遽キャラ追加します。妹紅と阿一、紫、天狗、鬼なんかは近いうちに出す予定ですので省いてます。旧作キャラは物語の設定がかなり厄介なことになるのでナシでお願いします

追加(または再登場)してほしいキャラ

  • メリー(夢違、求聞史紀とは無関係)
  • ルーミア(宵)
  • リグル
  • 守矢二柱
  • 娘娘
  • その他(感想欄でどうぞ)
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