T.S.けーね (ロリ) は彼なのか? 作:ただし忠誠心は鼻から出る
俺は何をするのために生きているんだろうか。今まで幾度となく繰り返してきた自問に答えが出る日は来るんだろうか。
まだ四十年も生きていないとはいえ今まで必死に生きてきた。理由は上白沢慧音がここで死んではいけないと思ったから。それだけだ。
俺のためじゃない。全ては慧音のために死にたくなかった。
死なないためならなんでもする、という覚悟が初めて揺らいだのもつい最近の出来事だ。
遥かな絶望を前にしたら自分の小ささが理解できた。あの時助けてくれた彼女にはいまだにお礼の一つも言えていない。顔も知らない。
ただ声だけは覚えている。
――――ねぇ、聞いているの?
そうそうこんな声だったっけ…………って、え? 空耳じゃ。空耳が聞こえるぞ。
両親の死を目の前にして精神を病んだかなこりゃ。それ以前にショッキングな光景も見せつけられたし……今日は散々だわ。もう夜になったけど。
――――白を切り続けるつもりかしら?
思わず頭を抱えて蹲ってしまう。
やべぇ。マジでやべぇなこれは。父上には生きろって言われたけど精神疾患で明日にでもぽっくり死ぬかもしれんわ。
――――仕方ありませんわね
そんな声と共に目の前に片腕だけがぽっかりと浮かび上がった。
「ギイィィヤアアァァァァァァァァァァァアアァァァ!!」
叫んだ。と共に足元がふらつく。視界が真っ暗になる。どうやら俺はここまでのようだ……。
目が覚めた時も周りはまだ真っ暗だった。三日月程度の明かりでも新月とは段違いに思えるのは夜目が効くようになったからだろうか。人間だった頃の視界なんて覚えてないけど。
まだ痛むこめかみを抑えて立ち上がる。相変わらず足はふらつくが何とか何とか立ち上がることはできた。
妖怪に驚かないのに腕のお化け如きに驚いてしまうなんて我ながら情けないと思う。でも急にあんなものが出てきたら誰だって驚くだろ。
人間は正体の分からない物に対して過剰に反応する生き物だからな。俺だって半分人間。精神まで含めればきっと八割くらいは人間。絶叫するのも仕方ないよね。
なんて思っていると突然右肩に重さが加わった。
周囲には誰もいないことを確認していたはずなのに。ゆっくりと肩の方に目を遣ると、
ようやく立ち直った直後のショック故、叫ぶ間もなく気が遠くなる。
本日二度目の暗転。ホント、ツイてない。
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「本当に臆病ね。たかが腕だけで気を失ってしまうなんて」
妖怪は独り言ちる。
しかし彼女は気づいていない。腕だけ
妖怪のいる世界が当たり前であり、彼女自身も妖怪であるために気付けない。
「せっかく生かしておく命。私が助けに入る前に死んでしまえば元も子もないわね。いくら妖と言えども所詮はまだまだ子供、か」
そう言って膝の上にいる子を撫でる彼女は誰から見ても慈愛に満ちていて、普段彼女が他人に見せる顔とは異なる本性をそのまま表しているようだった。
護るべきを護り、諫めるべきを諫め、処すべきを処す。時には無慈悲とまで言われる。
やがてその子が目を覚ます。
朝靄の頃。二人の周囲は一段と靄が深い。
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再び目を覚ますがまだ真っ暗だった……うん? 真っ暗? 月明かりも無いってどういうことだよ。新月まで数週間も寝ていたなんて馬鹿な事はあるまいし。
物理的に一寸先は闇。宵の闇の中に入ったかのように自分の指さえ見えやしない。
『どうやらお目覚めになられたのですね』
またこの声だ。だが今度はきっと幻聴じゃない。前にも同じようなことがあったから。
と言うかこの声が聞こえる時はいつも相手が見えないのだがこれはどういう事なんだろうか。他人に顔を見せてはいけないとか、良いとこのお姫様かよ。
前回は光で今回は闇。あとどれだけのレパートリーがあるのか。もしかしたら一回目気絶する前の声も幻聴ではなかったのかもしれない。あの時も相手の姿は見えてなかったし。
「前も聞きましたが、貴方は誰なんです?」
『前も言いましたが言う気はありません。いつかどこかでまたお会いすることもあるでしょう』
またどこかで会っても今回のようにはぐらかされるのがオチだろうな。前回もそんな感じだったし。というか結局何者なんだ? 闇とか光とか割と自由に操っている気がするし、そっち系の能力者かね。それなら姿が見えないのも納得なんだけど。
『今回は貴方に少しばかりの忠告を、と思って来た次第ですわ』
「忠告? 私の生き方に忠告を与えるなんて……貴方がどなたかは存じませんが、神にでもなったおつもりですか?」
『神……ふふ、それも悪くないかもしれない。しかし今はまだ一介の妖ですけれど』
うっわ、割と冗談で言ったつもりだったのに本気にし始めちゃったよ。神のいる世界でこんな冗談は通じないってことか。肝に銘じておこう。
『忠告と言うのは他でもありません。貴方の生き方についてですわ。自らの命を顧みない無謀な踏み切りはどこかで必ず足を滑らすでしょう。その時に困るのは他でもない貴方。想いは力となって貴方を蝕むでしょう。忠告は致しましたよ。では、また』
「想いが力に? 何を言ってるんです? 貴方は…………」
視界が戻って来た。案の定と言うべきか、不思議な彼女はもうどこにもいないようだ。言うだけ言ってこちらの話は全く聞かないとか。
いったいどんな教育を受ければそんな身勝手なやつが育つんだか。教育なんか受けていないから? 知らんな。
せめて人の話は聞いてほしい。常識としてね?
あ、いや。この世界では常識に囚われちゃ駄目なんだっけ。時には諦めも肝心なのかね。
はぁ。いつの間にか朝になってるし。気絶して寝ている時間が意外に長かったってことだな。
そう考えるとあの妖怪を長時間待たせて申し訳ない気もしてくるが、あちらもあちらで自分勝手に言いたい事を言うだけだったからどっちもどっちか。謝られない限りはこっちから謝る必要はないな。
とりあえず村のある方に戻ってみるか。本当に葬儀を行ったのか心配だし。ちなみにあの村の歴史を消したのは俺自身だから、当然俺にはあの村が見える。というか実際はよく知っているから見えるだけなんだけど。
生き残った村民もあそこを村だと認識して生活している。ただ他の村からは無かったものとして扱われるだけ。多分向こう三十年くらいかな。
それまで村の中は一応安全なはず。村としての境界、つまりぐるりと取り囲む柵から一歩でも出ればそこには歴史が存在するから当然他者からも妖怪からも認識されるようになる。どちらで暮らすかはその人次第だ。
我ながら惨い事をしたと思う。非人道的だとも思う。
だが違う角度から見れば俺は村を救ったとも言えるのだ。
人は常に他人の悪いところを見る。いつしか俺の行った救済の落とし穴に気付いたとき、村民たちは挙って俺を悪く言い出すだろう。
それはそれで構わない。だって俺はもう村の人ではないのだから。何かを犠牲に何かを救う。救った事実は抹消され、犠牲にした物だけが残るのが世の理。悲しいが仕方ない。
少しばかり物憂い気分になりながら、上空より煙の上がる村を見る。弔いの煙は今誰を焼いているのだろうか。女か子供か、はたまた男か。俺の住んでいた家の前には既に父上の骸はない。
無差別に、無惨に殺された者たちを弔う煙は何処までも昇り続ける。死穢に塗れた煙はきっと月までは届かないんだろうな、とそんなバカみたいな事を考える。
三十余年前の村民たちの罪と、今後三十年の俺の罪。どちらも軽くない。報いも重い。
俺にとってはこれだけではなく、父上のために生きなければならない。妹紅のために死ぬわけにはいかない。全て罪を贖いきることなんてきっとできない。
だからこそそれを背負って生きていかなければならない。強くも無い心を奮い立たせるために、俺は今後何度「罪」を言い訳に使うのだろうか。
ちなみにこの向こう三十年の歴史が消えるというのが第一話最後の文章の示すところです
アンケートは今回まで投票可能にしておきます。結果は大凡見えていますがまだ投票していない方は是非。大変申し訳ない事ですが、採用するのは上位二つだけになります。ご了承ください
追加(または再登場)してほしいキャラ
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メリー(夢違、求聞史紀とは無関係)
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ルーミア(宵)
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リグル
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守矢二柱
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娘娘
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その他(感想欄でどうぞ)