T.S.けーね (ロリ) は彼なのか?   作:ただし忠誠心は鼻から出る

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タイトルがタグで全て表現されている現状。気が向いたら変更するかもしれないです


そんな歴史は無かった

 気づいたら竹林に寝ていた。

 

 いやいや『は?』である。わけがわからないよ。確か昨日の夜までは家にいて、恐ろしい妖怪が来たから父上と寝たはずなんだけどな。

 

 なんなんだ? 以前は知らない天井で今度は知らない竹林なんて……まさか俺はまた転生したのか? あの後めでたく(ないけど)妖怪に喰われたのかもしれない。

 だってうっすらと痛みがあって左腕に噛まれた痕が…………ん? 傷が残ってるってことは死んではいないっぽいな。じゃあますますここが何処だか分からなくなってきた。少なくとも村の中や村から見える範囲には竹林はおろか竹の一本も生えてなかった気がする。

 

 じゃあここはどこ? 鬱陶しい事だが答えの出ない疑問が次々に頭に浮かんでくる。

「お、ようやく目覚めたのかい? 倒れていたから驚いたよ」

 

「うげっ、妖か?! あぁ父上、母上、私はもうここで終わりのようです」

 俺は急に誰かが出てきたのに驚いたよ。それに人間じゃねーじゃんかよ。可愛い恰好してるけど怖いよ。今まで妖なんて見たことも無かった温室育ちだからこういう反応になるのも仕方ない。

 脱兎のごとく逃げようとも思ったが、目の前の妖怪兎に阻まれて逃げ場はない。詰んだ。

 

「何も取って食ったりするつもりは無いわ。そもそも貴方も同じでしょうに」

「同じ? 同じとはどういう意味なんでしょうか」

 

 敬語って便利ね。口調気にせずに使えるんだもんな。初めはこの時代の言葉にも慣れなかったから難しく感じていたけど、家で普段から使っていたら自然と身に付くものだ。

 英語も一緒。普段から使っていれば自然と身に付くんだろうけど……俺には無理だろうな。

 

「寝ぼけているの? 貴方も私たちと同じ妖の一人だと言っているの。半分は人間のようだけど」

 

 つまり半妖ってことか? 心臓ではなく肝が飛び出しそうなほど驚いているんだが、どうやら俺の身体は正直な反応を返さないらしい。

 どんな状況になってもとかく冷静に物事を考えられるのは何故なんだろうか。

 

「つまりは半分が妖であると、そうおっしゃるのですね。……つかぬ事をお聞きしますが私は何時からここに? そして貴方の名は何と?」

 

 

 俺は元々完全に人間だったはずだ。両親のどちらかが妖であるような雰囲気は全く無かったし、人肉が食事に出てきた事はない。そもそも肉が出てくることがなかった。

 でも半分だけ妖怪になっているという事はどこかで混ざったことになる。何処かとは言うものの可能性があるとすれば昨日の一件しかないはず。

 

 

 それで半妖、か。なるほど読めてきたぞ。となるともしかして目の前の兎は。

 

「あんたはここ三日ほど寝ていたかな。あんたを見つけた夜にはあんたの頭に角が生えてたのよ。だから妖だと分かったの。朝になると角は無くなっていたし、一昨日と昨日の夜も角は生えてこなかったけど。

 ま、私に見つけられたのは幸せだったと思いなよ。幸せを呼ぶ兎、因幡のてゐとは私の事よ」

 

 うーん、やっぱりか。確かに少し似ているとは思ってたんだよなぁ。だから冷静だったのかね。

 

 と言うか今日の俺の勘は当たりまくってるな。三日間も寝ていたというのは流石に予想外だったがこれで確証が持てた。

 生まれて自分の名前を自覚した時から何となく想像していた結末だったってわけだ。

「そうでしたか。私は上白沢慧音と言います」

 

 俺が上白沢慧音として生きていくことになろうとは思わなかった。でも慧音って原作段階で百も生きていたっけ。

 というかこんな姿のまま半妖になってしまったらこれ以上成長しないのでは? ありだな。懸念が一つ解消されたことにもなって一石二鳥。あーでも寺子屋はどうするかなぁ。五歳相当の幼女が子供に勉強教えるって何?

 

 そのあたりのことはおいおい考えるか。もう少し情報が欲しいから住んでいた場所を教えて自然な流れでこの場所も聞いておこう。どうせここは邑美じゃないしなぁ……迷いの竹林か。

 

「因幡国、邑美に住んでおりました。ここが何処かは存じませんが」

「邑美と言えばすぐ隣ね。ここは高草よ」

 

 

 ああ高草ね。そう言えば迷いの竹林が高草郡と呼ばれて~とかいう設定があった気がする。高草って聞いた事があっただけで場所も知らなかったけど邑美の横だったんだね。

 実際は邑美も因幡国のどのあたりにあるかは知らないんだけど。

 

 

 

「おや、邑美に戻るの?」

「いえ、少し旅でもしてみようかと」

 

 ここにいても見聞は広まらない。それに欲しい情報は自分の足で調べに行くのがこの時代。何処にいてもすぐに情報が得られる社会ではない。

 情報を得るならば最も手っ取り早いのが都だと思う。あらゆる物が集う場所だし天皇のお膝元、治安は良いに決まっている。

 

 適当に動物でも狩りながら都に向かおうかね。金が無いよりはあった方が良いだろうしな。

 

「丁度良かったわ。ここは私の縄張りだから、いつ追い出そうか考えていたところだったもの」

 随分はっきり言ってくれるじゃあないのよ。ま、でも倒れていた俺を見捨てずに魔の手から護ってくれたのは事実。ここは礼を言っておこう。

 

「助かりましたよ。ありがとうございました。ではまたどこかでお会いしましょう」

「また会いたいのならば死なない事だね。健やかな生き方をするのが大切さね。あとは如何に戦いを避けるか、かな。あんたが生きていたらまた会えればいいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして始まった慧音の都への旅。いくら人間よりは強くなったとはいえ、傍目にはただの五歳児である。大型の動物はもちろんの事、妖怪も手ごろな餌だと思って襲いかかってくる。

 何とか木に登ったり火を起こしてみたりとやり繰りしてはいるが、あまりにも非効率極まりない。

 

 旅を始めて一週間、彼女は未だに因幡国を出られていなかった。

 流石にこれには危機感を持ったのか、彼女はまずは強くなる事から始めることにしたようだ。

 

 まずは手ごろな里に忍び込み、『自分がこの里にいなかった歴史』を消す。当然使い慣れていないのでかなり手こずったようだが、何とか人間を誤魔化すところまでは成功した。

 しかし()()()彼女では歴史を消せても創ることはできない。結局里の人間たちは、慧音の存在に違和感を覚えながらもその違和感の正体を知ることができずに放置するしかない。

 昔から住んでいたが何処に住んでいたのかは分からない子だとして扱われることになった。当然のことながらそんなことを慧音は知らないし、同い年くらいの子供にとっては慧音の存在に違和感を覚えることすらも無い。

 

 

 慧音が行動するのはもっぱら夜の間である。昼間は里の人間が皆起きているので彼女のしたいことができない。

 始めに慧音が身に付けたかったものは飛行である。逃走や奇襲にも使えるし、移動においても歩くよりははるかに速く、楽にもなる。何処かに侵入するにもわざわざ門を通る必要が無くなる。覚えておいて損することは無い。

 

 基本的に彼女がこの里を出る時には門を通らないようにしている。慧音のように幼い者が一人で里の外に出るのは危ないとして止められるからだ。

 だが彼女は狩りで生計を立てるつもりのようなのでそちらの技術も向上させねばならない。だから彼女は毎晩のように里を囲む高い垣を乗り越えて外に出なければならないのだ。その時にも飛行は役に立つだろう。

 

 

 そうは言ってもそんなに簡単に身に付くものではない。天性の才能でもあればまた別なのだろうが、残念な事に彼女は凡才である。

 さらには元人間であることが災いして空を飛ぶ感覚というものが想像しにくい。霊力や妖力の扱いも荒削りどころではない。

師がいれば才能無しとして破門にされてもいいくらいにはひどい物である。

 

 

 

 そしてここから彼女の長い戦いが始まったのだ。非凡な者が飛行を習得できるまでに要する期間を三日、平凡な者が習得にかける期間の平均を一年と半分と仮定する。

 彼女が習得にかけた期間はなんと六年。あまりにも長すぎる。しかしだからこそ習得した彼女の心は晴れやかになっているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い、長かった飛行訓練にようやく終わりを告げることができた。明らかにおかしい年月が経ったがなんとか飛べるようになった。

 感覚を得るのがとにかく難しかったと思う。飛べることは知っていたが、いざ飛ぼうと思うと足がすくむ思いをしたものだ。落ちれば死は免れないと思うとどうしても飛ぶのが怖くなったのだ。

 

 

 六年もの間をこの訓練に費やしてきたわけだが、もちろんその間に見た目は変わらないので適当な村や里を転々としている。そのおかげで能力の使用に関してはなかなか上達したと自負できる。

 むしろこれのためだけに住処を転々としたんじゃないかと思うくらいだ。

 

 

 

 それに上達したのは何も飛行や能力だけではないのだよ。

 

「この肉全てでどのくらいかね?」

 そう、狩りの方も順調に上達しているのだ。

 今となってはそこらの猟師くらいには上手いんじゃないか? 残念ながらまだ通貨が出回っていないせいで物々交換が主流だが、それでも貰える物は悪くない。

 

「米三十両*1でどうです?」

「買った。ではこれを……いつも助かっているよ」

 

 狩りという収穫も不安定な物ではあるが一応固定の客というのもいる。そんな人たちには俺がただ売り子を任されているようにしか見えないのだろう。

 たまにご褒美だとか言って果物や野菜をくれたりする。僅かなものではあるが結構嬉しいものだ。ずっとここにいることはできないから、また歴史を改変して出て行くことになるんだけど。

 

 

 俺の事を覚えている人間はいるのだろうか。邑美には帰っていないし両親も生きているか分からない。寄った村では必ず『いた歴史』を消してきている。

 事実は事実でしかなく歴史ではない。俺が消しているのはその村に残されるであろう記録のみ。誰の記憶にも残らない。誰も俺をずっと覚えてはいられない。虚しいよなぁ……。

*1
約1.2kg




基本的に主人公以外の一人称は書かないつもり
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