T.S.けーね (ロリ) は彼なのか?   作:ただし忠誠心は鼻から出る

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浅学すぎて
作中において律令国の成立時期は無視させてください。そうでもしないと話が進まぬ


おそろしいのは人の心

 虚しさと俺自身だけが独り歩きする旅を続けること五年。てゐと別れてからはもう十年以上にもなるらしい。時の流れって思ったよりも早い。

 実年齢は十六だから本来ならばもうとっくに大人になっていてもおかしくないんだが、姿形は十一年前と比べて全くの変化がない。やっぱり妖怪になったんだな~としみじみ思ってしまうが、人間社会では生きづらいことこの上ない。

 

 もちろん俺の戸籍なんて作られる前に村を捨てられたわけだから存在しない。もしあっても不便なだけだから無かったことにしただろうがな。

 いやほんと、この能力便利だわ。特に自分の存在を隠したい時とか。大手を振って行動していても歴史を消せば村人は俺の存在を思い出せなくなる。正確に言うと完全に忘れるわけではないんだが、”誰か子供がいた気がする”レベルになるので俺を思い出すことはできない。

 そうでなくても人間はいつか記憶を薄れさせるもの。忘れられる事の寂しさなんていちいち感じていたら一人で旅なんてしてられない。

 

 

 

 

 

 これは流石に見栄を張ったな。忘れられること自体にはもう慣れてしまったが、それでも誰の記憶にもはっきりと残っていないというのは少しばかり寂しい。

 

 …………稗田にでも会いに行ってみるか。稗田阿礼は歴史に関係する者としては会っておきたい人物の一人だ。

 それに何と言っても将来のあっきゅんだしな。正確にはちょっと違うけど。

 

 

 方々を旅している途中で耳にした噂では、都には()()()()()()()()()()()()()()人物がいるという。それこそまさに求聞持の力。稗田に違いない!

 

 

 ここ五年で結構歩いたと思っていたが、一つの村に最低三月くらいは留まっていたせいかまだ播磨に着いたばかりだ。

 

 休み休み飛んでいけば三日あれば大倭(やまと)に着くだろうが真昼間から空を飛ぶのは少々リスキーだ。鳥と間違えられて撃ち堕とされる可能性も大いにあるし。

 昼間は歩いて夜は飛ぶサイクルで行けば……七日はかからんだろう。知らんけど。

 

 

 

 物々交換に使えそうな物は大抵残してある。持っていてもあまり使わないってのもあるが、価値のありそうな物を持っていればそれだけで交渉を有利にできる。俺だって伊達に十年以上一人で生活してきたわけじゃあない。

 能力や狩り、体術なんかは独自の方法だけど自然と身に付いたし、処世術も曖昧な前世の記憶をたどればなんとかやっていけるくらいには身に付いた。

 

 

 それでもこの時代は、相手の階級というか位によって対応の仕方を変えなければならないのが面倒だ。天皇の悪口なんて聞かれた日には極刑は免れない。

 そもそも妖怪だとバレた時点で結構不味いんだがな。そんなことを気にしていたら生きていけないから。むしろ堂々としていた方が疑われにくい。

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 天気がよければ口笛を吹きたくなるのも仕方がないことだ。

 

 都に行くと決めてから四日。

 昼は襲い来る獣を狩り、夜は襲い来る妖怪を躱しながら空を駆ける。飛行ももう慣れたもので、速いとは言えないが体力を管理しやすい方法で飛ぶ術まで身につけることができた。

 

 鳥のように羽ばたくことはできないが、滑空に近い事はできる。それを活かすことで上昇気流に上手く乗って、妖怪の魔の手が届かない高高度を維持している。

 上空は当然気温も気圧も低く、空気も薄いが、一応は俺も妖怪の端くれ。多少の負荷はあまり問題にはならない。しんどいのは確かだけど。

 

 

 今は昼間なので地上を歩いているが、実はいつの間にか大倭に入っていたらしい。人に会わないから全く気づいていなかったが、やたらと賑わっている、町と呼べるものが見えてきたので都で間違いないと思う。

 

 

 もしかしたら国境に関所でもあったのかもしれないが、夜の間に飛んで超えてしまった可能性が高い。まあいいか。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 思いのほか早く、晴れて都に到着した慧音だったが、ここで困ったことが一つ。

 

「住む場所どうしよう…………」

 彼女の能力は他人の記憶に干渉する物ではない。あくまでも一般的に記された歴史を書き換えるもので、他人の頭の中に記された、その人自身の歴史を改竄することはできない。

 

 

 それ故に彼女は住む場所に困る。今までは小さな村や里など、歴史を知る者が少人数だったからまだ何とかできていたが、都にいる人間の数はそれらとは比にならないほど多い。

 だがしかし彼女は知らない。実は都の方が人々の目を誤魔化すのは簡単である事を。

 

 小村小里ではその狭い村里に長く住んでいる人が多い。

 

 一方で都ではしょっちゅう住人が入れ替わる。出稼ぎに来ているだけの人、貴族階級に仕えに来ている人、採れた物を売りに来た人などは都にいる人間の大半を占めるが、都の事を深く知っているわけではない。

 さらに村里に比べ規模も大きい。故に都の全てを覚えている者などいないに等しいのだ。

 

 

 

 覚えている数少ない人物と言うのが……

 

「おや、どうしたのです? 斯様な所に貴方のような幼い子が一人でいるなんて……貴方、父君や母君がどちらにいらっしゃるか分かる?」

 この御方、稗田阿礼である。

 全てを記憶し、忘れることが無い彼女だけが都の誰よりも都の事をよくわかっている。

 

「阿礼様、斯様な幼子までを覚えているとそのうち頭が割れてしまいますぞ。人との関わり合いはなるべくならば避けられた方が…………」

「貴方たちがそのような考えを持っているから、私が人からも避けられる事になるのよ」

 

 

 

 自分とは違うモノをできる限り排除したい

 

 人は皆そのような考えを持っている。少しでも特殊なモノがあればすぐさま自分とは離れた場所に置きたがる。

 

   姿形から身体能力に至るまで、あらゆる事おいて人間を凌駕する妖

   死を超えて現世に留まる霊

   人間からの信仰を求めて超常現象を引き起こす神

   

 そして全てを忘れない人間までも。人間が人間を集団から排除しようとする。斯くも愚かで斯くも浅ましいケダモノが、他に、どこかにいるだろうか。

 

 しかし彼女は避けられても生きなければならない。別に珍しくもない話だが、彼女の能力を買った貴族の下で働かされているからだ。

 学において、都には彼女以上の者はいなかったのだ。

 

 

 そして彼女の話は初めに戻る。

「それにね、迷い子がいるならば助けてあげるのが道理でしょう。

 さあ、貴方の親はどちらにいらっしゃるの?」

 

「私の親が何処にいるかは知りません。三月ばかり前に捨てられて一人で旅をしてきましたから」

 

 

 もちろん嘘である。捨てられたのはもう十年以上前だが、それを馬鹿正直に言えば妖怪であることが瞬時にバレてしまう。

 五歳児の見た目であることを考慮して三月前だと嘘を吐いたが、五歳児が三月も一人で旅をすることは現実的に考えておかしい。

 

 

 

「それはそれは…………良ければ私の屋敷にいらっしゃい。屋敷に仕えさせてあげましょう」

「は…………阿礼様、それはどういう……」

「お黙りなさい。貴方が口を出すことではない。……さて、貴方はどうです?」

 

 

 阿礼が慧音を屋敷に誘ったのは単純に可哀そうだと思ったからではない。それが無いわけではなかったが、本当の意図はまた別のところにあった。

 

 見た目とは大きく乖離する言葉遣い。親に捨てられたとは思えぬほどの落ち着き。そして三月も一人で生き延びてきた事の異常さをきちんと把握していた。

 ある意味で人間とは異なっている彼女は、同じような物を慧音に感じ取ったのだ。

 

 慧音ならば阿礼の真の理解者になってくれるかもしれないという期待。

 口には出さないが、彼女にも打算的な考えがあっての事だった。

 

「私でよろしければ、これからよろしくお願いします阿礼様」

「ええ。ではついていらっしゃい。私は稗田阿礼。貴方の名は?」

「上白沢慧音です」

 

 

 この歳で一人称を私に揃えている子はほとんどない。子を捨てるような親からこれほど行儀の良い子が育つとも思えない。ともすれば都で誰をも凌ぐ才児であるやもしれない。

 やはり自分の考えは正しかったのだと阿礼は一人思った。

 

 

 

 

 稗田の屋敷は大層立派な物だった。阿礼が身に付けている上質な着物を見て、覚悟を決めていた慧音も思わず口を開けてしまったほどだ。

 阿礼はそれを見て満足そうに笑う。慧音が見た目相応の反応をしたのはこれが初めてだったからだろう。

 

 

「ご、ご立派なお屋敷ですね」

「あらありがとう。今日からここで働くにあたって様々な事を覚えてもらうわ。でもその前に少し二人でお話しましょうか」

 

 奥間に案内させるわ。という言葉を残して阿礼自身は自室に一度戻るらしい。余所行きの物から着替えるのだろう。

 

 

 奥間に案内された慧音だが、もちろんこのような広い部屋で一人落ち着けるはずもない。

 

 元々貧相な農民の家に生まれた彼女だ。広い場所と言えば外しかなかったのだから落ち着けないのも無理はないだろう。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 しばらくたってお茶とお茶請けを持った使用人を連れて、阿礼様が部屋に入ってきた。何かを使用人に呟いたようだが何を言ったのかはさっぱり分からない。

 (ワーハクタク)は吸血鬼ほど耳が良いわけではないからな。仕方ない仕方ない。

 

「では話をしましょう。使用人には盗み聞きしないよう言ってあるのだけれど……」

「お……私が何とかしてみましょう。主人を困らせるのは使用人にあるまじき行いですから」

 

 

 はっはぁ、俺の初仕事がいきなり能力の使用になろうとは流石に思わなかった。まあ俺としても聞かれたくない話はあるだろうからバッチリ対策はさせてもらう。

 阿礼様に聞かれたら答えるしかない質問もあるかもだしな。

 

 稗田とは永い付き合いになるだろうし、阿礼様にだけはできるだけ早いところ俺の種族は知らせておいた方が良い気がする。使用人たちには絶対話さないがな。




ご都合主義はあまり好きではありませんが、主人公が能力関係の事に自分で気づく方があり得ないのではないかなと

阿礼、阿一、……阿弥はレイラとかと同じ扱いだと思っているのでオリキャラではないつもり
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