T.S.けーね (ロリ) は彼なのか?   作:ただし忠誠心は鼻から出る

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投稿定時とは誰も言ってませんし(震え声


貴族って面倒

 阿礼様が足を向けている先には、阿礼様の住む屋敷よりもさらに倍は広そうな屋敷が構えてある。門は前世にあったようなものと比べれば簡素な作りだが、門前にはそこそこ腕の良さそうな守衛らしき人が二人立っている。

 道中で立ち寄った村でも思ったことだけど、どうしてこういう場所には二人配置するんだろうね。一人だと暇すぎて寝てしまう可能性があるからか?

 確かに門に立っているだけなんてよほどのことが無い限り暇だもんな。特にこういう貴族の屋敷は人の出入りが多い方ではないだろうし。貴族なんかとは接点がないから知らんけど。

 

 

 

 で、そんなことをつらつら考えていたら着いたわけだが

「ここが?」

「そう、藤原不比等様のお屋敷です。粗相のないよう気を付けてね」

 

 

 藤原家なんて聞いてねえぞ。

 お偉いさんどころじゃねぇ。帝を除けば都一の権力を誇る超名家じゃないか。歴史に明るくない俺でも藤原不比等が鎌足の息子だってことは知ってるぞ。

 

 まさかこんな高等な貴族だとは思ってもみなかった。ちびりそう。いやこれ普通の反応だからな。緊張してきた…………。

 

 

「ではお通りください。そこな小さなお嬢様にも謁見を許可なさると言うことです」

「ありがとうございます……では行きますよ、慧音」

 

 

 謁見の許可なんて要らなかったのに。確かに屋敷は広いし庭も見ていて飽きないんだけど、それよりも切実に

 

 

 

 …………帰りてぇ。

 

 腹は痛いがこんなところで厠なんて借りられるほどの精神も持ち合わせていないし……これは間違いなく詰んだわ。

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっは、そう緊張しなくても良い。阿礼から聞くところによれば貴様は捨て子だったという。その歳だ、礼節も学んだことが無いだろう。楽にしていなさい」

「め、滅相もございません。然様に無礼な事を平民以下である私がどうしてできましょうか」

 

 

 冗談抜きで。目の前の人物はいうなればこの時代の日本のナンバー2のようなものだ。そんな人を前に無礼をはたらけるはずなんてないじゃないか。

 

「ふむ、この歳で身分を弁えるか。阿礼の教えも厳しいようだな。して、阿礼がこの子を連れてきた理由は教えてもらえるのだろうな」

「はい。お分かりのようにこの子はこの歳にして私の教えたことを瞬く間に、全て覚えてしまう聡い子です。既に智は大人をも凌ぐほどでしょう。この子ならばきっと()()()と同じ目で物を教えることができると信じての事でございます」

「……ほぅ、この子が…………俄かには信じられぬ。一つ試させてもらうとしよう」

 

 

 あの子? この子? 何言ってんだ?

 おらさっぱり理解できねぇぞ。

 

 俺の知能レベルがそこらの大人以上だってのは当たり前だ。前世含めればもう三十年くらいは生きているんだから中身はおっさんのそれと変わらない。

 この時代の文学はまだまだ全然学べてないから前世の知識フル活用だけどな。深い知識は大してないんだけど、今のところは何とかなっている。

 

「論語はご存じかな? …………では貴様の好きな一節だけで良い。暗誦してもらおう」

「そうですね……ではこれを。子曰、飯疏食飮水、曲肱而枕之、樂亦在其中矣、不義而富且貴、於我如浮雲」

 

 

 論語ならば何とかなるぞ。人生の役に立つ事ばかりだから結構覚えた。

 李白とか杜甫とかの漢詩は全然覚えていないが、幸いな事にこの時代は生まれてもいない。

 

 と言うかこれって若干今の生活(まだ一日目だけど)への皮肉を込めたような一節になってしまったが、阿礼様的には大丈夫なのだろうか。阿礼様に解雇されて働く場所がなくなったらいよいよ困るぞ。

 

「素晴らしい。それを選んだのも捨て子であったからこそであろう。これならばあの子に教えるに足るに違いない。ではすぐ案内させよう。阿礼はいつもと同じように武智麻呂(むちまろ)房前(ふささき)の所へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 何やらとんとん拍子に話が進んだようで、俺は阿礼様とは一旦別れて違う人の所に連れて行かれている。

 話の内容から察するに例のあの子の部屋に向かっていると思うんだが…………ここ、離れだろ。屋根のある渡りを歩いていたから気づきにくかったが、本邸よりは明らかに雰囲気が暗い。もちろん手入れはしてあるようだし掃除も行き届いているというのに、人の気配がほとんどない。

 

 

「こちらです。あの方は私共を見ると心持を悪くなさるので、お部屋の前までしかご案内できませんが。何かあればお呼びいただければすぐに参ります。ではまた後程お迎えにあがります」

「あ、ありがとうございます」

 

 使用人見るだけで機嫌悪くなるってどんな奴なんだよ。話を聞いている限りでは俺と同じくらいの子供だと思うんだけど……精神異常か何かのやべー大人だったりしないよな?

 なんだか急に怖くなってきたぞ。さっき不比等に謁見した時とはまた違った緊張が体を駆け巡っているんだが。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 はたして慧音が開けた戸の先にいたのは――――――

「ガキじゃないか」

「盗人かしら? いきなり入ってきてそんなに失礼な口を聞く人は今まで見たことが無いわ」

「いや申し訳ございません。不比等様より貴方の教育係を任されました、上白沢慧音と申します」

 

 

 慧音と部屋の主である少女とのファーストコンタクトは失敗である。初めにガキなんて言ってしまえばそうなって当然である。

 幸いなのは目の前の少女がガキと言う言葉の意味を知らなかったことか。目の前の少女は純粋な人間なのでもちろん歳は見た目通りである。餓鬼道すら知らない子供なのだ。

 

 良かったな、慧音。

 

 

 

 そんな慧音の言葉を聞いた少女はというと

「げ、父上?」だ。

 名を聞いた直後からどこか嫌そうに顔を歪めている

 分かったことと言えばこの少女が藤原不比等の実の娘であるという事くらい。

 

 

「あぁごめんなさい。どうしても父上は苦手なのよ。私は藤原妹紅」

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「は?」

 

 

 父親は藤原不比等。その娘だから妹紅…………ってそうじゃねぇか。何で俺はそれを忘れていたんだ?

 話だけではまだ娘だと断定できなかったから? それなら部屋に入った直後に気づけたはずだ。

 

 

 やっぱり黒髪だからかなぁ。頭の何処かで白髪だというイメージが固定されているし。と言うか黒髪妹紅って本当にいたんだな。正直考察勢が作った都市伝説かと思ってたわ。

 でもこう見ると可愛いわ。いや、俺はロリコンじゃないんで欲情なんてしないけど。

 

 

「慧音? は私と同い年くらいだけど父上に認められるくらいには賢いんでしょう? どうしてそんなに賢いの?」

「稗田を知っていますか?」

「兄上たちが彼女に学んでいるというのを何処かで聞いたことがあるわ」

 

 

 正史ならば将来的に目の前の少女は俺の真実を知ることになる。でも今はまだ教えるわけにはいかない。長命への憧れなど抱かせてはいけない。

 人間は人間として一生を終えるべきであり、生を全うすることこそが人間のあり方なのだ。そこに原作キャラとモブキャラの区別はない。

 

 それにきっと、死ねることが彼女にとっては良い事のはずなのだ。今はまだ分からないだろう。長命であるだけで死は存在する我々と、死すら存在しない蓬莱人。

 死ぬ事と生き続ける事、どちらが幸せかなど今の彼女にはきっと理解できない。

 

 だから俺は嘘を吐く。

 

「そうです、私は彼女の下でしばらく学んだのですよ。ですから私の知識は浅い物ばかりです。妹紅様を教えられるかどうかも不安ではございますが」

「妹紅で良いわ。そう言うの苦手なの。だから父上も私をこんな場所に押し込めているのよ。私が女だというのもあるんでしょうけど……それが無くても兄上たちは偉いわ」

 

 

 不比等にとって妹紅は厄介な子。世間にはできるだけ隠したい、きっとそんな子なのだ。

 とてもじゃないが后になれそうな子ではない。これから性格もどんどん変わっていく可能性はあるんだけど、妹紅に限ってはまあ有り得ないだろう。

 

 

 

 この時代で、さらに藤原という家名を背負っている不比等からしてみれば貴族とはこうあるべき、という型から完全に外れてしまった娘を愛する事などできない。

 俺にはそれがあまりにも悲しく、残酷な事のように思える。我が子を愛せないのは親の恥だと言いたいが、彼にも彼なりの理由があると思うと心の中ででさえ言えない。

 

「私から見れば妹紅も十分偉いと思いますよ。子にとって親から見捨てられることはなかなか受け入れられる事ではありません。私も捨て子でしたからそれはわかります。ですが妹紅はまだ不比等様を見捨ててはいない」

「そんなことないわ。父上は嫌いよ」

 

 

 妹紅にもいつか分かるときがくる。彼をまだ縋るべき親であると認識できているうちは見捨てていないのだ。俺なんかもう既に父上や母上の事は頭の片隅に追いやって思い出さないようにしているくらいだし。

 声はもう忘れてしまった。顔もはっきりとは思い浮かべられない。長く生きるなら親の名前も、顔も、全てを何もかも忘れてしまうかもしれない。

 

 俺にはそれが恐ろしくて仕方ない。そんな俺も蓬莱人にはいつか忘れ去られてしまう。

 そう、目の前の少女にも。きっと。




書籍はあまり履修できていない主人公

ここでの妹紅のモデルは不比等の長女藤原宮子(誕生時期のみ)
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