T.S.けーね (ロリ) は彼なのか?   作:ただし忠誠心は鼻から出る

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今は昔

「ねぇ、慧音はかぐやひめの事知ってるの?」

「かぐやひめ? ああ……あの都一の美人と噂の娘でしょうか。屋敷から出してもらえないと聞きましたが、妹紅はよく知っていましたね」

 

 結局妹紅の教育係的な事を任せられてから三年ほど経った。今日も俺は阿礼様と共に藤原家に来ているわけである。

 初めの方は緊張しまくりで使用人相手でもガチガチだったが、もう三年も経てば慣れたもので、案内無しで妹紅の部屋に行くことを許可されたくらいには信用も得られているようだ。

 

 

 だが三年経っても相変わらず妹紅は家庭の事情で屋敷から出ることは無い。屋敷の事情とはつまり不比等の事情という事でもある。

 もはや忌み子にも近い扱いで、使用人の中にさえも妹紅の事を良く思っている人はいない。

 

 

 そりゃ性格も歪んでしまうだろ。

 俺の前ではこうして純粋な子供を演じているように見える妹紅だが、不比等の話になると途端に本性が見え隠れするようになる。

 それでも彼を嫌っているわけではないんだよな。子供ってよくわからんわ。いや俺も見た目だけは子供なんだけどな? むしろ妹紅にも身長抜かされたけどな!

 

 まあ俺の身長が伸びない理由に関しては阿礼様が上手い具合に言い訳をしてくれた。『頭の発達が速いせいで身体の発達がとても遅いのだ』なんてかなり適当だったが……あれも人望のおかげなんだろうなぁ。流石は阿礼様だよ。尊敬してもし足りないわな。

 

 

 

 で、何の話だっけ…………ああそうだ。かぐや姫か。

 

 こいつぁ拙い。

 何が拙いってこの世界のかぐやひめと言えば蓬莱山輝夜で間違いない。そしてその輝夜のせいで妹紅は不老不死になってしまう。もちろん妹紅に死んでほしいわけではないが、不老不死にしてしまうのも可哀そうに思う。

 

 案の定不比等は輝夜の虜になってしまったらしい。妹紅は使用人同士の会話からそれを知ったとか。使用人の不注意じゃねぇか。

 

 

「私も見てみたいわ。ねぇ、連れて行ってよ。慧音と一緒なら父上もきっと許してくれるわ」

 妹紅はそのかぐや姫とやらに興味を持ってしまったらしい。当たり前だ。俺だって都中から絶賛されるほどの美人は見てみたい。

 

 妹紅も阿礼様も美人だが、輝夜はさらにその数段上を行くのだろう。元男だった身としては見たくないはずもないよなぁ。でも見れるはずが無い、というのが正直なところだ。

 

「それでたとえ屋敷に行けたとして、かぐや姫の顔を見る事はできませんよ。いくら不比等様の娘である妹紅と言えど武智麻呂様などのような立場ではありません。私に至ってはただの平民です。高貴な方は下賤な者の前に姿を現すことは無いのです」

かぐや姫(あいつ)平民でしょう? 父上に対して頭が高いんじゃないの?」

 あら可愛い。口では散々否定するけど、結局妹紅もお父さんっ子だ。

 それにしてもかぐや姫の身分が低いのは早々にバレてしまったようである。かなり聡い子なんだね。

 

 

 まあ冗談はさておき、かぐや姫の身分を除いて俺の話は嘘じゃない。力ある貴族の子であるといっても妹紅は娘。帝に嫁がせるために育てられているというのが一般人からの見方だ。

 それも間違いではないだろう。きっと次女となる娘は妹紅のような扱いを受けず、后となるために大切に育てられるだろうから。

 

 この時代の女というのはそれほど立場が悪い。よほどの特技でもなければ侍女が目指すべき最高位というほど。俺や阿礼様のような教育係としての女性は他にいないだろう。

 

 もし不比等がもう少し妹紅を気にかけていたら、あるいはかぐやひめに会う事も可能だったかもしれない。たらればなんて今更なんだけど。

 

「つまらないね」

 そういう妹紅を見ているとこちらも胸が痛くなってくる。子供のしたい事をさせてやれないもどかしさ。願いを聞いてやれない無力感。

 ならばせめて少しでもフォローして元気づけてあげないと。俺は大人だから。

「この世とはそういうものなのですよ。上手く行くことなどほとんどありません。思うままに生きられるのは帝や不比等様のような選ばれた方たちだけです。あるいは…………」妖か。

「どうしたの?」

「いえ、何でもありません。それよりも妹紅、もし不比等様がかぐや姫を嫁がせられたら姿を見る事も叶うかもしれませんよ」

 

 

 文字通りの無理難題を解くことができる()()がこの世にいるとは思えない。

 つまりこれはただの慰め。妹紅が真実を知ってしまえば、これは効力を失ってしまうだろう。

「不比等様を、御父様を信じてみてはいかがです?」

「そう……そうだよね。きっと父上ならかぐやひめも落とせるよね」

 

 

 落とすて…………ませてんなあ。俺も教えた覚えがないのにいったい誰が教え込んだんだよ。妹紅の部屋にそんな本が置いてあったりするのか?

 普通の子供なら読んでも分からんのだろうが、妹紅はこの俺が直々に教えた生徒だからそんじょそこらの子供とは脳が違うんだな。うんそう思っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局この日はかぐや姫の話を打ち切って勉強をさせた。そうでもしないと勉強しなさそうだったし仕方ない。

 

 

 それにしても妹紅にまでかぐや姫の噂が届いているということは、阿礼様ならばもっと詳しく知っているかもしれない。

「阿礼様は讃岐造(さぬきのみやつこ)について何か存じですか?」

 そう問うと、阿礼様はかなり驚いたような顔をした。かぐや姫は有名だが、それを育てた翁や媼の事は庶民の間ではあまり有名ではないからだろう。

 俺の情報源は大抵庶民なので、高貴な人たちの間では当たり前な事も俺は知らなかったりする。それも結構な頻度でそんな話を聞く。

 

 今阿礼様はこうして驚いたが、有名でないとはいえ今の造は無名の翁でもない。

 

 

 

 身分も何も無く、竹取りとして平民以下の生活を送っていた五十ほどの翁が、僅か三月ばかりの間に巨万の富を得て都に屋敷を構えるまでになったというのだ。

 光っている竹の中に黄金が入っている、と翁は言っているが、翁以外には誰一人として光る竹を見つけた者はいない。翁だけが竹林に入る度に数多の黄金を持って帰ってくるのだ。

 

 こんな翁の話を聞いて嫉妬する人々も多い。でもそれ以上に彼を見て元気づけられた人々がいるのが事実だ。かなりの歳になってもまだ成り上がれる可能性があることを証明したからだろう。

 まあ俺はそんなもので元気づけられないんだけど。あれは完全に特例だから。月の都のお偉いさんの御眼鏡に適ったのがあの翁だったというだけ。結局俺たちに関係の無い次元の話であることは変わらないんだよなぁ。

 

 

 

 そんなことをつらつら考えていたら阿礼様の方も復活したらしい。……復活といっても驚いていた顔を真面目に取り繕っただけだが。

 当たり前だが造の事はよく知っているらしい。不比等から聞くことも多いんだろうな。俺は子供の相手だけで良かったよ。

「妙な事もあるものよ。彼について分かるのは竹細工で細々暮らしてきたということ、あとはもうかぐや姫を見つけてからのことだけ。調べる時間がなかったとはいえこれは少なすぎるわ」

「かぐや姫の事についても俄かには信じられないような話しかないわね。造翁はかぐや姫を連れて近頃唐突に現れたけれど、彼曰くかぐや姫は竹の中から出てきた。三月の間に人差し指ほどの大きさから大人に成長した。何をとっても分からないことばかりね」

 

 

 つい一月ほど前急に現れた出自も何も分からない翁と、もはや夢物語かと疑うほど訳の分からないかぐや姫の物語。確かに信じがたい話ではある。

 

 

 それでも俺はこれが真実だと知っている。かぐや姫が竹の中から見つかったことも、三寸ばかりから立派な女性になるまで三月ほどしかかからなかったことも。そして地上にいるのはカグヤが月で禁忌に触れたからであることも。

 でもそれはかぐや姫の事。造の事ではない。結局彼の事は阿礼様にもよくわからないらしい。もう少し時間をかければ分かるのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 瞬く間に広まった噂話の勢いは衰えることを知らず、一月もすればかぐや姫の屋敷には男がわんさか集うようになった。

 我妻にしようと身分関係なく人が集まるので、かぐや姫の住む屋敷の庭はいつでもすし詰め状態である。その中には都で帝の次に権威のある藤原不比等もまた含まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 稗田阿礼は近頃少々困惑している。と言うのも、以前は藤原邸に行けば不比等が直々に顔を見せていたのに、最近は忙しいからと面会すらも断られているからだ。

 立場上の問題として処理しようとした彼女だが、彼女の優秀な脳がそれを許さない。

 

 

 不比等は阿礼の身分が今よりも低かった時分から気にかけてくれた数少ない人間の一人だ。彼女を可愛がっているのは確実。それでも会えない理由と言うのが彼女にはよくわからなかった。

 実は不比等はかぐや姫に会いに行っているせいで藤原邸にすらいないのだが、彼女がそれを知っているはずが無い。屋敷にはいると思っているのだ。

 

 

 それも別に不思議ではない。彼女が行くとき、つまり毎日不比等は屋敷にいたのだ。

 あの時から既にかぐや姫の屋敷には通っていたはずの不比等。では何故ここ最近は屋敷にいないのか。

 

 簡単な話である。

 

 まだ貴族の間でだけの噂だった頃は集う人も少なかったから時間に余裕があった。しかしここ最近は平民にも噂が広がり、少しでも気持ちを見せようと思うと早々から行って遅くまで粘らなければならなくなったのだ。

 不比等の付き人でさえかぐや姫に惚れ込んでしまう始末。

 

 

 

 やがてそれが一人減り、二人減り…………かぐや姫から難題が出される時はもうすぐそこだ。




進まねぇなぁ
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