T.S.けーね (ロリ) は彼なのか?   作:ただし忠誠心は鼻から出る

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お燐ちゃんに殺される夢を見た
死んで彼女の操る怨霊の一つになるのならアリ……?


或いは(うつつ)だったかもしれない(ゆめ)

「不比等様、不比等様ですよね? 手に持っていらっしゃる物は……そ、その枝は! いったいどこで手に入れたのです?」

 

 今日もまた藤原邸に行こうとしていた俺と阿礼様だが、大路に差し掛かった辺りで懐かしい影を見た。懐かしいと言ってもまだ二か月程度なのだが、それでも三年間ほぼ毎日見てきた身としては二か月でも随分と久しいように思える。

 

 そんな俺よりも行動が速かったのが阿礼様だ。普段運動している風でもないのに、俺が懐かしいと思っている間にもう不比等に詰め寄っていた。

 何故不比等が屋敷を空けていたかを知っている阿礼様は、旅装束のままの不比等と手に持っている細長い包みから中身を看破したようだ。

 

「なんじゃ阿礼と慧音か。この枝を手に入れるまでの冒険譚は祝いの席でしてやろう」

 

 

 蓬莱の玉の枝。まあ俺もわかっちゃいたけどさ、本当にやっちゃったんだなぁ。

 

 遂に止められなかった。妹紅が闇落ちするのを止められなかった。まあ闇落ちとはいっても特定の約一名に対してだけだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藤原家に嫁ぐことになりました。輝夜です」

 そう考えていたのに、そう考えていたのに! この現状はどういう事だ?

 取り立て鍛冶屋ども(やつら)が来なかったとでも言うのか?

 

 

 おかしい。完全におかしい。喜ぶべき場面で周りは皆歓喜に打ち震えているのに俺一人だけが全く喜べない。

 

 

 

 不比等は嬉々として旅の話をしている。輝夜を拾った翁と媼はめでたいめでたいと言い合っており、輝夜は取って付けたような微笑みを顔に貼り付けて佇んでいる。

 彼女にとっては心底嬉しいわけがないので当然のことだろう。失敗を確信して難題を出した結果、解かれてしまったのだから驚いてもいるに違いない。俺も不比等がいったいどんな手品を使ったのか、どうして輝夜を騙しとおせたのかが不思議で仕方ない。

 

 しかし次に不比等が放った質問とそれに対する輝夜の解答で思考が凍り付いてしまう事になる。

「輝夜はいつからこの屋敷に住むようになるのか?」

「一つ、条件さえ満たしていただけるなら今日からでも」

 そしてその条件と言うのが

「そこにいる子の都への出入りを禁止とすること」

 

 

 つまり俺を都から追い出すこと。それに対する不比等の答えは当然「是」

 不比等における俺の価値などただの妹紅の遊び相手程度でしかない。不比等自身が妹紅を忌み子のように扱っている現状では、俺がこの屋敷を出入りする意味もほとんどないと言える。元はただの阿礼様の差添人でしかなかったしな。

 

 不比等がここで輝夜の提示した条件を呑まない理由はない。自身の愛の前には他人の生活など無価値なものでしかないから。

 これに抗議しようと口を開くのは阿礼様。でも不比等は権力を振りかざして阿礼様の解雇さえちらつかせている。

 

 

「良いのですよ、阿礼様。こうなるであろうことは初めから分かっていました。阿礼様の教えを誰も引き継がないこと、それこそがこの国にとっての大損となりましょう。私一人が出て行けばすべてが解決するのですよ」

 輝夜は月人。穢れに対しては人一倍敏感なのだろう。俺が妖怪だと看破されるのは予想できていた。そもそも妖怪だと知って屋敷に置いていてくれた阿礼様が人間としてはおかしな部類に入っていたわけだ。

 

 でも、だからこそ彼女に迷惑をかけるようなことはしたくない。勝手に差添人を辞めることが彼女にとって多少の悩みの種となろうとも、それよりも大きな迷惑はかけられない。

 阿礼様は都で生きていくべき人間であり、人間に知恵を授ける師範であるべき人なのだ。

 

 

「私は本日を以て都を出ます。阿礼様……感謝の念は言葉では表せないほどで、一時でも貴方様に仕えられたことを大変誇らしく思います。お世話になりました」

 

 貴方はこんな俺との別れも惜しんでくださるのですか。たった三年と少しの付き合いに涙してくれるのですか。俺は貴方に何もしてやれなかったというのに。

 その人の良さが貴族の傲慢さを超える日を夢見て、もう二度と阿礼様(貴方)と会うこともないのでしょうね。

 

 

 

 ほんの少し、殺気とともに妖気を出せばこれに慣れていない人間たちは気を失う。起きているのは俺と輝夜だけ。

 

 

「ふん、やはり妖の類だったわね。早く都から出て行きなさい」

「言われずとも。私の歴史は全て私に戻る。これはきっと安らかな目覚めとなる。ではな輝夜姫。永劫の時を経てまた会おう」

「! 貴方はいったい………」

 

 

 その顔が見たかったよ。恐怖を感じるほどに美しい顔が驚愕に崩れる様を。でも美人ってやっぱりずるいわ。笑顔じゃなくてもまともな人間ならば卒倒しそうなほど綺麗なんだもん。

 

 でももう遅いよ。俺が歴史を喰えば、もうこの場に俺の事を上白沢慧音として認識できる人はいなくなる。だから驚いた顔の輝夜をよそに、部屋を出てから能力発動。

 

 

 都に俺はいなかった。

 

 

 

 

 あの中で俺の事を最も知らない輝夜はもう俺の名前はおろか、顔をも思い出すことができないだろう。付き合いの濃かった阿礼様も妹紅も、身近に()()がいた。それだけの情報しかもう残っていないだろう。

 

 廊下に出て、外に出る前に取り出したのは竹製の食器。俺がここにいたことの最後の証。全ての歴史を知る俺の最後の感謝をここに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さーてと、やることも無くなったし久しぶりに地元の村に帰ってみるかな。もしかしたら父上や母上もいるかもしれないし。

 まあいたところで歓迎されるとは思えないから夜にこっそり覗くくらいが関の山かねえ。あんまり人間には迷惑をかけたくないし、それを除いても生まれの村だからな。

 

 

 

 あー、それにしても改めてこれまでの十九年を振り返ってみればなんも上手くいってねぇなあ。訳も分からん間に半妖にされていたし、修行は効率悪いし、折角都に入り込んだのに輝夜とはほとんど接点もなかったからな。

 挙句の果てには一刻も早く都から出て行ってくれ、だし。初対面で言えるのはむしろ尊敬だな。コミュ力バケモンかよ。

 

 

 それに妹紅も。ほとんど何もしてやれないままに分かれることになってしまった。彼女の行く末を見届けることなく、妹紅の中では俺という存在が曖昧になってしまった。

 不比等が輝夜と婚姻を結んだ世界など俺は知らない。思わぬところで発現した小さな歪みによる世界の変動。

 

 

 ふと旅路を急いでいた足が止まる。

 

 これでは妹紅が輝夜を恨むことはありえなくなる。予想もしなかった方向から妹紅の不死を妨害する要素が生まれてしまった。怨みが無ければ怨霊となって彷徨うこともありえない。

 俺がいるからこそ生じたズレ。ともすれば藤原妹紅という人物が消去された世界としてこの世界は歪みを修正しだす恐れもある。

 

 

 考えれば考えるほど負の感情が脳を支配する。さっきまでは何の恐怖も覚えずにただ歩いていただけなのに、今となってはもう歩き出すこともできない。

 

 それでも本能は意識に関係なく働くようで、気づけば木の上の小さな洞で膝を抱えていた。もう暗い。妖怪の時間である夜も、今は旅を進める気になれない。

 今日はもう寝よう。頭をリフレッシュしよう。

 

 

 

 

 

 ここはどこだ。誰もいない空間に俺がたった一人。

 誰かを呼ぼうにも声が出せない。助けを求めようにも肢体が動かない。

 首から上だけが動く。金縛りにでもかかっているのだろうか。

 

 

 物音が聞こえた。ここにいるのは俺だけでは無かったようだと期待してそちらを向く。すぐさま後悔した。後悔させられたと言うべきか。

 そこにいたのはおよそ人の形をしていたのだろうと想像するのが精一杯なほどに身体が朽ち、崩れ落ちた白髪の少女だった。

 

 不自然に顔だけが無事であったおかげですぐに分かった。この娘は蓬莱人となった藤原妹紅であると。分かっても声には出せない。声が出ないから。もはや妹紅とも言い辛い少女は俺の方向へ這ってきた。言いたいことがあるのだろう。

 聞きたくない。聞かせないでくれ。手が動けば耳が塞げるのに。声が出れば掻き消せるのに。だが今の俺ができるのは目を逸らすことだけ。何の解決にもなりはしない。

 

 

 

 少女は怒鳴る。「お前のせいで私は朽ち果てたのだ」と。「私の人生を狂わせたお前を呪って怨霊と化けてやる」と。「輝夜より憎い奴に気づいてしまった」と。

 

 そして「お前のせいで私は生まれなかったのだ」と。

 

 

 

 俺はただ聞いて考えることしかできない。本来現れるはずだった蓬莱人の妹紅。俺がこの世界に入り込んでしまったがために生まれない可能性が出てきた蓬莱人の妹紅。俺を恨んで当然だ。怨んで、憎んで当然だ。

 

 彼女には手も足も無いのに頭に衝撃が走る。痛い。

 さらにもう一発。痛い。罪の重さだろうか。俺が生まれてしまったことへの怨みが架空の攻撃を成功させているのだろうか…………

「痛ったいなあ……あれ、声が出るようになったな」

「あら、目が覚めたのね。貴方、凄く魘されていたわよ?」

 

 

 夢……か。あまり覚えていないが何か酷い悪夢だったような気がする。目の前のガキも魘されてたって言ってるし相当だったんだろう。

 

「で、お前は誰だ?」

人間(食料)相手に名乗る必要はないでしょ? それにしてもまるで石のような頭ね。この私が叩き割ろうとしてもびくともしないなんて……」

「…………私は人間ではないぞ。ワーハクタクだ」

 

 

 人喰い妖怪っぽいしなんか半妖と言っても『半分は人間じゃん』とか言って喰われそうなのでそんなことは言わない。幸いこいつの頭は弱そうなのでカタカナ並べてりゃチンプンカンプンだろう。そもそもこの時代にはカタカナなんてないし。

 

「わーはくた……? 聞いたことも無いわ。でも人間ではないのね。食料じゃないなら私の事も教えてあげるわ。私は宵闇に潜む妖怪。名前はまだないわ。貴方は?」

「私は先ほども言った通りワーハクタ()の上白沢慧音だ。旅の途中だが、お前も共に来るか?」

「旅かぁ、面白そうね。まだ生まれて間もないし、一人で人間を襲うよりは同じくらいの奴と一緒にいた方が楽しめそうだわ」

 

 

 生憎俺は人肉喰わないけどな。まあこの金髪のガキんちょを連れて旅するなら人間を捕食しているところは嫌と言うほど見なけりゃならんだろうが。

 なんか妖怪補正かどうかは知らんが妙にグロ耐性はついてるんだよな。この世界じゃ喰う喰われるが当たり前に起こっているし助かるっちゃ助かる補正だ。

 

 

 

 

 それにしても

「私はこう見えても二十年近くは生きているぞ」

「えっ?」

 誰かの驚く顔ってのは良いね。こいつなら表情も豊かだし長旅でも飽きなさそうだ。




急展開で旅のお共ができました
次回は初めての他者一人称で進める予定
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