虹の向こうに   作:夏野 雪

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4月11日

僕とでろーんさんのパソコンにメールが届いたのは三日前のことだった。

 

『樋口様、夢追様。相談したいことがあるので、

小笠原にある有丸島(あるまじま)という無人島に来てほしいです。

島までの交通費と謝礼のお金を先に振込させて頂きます。』

 

メールの内容の通り僕の口座には五十万円が振込まれていた。

振込相手の氏名もメールの差出人と同一人物だった。

詳しい話を先に聞かせてほしいと返信をしたのだが、返事が返って切ることはなかった。

程なくして、でろーんさんからも同じメールが届いていると連絡を受けた。

でろーんさんとも相談し、とりあえず指定された島へ向かうことにした。

相談内容も気になるところだが、お金を返したいというのが僕たちの本音ではあった。

島へ行くにはバーチャル東京から船で向かうしかなく、片道がなんと24時間。

同じバーチャル東京内で移動時間が片道で一日かかるとは思ってもみなかった。

日頃忙しく、基本室内にいる僕たちにとって緩やかな時間が流れる船旅も

悪くないのかもしれない。

 

 

気晴らしにしては余りにも長い船旅は予定時刻通り、一日かけて無事に到着した。

有丸島は無人島になのだが、島にはONMホテルと呼ばれる無人のホテルがあった。

このホテルは予約すればペンションの様に使用できることになっていた。

よく夏季休暇時期や年末年始に大学生などが集団で利用していた。

但し、従業員や常備されている食料などはなく、掃除や炊事は

オールセルフとなっていた。

その他には一切の施設はなく、小さな幾つかの砂浜と森があるだけの島だった。

船着場からホテルまでは舗装された小道が蛇行しながら続いていた。

途中に何本かの脇道があるが全て行き止まりとなっていた。

船着場から見て、やや高台にあるホテルを目指して、

僕たちはゆっくりと歩き始めた。

「せやけど、何でこんな場所に呼び出すような回りくどいことすんねん。」

「ですよね。まぁでも、悪い場所じゃないですよね。」

僕は後ろを振り返ると、遮蔽物の一切ない大きな空と、どこまでも続いている

水平線。部屋の中にいては絶対に見ることのできない景色が広がっていた。

「まぁな。空気もうまいしな。許したるか。」

そう言うとでろーんさんは大きく背筋と手を伸ばし、

気持ち良さそうに深呼吸をした。

そうは言ったものの、僕自身は日差しと登り坂にやられ、それどころではなかった。

 

五分程登ったところにONMホテルは建っていた。

コの字型をした二階建ての建物の中央部、凹んでいる部分に大きなドアが見えた。

恐らく入り口だろう。二枚の木製のドアには金色の丸いドアノブとノッカーが

付いていた。経常的に恐らく観音開きになるのだろう。

呼び鈴のようなものは見当たらないので、このノッカーで合図を出すのだろう。

僕は二、三回ノッカーを鳴らしてみた。

しかし、一切反応はなかった。

仕方ないのでドアノブを回してみた。どうやら施錠はされていないようだ。

「開いてますね。」

ゆっくりとホテルのドアを開け、ホテルへと足を踏み入れた。

その瞬間、僕とでろーんさんの五感の一部が強烈に刺激された。

それは、視覚でも触覚でもなかった。嗅覚だった。

不快な強烈な臭い。鉄のような臭いと肉の腐ったような臭い。

それに潮の香りも混ざり、何とも言えぬ強烈な刺激臭が鼻を襲っていた。

「なんやこれ!?」

二人でほぼ同時に鼻と口を手で覆った。本能が危険を察知し、

二人はすぐに無意識の内にホテルを出ていた。

無駄かもしれないが少しでも換気をできればと思い、

ドアは開けたままにしていた。

「でろーんさんはここで待っててください。僕が見てきます。」

僕は持っていたハンカチで口と鼻を覆い、突入の準備をした。

「ありがとう。でも、無理はせんといてな。駄目やと思ったら、

すぐ戻って来いや。」

でろーんさんが何時になく真剣な表情で僕を見つめていた。

はい。とだけ返事をして、決心が揺るがぬ内に

僕は再びホテルへと足を踏み入れた。

 

玄関の正面には大きな木製の階段があった。

玄関左手側には『九号室』、『十号室』と書かれた部屋とがあった。

その対面、コの字の突き出した部分に位置するところには、

『リラクゼーションルーム』とかかれた大きめの部屋があった。

玄関右手側には『倉庫』、『キッチン』と書かれた部屋があり、

その対面には「ダイニング』と書かれた部屋があった。

玄関と階段を挟み左右対称のようになっていた。

僕は『リラクゼーションルーム』に入ってみることにした。

扉は玄関と同様に木製で金色の丸ノブが付いていた。

この部屋にも鍵は掛かってはいなかった。

ドアを開けた途端に先程より強烈な刺激臭が鼻を襲った。

しかし、先ほどと違い別の五感の刺激が嗅覚を勝った。

それは視覚だった。

「う、うわーーー!」

でろーんさんの前でカッコつけたのが台無しになるような

情けない悲鳴をあげてしまった。

「どないしたん!無事か!?」

その悲鳴を聞きつけ、でろーんさんも走って駆け付けてくれた。

「キャーーー!」

でろーんさんの聞いたことのない様な悲鳴がホテル内に響き渡った。

無理もない。

目の前には見慣れた仲間の亡骸が二体並んでいたのだから...。

 

 

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