4月6日 12時35分
昼食の担当は加賀美、黛、クレア、リゼとなっていた。
集合は十二時三十分だった。
二階の東側の廊下でクレアとリゼが合流し、二人で西側へ行く。
そして、加賀美と合流し、一階の黛の元へという流れだった。
極力、一人になる時間を減らすためであった。
三人は一階にある9号室の前にいた。
先ほどからノックで呼び掛けているのだが、一向に黛が出てこなかった。
「おかしいですね。」
加賀美が少し強めにノックを繰り返していた。
眠っているにしても、余りにも反応がない。
「何かあったんでしょうか?」
クレアの声が普段より大きくなっている気がした。
リゼも不安そうな表情でドアを見つめていた。
加賀美は恐る恐るドアノブに手を掛け、回してみた。
「カチャ」と音を立ててドアノブは回った。
鍵が掛かっていなかった。
「えっ。」
リゼとクレアが同時に声を上げた。
加賀美はそのままゆっくりとドアを押した
部屋の中には誰も居なかった。
三人の間を冷たい風が抜けた気がした。
その薄気味悪い冷たさは、部屋から抜け出した死神が三人の間を
笑いながら通り抜けていくような幻覚を見せていた。
「もしかしたら、先にキッチンに行っているかも。」
リゼが不安をかき消すかのように明るい声で言った。
心の中では黛の真面目な性格を考えれば、可能性が薄いことはわかっていた。
でも、今の三人にとっては微かな可能性にでも縋りたい気持ちだった。
「そうですね。キッチンを見に行きましょう。」
加賀美はドアを閉めると、東側にあるキッチンへと向かった。
三人が足早にキッチンに入ると、そこにも誰も居なかった。
しかし、9号室と違い室内には、はっきりとした異変があった。
キッチンには一階の廊下に出る以外に、もう一か所出入口があった。
部屋の北東には外に出るための勝手口があった。
そこは普段は鍵が掛かっていた。その鍵は室内からしか施錠も開錠も
出来ないものだった。
その室内からしか開けられないドアが開いていたのだ。
そのドアが開いていたせいだろう。キッチン内には潮の香りが充満していた。
それは嗅ぎ慣れた爽やかなものではなかった。
何か異質な臭いが混じっていた。その臭いは潮風と共に
開かれたドアの方から漂ってきているようだ。
三人は加賀美を先頭にし、ゆっくりと勝手口へ近づいて行った。
勝手口に近づくにつれて、その臭いも強くなっていた。
加賀美が勝手口から外を覗き込んだ。
そこに居たのは、やはり黛だった。
後ろにいた二人も続いて覗き込もうとした。
「駄目だ! 」
加賀美の大きな声に二人が小さく悲鳴を上げた。
「す、すいません。だけど、お二人は見てはいけない。」
加賀美から絶望的な一言が告げられた。
「お二人は健屋を呼んできていただけませんか? 」
「は、はい。」
リゼはクレアの手を取り、走ってキッチンを出た。
加賀美は目の前にいる黛の生死を敢えて確認をする必要もないと思っていた。
なぜなら、生死ははっきりしていた。素人目の加賀美にも予想はついていた。
後頭部には大きな傷があり、そこからは夥しい血が出ており、
傍らには凶器と思われる斧が落ちていた。斧にもべっとりと血が付いていた。
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健屋花那 手記より
死亡確認の前に勝手口のところで加賀美さんが声を掛けてくれた。
葛葉さんの確認も見るのが辛いものだったが、それ以上だと言われた。
確認しなくても死亡は明らかだから、無理して見なくても良いと言ってくれた。
でも、私はしっかりと見てあげたかった。
それが残った私に出来ること、しなくてはいけない事だと思っていたから。
一度、心を落ち着かせてから勝手口を出た。
加賀美さんの言っている意味が理解できた。
目の前には血の海に沈む黛さんがいた。
死亡確認,4月6日 12時50分
発見場所,ホテル一階の勝手口
被害者,黛灰
後頭部に大きな損傷。出血多量により死亡したと思われる。
傍に落ちていた斧で後頭部を殴打されたようだ。
恐らく一撃で
持ち物を確認したが鍵を持っていなかった。
自室の鍵も、うーちゃんの部屋の鍵も
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4月6日 13時20分 ONMホテル一階 ダイニングルーム
加賀美や健屋はもちろんであったが、全員が食欲が出ず
飲み物だけでもとることにした。
初日は満席だったダイニングルームの席は半分が空席となってしまった。
「どうして、黛さんは一人でキッチンに...。」
リゼがそう呟いたのは、健屋が黛の様子をオブラートに包みながら
説明し終えた時だった。
「そうだな。あれだけ念を押したのに。」
ため息をつくベルモンドの顔からも、流石に疲労の色が滲み出ていた。
「ああ。そうだ。実は社長と探したんだが、鍵が見つからないんだ。
ういはちゃんの部屋の鍵もだ。ういはちゃんの部屋には鍵が
掛ったままだった。誰か鍵を見てないか?」
ベルモンドの問いかけに答える者はいなかった。
健屋から黛が鍵を所持していない事を聞いた加賀美とベルモンドは、
すぐに黛の部屋を探しに行った。
しかし、いくら探しても二本の鍵が見つかることはなかった。
その結果、ういはの部屋は開かずの間となってしまった。
リゼ・ヘルエスタ 手記より
4月6日 21時40分(時間の部分が何重も黒丸で囲まれている)
廊下の方でドアが開くような音がした。
気になって外を覗いてみると、健屋さんが階段の方へ向かうのが見えた。
しかも一人で。
私自身の身も不安だったけど、健屋さんの身も心配だった。
でも、好奇心が無かったのかと言われれば嘘になる。
私もこっそり部屋を抜け出し、階段へと向かった。
でも、そこにはもう誰も居なかった。
ただただ夜の闇が広がっているだけだった。
急に背筋に寒気が走った。急に怖くなって、急いで部屋に戻った。
健屋さんは無事なのだろうか。一人でどこへ行ったのだろう。
加賀美 ハヤト 手記より
二十一時五十分だろうか。外で何か物音がした気がした。
黛さんが、あんなことになった時に一人で出歩く者なんていないだろう。
それか海風が窓を叩く音だろう。
確か葛葉さんの事件だったはずだ。あの事件でアリバイがあったのは、
クレアさん、ベルモンドさん、委員長、リゼさんの四人。
アリバイがないのが健屋さん、黛さん、私の三人。
その中で今、生き残っているのは二人。
もちろん。私は犯人ではない。
つまり、彼女なら黛さんの部屋の鍵をこっそり隠して、なかったことにも出来る。
それに薬に関する知識もあるはずだ。