4月7日 21時45分
社長からの手紙が部屋のドアの下に挟まっていた。
話がしたいから一人でリラクゼーションルームまで来てほしい。と書かれていた。
一体、どんな要件なんだろう。
誰にも言わないと、あの人と約束したことを社長に相談してみようかな。
こうなっちゃったら心配だし。
それに(何か文字のようなものが途中まで書かれているが解読不明)
4月7日 21時5分 ONMホテル
静寂に包まれていたONMホテル内に花火のような破裂音が響き渡った。
ほぼ同時に三か所の客室のドアが開いた。
「何だ! 」
ベルモンドが廊下を見渡した後で、急いで階段のところまで走った。
「何事ですか!? 」
すぐに美兎も階段のところに走ってきた。
「あれ? 二人は? 社長と健屋さんは? 」
最後に到着したリゼはきょろきょろと辺りを見渡していた。
異変に気付いた三人は走って二人の部屋に向かった。
まずは、加賀美の部屋へ向かった。
西側の廊下を通り5号室の前へ着くと、ノックもせずにベルモンドがドアを開けた。
中には誰もいなかった。
三人はドアを開けたまま東側へ急いだ。
6号室の前に着くと先ほど同様にベルモンドがドアを開けた。
予想はしていたが、やはり誰もいなかった。
「二人共どこに行っちまったんだ。」
「下に行ってみましょう! 」
ベルモンドと美兎はお互いの顔を見合うと、踵を返して階段へと走った。
リゼもしっかりとその後ろに続いていた。
三人は階段を下りたところで目に入ったリラクゼーションルームへ向かった。
ドアを開けると中は真っ暗だった。その時になって二階の客室に照明が燈っていたことに
初めて気が付かされた。
もう一点、窓から見える空が厚い雲に覆われ月や星が隠れていることに。
リゼが部屋のドア付近にあった照明のスイッチを入れた。
照らし出された室内には、やはり誰もいなかった。
続いて、ダイニングルームへと向かった三人は玄関の前を通過した。
玄関のドアが開いたままになっていたのだが、室内を調べることを優先させるため、
そのままダイニングへルームへと急いだ。
部屋のドアを開けるとリラクゼーションルーム同様に室内は真っ暗だった。
この部屋だ。三人は直感した。
理由は簡単だった。ドアを開けた途端、何かが燃えたような臭いがしたからであった。
ドアを開けると正面には大きなガラス張りの窓が見えた。
ガラス張りの窓の前は、いつも男性陣が座っていた席がある列だ。
五つ並んでいた席の一つに大きなシルエットが見えた。
誰かが座っている。
何も言わずに、リゼは照明のスイッチを入れた。
「社長...。」
美兎にはそれ以上の言葉が口から出せなかった。
椅子に座っていたのは加賀美だった。
白いワイシャツの左胸の辺りには黒い丸い焦げ跡と真っ赤な染みがゆっくりと
皆が見ている目の前で広がり続けていた。
加賀美の背面にあるガラスにはヒビが入っており、丸い穴が二か所開いていた。
リゼも美兎同様に言葉も出なければ、動くことすら出来ないでいるようだ。
ベルモンドはゆっくりと加賀美に近づくと、念のために脈を取ってみた。
「くそったれが...。死んでるよ。」
ベルモンドから告げられた現実に耐えかねたリゼが、力なく美兎の方へ倒れこんだ。
「リゼさん! 大丈夫!? 」
美兎は咄嗟にリゼを受け止めた。ベルモンドもすぐに駆け寄り、二人でリゼを椅子に座らせた。
「ベルモンドさん。健屋さんは...。」
美兎の不安そうな声がベルモンドを焦らせた。
ベルモンドは一度目を瞑り、自分自身の気持ちを落ち着かせた。
「リゼ。歩けるか?」
ベルモンドが屈みこみ、リゼの顔色をうかがった。
リゼの顔は真っ青になっており、体も小刻みに震えていた。
「委員長。リゼを部屋まで運ぶ。手伝ってくれ。」
美兎は頷くと、二人でリゼを支え、二階の4号室まで連れて行った。
リゼをベッドに座らせると、ベルモンドはリゼの肩を掴み、しっかりと目を見て話し始めた。
「リゼ。よく聞くんだ。今から俺と委員長で健屋を探してくる。俺たちがこの部屋を出たら、
すぐに鍵を掛けるんだ。鍵を掛けたら、誰が来ても絶対に開けるんじゃない。
俺と委員長の二人が戻るまで開けずに待っててくれ。
万が一、どちらかが戻ってきたり、二人とも戻って来なかったら、船が来るまで後十四時間だ。
それまで部屋から出ずに時間になったら走って船着場まで向かうんだ。」
後ろにいた美兎もリゼの肩に手を置いた。
「大丈夫よリゼさん。私もベルモンドさんも戻ってくるから。待っててね。」
美兎だって怖かった。残りたかった。でも、自分が皆を守らなければ。
その使命感にも似た責任感だけが美兎を支えていた。
リゼにも美兎のそんな気持ちが伝わったのか、肩に置かれた美兎の手を握りしめ無言で頷いた。
美兎も今できる精一杯の笑顔で応えた。
二人が部屋を出ると鍵が掛けられる音が聞こえた。その音を合図に二人は捜索を始めた。
まず二階の鍵の掛かった部屋を調べ始めた。誰かが潜んでいる可能性は低かったのだが、
調べずにはいられなかった。二人で順番に調べたが、友の亡骸以外には誰も見つからなかった。
一階に下りた二人は9号室と10号室を調べ始めた。
鍵が無くなった二部屋であったが、鍵が開いたままになっていた9号室には誰もおらず、
10号室には鍵が掛けられたままだった。どうすることも出来ないので、
残りのキッチンと倉庫の捜索を始めた。
倉庫内には保存食やロープやスコップなどの備品、使わなくなった物など様々な物が
置かれていた。物が多く置かれてはいたが狭い室内には人が隠れたり、
隠せるような場所もなかった。
続いて、キッチンも調べた。もちろん、人が入れそうな棚や冷蔵庫の中までも調べたのだが、
誰も見つけることができなかった。
リラクゼーションルームに戻ってきた二人は疲労と緊張からソファに座り込んでいた。
「どこにもいねぇ。外に出たってことか。」
ベルモンドは額の汗を手で拭った。
「ベルモンドさん。もしかして...。」
肩で息をしながら美兎はベルモンドをみつめていた。
その時、コツコツと何か小さな物がぶつかる音が聞こえてきた。
二人は音のする方を見た。雨だ。雨が降ってきていた。
音の正体は雨粒が窓ガラスに叩きつけられている音だった。
「ああ。犯人は健屋ってことになりそうだな。よく考えれば葛葉殺害時のアリバイがないのは
四人の中で健屋だけだ。」
「そんな...。」
美兎の声は雨音に掻き消されそうなほど小さくなっていた。
「ついて来てくれるか。」
ベルモンドは徐に立ち上がると、足早に部屋を出て行った。
美兎も慌てて追いかけると、ベルモンドは倉庫に入っていった。
すぐに出てきたベルモンドの手にはロープが握られていた。
「これで玄関のノブを固定しよう。中にいないなら、外からの侵入経路を塞ぐんだ。」
そう言うと、ベルモンドは開いたままになっていた玄関のドアを閉めると、
鍵を施錠しするとドアノブにロープを巻き付け、その先をすぐ横の照明用のランプの
土台に結び付けた。ピンと張ったロープが内開きのドアをしっかりと押さえ込んでいた。
「まぁ不格好だけど無いよりはましだろう。一旦リゼのところへ戻ろう。」
二人は一階の窓と勝手口の施錠を確認した後、二階の4号室へと向かった。
「リゼ。大丈夫か? 」
「リゼさん。戻りましたよ。」
今となっては三人では広すぎるホテル内にノックの音と二人の声が響いた。
それ以外では窓ガラスにぶつかる雨音たちだけが騒がしい演奏を続けているだけだった。
少し間があり不安になった二人であったが、ドアは無事に開かれた。
中からは不安に怯えるリゼが顔を覗かせた。
二人の顔を見たリゼは緊張の糸が切れたのか、そのまま床に座り込んでしまった。
「良かった...。二人共...。生きててくれた。」
床に座り込むリゼは、まるで子供の様に泣いていた。
美兎もその姿に涙を浮かべながら、リゼを優しく、そして強く抱き締めた。
「私が守るから。絶対もう誰も死なせないから。」
リゼ・ヘルエスタ 手記より
本当に健屋さんが犯人なのだろうか。
私には信じられない。
でも、もうそれ以外には
私は一体どうすれば。
誰を信じれば良いの
(水で濡れたような幾つかの染みが残っている)
夜が明ければ船が来る。
夜が明ければ
夜が明ければ
夜が明ければ
夜が明ければ
夜が明ければ
夜が明ければ
だれ。
だれが部屋をノックしてるの
どうしよう
だれ