虹の向こうに   作:夏野 雪

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4月5日⑷

  4月5日21時 ONMホテル一階 ダイニングルーム

 不破の亡骸そのままにしておくわけにもいかず、ベルモンドと

 加賀美が不破が使用していた3号室のベッドまで移動させた。

 有らぬ疑いがかからないように部屋には鍵をかけ、

 鍵はベルモンドが保管することになった。

 ベルモンドたちが戻ってくるのを待っている間に黛が

 警察へ連絡するために9号室へと向かった。

 実は今回の企画の指示で全員が携帯電話、スマホを

 持ってきていなかった。正確には預けていた。

 船に乗り込む際に港に居合わせた黛のマネージャーに

 預けていたのだった。

 企画終了後に返却される予定となっていた。

 この有丸島には固定電話は存在せず、唯一の外部連絡手段と

 なっていたのはアマチュア無線機であった。

 その無線は客室の9号室にしか設置されていなかった。

 無線機には古ぼけた使用マニュアルもついていた。

 

 他のメンバーはダイニングで待機していた。

「どうして...。どうして...。」

 ういはは不破の死を知ってから涙を流し続けていた。

 ういはを挟むようにリゼと健屋が座っていた。

 リゼはういはを抱き寄せながら肩を優しくさすっていた。

 健屋も心配そうにういはを見つめていた。

 ういは程ではなかったがクレアも涙を流していた。

 美兎はクレアの手をそっと握っていた。

 窓際に立ち外を眺めていたのは葛葉であった。

「言いたか無いんだけどさ。俺たちの」

「葛葉さん。わかってます」

 五人に顔を向けずに話す葛葉の言葉を美兎が少しキツめに遮った。

 皆の頭の中にある不安を悪戯に言葉にする必要を感じなかった。

 それに美兎にとっては仲間がこれ以上傷つくのを見たくなかったのだ。

「みんな! 大変だ」

 黛がダイニングルームに慌てた様子で戻ってきた。

「どうした?」

 ベルモンドの声がした。黛から少しばかり遅れて戻ってきたのだ。

 ベルモンドの後ろには加賀美も立っていた。

 健屋がベルモンドと加賀美にグラスを手渡した。

「お水です。二人とも大変で辛い仕事なのに本当にありがとうございます」

「ありがとうございます。力仕事ですし、あのような仕事を女性の方に

 させるわけにはいけませんから」

 出来る限りの笑顔で答えた加賀美はグラスを受け取りると水で、不安と

 緊張で乾いた喉を潤した。

「すいません。話の続きなんですけど、警察へ連絡できませんでした」

 黛が中断された話の続きを喋りだした。

「どうして!?」

 ういはが真っ青な顔を強張らせ立ち上がった。

「九号室の無線機が誰かに壊されていた.」

「他に手はないのか?」

 気がつけば、葛葉は窓に寄り掛かった状態で黛に話しかけていた。

「ないね。俺が聞いている話が本当なら三日後の八日の昼の十一時に

 迎えの船が来ることになってる。それまでは打つ手なしだね」

 黛はいつもの冷静な口調で絶望的な状況をはっきりと説明してくれた。

「それじゃあ...。」

 リゼは思わず言いかけた言葉を飲み込んだ。

 だが、ダイニングルームにいる全員には、その先の言葉を容易に想像できた。

 

『あと二日半も殺人犯と一緒にいなくてはいけないのか』

 

 夜になり強くなった海風が窓ガラスを叩く音だけが部屋に響いていた。

 誰かの気休めの言葉をまっているのか、しばしの沈黙が九人を包んでいた。

「なんで?」

 沈黙を破ったのは、儚げで震えた小さな声だった。

「黛さん...。」

 その声の主はういはだった。ういははふらふらと黛に近づいて行った。

「何でこんなことに...。」

 そう言うと、そのまま黛に向かって倒れこんでしまった。

「ういは!」

 力なく倒れこんできたういはを黛は何とか受け止めた。

 健屋もすぐに傍に行き、ういはの安否を確認した。

「...大丈夫よ。気を失っちゃったみたい。ベッドに運びましょう」

「いきましょう」

 黛と健屋は、ういはを支えながら部屋を出ていった。

「兎に角、どう足掻いても八日まではどうすることもできない。

 もしかしたら、殺人犯が島のどこかに潜伏しているかも知れない以上は

 基本的には二人以上で行動して、ホテル内で過ごしていれば犠牲者は

 出ないはずだ。皆はそれで大丈夫かな?」

 ういはの突然の失神に動揺が広がりつつある部屋の中で、

 ベルモンドは落ち着いた静かな声で指揮を執った。

「ええ。そうですね。皆で行動すれば問題ありませんよね」

 美兎も同様に冷静かつ優し気な口調で同意を示した。

「どうやら、そうもいかないみたいっすよ」

 葛葉の声だった。葛葉はダイニングテーブルに残されていた

 不破の食べかけのケーキを見下ろしていた。

「どういうことです?」

 そう言うと加賀美は足早に葛葉のもとへ近づいて行った。

 葛葉は何も言わずにケーキが乗っている皿の下を指差した。

 加賀美が目を凝らして見ると、皿の下に紙が挟まっていた。

 葛葉がその紙をゆっくりと引き抜いて裏返すと、

 そこには何かが書き込まれていた。

 加賀美は驚きの余り声が出ないようだった。

 葛葉はそこに書かれていた文言を静かに読み上げた。

「『犯人はこの食堂内にいる。そして、その犯人を探し出すことが今回の企画です』」

 海風が先ほどより強く窓ガラスを叩いた気がした。

 

 




健屋花那 手記より
ういはちゃんをベッドに寝かせた。
軽い貧血と精神的なショックが原因だろう。
念の為、持参した睡眠薬を黛さんに渡しておいた。
目が覚めたら、今度は眠れなくなってしまう可能性があったから、
その時に飲ませたほうが良いと伝えた。
時間が経てば心も落ち着きを取り戻すだろうから、
このまま安静にしていれば問題はないとは思う。


それにしても、このメンバーの中に犯人が本当にいるのだろうか。
いるとしたら一体...。

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