私たちの中に犯人がいる。
もしそうだと仮定したら、可能性が高いのはケーキを配膳した
黛さんと相羽さんだろう。
確かにケーキは全員が口にした。
でも、結果的に死んでしまったのは不破さんだけ。
つまり、ケーキが取り分けられ、皿に乗ってから
毒物のようなものを混入したことになる。
そうなると、二人の内のどちらかだとすれば、
犯行を目撃しているかもしれない。
そもそも本当にケーキには毒が入っていたのか?
部屋割やダイニングの席が指定されていたことに意味はあるのか?
何より犯人の目的は?
恨み?
妬み?
駄目だ。頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。
今日はもう寝よう。
部屋には鍵もしっかり掛けた。大丈夫だろう。
4月11日 15時25分 バーチャル東京湾海上 船内
樋口は何も考えずに海を眺めていた。
ようやく気持ちが落ち着いてきた。
ほんの数時間前、島で亡くなったメンバーの身元確認を警察から
依頼されてしまった。
夢追が自分だけでやるからと言ってくれた。
その一言と気遣いは嬉しかった。
でも樋口は自分だけが逃げるみたいで嫌だった。
一度ゆっくりと深呼吸をして息を整えた。
それから、樋口と夢追は一人一人の顔を確認していった。
亡くなっていたのは全て間違いなく、私たちの良く知る仲間たちだった。
頭の中では理解しているつもりだったけれど、
改めて目の前に現実として突きつけられるのはキツイものがあった。
なんで皆は、あの島に?
誰が大好きだった仲間を?
それに...。
樋口はスマホを取り出した。
画面には三日前に届いたメッセージが表示されていた。
パソコンに届いたものを転送したものだ。
結局、このメッセージは誰が送ってきたのだろうか。
この差出人の名前は身元確認をした中に居たメンバーの一人の名前だ。
だけど、
死者からのメッセージ。
「大丈夫ですか?」
樋口を現実に呼び戻した音に少し驚きながら声のする方に振り返った。
そこに居たのは夢追だった。
「あ。うん。大丈夫やで。」
「どうして、こんなことになっちゃったんですかね。」
夢追は樋口の横に並ぶと、少し前の樋口がそうしていたように、
ぼんやりと海を眺めていた。
樋口もまた海を眺めた。
「せやね。なんでやろうな。」
いくら見つめても青一色の広大な世界の中からは、
その答えを見つけることは出来なかった。
4月6日 7時40分 有丸島 南西部砂浜
普段この時間に目が覚めるということは珍しいことだった。
もし昨日のことがなかったとしたら、とても気持ちの良い朝なのだろう。
穏やかな風にさざ波の音が心を和ませてくれていた。
逆に昨日のことがなかったら、こんな時間に起きることもなかったと
考えると何とも皮肉なものだ。
クレアとベルモンドは二人で広くはない砂浜を歩いていた。
特に話をするでもなく、空を見上げたり、海を眺めたりしていた。
ホテルの部屋を出たタイミングが偶然にも重なり、
二人は散歩に出かけることにしたのだった。
「あら。」
砂浜に到着してから初めてクレアが声を発した。
ベルモンドがクレアの視線を追い、前方に目を向けると、
そこに立っていらのは葛葉だった。
一人で海を眺めているようだ。
二人が近づいていくと、葛葉も二人に気が付いたようだ。
「おやー?デートっすか?」
海を眺めていた時は無表情だった葛葉だったが、
二人を見つけると、何時ものように無邪気な笑顔を浮かべた。
ベルモンドは呆れた様子でため息をついていたが、
クレアは若干照れくさそうに少し顔を赤らめ笑っていた。
「俺がいたら、お邪魔かな?」
そう言うと葛葉はホテルがある方向へと歩き始めた。
「おいおい。一人じゃ危ないって言ったろ? 俺たちも一緒に行くから。」
「俺なら大丈夫っすよ! では、ごゆっくりー。」
葛葉は振り返ることなく、後ろ手に二人に手を振ると足早に歩いて行った。
葛葉も一人で居たいのかもしれないと思い、二人も無理に追いかけなかった。
二人の前には葛葉の足跡だけが、砂浜にぽつぽつと残されていた。