デート・ア・ディケイド   作:黒崎士道

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更新が遅れてしまいました!

では、いよいよ十香編もラストに突入です!どうぞ!


天分かつ剣

オレンジ色の夕日に染まった高台の公園には今、士と十香以外の人影は見受けられない。

時折遠くから自動車の音や、カラスの鳴き声が聞こえるだけの、静かな空間だった。

 

「おお、絶景だな!」

 

十香は先ほどから落下防止用の柵から身を乗り出しながら、黄昏色の天宮市の街並みを眺めている。

この天宮市の街を一望できる見晴らしのいい公園は士のお気に入りの場所でもある。

 

「ツカサ!あれはどう変形するのだ⁉︎」

 

十香は遠くを走る電車を指差し、目を輝かせながら言ってくる。

 

「残念ながら電車は変形しないな」

 

「何、合体タイプか?」

 

「まあ、連結くらいはするな」

 

「おぉ」

 

士の説明に十香は妙に納得した調子で頷くと、くるりと身体を回転させ、手すりに体重を預けながら向き直った。

夕焼けを背景に佇む十香の姿は、それはそれは美しくて、一枚の絵画のような美しさだった。

 

「ーーそれにしても」

 

十香が話題を変えるように、んー、と伸びをした。

そして、にぃッ、と屈託のない笑顔を浮かべる。

 

「いいものだな、デェトというのは。実にその、なんだ、楽しい」

 

「そうか……今日は俺も楽しかったよ」

 

そう言いながらも士は、十香の顔を見て少し顔が赤く染まっていた。

 

「どうした、顔が赤いぞツカサ」

 

「……気のせいだよ」

 

士は顔を逸らしながら誤魔化す。

 

「ーーどうだった?お前を殺そうとするやつなんて一人もいなかっただろ?」

 

「……ん、皆優しかった。あんなにも多くの人間が、私を拒絶しないなんて。私を否定しないなんて。ーーあのメカメカ団……ええと、なんといったか。エイ……?」

 

「ASTか?」

 

「そう、それだ。街の人間全てが奴らの手の者で、私を欺こうとしていたと言われた方が真実味がある」

 

「おいおい……」

 

流石に十香の発想が飛躍しすぎていて、士は思わず苦笑した。だがその直後、十香は何かを思い詰めるような表情をする。

 

「だが、私は壊していたのだな。こんなにも美しく優しい世界を。ASTが私を打ち倒そうとする理由が知れた」

 

十香は弱々しく、痛々しい笑顔でそう言う。

 

「ツカサ、やはり私はいない方がいいな。私が現界する度にこの素晴らしい世界を破壊するのならば、いっそのこと……」

 

「そんなことさせるか!」

 

士は十香の言葉を遮り、叫ぶ。士は目の前で誰にもそんな絶望したような顔をさせたくなかった。顔を俯かせていた十香が顔を上げる。

 

「今日は空間震が起きてないじゃないか!もしかしたら、空間震を発生させずにこっちに来たり、この世界に留まれる方法だってあるかもしれないじゃないか!」

 

「で、でも、あれだぞ。私は知らないことが多すぎるぞ?」

 

「そんなの、俺が全部教えてやる!」

 

「寝床や食べるものだって必要になる」

 

「だったら俺の家に来ればいい!」

 

「予想外の事態が起こるかもしれない」

 

「俺が守ってやる!予想外の事態なんか起きてから考えればいいだろ!」

 

十香は少しの間黙り込んでから、小さく唇を開く。

 

「……本当に……本当に、私は……生きても良いのか?」

 

「当たり前だ」

 

「この世界にいても良いのか?」

 

「そうだ」

 

「…そんなことを言ってくれるのは、きっとツカサだけだぞ。ASTはもちろん、他の人間たちだって、こんな危険な存在が近くにいたら嫌に決まっている」

 

「知ったことかそんなもの……ッ!俺は世界の全てを敵に回しても、たった一人のために戦う!十香、お前は俺の大切な存在だ!だから俺はお前を守る!それだけのことだ!たとえ、世界がお前を否定しようとするなら!俺がそれよりずっと強くお前を肯定してやる‼︎」

 

士はそう叫び、十香に向かって手を差し出す。

十香の肩が、小さく震える。

 

「握れ!今はーーそれだけでいい!絶対に俺が守ってみせる!」

 

士は十香の言葉を遮ってまでも、力を持つだけで他の人間となんの変わりもないこの少女が殺されることだけは嫌だった。目の前で苦しんでいるというのに、それでも助けないなんてことは出来ない。

 

「ツカサ…」

 

十香は意を決し、士の手を握ろうとした瞬間。士は何かを感じ取り、背中に寒気が走った。

 

「十香!」

 

士は咄嗟に十香を突き飛ばした。十香はそのまま衝撃に耐えられず、ごろんと後ろに転がった。

そしてーー

 

「ーーーーーーがっ⁉︎」

 

士は自分の腹に凄まじい衝撃を感じ、その場に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

二人がいた公園の一キロ圏内にある高台で、ガシャン、という音と共に士を貫いた対精霊巨大ライフル〈CCC〉が倒れた。

先ほどそのライフルの引き金を引いた人物は、AST隊員である鳶一折紙である。彼女は精霊である十香を発見し、十香を仕留めるために〈CCC〉の引き金を引いた。外れる要素は微塵もなかった。

ーー士が十香を突き飛ばさなければ。

折紙の放った弾はーー十香の代わりに士の身体を、綺麗に削り取った。

 

『折紙ッ!折紙ッ!』

 

通信機から上司である日下部燎子の声が聞こえるが、折紙はそれに反応することが出来なかった。ただただ、自分がやったことの恐ろしさに身動きが取れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

十香はゆっくりと倒れた士に近づき、彼を見つめる。

 

「ツカサ……」

 

名を呼ぶが、返事はない。ただ、彼の腹に開いた大きな穴からおびただしい量の血が流れ出るだけだった。

 

「ツカーー、サ…」

 

十香は士の頭の隣に膝を折ると、その頬をつついた。

だが、反応はなかった。

 

「ぅ、ぁ、あ、あーー」

 

数秒の後、頭がようやく状況を理解し始める。

 

その時、十香の足元に何かが当たった。十香は足元を見ると、見覚えがあるものが目に入った。

そこには衝撃で士のポケットから飛び出したディケイドライバーとライドブッカーが落ちていた。十香はそれらを拾い、その身に羽織っていた制服の上着を士にかけ、ドライバーをその側に置く。

 

そして、十香はゆらりと立ち上がると、顔を空に向けた。

 

ーー嗚呼、嗚呼。

一瞬ーー十香は、この世界で生きられるかもしれないと思った。

士がいてくれれば、なんとかなるのかもしれないと思った。

すごく大変で難しいだろうけど、できるかもしれないと思った。

 

だが、やはり、駄目だった。

 

この世界はーーやはり十香を否定した。

 

 

「ーー《神威霊装・十番》……ッ」

 

瞬間、周囲の景色がぐにゃりと歪み、十香の身体を荘厳なる霊装が纏う。

十香は地面に踵を突き立て、そこから巨大な剣が収められた玉座が出現する。十香はトン、と地を蹴ると、玉座の肘掛けに足をかけ、背もたれから剣を引き抜く。

そして。

 

「ああ」

 

のどを震わせる。

 

「ああああああああああああああ」

 

天に響くように。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああーーーーッ‼︎」

 

地に轟くように。十香は吼えた。

 

「《鏖殺公》ーー【最後の剣】‼︎」

 

刹那、十香が足を置いていた玉座に亀裂が走り、バラバラに砕け散った。そして玉座の破片が十香の握っていた剣にまとわりつき、そのシルエットをさらに大きなものに変えていく。

全長10メートル以上はあろうかという、長大に過ぎる剣。

 

十香は剣を握る手に力を込めると、瞬きほどの間も置かず、士を撃ち抜いた少女、鳶一折紙のいた高台に移動していた。

 

「嗚呼、嗚呼。貴様だな、我が友を、我が親友を、ツカサを殺したのは貴様だな」

 

その時、折紙は始めて表情を歪めた。しかし、そんなことは十香にはどうでもよかった。

 

「ーー殺して壊して消し尽くす。死んで絶んで滅に尽くせ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 士

 

 

「……うっ」

 

腹に妙な熱を感じ、士は起き上がる。視線をそこに向けると、そこには炎が士に開いた穴を舐めていた。一瞬疑問に思った士だが、そこであることに気づいた。

 

「…って、あっつぅぅぅ⁉︎え、なんで⁉︎なんで俺生きてんの⁉︎」

 

今更、腹にくすぶっている炎の熱に士は跳ね起きる。

再度腹に開いた穴を見てみるが、すでに穴は塞がり、傷は治っていた。色々と謎だが、今はそれどころではない。士は側に置いてあったディケイドライバーとライドブッカーを拾い、十香を探すと同時に凄まじい轟音が響き渡る。

急いでそちらを見ると、そこには巨大な大剣を振り回し、周囲の全てを破壊している十香がいた。

 

「くそ!やめろ十香!」

 

士は十香を止めようと、彼女の元に走り出そうとした時だった。

 

「うおっ⁉︎」

 

突然の浮遊感が士を襲う。気がついた時には、士はフラクシナスの艦内にいた。

 

「つかさあああ!心配したぜぇ無事でよかったああ!」

 

「うお、キバット!」

 

フラクシナスに着いて間も無くキバットが号泣しながら士に突っ込んでくる。その勢いで士は倒れそうになるが、なんとか持ちこたえた。

 

「やあ、散々な目にあったね士」

 

「大樹…士道……」

 

そこで控えていた大樹と士道が士に歩み寄る。

 

「さて、琴里ちゃんからの伝言なんだけど、今十香ちゃんが君が殺されたことで暴れまくっているんだ。そこで、王子様である君が十香ちゃんにキスして彼女を救うってわけ。理解できた?答えは聞いてないけど」

 

大樹はそんなことを言いながら士の服の襟を掴んでそのまま引きずっていく。そして連れて来られたのは艦体下部にあるハッチに連れこまれた。

状況が理解できない士はいきなりこんなところに連れこまれたため、状況を確認しようと背後にいる大樹に声をかける。

 

「な、なあ…まだ全然状況が理解できないんだけどーーー」

 

「じゃあそういうわけで、いってらっしゃい」

 

士は最後まで言葉を発せなかった。士は背後に衝撃を感じると、妙な浮遊感に襲われた。フラクシナスに回収されたわけではない。士は後ろを振り返ると唖然とした顔の士道と、足をこちらに突き出し凄くいい笑顔の大樹が目に入った。

それだけで士は自分に起きた事を瞬時に理解できた。

 

「覚えてろよてめええええええうわあああああああああああああああああ‼︎」

 

士は自分を蹴り落とした大樹に叫びながら、そのまま落下していく。

 

 

 

 

「なあ、大丈夫なのか?あれ……」

 

「…………まあ、大丈夫じゃないかな?士だし」

 

「理由になってねえよ……」

 

「……失敗したら…そりゃまあ、地面に綺麗な花が咲くよ。真っ赤な」

 

「やばいだろそれ⁉︎」

 

士が蹴り落とされた後、フラクシナスの艦内ではそんなやりとりがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音と共に周囲が吹き飛ばされていく。十香は剣を振り回し、衝撃波を折紙に放ち続ける。折紙は随意領域でどうにかそれを防いでいるが、それ以外は何もせず、ただその場にへたり込んでいた。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああ‼︎」

 

十香は剣を上段に振り上げると、雄叫びと共に折紙に振り下ろす。一瞬、抵抗した随意領域だったが、次の瞬間にはクレーターを形成しながら消滅した。

その折紙に十香は剣を突きつける。

 

「ーーーー終われ」

 

十香が剣を振り上げ、それを振り下ろそうとした瞬間。

 

「十おおおおお香ああああああああああああああああああああああああ‼︎」

 

はるか上空から聞こえた声に十香は目を見開き、空をふり仰ぐ。すると、上空から一つの影が猛スピードで落ちてくる。

 

それはーー折紙に撃ち抜かれたはずの士だった。

 

「ツーーカサ…?」

 

不意に士の身体が落下の重力に抗うようにふわりと浮かぶ。十香はそのまま士の元に飛んで行くと、士の身体を抱きとめる。

 

「ツカサ……本物か?」

 

「幽霊に見えるか?心配かけてごめんな、十香」

 

士のその言葉に十香は目じりに涙を浮かべると、そのまま士に抱きつく。

 

「ツカサ、ツカサ、ツカサ……‼︎」

 

「ああ、なんーー」

 

なんだ、と答えかけたところで士の視界の端に凄まじい光が満ちた。

十香が握っていた剣が、あたりを夜闇に変えんばかりに真っ黒に輝いている。

 

「十香!これは⁉︎」

 

「【最後の剣】の制御を誤った……!どこかに放出するしかない……!」

 

「どこかって、一体どこに…」

 

十香は地面の方に目を向ける。士も十香につられてそちらを見ると、そこには今にも瀕死状態で倒れている折紙がいた。

 

「いや駄目だぞ⁉︎流石にあそこは駄目だぞ⁉︎」

 

「ではどうしろというのだ!もう臨界状態なのだぞ!」

 

そういっている間にも、十香の握る剣は辺りに黒い雷を撒き散らしていた。まるで機銃掃射のように地面を抉っていく。

 

士は先ほど大樹に言われた言葉を思い出した。正直信じられないし、抵抗しか感じない。だがーー

 

「十香……何とかなるかもしれないっ!」

 

「なんだと⁉︎どうするのだ⁉︎」

 

今はこの方法しかない。士は覚悟を決める。

 

「えっと…ちょっと破廉恥なことになるけど……十香は俺を信じてくれるか?」

 

「当たり前だ‼︎」

 

そう言った十香の唇に士は自分の唇を押し付けた。

 

「ーーーッ⁉︎」

 

力一杯に目を見開き、声にならない声を上げる十香。

 

十香の唇は、柔らかくてしっとりしていて甘い匂いまでしてそんな感覚感触が士の脳内を駆け巡った。キスはレモン味とか聞いたが、実際は十香が昼間に食べていたパフェの味がした。

一拍おいて、天に聳えていた十香の剣にヒビが入り、バラバラに霧散して空に溶け消える。

次いで、十香がその身に纏っていた霊装から光の粒子が放出され、その色を失う。それが士の身体に吸い込まれ、一瞬士の身体が輝き出したと思うとすぐに消えた。

二人はそのままゆっくりと地面に降り立つ。

 

「今のはーー」

 

「多分成功……かな」

 

不思議そうに唇に指を触れさせていた十香に士は苦笑いでそう応える。

 

「十香ーーッ⁉︎」

 

瞬間、士は何かの気配を感じた。だが、それを察した時には、士と十香を謎の爆発が襲いかかった。

 

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