イマジンとファンガイアは突如現れた何者かの手によってあっという間に爆発し、消滅した。
突然目の前に起きた出来事にディケイドとルシファーは動揺を隠せなかった。
「なっ⁉︎」
「っ⁉︎誰だ!」
ルシファーは怪人を倒した人物に向かって叫ぶ。そして、爆発によって生じた砂埃から一人の少女が現れた。
翠色の水晶のような透きとおった瞳に黄金の美しい髪を後ろに束ね、一つ間違えれば美少年と捉えてしまいそうな愛らしさと凛々しさを兼ね備えた顔立ち。
その身に纏う蒼を基調としたドレスに神々しい白銀の甲冑を着けた姿は、まるでーー物語の中に出てくる騎士を思わせた。
ディケイドはその美しさに見惚れてしまっていた。だが、同時に少女を見てたった一言だけが口から出ていた。
「ーー精霊」
ディケイドは少女のその姿だけでもそう確信することができた。少女のその雰囲気は初めて出会った時の十香に似たものだったのだ。
少女はその左腰に携えた鞘から柄を握り、虹のような幻想的な輝きを放つ刃を持つ西洋剣を抜き取るとディケイドと向き合う。
「問おう、私を呼んだのは貴方か?」
少女はその翠の瞳でディケイドを見つめながらそう問いかける。
ディケイドは声が出なかった。
突然の出来事に混乱していたわけでもない。ただ、目の前にいる、その少女のあまりの美しさに言葉を失っていた。
「君は…一体……」
「私は精霊です。貴方が私を呼び出したたのだから、確認するまでもないでしょう」
そう言った精霊の少女は何を当たり前なことを聞いているんだ、と言わんばかりに即答する。
だがディケイドは少女の言葉がなに一つ理解できていない。
「ちょっと待った!俺が君を呼び出した⁉︎」
「違うのですか?」
少女は不思議そうに可愛らしく首を傾げる。そんなふうに言われてもこっちが困る。
「違うどころか、全く心当たりがないんだけど」
「なら、貴方は何者ですか?」
少女は再び問いかけてくる。その問いにディケイドは困惑しながら答える。
「えっと……通りすがりの仮面ライダー…かな?」
ディケイドがそう言うと、少女は怪訝そうな表情をする。
「か、かめん…ライダー?何ですかそれは?」
まあ、それが普通の反応だろう。ディケイドは仮面の内側で苦笑を浮かべていると、背後からルシファーの声が聞こえてくる。
「驚いたな。ディケイドを倒すつもりが、まさか精霊が出てくるとは」
少女はディケイドを守るように前に立ち、カオスアームズになったルシファー向かって剣を構える。
「何者だ?」
「仮面ライダールシファー……それ以外にお前に教えることはない」
ルシファーはそう言って腰に携えたヴォイドセイバーを抜き取る。
「下がって」
ディケイドは片手で少女を制し、ルシファーの前に立つ。
そしてディケイドはライドブッカーからカードを取り出し構える。
「変身!」
《KAMEN RIDE・FAIZ》
ディケイドを赤い光が包み込み、光が収まるとその姿を変える。Φの文字を模したような金色に光る円形の複眼。全身の鎧を走る赤いエネルギーの血流ーーーフォトンストリームが輝く。
悪しき行い全てが黒く濁ったものではないことを教えてくれた戦士、仮面ライダーファイズだ。
「貴方は一体……」
ディケイドの変身に少女は驚愕している。
ディケイド・ファイズは専用武器のファイズエッジを構え、戦闘態勢に入る。
ルシファーもヴォイドセイバーの切っ先をディケイド・ファイズに向ける。
「また違う姿か…面白い」
「いくぞ!」
その言葉を合図にディケイド・ファイズはファイズエッジを、ルシファーはヴォイドセイバーを振り上げ、地面を駆けた。二人の武器がぶつかり合い、火花が散る。
二人は鍔迫り合いを行いながら、横走りでその場から離れ互いに後ろに飛び退き距離を取る。
「はあっ!」
ルシファーのが振り下ろす刃をディケイド・ファイズがファイズエッジで防ぎ、ルシファーの腹部に蹴りを入れる。ルシファーはヴォイドセイバーでディケイド・ファイズのファイズエッジを弾き飛ばすと、そのままディケイド・ファイズに斬りかかった直後、ディケイド・ファイズを蹴り飛ばす。
「甘いな」
「だったらこれでどうだ!」
ディケイド・ファイズがファイナルアタックライドカードを取り出そうとした時だった。
「精霊を確認。総員、攻撃開始!」
ディケイド・ファイズは少女の方を見ると、いつの間にか彼女の周りを十数名のAST隊員たちが取り囲んでいた。
ASTは少女に向かってミサイルや銃弾を発射するが、少女はその手に持つ西洋剣で全てを斬り裂いていた。
「っ⁉︎まずい!」
ディケイド・ファイズはASTの攻撃を受けている少女の元に行こうとした。
だが、ルシファーがその前に立ちはだかり、ヴォイドセイバーを変形させ、ソードモードからガンモードへ変化させた。
「戦いの最中によそ見とは、舐められたものだ」
ルシファーはヴォイドセイバーの銃口をディケイド・ファイズに向け、引き金を引く。至近距離で数発の銃弾ディケイド・ファイズめがけて飛来する。
「ちっ!」
ディケイド・ファイズは苦悶の声を上げるも、瞬時にファイズエッジを盾のように構えて後ろに飛び退く。僅かに銃弾が腕と足をかすめたが気にする余裕はなかった。
《ソイヤ!カオスオーレ!》
ルシファーはブレードを二回振り下ろすと、ヴォイドセイバーの刀身を紫色の光のエネルギーが纏いディケイド・ファイズに放たれる。ディケイド・ファイズはファイズエッジを盾にしてかろうじてそれを受け止めた。
「ぐぅっ…!」
ディケイド・ファイズは早くASTから攻撃を受けている精霊の少女の元に一刻も早く行かなければならないというのにルシファーがその行く手を阻む。
ディケイド・ファイズは苛立ちながらファイズエッジを握る手に力を込める。
「……あれ?」
「ん?」
激戦を繰り広げている中、ディケイド・ファイズとルシファーは視線を感じ少女の方を向くと、彼女の周りに結界のようなものが張られているため、ASTの攻撃は彼女に届いていないが、ASTが取り囲んでいるにも関わらず少女はディケイドたちの戦闘を見ていた。
少女はディケイド・ファイズとルシファーの方に向かって片手を掲げ、叫ぶ。
「《神帝閃光》(ウリエル)!【神滅槍】(グングニル)‼︎」
瞬間、少女の背後に虹色に輝く翼が出現する。その美しさに一瞬魅了されたディケイドだったが、あることに気がつく。その翼にはそれぞれ七色のひし形の宝石のようなものがあったのだ。
その内の青色の宝石が光を放ちだしたと思うと、その光は細長い形に変わり、少女の前に浮遊する。少女は手を伸ばしその光を掴むと、光はたちまち姿を変える。
現れたのは、蒼い槍だった。彼女の背丈より少し長く、刃先には三本の刃が取り付けられた槍だ。
少女はその槍を逆手を持つと、大きく構える。そう、まるでーーーこちらに投擲するかのように。
「……は?え、おい、ちょっと⁉︎」
ディケイド・ファイズは少女の突然の行動に戸惑いを隠せない。それはルシファーの方も同じようだ。
「おい!お前あいつに何した⁉︎」
「俺が知るか⁉︎」
ルシファーとディケイド・ファイズが揉めている間に少女の持つ槍に蒼いエネルギーが溜められて行き、それは次第に肥大化している。
そしてーーー
「はああああああああああああ!」
少女は巨大なエネルギーを纏った槍を放つ。その衝撃で周りにいたASTたちは吹き飛ばされ、槍が通る跡は木っ端微塵に破壊されていく。
「ええええええ⁉︎」
「ちっ!」
ルシファーは舌打ちを鳴らすと、出現した灰色のオーロラの中に逃げ込む。そして、取り残されたディケイド・ファイズはというとーー
「うおおおおおおおおおおおおおお⁉︎」
全力で槍から逃げていた。それはもう勢い良く、シュールなんて言葉知るかというくらい全力で。
しかし、槍はどんどんディケイド・ファイズに迫ってくる。
ディケイド・ファイズは走りながらライドブッカーからカードを取り出し、バックルに挿入する。
《FORM RIDE・FAIZ ACCEL》
ディケイド・ファイズの胸部アーマー・フルメタルラングが展開して肩の定位置に収まり、赤色だったエネルギー流動経路のフォトンストリームは銀色のシルバーストリームに変化する。
これがファイズの超高速形態にして強化形態のフォーム、ファイズアクセルフォームだ。
そんな凄いファイズのフォームを今この状況で使うのはどうかと思うのだが、そんな事を考えている暇はない。
ディケイド・ファイズアクセルフォームは左腕に装着された腕時計型の装備『ファイズアクセル』のスタータースイッチを押す。
《Start Up》という音声と共にディケイド・ファイズアクセルフォームの姿がその場から掻き消えたかのように見えた。正確には消えたのではなく、カブトの『クロックアップ』と同様に常人の眼では追いきれないほどの超加速に移行したのだ。
だが、ファイズアクセルフォームの場合はクロックアップと比べて制限時間がたったの十秒だ。ディケイド・ファイズアクセルフォームはその十秒の間に急いでその場からかなり遠くの場所を目指して走る。
《Three》
《Two》
《One》
《Time Out》
ファイズアクセルのカウントダウンが終わり、ディケイド・ファイズは超加速から解除され周りの動きが元に戻る。
ファイズから元に戻ったディケイドは先ほどまで自分がいた場所を見ると、そこは跡形もないと言って良いほど破壊されていた。あんな攻撃が自分に当たったらと思うと悪寒が走る。
ディケイドはその場から人目につかない路地裏に入ると突然浮遊感に襲われた。
フラクシナスに回収されたと気が付いたのは、仁王立ちでディケイドを待っていた般若のような形相の琴里に制裁を受けてからだった…。
「で、何か言うことはある?」
「……申し訳ありませんでした」
変身を解除した士はフラクシナスの艦橋にて艦長席に座りこちらを見下している琴里に向かって土下座をしていた。それほど状況は深刻なものだった。
「あの短時間で私に黙って勝手に精霊と接触した上、派手に暴れてくれるなんてね。随分舐めた真似してくれるじゃない、士」
「いや、だってあの子が現れたのだっていきなりだったし、それにあんな状況で他にどうしろって言うんだよ」
琴里から放たれる剣呑としたオーラに圧倒されながら士は冷や汗をかきながら説明する。
「あの子?…ああ、《ヴァルキリー》の事ね」
「《ヴァルキリー》?」
琴里の言葉に士は訊き返す。
「さっきの精霊の識別名よ。初めて観測されたからさっきASTが命名したの。あなた彼女と面識があったの?」
「いや、全く知らない」
実際、あの少女は士が自分を呼び出したと言っていたが士自身は彼女に会ったことなどないし、会っていたとしてもあんな美少女を忘れるわけがない。
「まあいいわ。それで…さっき映像にあんたみたいな奴が映ってたけど、もしかしてあいつが…」
「ああ、あいつがパラドクスの仮面ライダールシファーだ」
士が答えると琴里は深くため息をつき、口を開く。
「そう…あんな奴が敵にいるなんて厄介ね」
「大丈夫だって、俺は絶対にみんなを守るって決めたんだ。そう簡単に負けないさ」
士の言葉に琴里は少し照れながらもそれに応える。
「……ありがとう。でも、士はいつも頑張り過ぎなのよ。私たちだって少なくともあなたのサポートくらいは出来るんだから、たまには私たちのことも頼りなさいよ」
琴里はそれだけ告げると扉の方に向かい、そのまま艦橋から退室して行った。
「……あ、やべ」
そこで士は思い出した。今晩の食材が現場に置き去りにされていたということを。それを思い出した士は急いで戦闘があった現場に戻りエコバックを回収した。
それから次の日ーーー
学校が終わり、今日こそは家でのんびりくつろいでいようと思った士は携帯で大樹と通話をしながら真っ直ぐ家路を歩いていた。
『それじゃあ、今日の怪人退治は僕たちに任せて士はゆっくりと休んでいなよ』
「なんか、悪いな。面倒かけて」
『いいって、そんなの。十香の件以来君ばかり戦ってるんだしたまには息抜きぐらいしなよ。士道もライダーとなったんだし、精々こき使ってあげるよ』
「は、ははは……」
大樹ならやりかねない言葉に苦笑しつつ心の中で合掌をする士だった。
「やっと見つけました」
士は声のした方を振り向くと、そこには先日士が出会った騎士のようなドレスと甲冑を纏った精霊の少女が立っていた。
「えっと……昨日の?」
「はい、無事で良かったです」
「どうやって俺だって分かったんだ?」
「昨日のあなたの気配を感知してここまで来ました」
取り敢えずまた彼女と会えたのは良かった。士はこの少女に昨日の攻撃について聞かなくてはならない。
「なあ、なんであの時俺まで攻撃したんだ?」
士の問いに少女は顔を赤くする。そのまま顔を俯かせ、小声でその理由を告げた。
「そ、その……貴方の援護をしようとしたのですが…」
少女の言葉に士は絶句した。
あの時ルシファーとの戦闘で援護をしてくれたのなら少女に感謝するしかない。だが実際、少女のあのデタラメな攻撃のおかげでルシファーどころか士まで危険な目にあったのだ。もし本当に援護をしようとしていたのならば不器用すぎるとしか言いようがない。
「えっと……その、気にすんなよ、俺は大丈夫だったんだし。ところで、名前は何ていうんだ?」
「名前……零奈………それが私の名前…だと思います」
「思う?」
少女の歯切れの悪い応えに士は口を開く。
「私は……自分が精霊である、ということしか知らないのです。あとは零奈という名前、以外の記憶はまったく……」
「つまり…記憶喪失ってことか?」
「はい。そういえば、まだあなたの名を知らないのですが…」
零奈にそう言われ、士はまだ自分が名乗っていないことに気づいた。
「ああ、そういえばまだ名乗ってなかったな。俺は五河士だ」
「イツカ、ツカサーーツカサ、私にはこの発音が好ましいですね」
零奈は嬉しそうにそう言う。そこで士は考えた。零奈が精霊なら、士は記憶喪失の彼女を救いたい。
「なあ、零奈………俺とデートしてくれないか?」
「……?」
士は少し顔を赤くしながら零奈にデートを申し込む。それに対し本人は首を傾げていた。
「デート……とはなんですか?」
「えっと……男女が一緒に出かけたり、遊んだりすること…かな」
士は一度何処かで行ったやり取りをしたような気がしたが、やはり気のせいだと思い頭の片隅に置いておく。
「わかりました。では行きましょう!」
零奈は笑顔で士の手を取り、そのまま何処かに歩き出そうとする。手を握られて一瞬、士は心臓が跳ね上がったのを感じたが、すぐに我に返る。
「ちょ、ちょっと待った⁉︎」
「どうしましたか?」
「いや、どうしましたかって、俺たちまだ会って二日目だぞ!いいのか?」
「大丈夫です。ツカサは信じてもいい人です」
「こ、根拠は…?」
「女の勘です!」
「勘かよ⁉︎」
零奈の言葉に士は思わずずっこけた。なんとも言えない理由に士は呆れ半分、戸惑い半分というかんじだが、零奈は真剣な瞳で士を見つめる。
「私には記憶がないのであなたに迷惑をかけてしまうのかもしれません。ですが、何故かあなたと共に居たいのです」
零奈のその言葉は告白にしか聞こえなかった。
「すみません。いきなりこんなことを言ってしまって。ご迷惑でしたよね」
暗い顔で俯く零奈を見て、士は慌てて首を振る。
「い、いや!そんなことないって、零奈みたいな綺麗な子にそんな風に言われて俺も嬉しいよ。ぜんぜん迷惑じゃない」
「ツカサ……」
士は零奈に微笑み、零奈は顔を赤くする。
「さあ、俺たちのデートを始めよう」