「さーて、どうしようか…」
デートをすると言ったものの、どこに行けば良いのかわからず士は零奈を連れて商店街に来た。その零奈はというと、たくさんの人で賑わう商店街の風景に目を輝かせていた。
「おお……これはすごい人ですね」
「ここは商店街っていって、色んな人達がここで買い物をしたりするんだよ」
「なるほど……」
零奈は興味深々な様子で士の言葉を聞きながら周りを見回す。
「ツカサ、あそこは何なのですか?」
そう言って零奈が指を指したのはハンバーガーショップと思しき店だった。
「ああ、あそこはハンバーガーっていう食べ物が食べられる場所なんだよ」
「!食べ物っ⁉︎」
「食べ物」というワードに食いついてきた零奈。もしかしたら十香と同じ食いしん坊なのだろうか。
「えっと…行ってみるか?」
「はい!」
零奈は笑顔で言うと、上機嫌にハンバーガーショップに向かっていく。士は財布の中身は大丈夫か心配になりながら零奈の後を追う。
何処かの廃墟、そこで佇んでいた黒いコートを纏った黒い髪に紅い眼の少年の背後の空間が揺らぐと、そこから少年と同じ黒いコートに身を包んだ千秋が姿を現す。
「どういうつもりだ、ネロ」
「どういうつもり……とは?」
「何故あの時怪人どもを仕向けた。お前が余計なことをしなければ、俺はディケイドを倒すこともできた」
千秋は紅い眼の少年、ネロを睨みつけながらそう言う。あの時、千秋はルシファーとなりディケイドと戦っていたところをネロが放った怪人どもに妨害されたのだ。機関からディケイドを倒すという任務を請けた彼にとっては迷惑な事だった。
「まあ…それについては申し訳なかったと言っておきましょう。しかし、僕にも僕の任務がありました。それに、そのおかげで精霊も確認できたのですからいいではありませんか」
「ふん……」
「今はまだ時期ではないのですよ、千秋……来るべきその時まで楽しみましょう。そのためにあなたは来禅高校に入学したのですから」
ネロの言葉に千秋は不愉快そうに眉をひそめると、ネロに背を向けて言った。
「……それより、どうやってディケイドと戦う。まともにやりあう気ならあいつを舐め過ぎだぞ」
「僕のやり方は違いますよ」
ネロはそれだけ告げると、その姿を消した。千秋はそれを見届けると舌打ちを鳴らして姿を消した。
「ご注文がお決まりでしたらどうぞー!」
ハンバーガーショップに入った士と零奈は無料でいただける店員のスマイルを受け取りつつ、メニューを見つめる。零奈の場合はどうすれば良いのか分からず士の後ろに付き添っている。
「えっと、俺はてりやきバーガーセットでドリンクはコーラ……零奈は何にする?」
士は自分のセットを決めると、零奈にメニューを渡す。メニューを見た途端零奈の目が輝き口から涎が少し出ていた。
「では、ここからここまでのものを全部お願いします!」
「「え………?」」
士と店員の声が重なってしまった。確かここのメニューはかなりあったはずだ、零奈が示した商品の数を数えると、かなりの額となる。
「えっ……ここからここまで……?えっと……?あ、あの…お客様……?」
士が財布の中身と金額は大丈夫なのか心配する中、零奈の豪快を通り越して奇怪な注文に店員は困惑して、士の方へと助けを求めるような視線を寄越した。
「あ……じゃあ、それでいいです……もう」
士は諦め、考えることを放棄すると、どうにでもなれと思いそのまま注文をした。その時の店員は口をぽかんと開け、しばらく放心状態だった。当然の反応だろう。
士の方はまたしても財布から重みが消えてしまった。
「んん〜!美味しいです!」
零奈は注文した山盛りのバーガーとポテトが運ばれると、幸せそうにむしゃむしゃと食べていく。ここまで幸せそうに食べてもらえているのなら士も嬉しいが、その代わり痛い出費だ。
「はあ……」
士はため息をつきながらてりやきバーガーにかぶりつき、先ほど貰ったレシートを見る。まさか零奈が十香と同じ食いしん坊だとは思わなかった士はこれからはもっと節約をしようと思った。そんなことは知らずに零奈はどんどんバーガーを平らげていく。
「なんとも始めての味でしたが……中々の美味ですね!」
「ははは…そうか。よかったよ」
士は零奈の笑顔に苦笑し、コーラを喉に流し込む。この腹ペコ王には十香と同様に満腹という言葉が存在しないのだろうか。そんなことを考えているうちに零奈は全てのバーガーを平らげ、残っていたのはバーガーが乗っていたトレイだけだった。
「よ、よし!次に行くか!」
「はい。腹八分目とも言いますしね」
零奈の言葉に戦慄を覚えた士は、急いでハンバーガーショップを後にする。そして再び街中に出ると零奈がある店を発見する。
「ツカサ、あそこは何なのですか?」
零奈がそう言ったのは女性向けのおしゃれアクセサリーが売っているアクセサリーショップだった。
「ああ、あそこはアクセサリーショップ。女の子が着けるような小物とかが売ってるんだよ」
士は零奈の手を引いてアクセサリーショップの中に入ると、中はおしゃれな空間で可愛らしいアクセサリーがたくさん並んでいる。
「いらっしゃいませ。お客様は恋人同士ですか?」
「えっと……多分」
「零奈…⁉︎」
店員に話しかけられ零奈が顔を真っ赤にしながらそう言うので、士はびっくりして顔を赤くしながら零奈を振り向く。そんな二人の様子を見て店員は微笑ましいものを見ているように笑顔を浮かべる。
「では、何かありましたらいつでも言ってくださいね?」
「あ、はい。ありがとうございます」
店員はそう言って士たちから離れていく。士が店員と少し話している間、零奈は並べられているたくさんのアクセサリーを見渡しあるものが目に入る。中央に宝石が埋め込まれていた青い十字架の可愛らしいネックレスだ。
「欲しいのか?」
「い、いえ、なんでもありません」
「じゃあこれください」
「はい、ありがとうございます」
零奈は断ろうとしたが、結局士がそれをレジに持っていき会計を済ませるとネックレスを持って零奈とともにアクセサリーショップから出る。
「その……ありがとうございます。ツカサ」
「気にすんなって。ほら、せっかくだからつけてみなよ」
士はネックレスを持って零奈の後ろに回るとその首元にネックレスをかける。
「ど、どうでしょうか?」
「ああ、よく似合ってる。可愛いよ零奈」
「か、かわ…いい……⁉︎」
零奈は顔がだんだんゆでだこのように真っ赤になる。清楚で静かな少女だと思っていたが、先ほどからころころ変わる彼女の顔を見ていると士も楽しくなってくる。
「…零奈?」
「な、なんでもありません!それより、ほら!早くデートを続けましょう!」
「お、おい」
零奈に手を引かれ、士は街中を走っていく。
「今日は楽しかったですね…」
零奈は満足した顔で、士と公園のベンチに腰をかける。二人はいつかのジュースサーバーからそれぞれオレンジジュースとチェリーソーダを購入しそれを飲んでいた。
「ああ、俺も楽しかったよ。零奈にも楽しんでもらえてよかった」
「いえ、私だってこの世界がこんなにも素晴らしいなんて思いもしませんでした」
フフッと笑う零奈にハハッと笑い返す士。零奈はベンチにコップを置くと恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「この世界で…初めて出会えたのがあなたでよかったです、士……」
「零奈…」
「それでは!デートを終える前に、何か思い出に残ることをしましょう。私たちの初めての出会い、そして初めてのデートを祝して……」
「それならば、僕のショーを見て行ってはいかがでしょう……そこのカップル方」
士と零奈の後ろから突然声がかけられる。振り向くとそこには、黒いコートで身を包んだ男がいた。零奈が怪訝な声で男に声をかける。
「あなたは…誰ですか?もしかして、マジシャンとかいう人でしょうか?」
「はいその通りでございます、麗しいお嬢様。いかがです?僕のマジックでも少し見ていかれては…」
「面白そうですね。士、一緒に見ましょう!」
マジックは初めて見る零奈は士の手を引き、男の近くに寄ろうとした。
瞬間、突然士が零奈の腕を力強く引き自分の身体に引き寄せる。
「えっ……な、なんですか⁉︎」
「下がれ!」
士は零奈に叫び、彼女を自分の背中に隠すとディケイドライバーを取り出し男を睨みつける。そんな士の様子を男は愉快そうに嗤いだす。
「おやおや、随分酷い扱いですねぇ。僕はただショーを披露しようとしただけだというのに……」
「マジシャンなら普通は客に殺気を放ったりしねぇよ……そのコート、あんたパラドクスのメンバーか?」
士は黒いコートと得体の知れない気配で男がパラドクスのメンバーだと判断し警戒するも、男は相変わらず嗤い続け大げさな手振りとともに話す。
「フフフ……流石はディケイド、確かに一筋縄ではいきませんね。では改めまして、僕の名はネロ…パラドクスのメンバーです。先日は僕の手下がお世話になりましたね、《ヴァルキリー》?」
男がフードを外しその顔を露わにする。歳は士と少し上くらいの黒い髪に右の頬に特徴的な刺青が刻まれた顔。そして猛禽類を思わせる紅い瞳が士の目を引いた。だが何より驚いたのは先日決められたばかりの零奈の識別名を何故知っていたのかだ。
「零奈の識別名を…⁉︎まさか、昨日ファンガイアとイマジンを俺に襲わせたのは……!」
「その通り、あの怪人たちをあなたに襲わせたのは他でもない、この僕です。まあ本来なら僕が直接あなたに会いに行こうとしたのですが、生憎別件で忙しかったので彼らにあなたの相手をさせました」
「………で、今回は何で俺たちの前に出てきた?」
「あなたがどんな人物か気になっていたのですが、残念ながら任務が最優先ですので……あなたにはここで消えてもらいます」
やれやれといった様子で首を振るネロを警戒し続ける士。そんな士を見てネロはため息をつくとポケットからあるものを取り出す。それは狼を模した金色のレリーフがある黒いデッキケースのようなものだった。
ネロはデッキケースを掲げると、腰に中央部に大きな長方形の窪みがある白銀のベルトーーVバックルが装着される。
「変身」
ネロはその一言と共に手に持ったデッキケースをVバックルの中央部に装填する。すると、幾つかの虚像が現れネロの身体に重なるとネロの身体を漆黒の闇が包み込む。
そして現れたのは、狼のような姿をした黒いライダーだった。
「僕は仮面ライダーヴァイス……さあ、僕のカードマジックなんていかがです?」
「悪いけど、カードなら俺も持ってるんでね……変身!」
《KAMEN RIDE・DECADE》
士はディケイドライバーを装着してディケイドに変身する。だがヴァイスはゆっくりとディケイドに近づくと仮面の内側で口を開く。
「戦う前に……一つ問いたい。何故、あなたはそこまでして我々パラドクスと戦うのですか?」
ヴァイスの質問にディケイドは当たり前だと言わんばかりにその問いに答えを返す。
「単純さ…俺は、大切な人を守りたいんだよ。誰にも絶望なんてさせないために……戦っているんだ」
「その結果であなたは何を得たのですか、五河士君。その力を、何故自分のために使おうとは思わないのですか……?」
「俺のこの力は…闇を払う光……みんなを笑顔にするための鍵だ!……だからこそ!俺はこの力で……希望を守りたい!誰にも絶望なんてさせたくないんだ!」
「愚かですね…それほど素晴らしい力を持っていながら、それを無駄にするつもりですか……?」
「俺はただ力を無駄にしているわけじゃない。それは確かにお前たちから見れば無駄な行動に見えるかもしれない。…だがそれは、お前たちが力を奪うことにしか使おうとしないからだ。…人の心を支える、希望をな」
「………」
ディケイドの言葉をヴァイスは黙って聞いている。ディケイドはそのままゆっくりと目の前に立つヴァイスに向かって歩き出す。
「だが…俺は違う。この力…ディケイドの力で俺はみんなを守るために戦っている!それは決して無駄な戦いなんかじゃない。確かに守る力は、一見すれば弱く見えるかもしれない。だが、守るために力を使うやつはどこまでも進化していく!奪うものから、何かを守ろうと傷つく奴はどこまでも強くなれる!」
「だから、精霊も救うというのですか?僕には理解できません…それは世界を殺す厄災とも言われているのですよ?そんなものに……存在する価値があるとは思えないのですが…」
ヴァイスは不安そうな表情でディケイドの後ろで会話を黙って聞いている零奈に視線を向ける。ディケイドは零奈の方を振り向くと、言葉を続ける。
「世界とか、難しいことは俺にはよく分からない。でもな、これだけははっきりしてる。たとえ精霊であろうと生きる権利だってあるってことだ」
「そういうのを、偽善というんですよ……」
「それでもいい!もし、世界が精霊たちを拒絶するのなら、俺が精霊たちの笑顔を守ってやる!」
ディケイドは力強く、そう誓いを口にする。そして零奈を振り向くと、仮面の内側で笑みを浮かべる。
「知ってるか?零奈の笑顔…悪くない」
「ツカサ……」
ディケイドの言葉に零奈は目に涙を浮かべる。ヴァイスはそんなディケイドに向かって再び問いかける。
「五河士…あなたは、何者なんですか?」
ヴァイスの問いにディケイドは高らかに言い放つ。
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」
そして、ディケイドはこちらを見つめてくるヴァイスに向かってソードモードのライドブッカーを突きつけた。
そんなディケイドを見つめていたヴァイスはハァ…とため息をついてからVバックルに装填されたデッキケースから一枚のカードを抜きだす。
「………なるほど。いいでしょう…ならばあなたのその覚悟、僕が見定めてあげましょう…!」
《SWORD VENT》
ヴァイスはカードを左腕に取り付けられた狼の頭部を模した召喚機『ヴァイスバイザー』に挿入すると、手元に黒いサーベル『ヴァイスサーベル』を出現させる。
「来るなら来い、俺は全てを守る!」
黒き狼牙のライダーと、世界の破壊者といわれたライダーがぶつかり合った。