ロックマンゼロ -episode leviathan-   作:プレイズ

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3人の監視者

「ぅ、ぅぅ……ん」

それからしばらく経って、レヴィアタンは意識を取り戻した。

少し朦朧とするが、何とか視界を認識する事ができる。

彼女の目には、白い壁が映った。辺りを見回すと、どうやらここはどこかの部屋のようだ。

 

(こ、ここは……?)

 

さっき自分が何をしていたか、彼女は思い出す。

虚構世界が泡となって消失し、意識が遠くなり……

 

「はっ……!」

 

思い出した彼女は、辺りを見回す。

すると、すぐ真横に誰かがいた。

「っ!」

「やっとお目覚めか、妖将レヴィアタン」

傍にいた男が彼女に語りかける。

彼はいったい何者……。

そう思ったレヴィアタンは、ふと気が付いた。

彼の顔が見覚えのある男のものという事に。

 

(なっ……!あ、あなたは)

 

彼女は驚きに目を見開く。

何故ならついさっきまで目の前にいた彼に瓜二つだったからだ。ただしよく見ると色が違うが。

「な、なっ、あ」

「どうした。俺の顔に何か付いているか?」

戸惑う妖将に彼は不思議そうに言う。

「ゼ、ゼロ…?あっ……あなたはいったい…?」

「俺はお前を監視するためにここにいる」

眼前の男は何とゼロと容姿がそっくりだった。

色が違うものの、それ以外はほぼ見分けがつかないくらい似ている。

「か、監視する……?」

「そうだ。お前はここ鏡世界に幽閉されていてもらわなければならない。そのための監視だ」

「……!ゆ、幽閉ってどういう事?」

「お前は我らミラージュにより外界から隔離された。これからはここでしばらく暮らしてもらう」

彼は彼女に状況をわかりやすく教えてやる。

彼女が鏡組織ミラージュの計略により鏡世界に捕らえられた事。

そして、しばらくの間はこの世界で過ごしてもらう事。

当然だが、彼女は納得出来ない。

「ど、どうして私をさらったわけ?」

「お前はミラージュのメイン商材だったギアテライトを奪っていっただろう。ボスの話ではその懲罰のためだそうだ」

「な……た、確かに私はミラージュ達からギアテライトを奪取したけど。それは密売していた奴らが法を犯していたからよ。都市を統治する将として当然の事をしたまでだわ」

「お前の就いている役職を考えればそうだろうな。お前のやった事は正しい」

「な、なら私を捕まえるのはお門違いじゃない…?この鏡の中から解放してちょうだい」

「それは出来ない。ボスの命だからな」

「……ボスって、誰?」

「マリオネス様だ」

「あ…!先刻戦ったあいつね…!」

彼女は思い出す。

マリオネスと名乗るピエロの見た目をしたボスと戦闘した事を。

彼相手に優勢に戦いを進めていたが、途中で攻撃がすり抜ける事態が発生した。

そこで動揺した彼女は、さらに分身もからめられてペースを乱されてしまう。そして、催眠術をかけられて幻術を見せられてしまったのだ。

「あ、あいつはどこに……!」

「安心しろ。ここにはマリオネス様はいない」

慌てて敵を探す彼女に、ゼロ似の男が冷静に言った。

「あの方はお前の監視を我々に任せて、今は出払っている」

「そ、そ……う」

どうやらマリオネスは今どこかへ外出しているらしい。

ならば今が脱出の好機だ。

「って【我々】って、あなた以外にも監視役がいるの?」

「ああ。そっちを見てみろ」

「えっ?」

彼女は言われるがまま反対側に目を移した。

するとそこにも見知った男がいた。

「な、、ゼロ……?」

何とまたしても同じ顔が現れたのだ。

眼前に立っているのはゼロと瓜二つの容姿の男。

今話していたゼロ似の男とはまた別の存在だが、彼と同じくゼロそっくりの容姿をしている。

色だけがまた違うのも同様だった。

「俺もそっちの奴と同じくお前の監視役だ。よろしくな」

「……!あ、あなたもゼロそっくり……!?」

「どうした、何か違和感でもあるのか」

「お、おかしいわよ!だって、どうしてゼロと同じ顔をしてるの……!」

あっちの彼といい、一体どうなっているの…!とレヴィアタンは困惑する。

「さあな。俺達はお前を監視する事を一任されているが、容姿に関してお前が困惑するわけは承知していない」

「くっ…!よ、容姿だけじゃなくて話し方や声色、雰囲気までゼロとそっくりじゃない」

「そうか?それで何か困る事でもあるのか」

「っ……べ、別に困るわけじゃないけど、、、」

ゼロ似の男に問われ、彼女はしどろもどろになる。

確かに、それで特に支障があるわけではない。ただ、心情的に動揺してしまいやりにくいだけだ。

彼女自身の私的な問題である。

「ところで、監視役はあともう1人いるぞ」

「えっ、まだいるの……?」

2人のゼロに挟まれて彼女は混乱しつつ訊く。

「ああ、お前の後ろにな」

「へっ…?」

言われて、彼女は初めて背後に意識を向けた。

指摘されるまで、後ろに人の気配を全く感じなかったのだ。

すると、彼女が振り向くよりも先に、頭に手が乗せられた。

「!」

「背後への意識が散漫だな。気をつけた方がいい」

彼女がバッと振り返る。

すると、またしても彼女は驚く事になった。

この日三度目の同じ顔を見る事になったからだ。

「ゼ、ゼ、ゼロぉ!?」

そこにはまたまたゼロと瓜二つの男が立っていた。

今度は紫色の姿だが、よく知るゼロと色以外の違いがわからないくらいに似ている。

「後ろに全く警戒心がなかったようだな。やっと気付いたのか」

「ど、どうしてまたゼロが……?」

3人目のゼロの登場に彼女は混乱してしまう。

色違いではあるが、ここまでそっくりの姿の存在が出てくるともはやゼロにしか思えなくなる。

「わ、わけがわからないわ…!」

「とりあえず落ち着いたらどうだ。別にお前に危害を加えようというわけじゃない」

混乱のあまり錯乱気味になるレヴィアタンに、背後のゼロはむしろ安心させるように言った。

「あ、あなたは監視者なのよね?なら私をボコボコにして拘束しようっていうのね」

「何か勘違いしていないか。俺達はお前に暴力を振るうつもりはない」

「で、でも監視役なんでしょ?なら私が逃げようとしたらお仕置きするんでしょ」

「当然逃げようとするようなら対処はする。だが暴力は振るわない」

「じゃ、じゃあどうするっていうの?あなた達のボスが私にやったみたいに昏倒でもさせる気?」

「そんなダメージの大きい罰は与えない。安心しろ」

レヴィアタンは焦りを声に滲ませてやや早口でまくし立てる。

ゼロ亜種に囲まれて彼女はやや冷静さを欠いていた。

顔見知りの彼そっくりの相手が出てきて動揺したのが大きいが、理由はそれだけではない。

ついさっきまで虚構世界でゼロに色々誘惑されていたのだ。

そしてその度に彼女は色欲を刺激されて欲情していた。

そんな彼に激似の存在が3人もいれば意識するなという方が無理である。

「くっ…!どういうつもりか知らないけど、私は大人しく捕まってたりはしないわよ。逃がさないというなら取り押さえてとっちめるなり殴るなりすればいいわ」

「だからそんな手荒な真似はしないと言っているだろう」

「お前は幽閉されているが、俺達にとって同時にとても大事な存在でもある。捕まえているからといって、お前を粗雑には絶対に扱わない」

「わ、私が大事な存在…?ど、どういう事……?」

「今は深く知る必要はない。とにかく、お前は目覚めたばかりでまだ疲れているだろう。しばらくゆっくり休むといい」

ゼロ亜種達はレヴィアタンの予想に反して彼女に攻撃を加えてきたりはしなかった。

監視役というから、てっきり言う事を聞かせるために荒事をするだろうと思っていたからだ。

しかしむしろその逆で彼らは彼女に紳士的だった。

それどころかこちらの身体の状態を気づかってくる始末だ。

ゼロに瓜二つの姿な理由はよくわからないが、少なくとも完全な敵というわけではないらしい。

「ど、どうして気づかってくれるの?」

「ん……?それは、お前が大切だからだ」

「俺達にとってはお前は単なる捕虜ではないんだぞ。丁重に扱うべき特別な存在だ」

「レヴィアタン。お前に苦しい想いをさせたり傷を与えたりする事は絶対にしたくない。お前の身体の状態が第一だからな。だから、もし気分が悪かったり体調が悪かったらすぐに言ってくれ。悪いようにはしない」

ゼロ達3人は三者三葉にレヴィアタンを労る。

彼らはマリオネスの配下として監視役を任されている敵のはずだが、何故か彼女に対して敵意を向けてはこなかった。

皆彼女には優しさを持ち合わせており、幽閉されている境遇に憂慮してくれているようだ。

「あ……そ、そう……?」

「だから、今はゆっくり休むといい」

背後のゼロがレヴィアタンの頭を優しく撫でつける。

レヴィアタンは瞬間ビクリとなるが、彼から危ない気配は全く感じられなかった。

そのため大人しく彼女はじっとしている。

「き、気づかってくれるのね」

「監視役とはいえ、お前に対して敵意はないからな。むしろ心配なくらいだ」

「心配…?」

「ボスの命で幽閉するという事になっているが、女に手荒な真似をして拉致するのは正直本位ではない」

「男が複数人がかりで少女に手をかけるなど、最低な行為だ。特にお前はネオアルカディアにとって最上位に位置する四天王の1人で、その紅一点。十分に配慮する必要がある」

「べ、別に女だからっていうのは気にしなくていいわよ。それで手加減されたり舐められたりするのは嫌だもの」

レヴィアタンは自分が女という事で特別視される事に拒絶を示す。それで変に見下されたりハードルを下げられたりするのは嫌だからだ。

だが、今は正直内心では半分は満更でもなかった。

あの愛するゼロにそっくりの男達が、自分に対して女性として配慮してくれている。それは悪い気分ではない。

「俺達はお前の事を舐めてはいないぞ。女でもお前は立派な将の1人。紅一点でネオアルカディア四天王を務めているのは伊達ではない」

「そうだ。お前の実力は十分に認識しているし、到底簡単に抑えられるものではないと思っている」

「そ、そう……?」

「だが、そうであってもお前は女の子だ。いくら強くてしっかり者であっても俺達は手荒な真似はしたくないし、今の囚われた状態は心配なのさ」

背後のゼロ亜種が、再びレヴィアタンの頭を撫でる。

その手は優しく、敵意は全くなかった。

心配しているというのは心からの本心のようだ。

「お前が女の子だからと言い訳したくない気持ちはわかっているつもりだ。だが、俺達はその上でお前を大切に扱いたい」

「っ……な、何で敵のくせにそんな私に優しいわけ?」

「俺達にお前が敵という認識はないぞ。お前は管理下に置かなければならないが、同時に大事な保護対象でもあるからな」

「ほ、保護対象……?」

「そうだ、お前はとても良い子でネオアルカディアにとってなくてはならない優秀な人材。代わりはいない」

「だからお前にもしもの事があったら、それは単なる損失では済まない。お前程優れた女の子を他に探すのは難しいと言わざるを得ないだろう」

「それに、お前は実力もさる事ながら見た目も優れているからな。四天王級に強くて可愛い女などそうそういるものではない」

「な……」

彼らに誉められ、彼女は少々反応に窮してしまう。

ゼロ似の彼らにそこまで言われては、いくら敵とはいえなかなか悪くは言えない。

「じ、実力を評価してくれてるのは嬉しいわ。ありがと」

「礼には及ばない。思ったままを言ったまでだ」

「っていうか、か、可愛いって……どういう意味?」

「それも思った通りに言った。女にストレートに言うのはセクハラになるか。すまない」

「……い、いえ、別にいいわ」

謝ってくるゼロに、彼女は罰が悪そうに首を振る。

彼の言葉に変に方便などは感じられない。本音を言っているのは確かなようだ。彼女は相手のそういう嘘は鋭く見抜くため、彼の発言に裏がない事はわかる。

「でもあまり甘く見てると逃げちゃうわよ?女1人だからと高をくくらないことね」

「甘く見てはいない。むしろお前なら1人でも逃げおおせてしまいかねないと思っている」

「くっ……」

「だが安心しろ。お前を悪いようには決してしない」

「お前は俺達のとても大切な存在。丁重にもてなさせてもらう」

「もてなすって……いたぶるっていう事…?」

「何でそうなる。手荒な真似はしないと言っただろう」

「優しくしてやるから、怖がらなくていい」

「……!」

頭に優しく手が添えつけられる。

背後のゼロを見ると、彼は穏やかな目で彼女を見つめていた。

変な下心などはなく、純粋に優しくしてくれているのを彼女は感じた。

「そ、そう……好きにすればいいわ」

少々ペースを乱された彼女は、ふいと顔を元の位置に戻した。

これは数刻の間は彼らの監視下に置かれざるを得ないようだ。

幸いにも暴力を加えられる心配はしばらくはない。

ならば、少しの間大人しくしつつ脱出の機をうかがうのがベストか。

彼女はそう判断し、しばし休息を取る事にした。

 

 

 

--魔封宮殿--

 

その数分前--。

敵本拠地の魔封宮殿では、敵幹部達が会話を交わしていた。

 

鏡を操る特殊技能者達が構成する組織ミラージュ。

彼らはネオアルカディア四天王の1人である妖将を鏡世界に捕らえる事に成功した。

これは偶発的に考えられた罠ではなく、数ヶ月前から計画的に企てられた作戦であった。

これまでの戦闘データからターゲットをレヴィアタン1人にしぼり、彼女を無力化するために様々な策を労した。そして、今回それを遂行したのだ。

『しかし、ここまで我々の計画通りに上手く事が運ぶとはネ』

「ワシはもう少し妖将に計画を覆される事態になる事も憂慮しておりました。しかしそれは杞憂に終わって何よりです」

彼らは彼女を鏡世界に巧みに捕らえて拘束し、さらに精神世界に堕とす事に成功した。

だが彼らの計画ではそれはかなり上手くいったパターンである。ほぼ100%の成功といってよかった。

しかし彼らは当初はそこまでの結果は期待していなかった。何せ相手はあのネオアルカディア四天王の1人である。

いくら女の子とはいえ、戦闘力は彼らミラージュとは比べ物にならないほど高い。

だからそうそう上手く事は運ばないと想定していたのだ。鏡に取り込めれば儲けもので、まして精神世界に堕とすのは至難。

せいぜい数回ダメージを与えて多少"愛らしい"悲鳴を聞けるくらいがいいところだろうと思っていた。

 

しかし、妖将はミッション中に鏡に映った自分の姿に再びのろけた。スノウスレイヴマンがその隙を巧みにつき、チャンスを逃さず鏡世界に彼女を連れ込む事に成功したのだ。

「ふふ、しかし奴は上手くやったの。おかげで有利に進める事が叶ったからのう」

『そうだネ。ボクが彼女を翻弄出来たのもここ鏡世界で戦えたからというのガトテモ大きいヨ』

マリオネスがスピーカー通話を通して語りかける。

『本来ボクよりも彼女の方が戦闘力は上なのサ。彼女は69000の戦闘値に対してボクは48000程度。普通に戦えばまずボクには勝ち目がナイ』

「確かに。戦闘の映像を見る限り分身と透過を抜きにすれば、動きではマリオネス殿より妖将の方が上回っていた」

「ええ、それは否定出来ませぬ。彼女の戦闘における機転と工夫は素晴らしく、完全にマリオネス様を上回っていたと言えましょう」

「だが、彼女はマリオネス殿に翻弄された。分身と透過によって」

途中まで優勢に戦闘を進めていたレヴィアタンだったが、中盤で彼女の放った技が完全にヒットしたにも関わらず、マリオネスの身体を透過してすり抜けてしまった。

そこを機に戦況が変わり、さらに分身も交えた事でマリオネスが彼女を翻弄したのだ。

『まさか当たったはずの自分の技が通り抜けて効かないとは彼女も思わなかっただろうネ』

「それはどういうカラクリなのですか?」

疑問に思ったベルチェが彼らに尋ねた。

「あの氷のフェアリーである妖将レヴィアタンの繰り出す妙技だ。もろに当たって無傷で済むはずがない」

「普通ならそうじゃろう。じゃがここがどこなのか、ベルチェ様もよくご存知でしょう」

『そう、ここは理の異なる特殊ステージだからネ』

マリオネス、ゾルベームグが含み顔で言葉を向けた。

「……そうか、"鏡世界"か」

「左様、だから外の普通の世界のようにはいきませぬ。放った攻撃が対象に当たったように見えても実際にはそれは光の反射で出来た虚像なのです」

レヴィアタンが放った氷の輪がマリオネスに接触したにも関わらず、透過したように通り抜けた。

そのカラクリこそが、今ゾルベームグが言った事である。

彼女が攻撃を当てたと思っていたのは実はマリオネス本人ではなく、周囲の鏡による光の反射で出来たマリオネスの幻視であった。つまり虚像である。

『ここは鏡世界である故に、360°至る所に鏡が存在しているからネ。明確な鏡の形をしているわけではなく、そこに見えていなくても光を反射する空間というものが存在スル』

「その特殊ギミックを利用して自分の写し身を相手に誤認させれば、そこへ攻撃を撃ってくれるわけか」

「ご名答。そして当然、攻撃がヒットしても実体がないため通り抜けてしまう。彼女が困惑したのも無理はないでしょう」

『そこで"本物"のボクが背後から近付いてホールドアップしたのサ』

「なるほど。だが、その後で分身の方が彼女に催眠術をかけていたように見えるが……?」

モニター画面では先刻のレヴィアタンvsマリオネスの映像が再生されていた。

氷の輪がマリオネスを透過して効かず、困惑した所を背後からもう1人のマリオネスに極められたシーンが映し出されている。

その後、前方から再び分身が迫り、彼女の額に触れて何かの術をかけた。程なくして妖将の身体から力が抜けて、だらりと崩れ落ちてしまう。これは明らかに催眠術の類いである。

「光の反射で出来た幻視ならば、術などはかけられないはずだが。映像を見る限り幻視体の方が催眠術をかけているな」

「ふぉふぉ、そこは我らがボスの本領発揮ですじゃ。マリオネス様は反射で出来た幻視体でも術を行使する事が出来るのです」

「何と…!そんな事も出来るのですか」

「うむ。なので、変幻自在な所から相手に有利な催眠術をかけれる。これは驚異と言えましょう」

「恐ろしい特殊能力だな。流石はミラージュのトップだけはある。これは妖将がやられたのも納得だ」

『ふふ、買ってくれルのは嬉しいケドネ。この最上の結果はあくまでここ鏡世界で戦ったからダヨ』

「……というと?」

『ボクの能力はあくまで光の反射を利用したものダ。それは"形の見えない鏡"が周囲に無数にあって360°反射し放題のこのテリトリーだからこそ可能なことなのサ』

「反射が出来なければ幻視体(分身)を自在に作り出す事も、それを利用した連係戦法も出来なくなってしまうのです。外の世界で妖将と戦えば、このアドバンテージがなくなるのでまず戦況は厳しくなるでしょうな」

『彼女が放った氷の輪は本来ボクにとって致命的な一撃になるはズだっタ。ボクは完全に虚を突かれていたカラネ。本来ならあそこで戦況はほぼ決まりダ。この"テリトリー"だったからこそ何とかなっタと言エル』

「なるほどな。何をするにも先じて彼女を鏡世界に連れ込めた事が一番大きかったわけだ」

『そうダネ。何事においても初動が肝心というわけサ』

「その通りですじゃ。ここ鏡世界に彼女を取り込めている限り、妖将に我々に対する勝機はありませぬ。くつくつくつ」

老練な翁が不気味にせせら笑う。

この鏡世界は彼らにとってまさにホームと言える場所だ。

鏡の特性を活かす有利な環境が整っており、故に格上のレヴィアタン相手でも戦況を有利に進められる。

そのテリトリーまで彼女を【移せた】事が彼らの最大の成果と言えた。

 

 

「さて、そうこうしている間にあちらでは動きがあったようですな」

「これは……!いつの間にか妖将が起きているじゃないか」

翁に言われてベルチェがレヴィアタンを映しているモニター画面を見た。

すると、人形のように固まっていたはずのレヴィアタンが既に目覚めていた。

先程までは巨大なクリスタル結晶の中に立ったまま静止して収められていたのだ。

しかし、今は椅子に中座する形で座らされている。

彼女の目は開いており、完全に目覚めている様子だ。

「さっきまで立った状態で固められていたのではなかったか?何故彼女が起きている」

「それは、あちらの虚構世界で動きがあったからでしょうな。特定の条件を満たせば精神がこちらの鏡世界に回帰する仕組みになっております故」

「そうか。では彼女の精神を掌握する事は出来なかったのだな」

「いや、そうではないようですぞ?」

翁がモニターを見て不気味に笑んだ。

「どういう事だ?」

「何も精神世界で誘惑に勝たないとこちらに戻ってこれないわけではございませぬ。誘惑に"溺れて"も戻ってくる事は出来るのです」

「ほう?」

ベルチェはゾルベームグに続きを促す。

「回帰条件は、精神世界にて幻惑に①打ち勝つ事 ②溺れて一撃喰らう事 そのどちらかです。打ち勝つ事が出来れば無条件でノーリスクでこちらに戻ってくる事が可能です」

「ふむ、では②の場合はどうなる?」

「②は精神世界の幻惑に敗北したと見なされます。その代償として対象者にはペナルティが課される決まりです」

「ペナルティとは何だ?」

「当該対象が鏡世界から外の世界へ脱出するのが困難になる障害が与えられます」

「ほう、それはこちらに有利になる結果だな」

『ふフ、そうダヨ。彼女をボクらのマリオネットにするのにトテモ好都合デ喜ばシイ結果サ』

マリオネスが目覚めた彼女を"視ながら"愉しげに呟く。

彼はレヴィアタンからは離れた位置で彼女の視界には入らないように潜んでいた。

それでも、周囲の"無数の目"を通して凝視出来ている。

「それで、彼女へのペナルティは何なのだ?」

「今、モニターに映っているのがそれですな」

「む……彼女の周りに誰かいるな」

ベルチェは椅子に座る妖将の周囲に何者かがいる事に気付いた。

マリオネスではない。

彼女のすぐ傍に3人ほどの男が立っている。

「何だ彼らは?」

「さしずめ妖将を監視するソルジャーと言ったところですかな」

「彼女が逃げられないように見張る役という事か」

「ええ。もし逃げようとすれば制裁を加えるのが彼らの仕事です」

どうやら周りにいる3人の男達は、捕らえた妖将が逃げないように取り締まる者達のようだ。

「彼らは……どこかで見た覚えがあるような」

「ベルチェ様もよく知っておる者が"オリジナル"ですからな」

「何?どういう意味だゾルベームグよ」

「くつくつ。彼らは今しがたこちらで生成されて形作られたばかり。妖将が精神世界で見せられた幻惑と密接に関わっております」

『彼らはペナルティによって生み出された者達だからネ。当然、彼女の弱みと関連するヨ』

「こちらで生成された?どうやって」

「鏡世界の鏡には外の世界や鏡世界を移動出来る効能があります。しかし他にも機能がありましてな。ペナルティのソルジャーを生み出す事が可能なのです」

『虚構世界では対象が求める存在を見せらレル。そのデータはこちらの鏡世界にも送らレテ把握済みサ。当然、彼女が何ヲ求めてイタのかもワカルよ』

「そのデータを元に、生み出されたのが"彼ら"というわけか」

「ええ。まあ鏡が生成したものですから、完全に同じ存在にはなり得ませぬが。見た目の色も元の存在とは違っておるでしょう」

「そういえば……彼らは見覚えがあると思ったが。あれか、かの"赤き英雄"か」

『その通リ。あのゼロダヨ』

マリオネスが彼らの元の存在を明示した。

そう、ゼロを元に作られたのが彼らソルジャーである。

「なるほどな。確かにゼロならば妖将とも親しいし、そういう関係でも頷ける」

『虚構世界のデータを見る限り、ただの親しい間柄というだけにとどまらない想いヲ抱いているらしイ。彼女にとってかなり色欲を抱く対象のようだネ』

「彼らに監視役を任せるのは適任と言えるじゃろう。本人ではないとはいえ、妖将をしばし抑え込むにはおあつらえ向きの存在じゃ」

くつくつと笑いつつ、翁はモニター画面に移るレヴィアタンを見つめた。

彼女はゼロ亜種達に周りを固められ、困惑している。

そして同時に"大切に"されてもいるようだ。

背後のゼロに頭を撫でられて既に彼女は少々ほだされている。

「随分と和やかな雰囲気だな。敵に囚われて監視されているというのに」

「ふぉふぉ、彼らは彼女に対して敵意がありませぬからの。そして妖将の方にも殊更彼らを攻撃する意思はない。女性な分、相手が攻撃的でないなら特に事を荒立てたりはしないのでしょうな」

『それが彼女の"良い子"なトコロでもあるネ。ましてヤ相手が懇意のゼロの亜種では満更でもなさそうダヨ』

モニター画面に移る少々困った様子の彼女に、彼らは微笑ましく笑う。

彼らが課したペナルティは静かに、そして確かに彼女の心に効果を与えつつあった。

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【挿絵提供:ELS様】

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