ロックマンゼロ -episode leviathan- 作:プレイズ
「どうした?さっきから黙っているが」
ゼロの1人がレヴィアタンに語りかける。
途端レヴィアタンの肩がぴょんと軽く跳ねた。彼女は周りをゼロそっくりの男達に囲まれてドキドキしっぱなしだった。
「あっ、あ、ゼ、ゼロ…!」
「緊張する事はないぞ。リラックスして休んでいるといい」
優しくゼロが労ってくる。
気持ちは有難いのだが、彼女としてはそういうわけにもいかない。
彼らはゼロそっくりの姿とはいえ"敵"である。
心を許せばつけ込まれて篭絡されかねない。
いや、既に幾分かはそうなってしまっているが。
彼女としては何とか自制心を保って距離を保ちたいところだ。
だが彼らはそれを許さない。
今もオレンジ色の外見をしたゼロが優しく彼女の頭を撫でつけている。
彼は3人の中でも元のゼロに色合いが近いため、レヴィアタンからするとどうしても意識してしまう。
「………」
【挿絵提供:saili様】
彼女は何も言わずに視線を下に落として椅子に座っている。
だが、その頬はほんのりと染まっていた。
「なあレヴィアタン」
「は、はい……ッ!」
「はは、そんなに慌てるな」
動転する妖将にオレンジのゼロが笑みを浮かべる。
「お前は良い子だから、俺達は危害を加えたりしない。安心しているといい」
「ぅ、……うん」
優しく言う彼に、レヴィアタンは上目遣いで訊いてみる。
「じゃ、じゃあもし私が"悪い事"をしたら…?」
「悪い事とは何だ?」
「あなた達の前から逃げようとしたら?」
「…………」
レヴィアタンからすれば思い切った質問だ。
もし彼らの意に沿わない事をすればどうなるのか。
今は甘い対応をしているゼロ達だが、逃亡を謀ればその態度は一変するだろう。
「そうなれば当然ただでは済ませないな」
「逃亡するという事はこの世界からの脱出を意味する。ボスの命令はお前をこの鏡世界に留め置いておく事だ。それに反抗するようなら、悪いが邪魔させてもらうぞ」
「くっ……」
ゼロ達はやはり逃げようとすれば取り締まるようだ。
もし事を起こせば"相応の目"に合わされる事だろう。
彼女もそれは当然の事と認識していた。
彼らは敵であり、自分を捕らえているのだ。なあなあで済むはずがない。
「なら大人しくさせてもらうわ」
「わかればいい。俺達も出来ればお前を痛い目に合わせたくはないからな」
レヴィアタンの返答にオレンジのゼロが頷く。
「さて、では俺達3人はしばらく席を外そうか」
「そうだな。男にずっと3人も囲まれていたら落ち着かないだろう」
緑と紫のゼロが言った。
「レヴィアタンにも1人の時間が必要だからな。それがいい」
オレンジのゼロも賛同する。
「レヴィアタン、お前にしばし休息の時間を与えよう」
「今から1時間ほど俺達は外出させてもらう。その間1人で過ごすといい」
「う、うん」
「あそこに自動飲料販売機がある。もし何か飲みたい物があればボタンを押せば無料で出てくるから好きに飲むといい」
ゼロ達はしばらく彼女を1人にしてくれると言う。
まだ動転している彼女に配慮した行為のようだ。
彼らは彼女が逃げないようにドアに厳重なロックをかけると、部屋から退出していった。
「……よかった、ずっと傍で見張られるものだと思っていたわ」
3人のゼロに脇を固められ、彼女は正直まいっていた。
あの状態が長く続けば冷静を保っている自信がなかったからだ。
だが彼らは配慮してくれたらしく1人の時間をくれるという。
「落ち着く時間がやっと取れるわね」
これまで気が休む暇がなかったため、彼女は久方ぶりに落ち着いた。
精神世界では休んでいたように見えるが、虚構のゼロにずっとドキドキしっぱなしだったので気分は休まってはいなかったのだ。今ようやく彼女は休息を取る事が出来ていた。
「……でも、調子に乗って休んでもいられないのよね」
彼女は冷静になって現状を分析する。
3人のゼロ亜種達に監視に付かれており、脱出は簡単にはいかない。
今は1人の時間をもらえているが、1時間もすれば彼らが帰ってきてしまう。
ボスのマリオネスも現在外出しているらしいものの、いずれは戻ってくるだろう。そうなれば4人を相手にする事になる。
「あのゼロ達の戦闘力がどれくらいかはわからないけど、本物のゼロに準じるくらいはあるのかも。そうなると"亜種"とはいえ相当厄介ね」
亜種達は偽物には違いないが、その実力は未知数である。
当然オリジナルのゼロには劣るだろうが、一定の強さはありそうな予感がした。なので3人まとめて相手をするのは避けた方がいいだろう。
「そしてボスのマリオネス。あいつも厄介」
彼女はピエロ姿のボスを思い出す。
先の戦闘では不覚を取らされてしまった。
バトルを優位に進めたものの、透過と分身を駆使されてペースを乱されてしまったのだ。
そして幻術をかけられ、虚構世界に堕とされてしまった。その結果が今の現状である。
「私の攻撃がすり抜けたのは何でなのかしら。最初はちゃんと当たっていたわよね?」
当初はマリオネスにホーミング弾が明確にヒットして相手もダメージを受けていた。
しかしその後氷の輪を当てても彼の身体をすり抜けてしまい、効かなかったのだ。
「まさか氷を無効化する敵……?」
氷属性に耐性のある敵なのかもしれない。
それなら物理攻撃が効いたのも納得できる。
「でも氷が当たって効かなかったのじゃなく、すり抜けていったのよね」
彼女は違和感を感じていた。相手の身体を通り抜けたというのは、変な感じがする。
「分身だったからなのかしら?あれは本物そっくりだったわ」
ピエロの偽物が本物とのコンビネーションをとり、彼女は翻弄されてしまった。
ピエロの外見に違わぬ奇術を見せられた気分だ。
「厄介なボスだけど、あの話し方はムカつくわね。今度あったらお返しはさせてもらうわよ」
敵の口調を揶揄しつつ彼女はマリオネスへのリベンジを誓う。
不覚を取らされて、彼女はやり返さないと気が済まないのだ。
「そのためにも、まずはここから脱出しないといけないわ」
とりあえずこの部屋から出なければいけない。ゼロ達に戻ってこられると逃げるのが難しくなる。
しかしドアにはロックがかかっていて出れないようにされていた。
ドアは分厚い鋼鉄製で、さっきゼロ達が退出した際に見た限りでは三重になって備え付けられている。なので力押しでは簡単には壊せない。無理に破壊すればその音で敵に気付かれてしまうだろう。
「……どうしたものかしら」
部屋には出口がそのドア1ヶ所しかない。後は壁があるだけだ。
では壁を壊すのはどうか?
いや、そんな事をすればその瞬間にバレてしまう。
警報装置が鳴って即ゼロ達がやってくるだろう。
何か方法はないだろうか……彼女は頭を使って思案する。
「……あ」
ふと、彼女は足元にある床を見て気付いた。奥の自販機の下にハッチのようなものがある。
そこへ近付いてみると、ハッチの口は手動で開けられるようだ。
だが開けた瞬間に警報装置のような物が作動する危険もある。
彼女は緊張するも、試してみる事にした。
「……開いたわ」
ガチャリと取っ手を回すとハッチのドアが開く。
正方形の口は小さなものだが、レヴィアタンの細身の体格なら問題なく通れる大きさだ。
穴の下には梯子がかかっており、そこから降りれるようになっている。
彼女は慎重に通路の中へ降りていった。
「…………」
途中、不安視していた警報装置のようなものは幸いにして鳴らなかった。
薄暗い中を彼女はしばらく降りていくと、30秒程で底へと着いた。
「通路が奥に続いているようね」
どうやら通路が先へ伸びているようだ。
彼女は道を歩いて進む事にする。
しばらく進むと、通路を進む彼女の前方にバリケードが現れた。
鉄鋼が何本も通路をさえぎるようにして積まれていたのだ。
「何よこれ。邪魔ね」
彼女の力では持ち上げてどかすには骨が折れる。
なので彼女は氷を利用することにした。
彼女はフロストジャベリンを上にかざすと高速で回転させ始める。
すると複数の氷の機雷が生成された。
そして完成と同時に彼女はそれを解き放つ。
「いきなさい」
かけ声と共に氷がバリケードへ向けて送られた。
これは氷の輪の亜種バージョンである。
通常ならば氷の機雷が輪になって円状に広がる。だがこの技は各氷が一直線になって対象へと向かう。
機雷が連続して鋼鉄にヒットした。
重い鉄鋼が機雷の連爆発を喰らい、破壊されて崩れる。
『ドゴ、ン!』
あっという間に彼女の前に道が開けた。
「フフ、片付いたわね」
笑顔を見せてレヴィアタンは先に進む。
彼女の前では少々の小細工など意味をなさない。
その後も何度か似たようなバリケードが現れたが、彼女は氷を駆使してバリケードを突破していく。
そして通路を先へと進んでいくと、今度は上へと登る階段が見えてきた。
「階段があるわ。もしかして出口へ続いているかも」
奥をさえぎるようにして置かれていたバリケード。
そしてこの上へと続く階段は、出口へ続く当たりの通路ということかもしれない。
彼女は期待半分と不安半分で階段を登り始めた。
しかし、しばらく歩くとその途中で行き止まりに突き当たる。
「このドアは……」
1つのドアが目の前に現れていた。
それ以外は壁になっていて進めない。
「どうやらここを通るしかないようね。でも、この感じだと敵がいる可能性が高いわ」
彼女の感が言っている。
この先には敵が待ち構えていると。
今のところ脱走がバレている様子はないが、見つかればサイレンが鳴って気付かれてしまうだろう。
「どの道バレて追跡されるのは織り込み済み。なら臆せず行くべきよ」
彼女は少し考えたが、このままドアの先へ進む事にする。
彼女は鏡世界からの脱出を試みているのだ。
敵に感知されて追っ手が来る事は承知の上。
なので気後れしている場合ではないと彼女は判断した。
『ガチャリ』
ノブを回すと鍵などはかかっておらず、そのまま開ける事が出来た。
レヴィアタンはすぐに戦闘に入れるよう、意識を整える。
そして中に入った。
「……!」
中には予想した通り、先客がいた。
1人の人型の男が直立してこちらを向いて立っている。
その男に彼女は見覚えがあった。
「あ、あなたは…!」
彼女からすれば忘れられるわけがない。
がたいのいい白い身体。まるで雪だるまが人の形をとっているかのような姿。
それは、彼女をこの鏡の中へ無理やりさらった張本人であった。
「私を鏡に連れ込んだ奴……!」
「ぐふフ、お久シブリ。妖将レヴィアタン」
白い大男は、レヴィアタンを見て悪びれずに笑みを浮かべた。
「あなた、私をよくもさらってくれたわね…!」
「グフ。オレの名前、スノウスレイヴマン。ヨロシクナ」
怒りを向ける妖将に、まず彼は自分の名を名乗る。
「スノウスレイヴマン……?」
「ソウ。俺ハ雪デ出来テル。君ト同ジ氷属性」
どうやら彼は氷属性らしい。
だが彼女にとってはどうでもいい事だ。
「そんな事よりも、私をさらった理由は何なのかしら?さっきゼロ亜種達が言ってたように、ギラテアイトを私が摘発したのが原因?」
「俺ハボスや他ノ幹部ノ命令に従ッタダケ。俺はミラージュノ化学部ニヨッテ造ラレタ。ダカラソコノ命令ニ従ウ」
彼は上からの命令に従ったらしい。
彼女をさらう理由などは特に知らされていないようだ。
「ふぅん、上の命令に従っただけ、ね。でもそれなら"あんな事"をした理由が説明つかないわよ?」
「アンナコト?……アア」
じろり、と含み目で見てくるレヴィアタンに彼はしばらく考えて思い至った。
舌をべろりと出して笑ってみせる。
「クク、君ノお尻スゴく可愛カッタ」
「……!」
にちゃり、と大福のような白い顔が動く。
そして実際に手元にペロペロキャンディーを取り出して、彼は舐めた。
「マルデコノお菓子飴ミタイ。甘クテトテモオイシイ」
「~~~ッ!」
スノウスレイヴマンの言葉にレヴィアタンの顔が紅潮する。
これは怒りと、しかしそれだけではなかった。
あれだけハレンチな行為をされ、しかも相手は性的に楽しんでいたという。
その事に、彼女は激しい羞恥を感じていた。
「……ゆ、許さない」
「ウン?」
「私を辱しめた罪、ただじゃ済まさない……!」
レヴィアタンはキッと雪男を睨み付ける。
そしてフロストジャベリンを素早く半回転させて、刃先を彼に構えた。
「ここでズタズタに殺してあげる。覚悟なさい」
「クク、君と遊ベルの、楽シミ」
スノウスレイヴマンは妖将に刃物を向けられても、特におののいたりたじろいだりする様子はない。
自然体のままで彼女に相対している。
その様子にますますレヴィアタンは苛ついた。
「あなた自分の状況がわかっているのかしら?すぐに悲鳴を上げる事になるわよ」
「ソレハドウカナ」
彼はあまり危機感を感じていないような返答を返す。
その答えが言い終わらない内に、レヴィアタンの身体は動いていた。
素早いステップで前方へ接近したのだ。
フロストジャベリンの刃先を敵に向けて槍のように突きが放たれる。
「はあっ!」
彼女は水中戦を得意としているため陸上ではさほどでもないように思われがちだが、それは間違いである。
水中ほどではないのは確かだが、彼女は陸上でも十分に高い実力を誇っていた。
今の前方突きの動きでもそれは見てとれる。
ピッチな歩幅で高速でステップを刻み、一瞬で彼女は敵との距離を詰めていた。そして瞬きする間もなく速く、力強い突きを放ってみせたのだ。これにはスノウスレイヴマンも反応出来ず、そのまま突きを顔面に喰らった。彼女は彼の顔を狙って打突したのだ。
敵の急所を迅速に狙う。
将軍としての殺の基本を彼女は忠実に実行していた。
陸であっても彼女の高い戦闘能力は変わらないのだ。
これではスノウスレイヴマンも攻撃をまともに受けるしかない。
「なあ…ッ!?」
しかし、妖将の突きは空を切った。
手応えなくジャベリンが空間を薙いだのだ。
完璧に捕らえたはずの打突が敵をすり抜けるように貫いていく。
【挿絵提供:軽木ょ様】
まるで煙のように、スノウスレイヴマンの身体が薄れていた。
彼女がもろに刃先を当てた箇所が、ただのハリボテのように透過する。
(こ、これは……!?)
彼女はデジャヴを感じた。
同じ感覚を先の戦闘でも感じた記憶がある。
そう、それはピエロのボスであるマリオネスとのバトルーー。
彼女がその時の記憶を追体験している最中、しかしその想起は強制中断された。
側面から強烈な張り手を受けたからだ。
いつの間にか後ろの死角に回っていたスノウスレイヴマンが彼女へ殴打を見舞っていたのである。
「ぶフうッ!」
クリティカルに喰らった彼女の身体が奥へとぶっ飛ばされた。