ロックマンゼロ -episode leviathan-   作:プレイズ

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対妖将用抗電子殻剤プログラム

「くっ」

ジャベリンでの回転切りが空振りに終わり、レヴィアタンは体勢を崩してよろめく。

マネキン2体にはどうやら実体がないようだ。

当てたと思った箇所がまるでモヤのようにすり抜けてしまう。

(くぅ…ッ、こいつらは幻影なの?)

先程倒したマネキンと同様の外見をしているが、先の1体とは違いこの2体は幻影で出来た幻か何かだろうか。

彼女はそんなふうに考えた。

彼らは一見実体があるように見えるが、実はその逆なのかもしれない。あたかも目の前にその物があるかのように見せかけるVR空間のような可能性があるのだ。

(もしかして、こいつらは今さっき倒したマネキンとは違って実体のないホログラムなのかも)

レヴィアタンは敵のマネキン2体の正体は仮想現実の立体映像であると仮説を立てた。

さっきスノウスレイヴマンによって透明板に張りつけられて、彼女はどこかに飛ばされている。その時にVR空間に転送されたというのもあり得なくはない。

レプリロイドという超技術の発達した21XX年においては、VRは現実と見まがうレベルで実用化されている。今自分はその仮想空間の中にいるのかもしれない。

 

だが、すぐにそれは間違いであるとレヴィアタンはわからされる事になる。

彼女の視界が反転したからだ。

 

ガッ!

 

「!?」

強い衝撃が身体に走る。

何かをぶつけられたような痛みが足下に走っていた。

同時に妖将の足がすくい取られるように跳ね上がる。

「きゃあ!」

バランスを崩されレヴィアタンが宙を舞う。

突然身体がひっくり返り、彼女は動転した。

両足が跳ね上がり、それに伴って顔も上空を向かされる。

わけもわからず虚空を見上げつつ、彼女は視界の端を痛みをもらった方向に向けた。

【挿絵表示】

【挿絵提供:Tomrock@成人向けお絵かきマン様】

するとそこには1体のマネキンがいた。

敵は下段蹴りを放った体勢で身をかがめている。

(は、背後にいたマネキンに蹴られた……?)

実体がないはずのマネキンに攻撃を当てられた。

しかも直接攻撃をである。

さっきはすり抜けた敵に何故か足払いをもらってしまったらしい。

幻影や仮想現実で創られた幻ならばこちらに攻撃を当てられるはずがない。

彼女はだからこそ背後のマネキンへの警戒がおろそかになっていたのだ。

しかし、敵はしっかりと物理攻撃を当ててきた。

今このマネキンには確かな実体があるのだ。

 

ドスン!

 

宙を舞ったレヴィアタンがお尻から地面に打ちつけられる。

両足を揃って跳ね上げられたため彼女は派手に尻餅をつく形になった。

無警戒で綺麗に足払いをもらってしまい、彼女の身体は2秒ほど地を離れて飛んでいたのだ。

彼女が動転してから敵を見て状況を把握し、相手がただのホログラムではない事を認識するーー。

少なくともそれが出来てしまうくらいの時間は。

虚空に浮いていたのは僅か2秒弱なのだが、彼女の体感はもっとゆっくりに感じられた。

しかし、呆けるような時の静止は一瞬だった。

「ぐうッ!」

尻餅をついた衝撃で彼女はたまらず声を漏らす。

妖将の華奢な身体では転倒の反動がどうしてもある。

雑魚に過ぎないはずのマネキンに一撃をもらってしまい、彼女は顔をしかめた。

 

『レヴィアタンに-3のダメージ』

 

また"画面上"にHP減のメッセージが表示される。

今度は先刻程のダメージはない。

クリティカルにもらってしまったとはいえ、尻餅をつかされた程度なので軽いダメージで済んでいる。

「くっ」

倒れ込むも、彼女はすぐに起き上がった。

お尻を土台にして足先から伸び上がるように前方へジャンプ。

調度向こうから挟み撃ちにやって来たもう1体のマネキンへ、ドロップキックをお見舞いする。

 

ドム!

 

今度は手応え、いや足応えがあった。

彼女の両足先がマネキンの胴体をくの字に折り曲げさせる。

(よし、当たったわ……!)

今度は空振りする事なく攻撃が決まり、彼女はほっとした。

またすり抜けてしまったらと思ったからだ。

どうやら今このマネキンはちゃんと実体があるらしい。

それを認識した彼女は攻撃を畳み掛ける。

「や、や、ヤアッ!」

フロストジャベリンの前方突きを彼女は立て続けに繰り出した。

槍の切っ先がマネキンの胸をドシュ、ドシュリ!と突き刺す。

たまらず敵は奥へと押しやられて倒れた。

攻撃を当てさえすれば所詮は雑魚に過ぎないマネキン敵は、この連突きでHP限界を超えたらしい。

「たっ!」

続けてレヴィアタンは素早い足さばきで踵を返す。

逆側には先程自分を"足払い"した方のマネキンが控えている。

彼女は今度は槍を使わず、技を使用した。

スッと手をかざして氷の機雷を自分の前方に生成する。

彼女の得意技であるマリンスノーだ。

水中で使う際には泳ぎ回る間に大量に氷機雷をばら蒔いて放つ技。

しかし、陸上である今はそんなたくさんは使えないので、少数生成となる。

彼女は手を前にかざして、氷の機雷を1つ生成した。単発ならば生成に時間はかからずすぐに機雷を作成出来る。

「喰らいなさい」

彼女の意思を受けて機雷が真っ直ぐにマネキンへと放たれる。

マネキンはそのまま氷の結晶を胸に喰らった。そして爆ぜる。

機雷の誘爆を受けて、あっさりとマネキンはやられたのであった。

 

「ふぅ……何だ、あっけなかったわね」

拍子抜けするくらい簡単に倒せてしまい、レヴィアタンが息をつく。

さっきは槍の薙ぎがすり抜けて動揺させられたが、直後に敵が実体を持った(?)ため攻撃を当てる事が出来た。攻撃が決まりさえすれば所詮は雑魚なためほぼ1、2撃で撃破可能なのだ。

だが、突如実体を持ったマネキンによって彼女は不本意な一撃をもらってしまった。

ホログラムだろうと無警戒だった隙を突かれて転ばされてしまったのだ。

「くっ……この私がこんな雑魚に尻餅をつかされるなんて」

彼女は遥か格下のマネキンに一杯食わされた事を恥じる。

本来問題にしないレベルの相手に翻弄されるなど、妖将としてあってはならない。

しかし、ジャベリンの攻撃を一度透過でかわされたのは事実だ。

何故、こんな雑魚に過ぎない敵にそんな芸当が出来るのか?

彼女は疑問を持たざるを得なかった。

「何でこんな雑魚が私の攻撃を透過出来ちゃうの……?まるでマリオネスやさっきのスノウスレイヴマンって奴みたいじゃない」

『くくく、知りたいかレヴィアタン』

「!?」

独り言に反応が返ってきて、彼女はビクリとした。

「だ、誰…!?」

『ゼロだ。いや、ゼロの亜種と言った方がいいか』

声の主は先程顔を合わせたゼロ亜種であった。

彼らの声が、何故かこの森の中のどこからか聞こえてくる。

「ゼ、ゼロ…?の亜種……?」

『そうだ』

「な、何で私の事がーー」

『悪いがお前が"逃げた"事は承知済みだ。席を外したが監視カメラでお前の動向は確認させてもらっていたからな』

「く……やっぱりカメラの類いがあったのね」

監視カメラがどこかにあって監視されている可能性は彼女も認識していた。ただ、目につく所にはなかったのでもしかしたら敵は気付いていないかも、と希望的観測もあったのだ。しかし残念ながらそう都合よくは行かなかったらしい。

「私を監視してたってわけね。このマネキン達やさっきの白饅頭もその仕業かしら?」

『ああ。脱走を図るお前への刺客だ』

「くっ……私をなぶり殺しにする準備は万端ってわけね」

敵はしっかり彼女を逃がさぬべく対策を取ってきたと見える。

これは脱出するのは相当難しくなりそうだ。

『言いつけを破ったお前には痛い目を見てもらう』

「ここでリンチするって算段?悪いけどこのマネキン達じゃ私の相手にはならないわ」

『そうか?今、すっ転ばされていたように見えるが』

「……!」

さっきの"不覚"をしっかり見られていたらしく、彼女は罰が悪そうな顔をする。

「ど、どうしてあのマネキン達は透過なんて出来るの?あの雑魚固有の能力かしら…?」

『いや。あれは我らの解析の賜物だ。お前の解析データを利用したものだからな』

「え……?」

ゼロ亜種の言葉にレヴィアタンが怪訝な表情になった。

「か、解析データ?私の……?」

『そうだ。我らは既に【妖将】のデータを完全に解析完了している』

「な………」

彼らの口から思いもよらない事が知らされる。

自分のデータを解析したというのだ。

「ど、どういう事……!」

『お前を捕らえた際にスノウスレイヴマンがさらったのは覚えているな?』

「……あ、あの白饅頭の事?」

『そうだ。奴にはある特殊能力があってな。"舐めた"対象の持つ特殊能力の詳細分析が出来るのだ』

「……!?」

レヴィアタンの瞳が驚きに見開かれる。

「な、舐めたって……」

『覚えていないか?お前は奴にペロペロ舐められていただろう』

「……!ど、どうしてそれを……」

『お前をさらった時の一部始終は傍の監視カメラで撮影させてもらっているからな。だからお前がスノウスレイヴマンに"お尻を舐められた"事はわかっている』

「な、、!」

あの羞恥極まりない場面を彼女は実はカメラで撮られていたのだ。

彼女はそれをカメラ映像を通して他の敵達にも見られてしまっている。

「く……!へ、変態…!」

『悪いが。やったのは奴、スノウスレイヴマンだ。恨むなら奴を恨むんだな』

「くっ……、そ、それで舐められたからって何で私の能力が解析されちゃうわけ?」

『奴の舌には超解析スキミング機能が搭載されていてな。舐めた相手の持つ特殊能力や物理攻撃に使われる分子の電子殻を把握出来る』

超解析スキミング機能。それは相手の持つ、物体に干渉する際に放出される分子の電子殻配置の構成を知れる事だ。何かに物を触れさせる時、例えばレヴィアタンであれば氷を放つ時にその氷には決まった分子の電子殻がある。その成分構成は他のレプリロイドとはそれぞれ違い、彼女固有のものだ。

その電子殻配置パターンをスキミングして取得する事が出来る。もちろん氷に限らず、フロストジャベリンによる打撃の際に生じる分子の電子殻パターンも同様である。

「そ、それを知られたからってどうしてあなた達が有利になるのよ」

『わからないか?相手の攻撃の電子殻構成を把握出来るという事は、それを利用すれば攻撃を無効化出来るという事だ』

「……!」

ゼロ亜種達は彼女にからくりを教えてやる。

『電子殻のパターンさえわかっていれば、その構成をズレさせる又は一部分解してやればその電子安定は崩壊する。つまり個体としての塊がなくなるわけだ』

「…………」

『氷であれば、その硬い部分を半透明にしてしまえる。つまり"すり抜けさせる"事が可能になる』

『槍による切りつけに関しても同様。打突の瞬間にフロストジャベリンの電子殻パターンをズレさせるプログラムを、相対する対象者に付与していればいい。そうすれば敵にフロストジャベリンが触れる瞬間に"フロストジャベリンが半透明になり"、すり抜けて無効化する事が出来るわけだ』

彼女は思い返した。

これまでの戦闘での違和感を。

彼女はずっと、敵が半透明になっているから攻撃がすり抜けているのだと思っていた。

しかし実際はその逆で、彼女の攻撃の方が電子殻の安定を乱されて半透明化していたのだ。

「わ、私の攻撃の方が透き通るようにされていたっていうの……?」

『そうだ。敵に当たる瞬間にお前の持つ固有の電子殻を乱すようプログラムを組んでいるからな。お前からすれば敵が半透明になったように錯覚するだろう』

『つまりお前の放つ全ての攻撃は我々にとって通用しないという事だ』

「な……!」

彼女はようやく全容を把握した。

最初にスノウスレイヴマンに捕獲された際に、全ては始まっていたのである。

奴に舐められた事で、敵に彼女の持つ固有の電子殻配置の情報が知られてしまったのだ。

それを詳細に解析され、電子殻のズラしプログラムによって敵は彼女の攻撃を無効化する事が可能になっていた。

『妖将レヴィアタンが持つ全ての攻撃の分子構成、電子殻パターンは解析が完了している』

『故にお前がどんな攻撃を放ってきても、我々にはもはや通じない。対妖将用のプログラムを適用すれば、お前の攻撃は透き通り効かないからだ』

「く、く……!そんなわけあるもんですか……!だって、さっきは私の蹴りは当たったし、槍での攻撃も効いたわよ」

『それは俺達が一時的にマネキンのプログラムを解除したからだ。プログラムの有無でどうなるか見たかったからな。結果はお前の圧倒だったが。確かに電子殻プログラムがなければお前はとても我々の手にはおえない実力を持っている』

『だが、既にお前の技の電子殻配置は把握済み。その条件下ではいくらお前が強くとも我々には敵わない』

「解析したからって私の技が効かないっていうの?ふざけないで」

『じゃあ試してみるか?ではまたマネキンを用意してやろう』

ゼロ亜種の不敵な微笑みと共に、森の奥から新たな影が現れる。

草木をかき分けて、また先程と同じ見た目の黄土色のマネキンが姿を表した。

今度は3体いる。

「く……またそんな雑魚をよこすつもり?」

レヴィアタンは罰が悪そうにジャベリンを構えた。

しかし内心では焦りがある。

ゼロ亜種達の言葉に不覚にも動揺させられていた。

(あ、あいつらの言う事は嘘よ。だって、私の情報が抜かれて全ての技が無効化されるなんて、あるわけがないわ)

彼女はゼロ亜種達の言う事が事実だと信じる事は出来ない。いや、したくない。

もし本当なら万事休すになってしまうからだ。

そう逡巡している間に、マネキン達が彼女に迫ってくる。

ゾンビのような足取りで前へ前へと距離を詰めてきた。

「はあっ!」

レヴィアタンはジャベリンによる刺突を繰り出す。

小気味いいステップと発声で、マネキンの正面から槍の切っ先が突き刺された。

しかし、手応えはなかった。

マネキンの顔面を狙った刃先は、しかしすり抜けてしまう。

「なっ……!?」

完全に捕らえた突きが透き通るように空を切る。

ゼロ亜種の言った通りになり、彼女は動転した。

よく見ると、確かに敵が半透明になっているのではなく、彼女のジャベリンの方が半透明化していた。

「くぅ……!」

バランスを崩した彼女は歩様が乱れて前につんのめる。

あわてて足を踏ん張ってブレーキをかけたが、敵のマネキンはほぼゼロ距離の位置にいた。

ニチャ、と眼前で口だけがあるマネキンの顔が笑う。

次の瞬間、マネキンの膝蹴りがレヴィアタンの腹を強打した。

 

ドン!

 

「ぐふぅ!」

まともな一撃がもろに懐に入り、彼女はくの字に身体を折り曲げられる。

そして、後方に飛ばされた。

あくまで雑魚の一撃のため、そこまでふっ飛ばされる事はなかったものの彼女はバランスを崩して後ろへ倒れ込んでしまう。

 

『レヴィアタンに-5のダメージ』

 

"画面上"にHP減の表示がされ、彼女にまたダメージが入る。

微々たるものとはいえ、マネキン相手に余計な攻撃を受けてしまった。

「く……!」

彼女はすぐに起き上がって体勢を整える。

攻撃が効かず、レヴィアタンは動揺を隠せない。

槍での攻撃はゼロ亜種の言う通りほぼ通らないと言ってよかった。

マネキンのような雑魚にそんな状態になるのは彼女としては信じがたい。

しかし現実として彼女の攻撃は無効化されていた。

対妖将用の電子殻プログラムがこのマネキン達にも実装されているのだ。

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