ロックマンゼロ -episode leviathan- 作:プレイズ
レヴィアタンは不覚にもまた糸を挿されてしまい、再びマリオネスに操られてしまった。
彼女の身体からは複数の極細糸が伸びており、それは道化師の手の先に繋がっている。
この糸は挿された対象の支配権を掌握し、自在に操る事が出来る効力がある。
ただし何にでも支配出来るわけではなく、体力が十分にある相手には効かない。
また糸は1、2本挿した程度では対象の統括権を奪うまでは難しく、相手を完全に操るにはより多くの糸を挿す必要がある。
だが前述の条件をクリアさえすれば、例え格上の相手であっても意のままに操る事が出来てしまう恐ろしい能力でもあるのだ。
そして、今マリオネスは妖将相手にそれを実現していた。
「ぐ、くう、、、!」
全身に糸が挿し込まれ、レヴィアタンの身体の動きが鈍る。
彼女は槍で糸を切り払おうとするが、マリオネスの指令によりその行動はキャンセルされた。
彼女の意思決定は今、道化師の意思よりも権限順位が下位になっているのだ。そのためマリオネスの意に反する行動は取れない。
「くく、サテ。また氷を作ってごらん」
「ーーーかしこまりました、マスター」
マリオネスの要望に彼女はこくんと頷く。
目の光が瞬間霞み、道化師の意思により頭脳メモリーが統括されている。
その流れのまま、彼女はすうっと手を前にかざした。
「マリンスノー」
凛とした声で技の名前が発せられる。
少女らしい美しい声音と共に、手の先から綺麗な氷の塊が生成された。
先程は3つ連なった形状だったが、今度は大きめの塊が1つである。
マリオネスのイメージした氷がそのまま生成されているのだ。
操りの糸を決めた相手に対しては、彼は声で命じた内容だけでなく、頭で想像したイメージも相手に具現化させる事が出来るようだ。
「見事ナ氷ダネ。ヨシ、またソレを突きデ壊してゴラン」
「ーーーはいーー」
再び命令がくだされる。
彼女は何一つ抵抗するそぶりなく、フロストジャベリンをスッと前に構えた。
そして踏み込みと共に勢いよく突き入れる。
「やあっ!」
威勢のいいかけ声と共に槍が前へと繰り出された。
ジャベリンの切っ先が大きな氷の塊に突き刺さる。
鋭い刃先がパワーを持ってねじ込まれ、塊は破綻した。
『ドシャアァ!!』
派手な音が響き、氷塊は粉砕される。
レヴィアタンのキレのある槍突きが決まっていた。
彼女の突きはただの突きではなく、優れた突き込みである。
踏み込みによる勢い、ジャベリンのねじ込みによる威力の増強、そして俊敏なスピード。
3拍子が揃った一級品の突きだ。
ここ鏡の世界ではマリオネスの分身や対妖将用抗電子殻プログラムによって不条理に避けられてしまうが、通常ならかわすのがかなり難しい攻撃である。
妖将である彼女の技はただの突きであっても練度が高く、実力の高さを感じさせた。
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「ふふふ、イイね。素晴らシイ」
彼女の優れた突き込みをじっくりと観察し、道化師の口に愉悦の笑みが浮かぶ。
-----魔封宮殿-----
その頃、少し離れた場所にてこの光景を見ている者達がいた。
闇商人ベルチェと幹部のゾルベームグだ。
彼らはマリオネスと妖将の対戦を始めからモニター画面を通して閲覧している。
いや、正しくは彼女が脱走を開始してからずっと見ていると言った方が正しいか。
彼女の行動データ計測のために監視カメラによって観測しているのだ。
「先程に続きまたもレヴィアタンを操る事に成功か。流石マリオネスだ」
ベルチェは道化師の意思により突きを打たされる彼女を見て感嘆の声を漏らした。
本来ならば妖将の彼女を操る事などまず不可能な芸当である。
だがマリオネスは絡め手の技巧と巧みな戦術によってそれを可能にしていた。
「同感ですが、まあ我がボスですからな」
ベルチェの評にゾルベームグが賛同する。
彼は自身のボスなためその実力はよく知るところだ。
さしもの妖将といえど簡単に倒せるやわな男ではない。
「ただ普通ならばこうはならないでしょう。ここ鏡世界で有利に戦える事、そしてこれまでのデータにより彼女の攻撃を上手く無効化して少しずつダメージを与えてきた事が大きいでしょうな」
「確かにな。今彼女のHPはかなり減って苦しい状況だ。対妖将プログラムを実装したマネキンの軍勢との長期戦で疲弊したのが要因だろう」
レヴィアタンはマリオネスとの戦闘前にホログラム空間でマネキン達と長い時間戦っている。
その際にデータ分析による彼女専用のプログラムを組まれた敵に彼女はかなりの苦戦を強いられた。
攻撃を喰らってHPを徐々に削られ、結果半分近くの体力を消耗してしまった。
さらにマリオネスによって開幕に不意打ち攻撃を被弾したため、彼女はさらにHPを減らされている。
モニター画面に表示された、少なくなった彼女の体力ゲージを笑み見ながらゾルベームグが言う。
「その減った体力の影響で彼女は今マリオネス様の操りの糸が効く状態になっておる。万全の彼女なら喰らっても問題にしないレベルの技ですがな」
「本来なら彼女の方がマリオネスよりも格上だからな。だが巧妙なプランによって上手く嵌める事が叶っているということか」
道化師によって操り人形と化したレヴィアタンに彼らは微笑みを浮かべる。
だがベルチェは少々納得いかげな顔も見せた。
「彼はさっきも妖将に同じ技を操って出させていたが、また同じ技を彼女にさせているな。何故わざわざ同じ事を?折角操ったのだからもっと有利になる事をすればいいではないか。例えば彼女を自傷させるなり」
「確かにそれも可能でしょう。何なら槍の切っ先を彼女の首元に向けさせて貫かせる事だってやろうと思えば出来るはずですじゃ」
「なら何故それをしない?」
「我々の目的は彼女を殺す事ではありませんからな。ダメージを与えているのはあくまでマリオネス様の操りの糸を効きやすくするため。まあそれと逃げようとした懲罰の意味もありますが」
「ほう。操りの糸を効かすためには体力を減らす必要があるからか。なら同じ技を出させる必要は……?」
「それは、まあマリオネス様の趣味でしょうな」
画面の先では妖将が糸を引かれる背後で道化師が満足気に笑っている。
彼はレヴィアタンを操っている行為を楽しんでいるらしかった。
氷を出させてわざわざ無意味に割らせているのは、彼女の所作の動きを見て鑑賞するためである。
彼女の氷の技は美しく、また槍による突きも流麗で見惚れる動きなのだ。マリオネスはそれをじっくりと見て堪能したいがために続けて同じ動きをさせていた。
「しかし勿体ないな。折角糸を挿せたのに無駄になるだろう。いくら有利に運べても、妖将の彼女を相手にそう何度も操りの糸を挿せるとは思えんが」
「ボスの悪い癖ですじゃ。気に入った相手にはつい他者から見て無意味な遊びをしてしまうのです」
戦いの中で遊びに興じる道化師に彼らは少々呆れ顔になる。
だが現在体力的にも精神的にも優位に立っているのがマリオネスの方なのは揺るぎない事実だ。
レヴィアタンは体力に余裕がなく、マリオネスはほぼ万全。そして彼女の攻撃は当たってはいるが、マリオネスの強力な分身によって簡単にはいかない状況。それらによる焦りが彼女の苦戦を招いている一因でもあった。
『く、くぅ……!』
突きを放って氷を破壊した直後、彼女は正気に戻った。
自分の意思によらない所で行動を操作され、彼女は困惑する。
何とか命令に抗おうとしても、脳内シナプスの動きを変更されてしまうためどうにもならないのだ。
操りの糸をまともに挿されてしまうと、いくら彼女の方が格上でも為す術なく支配されてしまう。
【※表情差分。挿絵提供:とーます!?Skeb募集中様】
ーーその時、彼女の頭の中に不意に誰かの声が聞こえた。
【レヴィアタン様、聞こえますか?】
「え………?」
突然、誰かの声が脳内に響き渡り、彼女は思考を停止させた。
【落ち着いて聞いてください。今からあなた様をお助け致します】
謎の声が、どこかから彼女に語りかける。
これは頭の中に直接届けられている声だ。
マリオネスが声に反応した様子はなかった。
【だ、誰………!?】
【あなた様の味方です。大丈夫、怖がらないでください】
声は穏やかに彼女に語りかける。