ロックマンゼロ -episode leviathan- 作:プレイズ
【私はこの鏡世界を管理しているAI、マニピュレートといいます】
【え、AI……?】
【はい。鏡世界における全ての決定権を持っているシステムです】
頭の中の声はそう穏やかな声でレヴィアタンに語りかける。
その者は自分の事をAIと名乗ってきた。
【この鏡世界を管理している……ですって?】
【ええ。ここは鏡が支配する特殊な世界。あなた様が普段住んでおられる外界とは鏡を通じて繋がっていますが、この鏡世界からは私の許可がなければ行き来する事は出来ません】
彼女はマニピュレートというAIとの脳内会話をしていく。
しかしその間もマリオネスとの戦いは続いていた。
操りの糸の効果が切れた彼女をマリオネスの攻撃が再び襲う。
「ククク、またすぐに糸を挿してアゲルヨ」
「はっ……!」
道化師の持つタクトが振るわれ、再度床のマユが蠢いた。
これは内包されている操りの糸が射出される兆候である。
危険を察知したレヴィアタンはすぐに背後へと飛びすさった。
直後にマユの口が開き、極細の束が放出される。
「くっ!」
迫り来る糸の雨を、しかし彼女は凪払った。
フロストジャベリンを高速回転させ、糸を遮断して防御した。
流石の身のこなしだ。
だが余裕は普段と比べてほとんどなかった。
既に体力的に追いつめられているからだ。
【レヴィアタン様、こちらへ!】
【……!】
再び脳内にマニピュレートと名乗るAIの声が響く。
すると、彼女の前方に1枚の鏡が表れた。
等身大ほどの大きさの鏡だ。
その鏡は鏡面が光を放って発光している。
「ム……ナンダ、この鏡ハ」
突然表れた異物にマリオネスが足をとめた。
彼は鏡のエキスパートであり、鏡を多彩に使いこなす能力を持っている。
だがその彼からしてもこの鏡は予定にないものらしい。
「僕はこんなモノ出してナイ。何故ここに鏡なんて出てキタ?」
道化師が不意をつかれてしばし思考を巡らせる中、レヴィアタンの方も目の前に表れた鏡に困惑していた。
【こ、これは何なの……?】
【こちらに入ってください。別の場所に繋がっていますので。すぐにゲートを閉じます】
AIは彼女を導くように言った。
ここへ入れば別の場所に移動出来るらしい。もし本当ならばマリオネスをまく事が可能だ。
【…………】
だがレヴィアタンは得体の知れない鏡に入る事に抵抗を感じる。
どこへ通じているかわからないのだ。
しかし今は迷っている暇はなかった。すぐ後方に糸の束を再び放とうとするマリオネスが迫っている。
「ええい、もうやぶれかぶれよ!」
意を決した彼女は前方の鏡へと走り出した。
今は鏡の中に入るしか突破口がないのだ。
恐怖はあるが、彼女は可能性を信じてそこへ飛び込んだ。
「待テ!まだボクとのお人形遊ビは途中ダ!」
マリオネスが彼女へ叫んだ。
彼は再びレヴィアタンを操って止めようとするが、今は操りの糸を挿していないため彼女の動きを操作する事は出来ない。
道化師の制止は効かず、レヴィアタンの姿は光る鏡の奥へと消えていった。
そして彼女が鏡に入るとすぐ、鏡自体も霧のように消えていく。
「ちィ……!逃がしたカ……!」
苛立たし気にマリオネスが吐き捨てた。
彼は鏡を多数操る事が出来るが、今の鏡は彼の管理外のものだ。
別の何者かが出現させたものであり、いくら鏡の使い手の彼であっても効果を及ぼす事は不可能であった。
「こんな事が出来るノハ、【アレ】しかイナイネ」
マリオネスは思い当たるふしがあるように呟く。
同時に怒りを帯びた形相になった。
「タカがシステムの分際デ忌々シイ。折角レヴィアタンをこれから完全な傀儡にしてアゲルトコロヲ」
『マリオネス様。どうやら邪魔が入ったようですな』
ふと、不意にどこかから声が届けられる。
天井に備えつけられていたスピーカーからのようだ。
声は老いた声色で道化師の見知ったものだった。
「……ゾルベームグか。あア、どうやら奴の仕業ラシイ」
『今はワシの構築したプログラムによってシステムの効力を失っておるはずなのですがな。どうやら一部抜けがあったようで』
「ふん、まあイイ。どうせすぐに場所はわかるんダロウ?」
『ええ。妖将の身体には既に"マーキング済み"ですからな。出現ポイントは把握出来ております』
レヴィアタンの居場所を彼らは既に把握していた。
スノウスレイヴマンの能力によって彼女の身体には特殊なマーキングが施されている。
故にどこに逃げようともこの鏡世界にいる限り彼らには所在地が筒抜けなのだ。
『ですがそのポイントには今強力なシールドバリアが展開されておるようです。それを除去するのにしばらく時間がかかりそうですな』
「ナンダッテ…?余計なコザイクを」
ゾルベームグはその知略を活かしてこの鏡世界の現在のシステム管理も担っている。
そのため鏡世界のどこで何が起こっているかもだいたいは把握していた。
その彼から見て現在バグのようなものが発生しているのだ。
バグというのは彼の作った管理プログラムに反するプログラムが一部で展開されている事である。
『システムの反乱というわけですかな。ワシの作る管理プログラムに歯向かうとは、忌々しい事です』
「まったくダ。だがキミなら問題なく【除去】デキルだろう?」
『少し時間はかかりますがな。まあ問題ないでしょう。向こうはせいぜい僅かな時間稼ぎといった所ですじゃ』
「まあイイ。レヴィアタンも疲れたダロウから少しだけヤスマセテヤロウ。本当はあのまま完全な"お人形"にして脳と身体を永久に支配シテヤルトコロダッタケド。ヤスンデ回復した分ヲまたいたぶって楽シンデアゲル」
くくく、と道化師が不気味に笑う。
彼は妖将レヴィアタンを自分の意のままに操れるドールとして完全掌握する気でいる。
彼女の身体のプロポーションや顔の容姿、その美しさを彼は買っていた。
レヴィアタンを単なる四天王の将の一角とは彼は見なしていない。彼女は自分が思う理想的な美少女であり、それはマリオネスにとって保有する至高の喜びに繋がる。
「サ。すぐにまたお人形アソビの続きをシヨウカ。今度はキミを本当のボクのドールにシテヤロウ」
彼は指から糸を出して艶かしく微笑む。
その糸の力で再び妖将の指揮系統を支配するつもりだ。
彼女を自分の意のままに操れる傀儡人形にしたい。
そんな恐ろしい願望を道化師は持っている。
ただの物としての人形ではなく、意思を持ったそれも最上に美しく可愛らしい、ネオアルカディア四天王の紅一点である妖将。それをドールにするのだ。
先程の前哨戦にて既にその素地は十分に作ってある。
操りの糸はネオアルカディア四天王相手でも効き、基準を満たせば実際に彼の思うがままに操れる事がわかった。
つまり妖将レヴィアタンを彼の完全なるドールにする事も可能だということだ。
「くクク。キミをここのコレクションに加えるのが楽しみダ」
彼は自分の住みかである一室に戻り、ある一角を眺める。
そこには彼の趣味である人形達が揃えられていた。
複数の糸が挿され、上からマリオネットのようにアンバランスに吊られた者達がそこに無造作に整列させられている。
それは様々な種類のレプリロイド達。
その瞳にはもはや光はなく、マリオネスによって傀儡人形にされた憐れな成れの果てであった。
「この中デモ彼女ハすこぶる美シイ。ゼヒこの特別棚に飾りタイネ」
中央にある特別に作られた飾り棚を見て彼は言った。
ここにドールにした妖将を置いてコレクションにするつもりなのだ。
「はぁ、はぁ……!」
その頃、レヴィアタンは鏡の中を走って逃げていた。
マリオネスの追撃を逃れるため、彼女は急いで奥へと突き進む。
鏡の中は、不可思議な光で満ちていた。
周囲には壁などはなく、まるで万華鏡のように様々な色の光が混ざって周囲の背景となっている。
幻想的ではあるが、まがまがしさも感じて彼女は不安を募らせた。
だが、その空間を走るのはそう長くは続かなかった。
1分程走って、彼女は開けた場所に出た。
辺りの光の様相が変わり、普通の背景が彼女の瞳に映る。
さっきまで居た場所でよく目にした紫の壁が見え、鉱石で出来た床も見覚えのあるものだ。
「こ、ここはーー」
状況確認の意味も含め、彼女は周囲を見回した。
確かにさっきまで居た場所に近い環境のようだが、地形の作りが少し異なっている。
床の材質も微妙に違うのがわかり、ここは別の場所なのだと彼女は把握した。
「…………」
すぐ後ろには今出てきた鏡通路の出口がある。
それは大鏡の形をしており、鏡面が怪しく発光していた。
この鏡面が移動可能な鏡通路になっているらしい。
だが、程なくしてそれは消失した。
発光が収まり、そして大鏡自体も霧のように薄れて消え去ったのだ。
「き、消えた……?」
【これでマリオネスが後から鏡通路を通ってきても安心です。ゲートの出口を消しましたから】
鏡AIが再び妖将の脳内に話しかけた。
【ゲートの出口を消したってわけね。マリオネスが追ってきてたらどうなるのかしら?】
【あなた様が出た後で、出口は別の無関係な場所に繋げておきました。なので今頃彼は遠くの場所に出て困惑している事でしょう】
【そう、ならよかった】
危険な道化師がすぐに追い付いてくる事はないとわかり、彼女はほっと胸を撫で下ろす。
今まで余裕なくずっと緊張して戦っていたため、やっと安心が出来たのだ。
「はぁ、はぁ……」
安心したと同時に、レヴィアタンは両手を地面につけてしゃがみこんだ。
敵がしばらく追ってこないとわかって安心した途端、たまらず立っていられなくなったのだ。
体力の多くを削られ、相当に彼女は消耗していた。
【大丈夫ですか!レヴィアタン様】
「……え……え、ええ………」
息を乱した彼女は何とかAIの言葉に返答する。
だが立っているのもやっとであり、とても大丈夫な状態とは言えなかった。
極度の緊張状態からようやく外れた事で、本来蓄積していた疲れがどっと押し寄せてきたのだ。
かなり苦しいが、四天王としてのメンツもあり彼女は明確に無理とは言わなかった。
【その様子ではかなりお苦しいでしょう。よくそんな状態であれだけ動けたものです】
AIは疲れて突っ伏している彼女を見て逆に舌を巻いている様子だった。
普通の常人ならば、これだけ体力を減らされればとっくの昔に意識を失って倒れているところなのだ。
それが何とかマリオネスの猛攻に耐えていたのだから。
【レヴィアタン様。まずはこれをお受け取りください】
【………!………これは…………?】
レヴィアタンの前にゆっくりと何かの結晶が降ってくる。
疲労した眼差しでそれを見上げた彼女は、両手を広げてそれを受け取った。
【エ、エネルゲン水晶……?】
【はい。これを使って体力を回復できます】
【……私にくれるの?有難いけど、でもどうして……】
【私はあなた様の味方。故に手助けがしたい】
AIは彼女に友好的に話しかけてくる。
理由はわからないが、彼女にとって今このエネルゲン水晶は願ってもない回復薬だった。
HPがかなり困窮しているため苦しい状況だったからだ。
【ありがとう。じゃあ有難く頂くわね】
レヴィアタンはエネルゲン水晶をその身に使う。
すると、さらにいくつかエネルゲン水晶が上からゆっくりと降ってきた。
彼女は驚きつつもそれらを受け取っていく。
【…ああ………身体が癒されるわ……】
【よかった、お元気になられたようですね】
多くのエネルゲン水晶をもらった事で彼女の体力はかなり回復した。
危険水域だったHPゲージが9割近くまで戻っていく。
【……ありがとう。助かったわよ】
【礼には及びません。あなた様の体力が戻ってよかった】
AIは心からよかったと感じられるような物言いをする。
【ありがとう。あなたのおかげで本当に助かったわ。鏡AIの……マニピュレート、だったかしら】
【はい、1回で名前を覚えられるとは流石ですね】
覚えにくそうな名称を間違えず復唱したレヴィアタンをマニピュレートは称賛する。
【礼には及びません。あなた様のような優秀な四天王様をこのような亜空間に幽閉しておくなど看過出来ませんから】
自分の事を心配するように彼(声からするにどうやら男性AIのようだ)は言った。
彼女はそんなAIに疑問を抱いた。
【あなたはどうして私にそこまでしてくれるの?】
【まず断っておきたいのですが、私はこの鏡世界のシステムを管理する管理AIです。私はマリオネス達ミラージュの組織とは無関係な存在なのです】
マニピュレートは自分の事を彼女に話し始める。
彼は姿形の実体はない。
AIであるが故に音声機能はあるものの身体は持たないようだ。
突然のAIによる介入、そして彼による助力。
動転させられる事ばかりだったが、体力が回復したレヴィアタンは落ち着いて冷静にAIの話を聞けるようになっていた。
【この鏡世界のシステムを管理している……AI………それが貴方の正体なのね】
【はい】
【システムっていうのは、具体的にはどういうものなの?】
【例えば鏡を使って別の場所にワープして移動したり、鏡を使って擬似コピーを生み出したりするような、この世界独自の理(ことわり)を管理しています】
【………!今、ここへ移動させて助けてくれたのもそれなのね】
【ええ。貴女様が鏡に入った直後にマリオネス側との鏡の接続を切りましたので、奴はしばらく追ってこれないはずです】
AIが語るこの世界のシステムについて彼女は驚く。
その不思議な理を、このAIが司っているというのだから。
【じゃ、じゃあゼロの亜種達が3人もいるのも貴方の仕業ってこと?】
【はい。ただ、私としては本来それをする意思はありませんでした。しかしミラージュによってシステムの権限を乗っ取られてしまい、彼らの命令によってゼロの鏡コピーを生み出す事をしてしまいました】
【や、奴らの命令で……?なら無条件に貴方は対象のコピーを生み出せるっていうの?】
【いえ、流石にそれは出来ません。コピーとはいえ対象に近しい存在を構築するのですから私の力でも無条件では出来ない。指定した相手に特定の特約条件を設定して、それを相手が満たせば【ペナルティ】として鏡コピーを生み出すというシステムです。まあそれもミラージュ達がプログラムを組んで作成したものなのですが】
【と、特約条件……?】
レヴィアタンは困惑するように脳内で言う。
彼女は虚構世界で偽りのゼロが言っていた事を思い出した。
偽りの存在に懐柔され、一撃をもらってしまうと『敗北』と見なされると。
彼女は偽りのゼロに惑わされるように甘えてしまい、結果不覚をとって巴投げを喰らってしまった。
【あ、あれが特約条件を満たしたって事になっちゃうの……?】
【……はい。レヴィアタン様に設定された特約条件は虚構世界にて偽りのゼロに一定以上精神を掌握された上で、ゼロにダメージを受ける事。一撃でももらってしまえばその条件を満たした事になります】
【なっ……!く、た、確かにちょっと騙されちゃったけど、、、】
彼女は罰が悪そうに困惑する。
だが虚構世界で偽りのゼロにいいように夢中にされてしまったのは事実だ。
実際には"ちょっと騙された"程度ではなく、かなり彼女は心を許して甘え込んでしまった。
そこを偽りのゼロに刈られる形となり、巴投げをクリーンに喰らってしまったのだ。
だが彼女もまさかそんな自分が不利になる特約条件が設定されていたとは思わず、ああなってしまった所もあった。
それに現実世界ではなくあくまで精神の世界なので通常よりも心の欲求・願望が表出しやすく、故につい欲望のままに彼女はゼロに心を許してしまったのだ。
【く……あのゼロ亜種達は消せないの?】
【現状では難しいです。ただし1つの条件を達成すれば可能。それはボスのマリオネスを倒すことです。鏡コピーのルールを定めた最高権限者はマリオネスですから。彼が倒されればシステム権限者はいなくなり、この世界の理も崩れる。よって】
【ゼロ亜種達も消失する……?】
【その通りです。ただし既に体感なさった通りマリオネスはからめ手を駆使してくる難敵。倒すのは容易にはいきません】
【確かに……しゃくだけど厄介なボスなのは間違いないわ。鏡の分身とか、私を分析したデータとか卑怯な手を使って戦ってくるもの。正攻法では攻略は難しそう】
レヴィアタンは口惜しそうな顔で吐露する。
彼女としては戦闘力であのピエロに劣っているとは思っていない。
普通にやりあえば勝るのは自分だと、戦った感触から感じていた。
だがそうさせないための策をあちらは色々と練ってきている。
戦う前の時点で"白饅頭"を使って卑劣にマーキングをしてデータを分析されてしまっていた。
それを思い出した彼女ははっとする。
【はっ……!そういえば、私、奴らに電子殻のデータを分析されちゃってるみたいなの。それで攻撃の時に透過させられて当たらなくされて……】
【ええ。彼らはスノウスレイヴマンの特殊能力によって貴女様のデータを取得し、電子殻のデータを解析完了しています。それを応用して貴女様の攻撃を無効化する手段を得たのです】
【くっ……!な、なら私にはもう勝ち様がないって事……?】
不安を隠せない表情でレヴィアタンは言う。
電子殻のデータを把握されている以上、いくら彼女が攻撃してもあちらに電子殻をズラされてしまえば透過させられてしまう。
これではいくら彼女が強くても勝ち筋がない。
【大丈夫。ご安心ください。手はあります】
【え……?ほ、ほんとう…?】
【はい。貴女様の電子殻の基本パターンを変えてしまえばいいのです】
【……?】
電子殻の基本パターンを変える。
思いもしなかった案を言われ、彼女は目をぱちくりさせた。
【電子殻の基本パターンを変えるって……そんな事が出来るの?レプリロイドとはいえ生物である以上は、遺伝子の基本構造は変えられないと思うのだけど】
【外の世界ではそうでしょう。ですがここは鏡世界。鏡世界に入った生物は外の世界とは電子殻の配置パターンが変化するのです】
AIは妖将が知らない理について話し出す。
【鏡世界は外の世界とは次元が異なる特殊な世界。故にそこに移ってきた者も身体に影響を受けます。細胞内の電子殻パターンも独自に変化するのです】
【そ、そうなんだ……?】
【はい。なのでその配置パターンを私の力で乱してしまえば、ミラージュ達が作成した対妖将用プログラムは瓦解します】
【み、乱すってそんな事が可能なの……?それに、電子殻を乱しちゃって身体や技に影響は出ないのかしら】
【問題ありません。乱すといってもあくまで生命活動や運動機能に影響のない範囲の安定を保った上での事。安全は保証された上で電子殻のパターンを変える事が出来るのです】
【……!そ、それなら】
驚いて、同時に安堵したように彼女がほっとする。
【なら勝機はあるわね】
【ええ。私の力で状況を好転させてみせましょう】
【で、でも大丈夫なの?さっきの話じゃ今の最高権限者はマリオネスって話だったはず。マリオネスが命じればまた電子殻のパターンを戻されちゃうんじゃ】
【いえ、それは出来ません。電子殻のパターン変化に関してはどれだけ権限の強い者が命じても、私以外の命令では影響を与えられないようになっていますから】
【そ、そうなの……?】
【はい。根元の鏡システムからしてそのように設定されていますので。だから彼らミラージュにとっても虎の子の秘匿事項と言えましょう。私が変えてしまえばもう彼らは貴女様の攻撃を好きに無効化する事は出来なくなる】
AIが断言してレヴィアタンに伝える。
懸案事項が解消され、彼女はぱっと笑顔になると同時にしかし不安も口にした。
【そ、そうなら嬉しいわ。でも、本当に貴方を信じていいのよね……?万が一偽りのゼロみたいに私を騙している可能性もーー】
【それは証明する事は難しいですね。私は貴女様をお助けしたい。ですがそれが嘘ではないと証明する方法は明確には提出しづらいでしょう。こうして出会ってから間もないですし、一度虚構世界でゼロに裏切られている状況では私を信頼するのが難しい事も理解できます】
AIは完全にこちらを信用するには至っていない妖将に、理解を示した。
彼は彼女の陥った状況を鑑みればそれが当然だと判断したからだ。
簡単にこちらを信用せず、冷静に対応するレヴィアタンにむしろAIは評価を高めていた。
【流石は妖将様です。冷静に思考を巡らせ最適な判断をする事がお出来になる。頭を使える思考力の高さは普通のレプリロイドとは比べ物になりませんね】
【べ、別に褒められるほどの事じゃないわよ。既に偽りのゼロにほいほい騙されて、敵にいいようにされちゃったしね】
【ですが安易に同じ失敗を繰り返さない対応力は流石です。簡単に相手を信用しないのは貴女様のIQの高さの表れだ】
【……でも、貴方に頼らないとこの状況を脱するのが難しいのも事実よ。私は、危険な橋だけど貴方を信じてみようと思っているわ】
【……!】
自分を信頼する、と話す彼女にAIは少々驚く。
【私を信用して頂けますか】
【ええ。こうなったらもう仕方ないわ】
【……ありがとうございます。危険を承知で頼って頂いたならば、このマニピュレート、必ずや貴女様の助けになってみせましょう】
レヴィアタンは意を決めたようにAIに伝えた。
それを受けたAIマニピュレートは、彼女の胆力の強さに感心し、そして呼応する。
外から聞く評判の高さは知ってはいたが、実際に接してみて短時間でも彼女の優れた気質をAIは感じ取っていた。