ロックマンゼロ -episode leviathan-   作:プレイズ

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Hallucination death penalty

ほの暗い室内の中にその道化師はたたずんでいた。

辺りに何も喧騒がない静かな空間。

雑音の響かないその場所には、今2人しか住人はいない。

 

戦いは既にかなり前に終えている。

しばし手すきの状態となった彼は、今しがたこの場所で休息を取っている所だ。

聞こえてくるのはもう1人の僅かな息づかいだけである。

 

「………………」

虚ろな目で少女は虚空を見つめている。

目は開いているものの、瞳は霞んでいて生気はほとんど感じられない。

まるで人形のような淡い光の目で少女はそこにたたずんでいた。

「サテ、そろそろ制限時間が近付いてキタナ」

少女の背後から男の声が呟く。

いつの間にか彼女の後ろには影が出来ており、そこからすり出てくるように1人の男が姿を表した。

彼はピエロのような出で立ちをしており、不気味な笑顔を浮かべている。

「残り時間はアト30分少々カ。それを過ギればキミはボクノモノとなる」

目を開けたまま眠る少女を微笑んで見ながら、彼は頭上に掲げてあるタイマー時計を確認する。

デジタル表示のそれは現在32分51秒を刻んでいた。

これは残り時間のカウントである。

 

今彼女は仮死状態にあり、精神世界で夢を見ていた。

正確にはただの夢ではなく幻想術により創られた幻想夢だ。

彼女は道化師に"捕まってから"ずっと幻想夢を見せられ続けている。

「フフ、幻想の夢心地はドウダイ?」

男は少女の頭に手を置くと、その頭皮をやんわりと撫でつける。

その行為を受けて彼女の頭は軽く右に傾げた。

今の彼女は目は開けているが眠っているのと同じ状態である。

そのため、やんわり撫でられただけでも頭は傾げてしまう。

その様子に道化師は微笑ましくも狡猾に笑みを浮かべる。

 

妖将レヴィアタンの瞳には光はない。

道化師マリオネスの秘術を受けたために、今彼女は身体が仮死状態に陥っている。

彼女は約半日前、このボスと一戦を交えていた。

当初は妖将が優勢に戦闘を進めていたものの、精巧な分身と鏡による光の屈折を利用したボスは彼女の隙を上手く突いて幻惑する事に成功。

彼は鏡を使って事前に作っておいたコピー体を本物のように装って擬装していた。

この鏡セカイでは鏡能力が大幅に強化されるため、その鏡分身は本物と見紛う程にとても精巧な出来となった。

それによりレヴィアタンは偽物とは気付かずに戦闘を進め、完全に決まったはずのクリーンヒットがすり抜けて外れてしまう。それでペースを乱された彼女は、途中で彼が偽物と気付くも動揺した隙を突かれて道化師によって幻惑技をかけられてしまった。

もろに額に手をあてつけられ、直に強力な幻惑イリュージョンを流し込まれてしまったのだ。

さしもの四天の一角レヴィアタンと言えど、"幻惑の奇術師"マリオネスのイリュージョン効果をまともに喰らってしまえば影響は避けられなかった。

瞬く間に精神を幻想世界に堕とされた彼女は戦闘不能になり、マリオネスによって囚われてしまう。

今彼女は十字架に身体を拘束させられ、そこでずっと幻覚を見せられていた。

「……すぅ………すぅ………」

穏やかな寝息がレヴィアタンの口元から漏れる。

目を開けたままの状態で、しかし彼女は寝息を立てている。

今の彼女は半分眠っているようなものだった。

道化師マリオネスによる強力な幻想術を受けた事で、彼女はあれからずっと精神世界に意識を堕とされたままになっている。

一度虚構世界のゼロから意識を元に戻されたような場面があったが、あれはそう彼女に錯覚させるためのものだ。

実際にはあの後も彼女の意識は現実世界には回帰しておらず、今も変わらず幻想世界の中で夢を見続けている。

 

「アレカラそろそろ12時間が経ツ。流石のキミもこの技にかかれば簡単には破る事ガ出来ナイナ」

未だにこの幻想技を抜けられない彼女に道化師は三日月の笑みを浮かべた。

彼のEX技Hallucination death penaltyは対象者に幻想夢を見せる技である。

ただし、その夢からは簡単には目覚める事が出来ない。

解夢の条件は幻想世界の主であるマリオネスを倒す事。

あちらのセカイのマリオネスを倒せば夢から覚める事が出来る。

しかしそれをするのは容易ではない。

幻想世界のため、ある程度理(ことわり)を無視した技を平気で使ってくるからだ。

夢の中でレヴィアタンが技を放っても相手は簡単に分身技や"対妖将用抗電子殻プログラム"等という不可思議な理を適用してかわしてしまう。

そのため彼女はなかなか突破口を見出だせないでいた。

「フフ、デモ不条理なヨウデも理屈はアルセカイなのさ。マア屁理屈ダケドネ。夢の中で理屈さえ通ればそれが成せてシマウ。面白いルールのセカイダよ」

彼は自分の構築したセカイなのでその仕組みはよくわかっている。

故に突破不可能の理不尽なセカイ、というわけではない事も把握していた。

中のレヴィアタンは知るよしもないが。

「チナミに対妖将用抗電子殻プログラムだっケ?そんなモノは現実世界では当然ナイカラネ」

彼は独り言のように呟く。

マリオネスはレヴィアタンが見ている幻想夢の内容を把握していた。

夢の中で起こった事は情報因子を通して彼の脳内にも伝わっているからである。

幻想世界は彼が創り出した世界なため、その情報は現実世界の本物の彼にも届けられるのだ。

そのため、彼は対妖将用抗電子殻プログラムの事も知っていた。

「キミの身体はヒトトオリ調べサセテもらっタ。デモ強力なセキュリティがカカッていてね。ボクの技術力デハとても解析デキルヨウナ代物ジャナイ」

既にレヴィアタンの身体を彼は一通り調べていた。

長時間眠っている状態なのだからそれをするだけの時間は当然ある。

しかし彼がいくらセキュリティを解こうとしても、彼女のそれは強固で情報を得る事が出来なかったのだ。

「流石はネオアルカディア四天王の一人ダネ。エックスのコドモに施されてイルセキュリティをボクは甘くミテイタヨウダ」

レヴィアタンは高性能な機能を持つ最上位のレプリロイドである。

それだけセキュリティも強力であり、解析しようとしてもそうそう簡単には調べる事は叶わない。

四天王の格は伊達ではないのだ。

 

「まあ四肢を切断スレバ断面カラ少しはセキュリティを破レル可能性モアルカモしれないケドネ。でもソレハシタクナイ。キミはとても美シイカラ」

道化師は恐ろしい事をしれっと呟く。

彼はやろうと思えば眠っているレヴィアタンの身体を傷つけられるのだ。

メスやノコギリ等鋭利な器具を使って腹を捌いたり、手足を切断したりである。

しかしそれは彼にとって許容出来ない事だった。

彼が拉致対象に彼女を選んだのは、その至上の美しさも大きな理由だったからである。

「美シイキミの身体をむやみにキズつけたくはナイカラネ。後で縫うにシテモ痕が残ってシマウ。これからボクのコレクションになるノニそんなことは駄目ダ。出来るダケソレヲせずに調べるシカナイノサ」

変な所で紳士の彼はレヴィアタンの身体を下手に傷付ける事を嫌う。

おかげで解析の際に酷い怪我を負う事は避けられていた。

せいぜい体内成分接種のために極細の注射針で何度か挿された程度だ。

眠っていて抵抗不能なレヴィアタンにとっては幸いと言える。

だが、代わりに彼女はその身体を道化師に鑑賞されていた。

イリュージョン(幻想)を見せられている間は妖将は現実世界の出来事を認知出来ないため、彼は彼女の管理を自由に出来る。

そのプロポーションや肢体を時間の際限なく閲覧、触れる権利を道化師は有しているのだ。

「フフ、相変わらずキミの身体は見飽きない」

眠り続けるレヴィアタンを道化師は愉し気に鑑賞している。

彼女は今、特殊な十字架に身体をくくりつけられていた。

これはマリオネスが用意した拘束用の物だ。

立って目を開けたまま彼女は幻想世界の夢を見続けている。

十字架にくくりつけているのは、彼女を高位の聖なる者と見なしている彼の趣味であった。

「フフ、幻想世界はエキサイティングでタノシイダロウ?」

道化師は少女の頭に手を置くと、再びその頭皮をやんわりと撫でつける。

彼女の頭は今度は軽く左に傾げた。

今の彼女は目は開けているが眠っているのと同じ状態である。

そのため、やんわり撫でられただけでも頭はその方向に傾げてしまう。

その様子に道化師は微笑ましくも狡猾に笑みを浮かべた。

【挿絵表示】

【挿絵提供:ねこ山椒様】

「フフ、本当にキミは愛らしい。ずっとボクが可愛がッテアゲルネ」

人形状態と化した彼女は彼にとっては愛玩ドールのようなものである。

このまま永遠に可愛がってやるつもりを彼はしていた。

そして、それは絵空事などではなくそろそろ現実になろうとしている。

「サ、残り時間ガ30分をキッタ。あと30分でキミはボクのモノダ」

マリオネスが彼女の頭上に掲示されたタイマーを見た。

刻まれているデジタル数字は29分51秒となっている。

これは幻想夢から目覚める事が出来る残り時間を表していた。

この夢から覚めるには制限時間があるのだ。

Hallucination death penaltyをかけられてから12時間以内が夢から覚める事が出来る期限である。

それを過ぎれば例え夢の中でマリオネスを倒せてもタイムオーバーとなり無効の判定となってしまう。

そうなれば彼女は永遠にマリオネスの幻想世界から戻ってこられなくなる。

「……すぅ………すぅ………」

彼女は既に技をかけられてから11時間以上に渡って眠り続けていた。

幻想世界の中で苦戦を強いられ、なかなかマリオネスを倒せないでいる内に既にそれだけの時間が現実世界では経過している。

「フフ、サテ夢ノ中のキミも中々頑張ってイルヨウダ。あと30分でそちらのボクに勝つコトが出来るカナ?」

妖将の健やかな寝息を微笑ましく聞きつつ、道化師は語りかけるように言った。

夢の中で彼女が何とか脱しようと奮闘している事も彼はわかっている。

その頑張りの様子も彼は愉しんでいるのだ。

幻想世界で翻弄され、それでも何とかしようと足掻き奮闘する妖将の姿。

それに彼は高揚と愉悦を覚えるのである。

「キミは魅力的な子ダケド、実際に戦ッテシマウとそれを落ち着いて見る余裕ガナイからネ。こうして隔離シテ眺めてイルのも愉しいモノだ」

傍観者として閲覧する権利を得た彼は、今はゆったりとリラックスしながらその光景を見ている。

正確には彼女と自分の脳内の情報因子を通して情景を視ていると言うべきか。

しかし幻想の中にいる彼女はとてもそういう心境ではなかった。

協力者を得たとはいえ、苦しい情勢な事に変わりはないからだ。

脱出可能な制限時間が残り30分を切っている事も彼女は知るよしもなかった。

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