ロックマンゼロ -episode leviathan- 作:プレイズ
レヴィアタンが転送されてきたのはとある洞窟の中だった。
洞窟の中は光がほとんど無く薄暗いが、かろうじて辺りの景色を見渡すことが出来る。
彼女の回りの壁は岩肌がのぞき、所々入りくんでいる。
程なくして、携帯端末に本部からマップデータが送られてきた。
周辺は綺麗な海が広がっているが、エネルギー反応があるのはもっと海底の場所のようだ。
マップを見ると岩肌が多少入りくんでいる。
「反応地点はここから潜ったもっと底の方ね。了解」
目標ポイントを把握した彼女は、早速泳いでそこまで行く事にした。
まるでマーメイドのように水中へ飛び込むと、彼女は水の底へと潜水を開始。
しばらく水中を泳ぐと、水面の上の方に僅かに光が見えた。そこから陸に上がれるという事だ。
バシャっ、と水音を立てて、彼女は水面から顔を出した。
「ふぅ、結構奥まで来たわね。ここは……」
辺りを見渡すと、岩肌に包まれた入洞だった。
天井から岩が伸びた入洞道が先へと続いており、奥へと伸びている。
「先まで進んで見ましょう」
「あら、あれは………」
しばらく入洞を歩くと、前方は壁になって行き止まりになっていた。
しかし、そこへ近付いていくと、そこは行き止まりではなくちゃんと扉があった。
「こんな所に扉が……いったい誰が作ったのかしら?」
この扉は明らかに人工物だ。
どう見ても自然に出来たものではない。
「…怪しいわね」
レヴィアタンは、誰かが作ったと思われる不自然な扉に注意しつつ開けて中に入ることにした。
ガチャリ
扉を開けると、そこは雰囲気が違っていた。
ゴツゴツした岩肌の道ではなく、明らかに人工的な通路が現れた。
扉から岩肌は途切れており床に赤い絨毯が敷き詰められている。
左右は白い壁になっており、整備された綺麗な道となっていた。
壁にはランプが付けてあり、灯りのおかげで周囲は普通に明るい。
「何、ここ……?」
違和感のある場景にレヴィアタンは不思議に思う。
こんな海の底にこんな場所が造られているなんて。
もちろん、海底に基地のような建造物があるのはおかしなことではない。
ネオアルカディアのような発展都市ならば海底要塞が設置されているのが普通だ。
だがここはネオアルカディアのような都市ではなく、辺境の海底。
(人が住んでない地域の海底にこんな施設があるなんて。いったい何故――?)
彼女はこの空間に違和感を抱きつつ、先へと進む。
この場所は誰かが何かの意図で造ったのだろう。
こんな海の底でする事といえば……?
「なるほど。この水深深い場所にアジトを作ってギラテアイトを隠し保有しているってわけね」
彼女は鋭く敵の思惑を見抜く。
こんな海の奥底にわざわざ建造物を作っているのだ。そしてここにギラテアイトがあるという確かな情報と照らし合わせれば、彼女の推理通りという事にまず違いなかった。
彼女はさらに奥へと歩みを進めた。
少し行くと一度曲がり角があり、そこを曲がると道幅に余裕が生まれる。
相変わらず通路は綺麗に造られていて、絨毯が敷き詰められた道は優美だ。
壁にかけられたランプが温かい灯りを放っており雰囲気を出している。
ふと、前方の壁沿いに一つの扉が見えた。
何かの部屋だろうかと彼女は近付いていく。
寄って見ると、扉には【in use】とプラカードが付けられていた。
「何かしら。使用中って事は………」
中に誰かいるのだろうか。
不思議そうにプラカードの表示を見るレヴィアタン。
すると、彼女の耳に何かの音が聞こえた。
部屋の中からだ。
(これは……誰かの話声……!)
扉の奥から聞こえてきたのは人の話す声のようだった。
彼女は耳を寄せて中の状況を窺う。
『いかがにゃん?みーのデザートのお味は』
『最高ニャ。肉の筋がとても繊細ニャ』
『そうかにゃ。それは良かったにゃ』
(…………)
扉の奥から誰かが会話している声が聞こえてくる。
何故か語尾が猫口調だ。
『相変わらずここの料理は絶品ニャ。前菜もディッシュもデザートも美味しいニャ』
『光栄にゃ。料理人冥利につきるにゃ~』
(……何で猫みたいな語尾つけてるの??)
不思議な語調のやりとりにレヴィアタンは不思議がる。
どうやら料理を食べているようだが、何故猫調で話しているのか。
気になった彼女は喋り手の姿を確認して見たくなった。
扉に手をかけて、開くか確認してみる。
どうやら、鍵はかかっていないようだ。
カチャリ
彼女は慎重に音を立てないよう扉をそっと開ける。
1cmほど隙間を作って、中を確認できるようにした。
彼女が隙間から中をのぞくと、喋り手の姿は口調から想像できる通りだった。
(あれは、ねこ……?)
机に一人、いや一体のレプリロイド?が腰掛けている。
猫っぽい姿をしていて黒いシルクハットをかぶっていた。
肌は灰色グレーで顔の三本ヒゲが決まっている。
大きさは普通の人の半分くらいの身長だ。
確認できる猫は、机に座っている者と、もう一人脇に立って控えている者がいる。
おそらく料理を運んでくるウェイターの役割を担っている者だ。
黒いタキシードに身を包み、落ち着いた様相で佇んでいる。
彼?も同じく顔が猫のようなので、同族だろう。
(ほんとに猫だったなんて。いえ、正確には猫型のレプリロイドだけど)
意外な正体にレヴィアタンは意表を突かれる。
彼女は、まさか口調通りに猫がいるとは思っていなかったのだ。
ただし、この者達は動物の猫そのものではない。
タキシードの猫は普通に二本足で立っているし、二匹とも言葉を喋っている。
そして、よく見ると彼らの体の関節部には継ぎ目があった。
毛の部分も皮膚のように見えるが、光沢が帯びているため、毛皮に似せた装甲のようだ。
つまり彼らはレプリロイドである。
猫の風貌をとっているのは彼らが猫をモチーフに造られたからだろう。
(どうしてこんな所で猫レプリロイドがディナーコースを味わっているのかしら)
見た所この猫レプリ達は正装で料理のフルコースを楽しんでいるようだ。
いくつかの料理と、高級そうなワインが置かれてあるのを見ればそれがわかる。
彼女は疑問に思いつつも、彼らの観察を続行した。
ちなみにこちらの事は気付かれていないらしい。
レヴィアタンのいる方には全く目もくれず、猫レプリ達は会話をしだした。
『ところでミレイア、あれの状態はどうニャ?』
『あれって何にゃ?』
『あれって言ったらアレニャ』
『にゃるほど、アレにゃね』
立っている方の猫が理解したというふうに頷いた。
『地下3階のアレにゃん?』
『そうニャ。首尾はいかほどニャ』
『快調にゃ。あと2人で必要分のエナジーが溜まり切る予定にゃ』
『それは良い知らせニャン。もうすぐエナジーの永久輪廻が誕生するニャ』
(な……エナジーの永久…輪廻ですって?)
気になる言葉が聞かれ、レヴィアタンは目を見開く。
エナジーの永久輪廻という事は、どういう事か。
まるでエナジーが消費されずに使い放題出来るような言い回しだ。
『あれが完成すれば僕らはずっとエナジーで満たされる事が出来るニャ』
『そうにゃ。困窮から解放されるのと同時に気分も快活でハッピーになれるにゃ』
『そして”無限エネルギー”の後ろ盾が出来るのもデカいニャ。今後のクーデターの際にエネルギー供給が切れる心配がなくなるニャ』
(クーデター……?)
『その通りにゃ。これでネオ・アルカディアの愚民どもを駆逐できるにゃ』
『エネルギーの供給切れさえ解消できれば、ネオアルカディア殲滅もかなりの確率で達成可能になるニャね』
(な……!?)
彼らの口から思いもよらぬ話がでた。
ネオアルカディアに対する攻撃を予期させる話が。
レヴィアタンは聞き捨てならない話に思わずフロストジャベリンを握りしめる。
(ネオアルカディアを、殲滅するですって??)
人間とレプリロイドが共存する、理想郷であるネオアルカディア。
ネオアルカディア四天王の一人である彼女は、この都市を誇りを持って敬愛している。それが貶められた。
いや貶められたどころか侵略攻撃を計画されているらしい。
都市を守護する妖将として、彼女が黙っていられるはずはなかった。
(ゆ、許せない…!私達のネオアルカディアを侮辱するなんて。そればかりか、殲滅するですって??)
ギュッと手に力を込め、彼女はドアを開けて飛び込もうかと思った。
だが、今出ていくのは短期に損気だ。ここで一気に敵を倒して討伐するよりも、今はここで彼らの話から情報を得た方が益が大きい。
彼女は怒りを覚えながらも、冷静さを持って逸り気を抑えた。
構えたロッドを一旦下げて彼女はまた監視体制へ戻る。
だが、隙間から奥を見つめる妖将の顔は怒りを抑え切れずに睨みで歪んでいる。
『永久輪廻炉が完成してネオ・アルカディアを殲滅したら、その後は僕ら猫のパラダイスを作るニャン』
『そうなれば最高にゃん。僕ら猫達が住みやすい最高の環境を作ってやろうにゃん☆』
『それはいいニャン☆』
『ふふふっ、にゃん。さて、では最終整備があるからそろそろ地下3階へ戻るとするにゃ』
ミレイアと呼ばれるタキシード姿の猫の方が、持っていた盆を机に降ろした。
皿の上にはこんがりと焼けた肉が湯気を立てて置かれてある。
『なので今日の所はこれで締めにゃん』
『了解ニャ。もっと食べていたかったニャン』
『ありがとうにゃん。まあまた明日たらふく食べさせてやるにゃん』
料理を惜しまれてミレイアが満足気にはにかんで見せる。
『今からずっと缶詰ニャン?』
『そうにゃ。今日中に輪廻炉の最終チューニングを終わらせる予定にゃ』
『ご苦労な事ニャ。つまり、明日には“侵攻”の準備が整うという事ニャね』
『その通りにゃん』
(……!な、なんですって)
猫たちの会話にレヴィアタンは動揺を隠せない。
ネオアルカディアへ侵攻する準備が明日にも整うというのだ。
彼らの言う永久輪廻炉はエネルギーの消費をなくし、無限に生み出すというとんでもない代物。
もちろん彼らの話がはったりではなく本物だったらと仮定しての話だが。
しかし、ハルピュイアの報告にあった異常なエネルギー反応を鑑みるなら、信憑性はある程度あるだろう。
その画期的な発明を、彼らは軍事目的で利用しようとしているらしい。
それもネオアルカディアへ向けて、だ。
(もし本当だとしたら、見過ごせる事態じゃないわね。ここで私が止めないと)
彼女は再びフロストジャベリンを握りしめる。
だが、まだ踏み込むのは早い。
本当に永久輪廻炉なる物が実在しているのかどうかを確かめるのが先だ。
これが彼らの妄言だったという可能性もあるからである。
(まずはこのミレイアっていう猫ちゃんの後をつけさせてもらおうかしら)
この雄猫は今から輪廻炉の元へ出向くようなので、彼女はそれを尾行してみる事にした。
そこでもしそれがあったならば、事は急を要する事態になる。
『じゃあロッテ、僕はお先に失礼するにゃ』
『バイニャン。明日の完成を楽しみにしてるニャ』
挨拶を交わすとミレイアは扉の方へと足を向けた。
レヴィアタンがいる扉の方へ。
(やば、こっちに来る……!)
彼がこちらへ来る事を予期していた彼女は既に扉を閉めていた。
だが他に隠れられる場所が見当たらない。
足音が扉の元へと近付いてくる。
コツコツコツ
ガチャリ
ミレイアはドアを開けて廊下を歩きだした。
前方へ向けて真っ直ぐに歩を進めていく。
(……………………)
コツコツコツ
足音が遠ざかっていく。
どうやら気付かれずに済んだようだ。
レヴィアタンは開かれた扉の”裏側”で息を潜めていた。
咄嗟の機転で彼女はミレイアが開けるドアを隠れ蓑に利用したのだ。
(ふう、何とかバレずに済んだかしら。隠れる場所がなかったからこうやってやり過ごすしかなかったのよね)
危ない所で彼女は敵の目に捕捉されるのを回避した。
扉の裏側からそっと奥をのぞくと、ミレイアは廊下の奥へ遠ざかっていっている。
ちゃんと二足で直立し、彼は人型タイプのように二足歩行をしていた。
やはりただの猫ではなく、知能を持った猫型のレプリロイドであるのは間違いない。
しばらく待って距離をおいてから、彼女は尾行を開始した。
ミレイアの背を見失わないように注意しながら、かつ近付きすぎない間隔をあけて後をつけていく。
ちなみに彼女は彼らがネオアルカディアへ侵攻しようと画策している事を本部へ報告しようと考えている。
エナジーの永久輪廻装置なる物を開発している事もだ。
だが、その報告は今すぐにではない。もし彼女が上官に付く部下ならばしただろうが、彼女は”妖将”レヴィアタンである。
冥界軍団を率いる四天王である彼女は、むしろ報告をされる側の立場なのだ。今回の命を受けたハルピュイアとは同格であり上下関係はない。
ただ現在は、今は亡きコピーエックスの代行としてハルピュイアがネオアルカディアを取り仕切っている。
その関係上、レヴィアタンが彼の指示に従う形でミッションに向かっている。
なので彼に報告する義務はあるが、事態の判断・対処の仕方は彼女自身に権限が委ねられていた。
そのため彼女は自身の判断で報告の時期を好きに決められる。今はまだ報告すべき段階ではない。
まずはミレイアの言う輪廻炉が本当にあるのかを確かめる事が優先だと彼女は考えていた。
しばらく進むと、ミレイアは階段を降り始めた。
さっき言っていたように地下へ向かうらしい。
レヴィアタンは他にも敵がいないか気をつけつつ、距離を取りながら続いて降りていく。
ミレイアはそのまま地下3階分を降り、目的の地下3階へと到着した。
輪廻炉があるフロアではあるが、構造は1階とほとんど変わりはない。
白い壁が相変わらず続いており、床には赤い絨毯が敷き詰められている。
ここは海中にある基地というか敵のアジトと言える場所なのだが、通路の外観は汚くはない。
普通なら軍要塞のような味気ない機械的な造りをしているものだ。ネオアルカディアの基地はそうだし、それとは異なるここのデザインに彼女は意外感を感じる。
彼女としては、綺麗で美を感じるこの場所のデザインの方が好みだ。
まあ今はそんな感情関係なく彼女は敵を殲滅するつもりだが。
さらにしばらく進むと、ミレイアが一つのドアの前で止まった。
輪廻炉がある部屋だろうか。
レヴィアタンは調度曲がり角だった事もあり、角に身を潜めながら様子をうかがった。
彼はドアに手をかけると、そのまま開けて中に入っていく。
(あら……?鍵とかロックはかけてないのかしら)
普通なら重要な部屋にはセキュリティキーが設置されているものだ。
だがそのような類は見受けられず、彼は直にドアノブを回して開けた。
ミレイアが部屋の中に消えた後、レヴィアタンはそっと扉の元へ近付いた。
扉周辺にはガードマンの存在もなく、普通の部屋のドアと何ら変わらない状態だ。
とても重要な輪廻炉がある部屋とは思えない。
閉まっているドアを見つめ、彼女は思案顔になった。
(本当にここに輪廻炉があるのかしら?それにしては不用心な気がするけど)
ミレイアの言っていた通りに輪廻炉があるのか彼女は疑問に感じる。
もしや口からでまかせを言っていただけで、本当は大した事のない代物なのかもしれない。
とりあえず彼女は扉に耳を寄せて中の様子をうかがってみた。
しかし、しばらく探っても音は何も聞こえてこない。
一人でチューニング作業をしているためか、音が聞こえてこなくてもまあ仕方はないのだが。
(これじゃ中の状況がわからないわ。仕方ない、そっと中に入ってみましょう)
彼女は自分も部屋の中に入ってみる事にした。
危険だが、中の輪廻炉を確認するにはそれしかない。
ミレイアに気付かれて騒がれた場合、やむを得ず戦闘をする事になるだろう。
まあ扉が中からロックされていたら入れないのだが、その場合も彼女は強制的に攻撃で破壊して侵入する腹積もりだった。
もし輪廻炉が実在していた場合、相手は明確な敵と確定し、戦闘する事になるからだ。
(……よし、じゃあ行くわよ)
彼女はドアノブにそっと手をかけた。
そのまま回してみると、意外にもドアが開いた。
ロックはかけられていないようだ。
(開いちゃったわ。まさかロックもかけてないなんて)
ザルすぎる警備に彼女は拍子抜けする。
普通ならあり得ないし、とても重大な品がある部屋の防犯レベルではない。
彼女は逆に動揺してしまう中、部屋の中に足を踏み入れる。
足元は網状の金属床になっており、すぐ先に簡素な階段が下へと続いていた。
蒸気のような湯気が下から上がってきており、さながら工場の中のようだ。
(さすがにこの部屋は外の造りとは違うわね。いかにも何かを人造で造ってるって感じ)
網状の床を音を立てないように注意しながら彼女は進んでいく。
階段はさほど長くなく、すぐに広い場所に出た。
しかし、そこには思いもよらない光景が広がっていた。
「こ、これは……!?」
思わずレヴィアタンは声を漏らしていた。
階段を降り立ったそこには白い球体が無数に設置されていたのだ。
まるでエネルギーの集合体のような、白い塊り。
それが空間を埋め尽くすように存在していた。
数にして約100個はあるだろうか。
異様な光景に、レヴィアタンは呆気に取られてしまう。
”光の塊り”がこの広いスペース一帯を埋め尽くすほどなのだ。
(な、何なのこれは……)
「ふふふ、にゃん」
「………!」
突如、奥から声がしてレヴィアタンを我に返らせる。
聞こえた声には聞き覚えがあった。
先程まで後をつけていた猫、ミレイアだ。
「驚いてもらえたかにゃん?」
「……!あなた、気付いていたの」
「そうにゃ。さっきロッテから連絡があったにゃん」
最初にミレイアの尾行を始める際、レヴィアタンはミレイアが開けて出ていったドアの裏に隠れていた。
そしてミレイアが遠くへ離れたのを確認して扉から出て後をつけ始めたのだ。
だがその時、後方への注意が疎かになっていた。
開け放たれたままの扉の奥には、まだもう一体の猫がいたのである。
「ま、まさかあの猫ちゃんが」
「当たり~にゃん☆ロッテからはこそこそと僕の後をついてくる君の姿が丸見えだったにゃん」
「く……!」
レヴィアタンは初歩的な不注意から不覚を取り、唇を噛んだ。
ミレイアをやり過ごした事でつい気が緩んでしまっていたのだ。
「……あなた達、エネルギーの無限生成が出来る輪廻炉があるっていうのは本当なの?」
「気になるにゃん?もちろん本当にゃん」
「いったいどこに……?ほんとにあるっていうなら証拠を見せてみなさいよ」
「いいだろうにゃん。この真下にあるから、ちょっと今起動させてみるかにゃん」
ミレイアは懐に持っていた小型のスイッチらしきものを押した。
すると、床が光を放ち始めた。
きらきらと、光が煌いていく。
床全体が光を放ち、エネルギー熱量が一気に高まっていく。
傍でそれを肌で感じたレヴィアタンは驚きを隠せない。
「こ、これは……何てエネルギー圧…!」
「ふふ、さすがに妖将ともなると圧を感じて気付くにゃね。そうにゃ。これは凄まじいエネルギー生成量にゃ」
壁には生成されたエネルギー熱量を計測する計測器が取り付けられている。
その機械が示した数値は基準値を遥かに上回るものだった。
「くく、ちなみにこれだけのエネルギーが生み出せるのはギラテアイトをエネルギーの供給源にしているからにゃん」
「やっぱりそうだったのね」
「そのために僕らはギラテアイトを保持しなきゃならない。君にみすみす奪われるわけにはいかないのにゃん」
「私がそれを許すとでも?」
じろり、と彼女がミレイアを睨む。
だが猫は唐突に上を向いて言った。
「あ!あそこに何かあるにゃん!」
「え?」
「新しいギラテアイトの欠片があったにゃん!」
驚いたようにミレイアが言った。
彼も知らなかったようなリアクションで。
「新しいギラテアイトですって?」
それにつられるように妖将が視線を上に向けた。
ヒュン
彼女が視線を外した隙をつき、ミレイアが彼女に飛びかかった。
鋭い爪が手先から伸び、彼女の喉元を襲う。
しかし爪は空を切った。
レヴィアタンは不意打ちにも動じず、反射的に身体を捻って上手く避けていたのだ。
「なにっ!?にゃん」
「不意打ちするなんていい度胸じゃない。あんなあからさまな誘導なんて見え見えよ?」
彼女は避けた動きからそのまま流れるように攻撃に転じる。
小さな氷の機雷を周囲に発生させてミレイアへ打ち放った。
マリンスノーのミニマム簡易バージョンである。
「こしゃくな技を打つなにゃん!」
ミレイアはどうやら同じ氷属性らしく、氷の小さなビームを放って迎撃した。
マリンスノーの結晶がビームによって相殺される。
まさか氷を使ってくるとは思わなかった彼女は肩をすくめた。
「へえ、あなた氷使いなのかしら」
「そうにゃ。氷の扱いで負ける自信はないにゃん」
「フフ、私を相手にそれは楽しみな文句だわ」
レヴィアタンは今度は通常の氷機雷を複数発生させる。
こちらは本家のマリンスノーだ。
「行きなさい」
彼女の発令と共に、幾多の氷爆弾がミレイアの周囲を包み込む。
逃げ場が一瞬でなくなった彼だが、しかし慌てずに対処した。
「アイスブーメランにゃ!」
氷の刃をブーメランとして飛ばし、機雷が爆破射程に入る前に撃ち落として破壊する。
さすが氷を扱う者として正確な対処方法がわかっているようだ。
「今度はこっちの番にゃね」
不敵に笑うと彼は全身を氷で包み始めた。
彼の周囲から氷が現れ、彼に向けて放たれていく。
氷を身に受けた彼は、ダメージを受ける事はない。
逆に氷を体に貼り付けて鎧を形成していく。
「名付けてフリーズ・メイルにゃん」
分厚い氷の鎧を身に纏ったミレイアは、少し大きな塊りとなりレヴィアタンに攻撃を開始する。
彼はドドドとその身のまま直接突撃してきた。
「やっ、やっ、やっ!」
レヴィアタンはホーミング弾3発でこれに対処。
追尾弾は見事に全弾ミレイアの体躯を捉えた。
しかし、強固な氷の鎧は弾を中まで通さない。
「くっ、固いわね」
間近に迫ったミレイアの突進を彼女は横っ飛びでかわした。
攻撃が通じなくても彼女は簡単には慌てない。
「ちっ、かわしたかにゃん。ちょこまかとすばしっこい小娘にゃ」
「あなたのパワーだけで頭の悪そうな攻撃なんて喰らわないわ」
「むむっ、言ったにゃんん!ならばこれはどうにゃ」
ミレイアは軽く上空にジャンプした。
次の瞬間、壁を蹴って高速移動を開始する。
「っ……!」
意外な俊敏な動きにレヴィアタンは虚を突かれた。
頭上をかなりの速さで氷の塊りと化したミレイアが通り過ぎる。
一瞬のうちに彼女の背後を取ったミレイアは、氷の巨躯を振るった。
レヴィアタンは剛腕の薙ぎ払いを身に受けて吹っ飛ばされ――――
いや、砕け散った。
パリィィン
氷の破片が粉々に砕かれ、妖将の形をとっていたものが崩れ去る。
ミレイアが攻撃したのは氷で造られたレヴィアタンの偽物だった。
「な、なにィ!?ハリボテだったにゃか!」
攻撃を外してしまい、ミレイアは慌ててレヴィアタンの本体を探す。
しかしどこにも見当たらない。
「ど、どこにゃん…!」
「こーこ」
すぐ傍で彼女の声がし、ミレイアはそちらへ目を向ける。
すると、”自分の肩の上に”彼女は腰かけていた。
「フフっ」
「にゃっ、そ、そんな所に……!?」
彼は振り落とそうと肩を動かした。
しかし遅かった。
既に鋭い刃が突き刺されていたからだ。
ザシュリっ!
フロストジャベリンの槍部分が的確に氷武者の急所を刺していた。
首元の、氷の装甲の薄い箇所を。
彼女はあの短い動き合いの中で氷の塊りの各部位を正確に分析把握していた。
その弱点が首元だという事も。
「ぐ……な、、、そ、そんな、。この僕が負けるにゃんテ、、、」
「氷の扱いで私に勝とうだなんて、1万年早かったわね。つまらない猫ちゃん」
彼女は口元を三日月に歪めて言った。
「じゃあ、サヨウナラ」
「あ、、、にゃ、ぁあああああああああ!!!!!!!!」
ミレイアの断末魔と共に、氷の巨躯が爆発霧散した。
身に纏っていた氷の装甲が爆発で四散していく。
だが、レヴィアタンは止めを刺した直後に飛びすさって距離を離していたため、爆発に巻き込まれる事はなかった。
「フぅ、ひとまず片がついたわね」
ミレイアとの一戦を終え、彼女は軽く息をついた。
その後、彼女は輪廻路の電源部に鉱石の固まりが接続されているのを見つけた。
片手拳ほどのサイズだろうか。
センサーでエネルギー数値を見てみると、かなりの高数値が出た。
どうやらそれがギラテアイトと見てまず間違いない。
「何て高いエネルギー保有量なの。これがギラテアイトで間違いないわね」
彼女はこれを本部へ持ち帰ってデータ解析してみる事にする。
前回のミッションと同様にこのギラテアイトもネオ・アルカディアにとってとても有益な資源になる事だろう。
「さ、後は帰るだけね」
敵を倒し目当てのギラテアイトも手に入れる事が出来た。
目的を果たした彼女は撤退の準備を始める。
と、その時彼女は奥に扉がある事に気付いた。
さっきは気付かなかったが、ボスのミレイアを倒した事で開いたようだ。
ボスとの戦闘に勝利するとこうして新たな扉が開く事がある。
その先には敵が隠していた宝箱や資産が置いてある事が多い。
彼女はボス殲滅の褒美であるそれを享受するため、早速その扉の先へ進んだ。
中はオシャレな部屋になっていた。
赤い深紅の絨毯が敷かれて、壁には煌びやかな装飾が施されている。
まるでどこかの中世のお城の中のような、麗しさのある造りだ。
「わぁ………」
彼女の想う理想の王宮といった部屋に、彼女は思わず魅入る。
すると、彼女は一点の品が目に留まった。
大きな鏡だ。
「これは……?」
見た目が麗しいその鏡は、この部屋の中でも特に煌びやかで目を引いた。
王宮の雅やかさを帯びた素敵な鏡である。
「綺麗な鏡………素敵」
彼女が見ているのは少し遠目からだが、それでも十分にこの鏡の価値の高さがうかがえた。
優美さ溢れる外枠、そして鏡面は年季があるがしっかり手入れがされているようで、美しい光沢がある。
彼女はそんな鏡をもっと近くで見てみたくなった。
(もっと近くで見てみたいわ)
レヴィアタンは鏡の傍へ歩を進めた。
「わぁ………」
近くで見ると年季のある金の枠は麗しく、鏡面もその美しさがよりわかった。
鏡に映るレヴィアタンの姿は、綺麗に全身を捉えて写されている。
「フフ……何だか、本当のお姫様になったみたいかも」
年季物の優美な鏡に写る自分を見て、彼女はちょっとのろけた。
大きな鏡には、レヴィアタンの全身がしっかり写り込んでいる。
そう、彼女の美しい姿が頭長から足先までしっかりと。
「ふぇっ?」
次の瞬間、レヴィアタンの意識が揺れた。
突然、がしりと何かに掴まれたのだ。
気付いた時には何者かの腕が彼女の両脇に挿し込まれていた。
「えっ…?」
いきなりの事に彼女は呆気にとられる。
すると間髪入れずに腕が強い力で奥へと引き込んだ。
ふわりと彼女の足が宙を離れる。
「ふぁッ…!?」
不意を突かれた形になり、彼女は驚いた。
抵抗しようにも準備が出来ていない。
それに謎の腕に完全に両脇をロックされており、抗おうにも両足をバタバタさせる事しか叶わない。
【挿絵提供Kon/紺様】
「く、くぅ…っ!」
レヴィアタンは見る間に大鏡に半身を吸い込まれる。
足場が浮いて強い力で引っ張られては、成すすべもなかった。
背後の何者かを確認しようと彼女は後ろを振り返る。
すると、そこには白い大きな顔があった。
「な……!」
「ウヒヒヒ」
彼女の真後ろには、真っ白な大男が陣取っていた。
雪で出来たような漂白の身体。
全身を白で覆われた大柄な男が彼女の腰をホールドしていたのである。
「くっ!」
彼女は慌てて腕を振り解こうとする。
しかし、真っ白な男の力は強力で、抵抗しても微動だにしない。
それを見て、敵がウヒヒと笑みを浮かべる。
彼女は悟った。
私がボスとの戦いに勝利し、さらに目当てのギラテアイトを得た事で気の緩みが生じた。
そんな中で”褒美”である通路が開き、美しい部屋とアンティークの大鏡があった。
それに私が気を取られている隙を突いて、敵は背後から襲ったのだろう。
まんまとやられてしまった。
「くぅっ!離しなさい!」
「イヤダ ハナサナイ」
彼女が敵に叫ぶが、白男は放してはくれない。
ガシリ、とその手が妖将の身体を掴んでいる。
ペ ロ リ
「ひゃあ!?」
突然お尻に冷やっとした冷たさを感じ、彼女は甲高い声を挙げた。
背後を見ると、雪男が舌を出して彼女の臀部を舐めていた。
巨体のためか舌の長さも大きく、まるで瓜のような舌だ。
ぺろぺろと、まるでキャンディを舐めるように大きな舌で彼女の尻を舐め回している。
「きゃ、きゃあ!?//」
大胆な蛮行に、彼女は動転した。
もんどり打って彼女は脚をジタバタさせる。
だが、雪男の力は相変わらず強く、女性の彼女ではまるで歯が立たない。
そうこうしている内に、敵がさらに力を強め、ぐいっと彼の腕に力が込められた。
レヴィアタンの身体が一気に奥へ引き込まれる。
「きゃあッ!?」
惑った声が彼女から挙がった。
お尻を舐められた事でそれに意識が行っていた彼女は踏ん張る対応が遅れてしまう。
「キャアアーーー!」
甲高い悲鳴を残し、彼女は鏡面の中へ完全に取り込まれた。
漆黒の奥深くの、深淵へと。
数秒経ってもまだ鏡面には波紋のゆらぎが残っている。
この鏡は普通の鏡とは異なり、鏡面から中へと浸透出来る状態になっていた。
だがそれも10秒もする頃には終息する。
いつの間にか鏡面の"不安定さ"は収まり、すっかり元の固形状態に戻っていた。
まるで何事もなかったかのように。
ただ一つ、1人の美少女の姿が忽然と消え失せた事以外は。
『ククク……上手くいったネ』
『これでめでたく妖将をこちらのテリトリーに捕らえる事が出来たわけダ』
『君はギラテアイトが欲しくてここへ来たのだろうけど……こっちは逆に君を欲しくてネ』
『ギラテアイトを餌にして君を狙っていたが、四天王の内誰が来るかはわからなかっタ。緑のキザ小僧や赤のパワー脳筋男が来る可能性もあったからネ。そうなっていたらボクはギラテアイトを放棄して逃避していたヨ』
『海の中に居を構えて陣取ったのは水の中が好きな君を引く確率を上げるためサ。まあ期待薄だったけれド。だけど君は来てくれタ。このボクの所にネ』
『目当ての君を引けて嬉しいヨ 妖将レヴィアタン』
『君はとても可愛らしく、そして美しイ』
『今鏡に囚われた時も ボクの想像以上にとってモネ。…クク』
『だが君はただ可愛いだけではなく、実力もすこぶる高イ。そこがまたイイ』
『まずはお手並み拝見といこうカ。ロッテ達を行かせるとしよウ』
『妖将としての君の実力、とくと見せてくれたまエ』