ロックマンゼロ -episode leviathan- 作:プレイズ
レヴィアタンは前方のマリオネスが分身か本物かの判断に気を取られ、後ろから鏡のワームホールごしに彼女を狙っているもう1人のマリオネスの攻撃に気付かなかった。
分身が攻撃を打ってくるにしても、鏡を介してではなく直接攻撃を彼女は想定していたからだ。
なのであからさまな技を出す攻撃の素振りがないなら警戒の意識は眼前のマリオネスの方へ集中させる。
鏡をワームホールのように使って分身が遠隔攻撃を繰り出してくるという発想自体が彼女の中で無かったのである。
それも明確なわかりやすい技を使うなら気付けるが、今のように鞭をサイレントで伸ばしてくるような気付きにくいやり方をしてくると尚更だ。
(くっ、厄介ね。鏡をワームホールのように使った攻撃だなんて……これは、まるで前に戦ったゾルベームグのようだわ)
彼女はかつて鏡のセカイで戦った老練ゾルベームグの事を思い出す。
奴も鏡をワームホールのネットワークのように利用して彼女を苦しめていた。
しかしその技は彼固有の物だとレヴィアタンは思っていたため、他者が同様の攻撃方法を使ってくるとは想定していなかった。
いや、ないことはないが彼女の中で想定の度合いが薄かったのだ。
だが実際にマリオネスはゾルベームグとほぼ同じタイプの遠隔技を行使してきた。
彼もまた鏡のワープ能力を戦闘に応用する厄介な能力者のようだ。
「残念だったネ。ボクにはこういう鏡を使った遠隔技もあるのサ」
自分の策にかかり転んだレヴィアタンにピエロが笑う。
その口調は愉し気に余裕を含んでいた。
彼は妖将を不意打ちで転ばせ、しかも愛らしい悲鳴も聞く事が出来た。
転んだ彼女はとても可愛らしく、戦いつつも彼は満足感を得ていた。
彼の目的は彼女を殺す事ではない。
むしろ戦いを長引かせる事にある。
"タイムアップ"まで戦いを引き伸ばせればそれでよいのだ。
それまでは今のように小細工を駆使して彼女を翻弄しつつ煙に撒けばいい。
その中で彼女の可愛らしさを出させて楽しめればさらに良し。
それがこのセカイの道化師マリオネスの策略だった。
(クフフ、上手く転ばせる事が出来タヨ。この調子でキミの可愛いトコロヲたくさん出させてアゲル)
尻餅をついた先程のレヴィアタンの映像を彼は瞳にインプットする。
ここは精神世界ではあるが、実際に居るのは紛れもなく彼女本人の魂である。
なので精神世界であっても戦闘の結果は"鏡因子を通して映像として"残される。
彼はその映像を瞳を通した内部メモリーに保存していく。
後で自分はもちろん、現実世界の真マリオネスがいつでも見返せるように。
彼の眼球内に内蔵された特殊メモリーは、記録された情報が現実世界とリンクしているのだ。
そのため、彼が見た情景や情報は元の世界に居る実体を持ったマリオネスも閲覧する事が出来る。
リアル世界で例えるなら、閲覧の権限を持つ親族がクラウドの情報に好きにアクセス出来ると言えばわかりやすいだろうか。
現実世界の本体のマリオネスと、そして精神世界に存在する自分。
その双方がいつでも妖将の動画を見返す事が出来る。
それは対象を精神世界堕ちのEX技にかけた者だけの特権である。
彼は今お楽しみのデザートを食している気分だった。
折角の可愛い紅一点の将軍との戦いなのだ。その好機を存分に味わい、楽しまなければ損というものだ。
もちろん、だからといって彼女に手加減して反撃の目を与える事はしない。
「くう…!よくもやってくれたわね」
そんな事とは思いもよらず、彼女は憤慨する。
だがその憤慨する仕草でさえもマリオネスにとっては可愛いと感じられてしまう。
彼女は素が可愛すぎるため、喜怒哀楽の全てが男にとっては魅力的に見える。
怒っている顔でさえ、可愛いものなのだ。
「もう同じ手は喰わないわよ」
「ソウカナ?ボクらの鏡ギミックハ簡単には破れナイ」
「ソウダ。例え妖将レヴィアタンとイエドモネ」
「…ふん、それは甘く見られたものね」
レヴィアタンは余裕な様子の道化師達に不満げに言う。
1度連携を決めたからといってそれが続けて通用すると思われるのは彼女は癪だった。
気を取り直して彼女はジャベリンを構える。
「行くわよ。あなた達の程度の低い手品なんてお呼びじゃないの」
「ボクらの鏡マジックを過小評価スルトハ。悲シイ事ダ」
「ではボクらガわかラセテあげヨウ」
マリオネス達の醸し出す雰囲気が変わる。
妖将の挑発を受けて、戦意が高揚したらしい。
彼女が攻撃を開始するよりも早く、先手は彼らの側が取った。
「ジャッ!ジャッ!ジャッ!」
道化師の口から空気を震わす音が放たれる。
小サイズのエネルギー弾が咥内から3発連続で発射された。
それらは正確にレヴィアタンの身体へと照準が合わされている。
「はっ!」
飛んでくる光の弾筋を彼女は冷静に見極め、ジャンプしてかわした。
その足元に着弾した弾が弾けて爆発する。
エネルギー弾は地面を破壊したものの、彼女は正しく回避に成功していた。
だが空中に足が離れた所を、もう1人のマリオネスは狙っていた。
先程同様に手元を動かさずに"ウィップだけを"伸縮させる。
まるで如意棒のように長く鞭の先が伸びていく。
その進行方向には手頃な大きさの鏡があった。
マリオネスがすぐにアクセス出来る目線の高さに予め設置しておいたものだ。
その鏡面はワープゲートになっており、別の鏡へと通じている。
鏡面の奥へ送られた伸びるウィップ。
その先が、今度は空中にいるレヴィアタンの足元すぐ横に設置してある鏡から出てきた。
出現ポイントがその鏡になっていたからだ。
宙に飛んでいる彼女は面喰らう。
「くっ!」
だが反応出来ない彼女ではなかった。
何故なら先程の失敗からきちんと学習したからである。
同じように鏡ワープを駆使してウィップを使われる可能性を、彼女はちゃんと予測していた。
ジャンプした状態を狙われたため対応が難しいが、レヴィアタンはやってみせる。
「はっ!」
フロストジャベリンを斜めに払うように薙ぎ、彼女は迫り来るウィップを薙ぎ払う。
ハーフウォーターサークルの要領で、短い挙動で素早く迎撃する事が可能な動きだ。
短縮版なため威力は半減するが、敵の獲物は柔らかみのある鞭なため防ぐのに強い力は必要ない。
打ち落とされた鞭はしなって再び元の鏡の中へと戻った。
そしてそれは彼女から遠いサイドにいるもう1人のマリオネスの手元へと戻っていく。
「ちぃ、よく対応シタナ」
彼は口惜しそうに呟いて肩を竦めてみせる。
手を背中側に隠すように向けているため、レヴィアタンの側からは攻撃の挙動は確認しづらい。
「ふん、この私に対して同じ手が通じるとは思わない事ね」
「ソウダナ。流石に四天王の1人にそう易々と攻撃ヲ決めルノハ難シイヨウダ」
強気な彼女に対して達観したふうに彼は言ってみせる。
マリオネスの方も妖将相手に全てが上手く運ぶとは思っていなかった。
地力自体は彼女の方が上なためである。
だが、彼女を倒す必要がないのであれば話は別だ。
「くクク、しかし君ヲ翻弄してミセルのは容易イ」
「……何ですって?」
「"僕ラ"乃ミラーリンクハ神出鬼没。君は迎撃は出来テモ攻撃に転ジる事は出来ナイ」
2人の道化師は不気味に互いにせせら笑う。
彼らの周りには幾つもの鏡が浮遊している。
移動しながら戦えばどの鏡にも容易くアクセスが出来るのだ。
そしてレヴィアタンの周りにも多数の鏡が浮かんでいた。
まるで彼女をどこからでも攻撃可能なように。
「……………」
今更ながらに彼女は気付いた。
何故マリオネスが戦うにあたってわざわざ別の鏡のステージを用意したのか。
自分の周りは無数の鏡によって包囲されている。
敵からすれば普通の鏡のセカイの空間よりも、さらに鏡で全方位からアクセス出来る環境だ。
奴らが妖将の自分に勝つにはいくら鏡セカイで能力ブーストされているとはいえ、正攻法では難しいのは明白。
ならば遠隔から、多数の鏡を利用してどこからでも攻撃を当てれるようにすればいい。
それが出来る新たな鏡のステージを用意してーー。
道化師が編み出した対妖将用の戦術がこれだった。
「くっ……鬱陶しい戦法だわ」
不満を漏らして彼らを睨み付けつつも、彼女は周囲を見渡す。
確かにこのシチュエーションは良いとは言えなかった。
このステージにはランダムに多数の鏡が置かれている。
これではどの鏡を通じてどこから攻撃が飛んで来るのかわからない。
全ての鏡のワープ経路を確かめるには、それだけの数の攻撃を受けなければならない。
今のように咄嗟に上手く捌ければいいが、先程のように被弾してしまう可能性もかなりあるだろう。
鏡を駆使しての多重攻撃に加え、敵は2人いるのだ。
鏡からのワープ攻撃だけに気を払っていては、マリオネスからの直接攻撃を喰らってしまう。
それらを制しながら対応し、尚且つ攻撃をして相手に当てるには。
いくら彼女が四天王妖将レヴィアタンといえど、簡単な芸当ではないと言えた。
(くっ……確かに、これじゃジリ貧になるのは避けられないわね)
マリオネス達の言う事は癪だが、彼らの言う通りこの状況はなかなかに厳しい。
だがこのままでは時間がいたずらに過ぎていくだけの膠着状態だ。
命の危険まではない戦況ではある。
だがさっき感じた危険意識に従うなら、このままの状態が継続するのは非常に危険と言えた。
彼女は自分の持つ経験則からそのような予感はかなり重要視していた。
(この状況……以前戦ったゾルベームグの時と似ているのよね)
鏡の中で道化師と戦う中で、彼女は過去に経験した戦いを思い出していた。
それはミラージュ5の1人であるゾルベームグとの戦い。
あの時も今回と近しい状況になったのだ。
無数の鏡がある状況と、その鏡をワームホールにして攻撃してくる敵。
搦め手による攻めに彼女は少々手を焼かされた。
だが、彼女はそれを打破してみせた。
ワームホールの中に身を潜めた敵に対し、彼女は氷の輪をお見舞いしたのだ。
改良型の、機雷が広がっていくタイプの輪を使って。
ワームホールの先は別のワームホールの元へ繋がっている。
故にそこへ送った機雷はいずれかのホールから出てくるはずだ。
どれかのホールの中に身を潜めていたゾルベームグだったが、複数のワームホールに向けて打たれた機雷の1つがホールを通じてヒットし、穴から炙り出される事となった。
レヴィアタンの応用力が翁の戦略を破ったのである。
(今回もあの時と同じ要領でいけばー)
彼女はゾルベームグ戦の攻略法が使えるのではないか、と考えた。
だが、そう易々とはいかない。
「ジャッ!ジャッ!」
「!」
彼女に反撃をする暇を与える間もなく、次なる攻撃が始まる。
奥にいる方のマリオネスが口から光の弾を放ってきた。
2つの中サイズのエネルギー弾がレヴィアタンへと飛ぶ。
「やっ!はっ!」
彼女はフロストジャベリンを薙いで応対。
氷のオーラを帯びた槍が2つの光弾を弾き飛ばす。
瞬時の反応で迎撃に成功していた。
「よし……ひゃッ!」
だがその足元をさらなる攻撃が襲う。
彼女が迎撃にほっとした隙を突いて、又も鞭の薙ぎが振るわれていた。
先程の記憶があるため、寸手で軽くジャンプしたレヴィアタンは鞭の直撃は避ける。
しかし明確な回避ではなかったので足先にかすってしまい、体勢が崩れる。
「くぅ!」
フロストジャベリンを床に突いて、彼女は倒れるのを持ちこたえる。
バランス感覚のいい彼女はリカバリーも上手い。
だが続けざまに、ウィップが再びしなってリターンしてくる。
床に足をつこうとした彼女の足元へと再度鞭の殴打が迫る。
「はっ!」
だが今度はしっかり予測していた彼女は、それをタイミングよくステップしてかわした。
獲物にヒット出来なかった鞭は空を切って元の鏡の中へと戻っていく。
しなる蛇のようにうねりながら、ウィップは鏡面の中に消えていった。
「…………」
鞭が帰った鏡を見ると、その鏡は彼女から遠目の位置にあったが、そこから気配を消して鞭が伸ばされていたようだ。
目につく位置の鏡ではなかった分、彼女は気配察知が少々遅れてしまった。
遠くの鏡からであっても敵はこちらを的確に狙ってくるのだ。
「くクく、惜しかっタ」
「あア、惜シカッたナア」
せせら笑いを浮かべながら道化師達がこちらを見ている。
見ると、今度は手前側にいた方のマリオネスの手元に鞭の先端が戻ったのが見えた。
しなりながら、バチン!と小気味いい音を立ててウィップは彼の手先に返ってくる。
「く………卑怯な手を使ってくれるわ」
「悪いネエ」
「デモ面白い遊ビダロウ?」
「どこがよ!」
愉し気に言う道化師に、彼女はつい食って掛かる。
だがすぐにはっとなった。
いつの間にか奴らのペースに飲まれてしまっている。
厄介な遠隔のギミック攻撃に手を焼いている証だ。
敵もそれをわかったのか、笑みを深めていく。
「くククく、効果アリダ」
「あア、効いてイルナ」
「く、くぅ……!」
このやり方が通用している事をマリオネス達も実感しているようだ。
無意識だが、彼女の方も悔しげな声を漏らしてしまっているため尚更彼らを優位に立たせてしまっていた。
だが、実際彼女が攻略をこまねいているのは事実だ。
過去のゾルベームグとの戦いを参考に同じやり方で対応しようとするが、敵がそれを許してくれない。
道化師達はレヴィアタンが氷の輪を作成する時間を与えず、その前に攻撃を放ってくる。
氷の輪は以前に比べればかなり発動まで時間短縮出来るようになったとはいえ、他の技に比べて打つまでに時間がかかるのは否めない。
なので輪を作成し切る前に、いやモーションにも入る前に彼らは何かしらの攻撃をして邪魔をしてくる。
彼女はまずその迎撃に労力を割かなければならない。
初撃を切り抜けても、すぐに今度は鏡を用いた遠隔のギミック攻撃が始まる。
今のように少しでも注意が散漫になれば、たちまち危うい状況に陥ってしまう。
ゾルベームグの時との大きな違いはそこだった。
あの翁は彼女を焦らすように、あえてワームホールの中に隠れて待ちながら機を伺う戦法を取っていた。
そのために、レヴィアタンの方も対策を取る猶予があったのだ。
氷の輪を作る時間もたっぷりとあった。
それは後のビブリーオとの戦いの時も同様だ。
あの時も似たような隠れながら狙い打ってくるタイプの敵であった。
だが奴もゾルベームグと同じく、穴の中に姿をくらましてしばらく待ちの戦法を取ってきた。
故に彼女はその間に氷の機雷を複数水中にバラ蒔いて設置し、一気にマリンスノーとして操ってビブリーオを攻略したのだった。
だが、今回の敵は違う。
遠隔のギミックを使ってくる所は共通しているが、悠長に待っていてはくれない。
彼女が攻略に氷の輪を作ろうとしても、それをする暇を与えてくれないのだ。
すぐさま攻撃が飛来し、それを御しても2段目の遠隔のギミック攻撃がうなり飛ぶ。
何とか回避する事は可能だが、そこから反撃に転じて道化師達に攻撃を当てるのは容易ではなかった。
敵が過去のヴィラン達のように気を抜いたり悠長に構えて待っていてくれればチャンスもある。
だがこと彼らに関してはそのそぶりは一切なかった。
ピエロの口はおちゃらけて笑ってはいるが、戦いの中で気を抜くような気配は全く見られない。
これでは妖将の方も突破口をなかなか見出だせない。
(んも~~!こいつら、へらへら笑ってはいるけど全然隙を作ってくれない……!)
2人の道化師の連携術に手を焼き、レヴィアタンの思考にも歪みが生じ始める。
普段は冷静に相手の弱点を分析する彼女なのだが、今は徐々に余裕がなくなってきていた。
そのため、まだ歳相応の若い彼女が顔を出す。
思い通りにいかない苛つきが、冷静な判断を奪い始めていた。
「フフ、もう終わりカイ?」
レヴィアタンが悶々としている中、マリオネスが楽しげに呟く。
「調子に乗るんじゃないわよ!」
苛立ってレヴィアタンが反撃に移る。
フロストジャベリンをくるんと一回し。
レヴィアタンの反撃が開始される。
「や!や!やっ!」
通りのよい発声が3度響く。
同時に槍先からホーミング弾が飛んだ。
(クク、またそのいつもの技ダナ。可愛いネ)
パターン可している彼女の攻撃手順にマリオネスがまた内心で微笑む。
距離が離れている場合、彼女はこのホーミング弾を初手に選択する事がかなり多い。
もちろんそこから派生技や他の技に展開したりはするが、初手はほぼホーミング弾である。
今回も例に漏れずそれが選択されていた。
だがホーミング弾は1度に3発が限度であり、動きも複雑な軌道は描けない。
冷静に見極めればよけるのは難しくなかった。
2人のマリオネスはその攻略法通りに弾が近づいたのを見計らい向きを変えて連続ジャンプする。
寸前で対象に目測を外されるとホーミング弾は追尾し切れず通過せざるを得ない。
道化師のどちらにも当たる事なく、そのまま弾は後ろへ通り抜けて奥の壁に当たった。
「残念デシタ」
「今度はボクらの番ダヨ。……いや?」
「あの子ハ……?」
ホーミング弾をかわし終えた彼らの視界から妖将が消えた。
レヴィアタンは彼らの機先を制して一足先に次の行動に移っていた。
ホーミング弾は単なる陽動でしかない。
彼女は勢いよく上空へ飛び上がり、滑空しながらフロストジャベリンを華麗に舞わせた。
両の手で武具を頭上に掲げ、高速で捻り回していく。
手慣れた手つきで槍が手首の返しとスナップにより動力を帯びる。
ヒュンヒュンと唸りを上げてジャベリンが速度を上げていく。
彼女はそれを支点にジャベリンをまるでヘリコプターのプロペラのようにして空中に浮いていた。
回転が十分に軌道に乗った所で、片手を放した彼女はさらにもう片方の手で氷の機雷を作り、ピエロ目がけて投げつける。
「や!」
掛け声と共に放たれた3つの氷の機雷が、マリオネスの前方から迫っていく。
マリオネス達はこの間、攻撃を撃って邪魔をする事をしなかった。
何故なら、彼女の見せた事のない新しい動きに興味が湧いたからだ。
そして、フロストジャベリンを華麗に舞わせる彼女が美しく、見惚れていたのもあった。
「美シイ」
「あア、本当に水ノ天使のヨウダ」
彼女が機雷を打ってくるモーションをし終えるまで見た上で、彼らはこんな感想を漏らした。
悠長に構えていたせいで、氷の機雷が3つ間近まで迫ってきている。
そして彼らの眼前で爆発した。
3発の爆発が同時に起こり、爆煙と土煙が巻き上がる。
だが爆発直前に2人はバックステップして退避していた。
機雷自体はそこまで避けるのが難しいスピードではなかったためだ。
片手で高速ジャベリンを安定させながらの副次的な攻撃なため、速さにまでは力を割けなかったと思われる。
「チィ…!」
だが土煙が舞い、マリオネスの視界を塞いだ。
思わぬ煙幕に道化師達は意表を突かれる。
この攻撃は本命ではなかった。目眩ましである。
滑空しながら上空でフロストジャベリンを舞わせていたのはミストを生じさせて放出するため。
彼女は氷の機雷を生み出す事が出来るが、作れるのは何も大きな氷だけではない。霧状の極小な氷も作れるのだ。
目眩ましの爆発でマリオネスの視界を遮った後で、彼女はそれを広範囲に放っていた。
「クソ、何も見えヤシナイ」
「ドコにイッタ?」
マリオネスは土煙の煙幕に苛立ちを募らせる。
だが直後に違和感を覚えた。
煙が晴れた先に、粒子のような物が見えたからだ。
「こ、コレハ……」
霧のような物が周囲を取り巻いている。
それがまさか氷の攻撃技だと気付いた時にはもう遅かった。
全方位から氷のミストがマリオネス達を襲っていたのだ。
ドム!ドム!ドドム!
「「ギャ、オアーー!!」」
無数の粒子氷が道化師マリオネスに流れ込む。
それらは極小の粒にすぎないが、広範囲かつ無数にある事で、相手に与えるダメージ量は馬鹿にならない。
攻撃威力を抑えて射出量を増やすのは先程のマリオネスのエネルギー弾と理屈は同じだ。
だがその量はマリオネスのそれとは比べ物にならないほど多い。
四天王レヴィアタンの実力をまざまざと感じさせる技である。
「ぐ、オオオ」
大量のミストを喰らい、たまらずマリオネスがうめいた。
ミストのため致命傷にはならないが、一定量のダメージを喰らってしまったのは否めない。
「グ……やってくれるネ」
「悪い子ニハオシオキがヒツヨウだナ」
ダメージを喰らいつつもピエロは反撃に転じようと鞭を構えた。
だが、レヴィアタンがそれを許さない。
「させないわよ!」
彼女は素早く上空から降下し、ミストの煙幕に隠れたマリオネスへ接近する。
そしてフロストジャベリンを振るって彼の身体を打ち据えた。
マリオネスの方も鞭を振るって対抗する。
ガキィン!!
お互いの武器が衝突する。
だがマリオネスの方は硬さと柔らかさを併せ持つ鞭だ。
しなりがあり、獲物も長いため対象に巻き付く事が出来る。
レヴィアタンのフロストジャベリンは棒状の槍なため、巻き付けるのに持ってこいだった。
シュル シュルル
見る間にしなり鞭がフロストジャベリンに巻き付いていく。
彼女の武器を縛り上げるようにそれは巻き付いてきた。
「くっ……!」
フロストジャベリンの動きを封じられ、レヴィアタンは焦った。
まさかそんな攻撃をしてくるとは思わなかったのだ。
一瞬動きが止まった彼女を、道化師マリオネスは見逃さなかった。
今彼女の武器をウィップで制御下に置いているのは彼である。
それを最大限に活かさない手はない。
彼は男の腕力を発揮して腕をぶん回した。
それと共に、武器を縛りつけられているレヴィアタンの身体も振り回される。
「きゃっ!?」
小さな悲鳴をあげるが、ピエロの豪腕は止まらない。
レヴィアタンの軽い身体は瞬く間に振り回されて回転した。
そして勢いのまま上空に放り投げられる。
「きゃあああ!」
「クク」
マリオネスはウィップを巧みに操り、フロストジャベリンを振り回しながら彼女を追いかけた。
空中に放り出されたレヴィアタンは無防備だ。
そこへもう1人の道化師が容赦なくエネルギー弾を放った。
3発立て続けに発射する。
1発は彼女の腹、1発は肩。
もう1発は頭に命中させた。
「キャーー!」
クリーンヒットをもらい、彼女から悲鳴が上がる。
武器を支点に振り回された事で彼女は瞬間無防備になった。
そこへ手が空いていた方の道化師が好機を逃さず攻撃を加えたのである。
流石は分身と本人なだけあって連携も隙がなかった。
喰らったエネルギー弾の反動で、さらに彼女の身体は回転する。
乗じて道化師もぶん回す速度を上げていく。
ブン、ブウン!とまるで大車輪のように彼女のか細い身体は道化師を支点に大回転した。
等身大のレプリロイドを使ったジャグリング芸の始まりだ。
「そォレ!」
「ひゃあ!?」
掛け声と共に、妖将の身体が宙に放り投げられる。
大回転の勢いを殺さぬままに、道化師は膂力を持って彼女の身体を空中に投げつけたのだ。
高速で身体がぶん回された状態で軌道を明後日の方角に打ち上げられ、彼女は面喰らった。
体勢を整えようにも彼女は動転してぶん回されていたため、その余裕がない。
悲鳴を上げながら彼女は成す術なく上空に身体を舞わせた。
そしてその身体はその先に設置されていた鏡の中へと吸い込まれる。
ワームホールの鏡面へと彼女は投げられていたのだ。
「キャーー!!」
得たいの知れない異空間鏡の中に入れられ、彼女は戸惑い惑う。
虹色の万華鏡のような景色が彼女の光彩には映った。
鏡の中はこれまで何度か(強制的に連れ込まれて)行き来した事があるが、その際の記憶に漏れず、万華鏡のように幻想的でかつ不可思議な情景である。
(か、鏡の中……!)
虹色にランダムに輝く景色は彼女をしかし畏怖させた。
慣れないシチュエーションは本能的に恐怖を感じるためだ。
だがそんな恐怖を感じたのも束の間、すぐに彼女はホールの出口から出る事となった。
「は、はレ……ッ?」
すっ頓狂な声を彼女は漏らす。
景色が不意に元に戻ったからだ。
万華鏡の色めきは消え、見覚えのあるさっきまでの景色が甦る。
彼女は別の鏡の鏡面から外へと出てきたのである。
(よ、よかった、戻ってこれたわ……)
このままどうにかされるのではと恐怖した彼女だったが、事なきを得てほっとする。
だが彼女は一瞬忘れていた。
今がまだ戦闘中だという事を。
ガ シ り
「ふぇっ?」
「つ・カ・魔・エ・タ・ヨ」
不気味な声が彼女の耳元に木霊する。
見ると彼女の身体は太い腕にガッチリと掴まれていた。
鏡の出口から出てきた彼女を、もう1人のマリオネスが待ち構えていたのだ。
そう、これはまだ"ジャグリング"の途中に過ぎない。
「なッ……!?」
「さア、続きヲしようカ」
再び道化師が彼女のフロストジャベリンと手首を強く掴む。
そして回転を開始した。
腕の力を一気に上げて、彼は妖将の身体をぶん回す。
「ひゃ、ひゃぅ!」
短く悲鳴を上げて、彼女の身体はまたしても高速で回転を始めた。
ハンマー投げで投擲者が投げるまでに獲物を大きく振り回す、まさにあれだ。
ここではそのハンマーに当たるのがレヴィアタンである。
ブン ブウン ! ! !
大きく高速で振り子が振られるように、彼女の身体が旋回する。
遠心力を利用し、さらに彼の膂力が加えられる形で。
恐ろしい速さで大きく高速で振り回され、彼女は再び動転した。
「きゃ、キャーーー!!!」
手荒く全身の身体がプロペラ状態にされる。
鉄棒の大車輪を横方向に超速でやられている感じだ。
どうにか切り抜けようにも道化師の掴む力は強く、彼女の抵抗力では逃れるのは難しい。
それ以前に、抵抗する気持ちの余裕もこの状態では彼女にはなかった。
ただ悲鳴を上げて道化師の周りを衛星状態で超スピードで旋回するしかない。
「それ ソレ そぉ、レ!!!」
「ひゃあーーッ!?!?」
再び道化師は彼女をおもむろに空中に解き放った。
旋回していた円状の軌道がまたしても上空へと強制的に変えられる。
その分圧力もかかり、またしても彼女は悲鳴を裏返らせて身体を反り上げさせた。
海老反りのような形になったレヴィアタンは綺麗な放物線を描いて宙を舞う。
その先にはまたもワームホール鏡があった。
勢いそのままに彼女は鏡の中に吸い込まれていく。
鏡が割れる事はなく、鏡面は揺らいで彼女を受け入れる。
「きゃ…!ま、また鏡ィ……!?」
困惑しながらまたも鏡面世界に彼女は足を踏み入れた。
万華鏡の色鮮やかな光の景色が彼女の目に降り注ぐ。
ワームホールの中は相変わらず暗い様子ではなく、むしろ明るい綺麗な光景が広がっていた。
これだけを見れば怖い感想ではなく、特段悪くはないのだ。
敵のテリトリーに放り込まれたというシチュエーションを除けば。
動転しつつも彼女は体勢を整えようと、海老反りから身体をくの字の形に折り返す。
その方が身体に力を入れやすいからだ。
だがそれをした途端に今度もすぐに鏡の短い旅は終わりを迎えた。
出口が見えたからだ。
光る間口に行き着いた彼女は再び外の世界へと舞い戻る。
「ひゃん!」
元の景色が目に飛び込んだ直後、彼女の身体は荒く何かに飛び込んだ。
ドスン!と鈍い音がして彼女の身体はそれに接触した。
いや、受け止められた。
鏡の出口から放出された彼女を、送り先で何かが待っていたのだ。
レヴィアタンはまたもう1人のマリオネスが待機していたのだろうと思った。
首を捻って彼女はそちらを見て確認する。
「ッ…!?」
だがその瞳は驚愕に見開かれた。
2人の道化師のどちらでもない顔がそこにはあったからだ。
白く大きなマシュマロのような見た目。
大きな黒い目にソフトクリームのようなフォルムの顔。
にたり、と気味の悪い笑顔が眼前に広がる。
「し、しろ饅頭…!?」
驚きに妖将の口が上擦った。
白い巨人がそこに鎮座していたのだ。
スノウスレイヴマンという名で、彼女は鬱陶しい敵との意も込めて勝手に白饅頭と呼んでいる。
その厄介な敵が今この場に乱入して来たのだ。
「ど、どうしてあなたがここに…!?」
「ぐフふ、久シブリだな。妖将レヴィアタン」
不気味な顔で笑いかけるスノウスレイヴマン。
彼は続けて言う。
「オレはマリオネス様のジャグリング芸のフィニッシャーダ」
「え……?」
レヴィアタンは一瞬意味がわからない。
小首を傾げて彼女は聞き返す。
「ど、どういう意味…?ジャグリング芸……?」
「ソウ、鏡とオマエを使ったパフォーマンス」
彼はグフフと笑みを深めると、彼女を担ぎ上げた。
今彼女はスノウスレイヴマンに身体を受け止められた形になっている。
掴まれた体勢のまま、彼女は抱き上げられてしまった。
「ひゃ…!な、何をーー!」
白饅頭の身体がゆらりと動く。
体格差があるため軽々と彼は妖将の身体を持ち上げてしまった。
彼女は例によってお尻や腰を奴にホールドされ、当惑する。
「なっ、ど、どこを触って……!」
「ふフ、今ソンナ事言ッテイルバアイナノカ?」
軽く取り乱すレヴィアタンに彼はおかしげに言った。
そう、本来今はそれどころではない状況なのだ。
まだ彼らの連携技は途中に過ぎない。
【挿絵提供:くの様】
彼の両手はいつの間にか2本から4本に増えていた。
通常の2つの腕の他に、もう2本身体から生えている。
彼女はまだそれを認識していなかった。
鏡から放出された勢いのままに受け止められ、そのまま担ぎ上げられたので相手の腕の数が増えている事をまだ認識出来ていないのだ。それよりも彼女は触られた事に意識がいっており、敵の変化に気付いていなかった。
これからその腕を使ったアクションが行われるとも知らずにーー。