ロックマンゼロ -episode leviathan-   作:プレイズ

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レヴィアタンVS道化師マリオネス3

次の瞬間。

白い指が高速で稼働を開始した。

目にも止まらぬ速さで乱れ撫でをし始める。

それは至高のクスグリとなってレヴィアタンを襲った。

「きゃは、きゃはハハ!」

妖将の身体をスノウスレイヴマンの指が揉み上げる。

太い指が脇腹とお腹をまさぐる。

恐ろしい速さで白い指がこちょこちょを始めたのだ。

それは華奢な彼女の薄い皮膚に瞬時にこそばゆい感覚を生じさせる。

「きゃはハハ!」

たまらずレヴィアタンは笑い声を漏らした。

身体をよじって悶えるレヴィアタン。

スノウスレイヴマンは太い指を繊細に動かして、彼女の脇腹とお腹というデリケートな部分を攻める。

さらに、もう2つある手を使って足首とお尻もさわさわし始めた。

こしょこしょが増やされ、思わず彼女は身体をくねらせる。

「はひッ!?ひゃ、ひゃん!//」

お尻まで揉み揉みされ、彼女は身体を波打たせた。

くすぐられた足首をジタバタさせながら彼女は笑い悶える。

「ひゃ、ひゃヒィ!」

下半身の鋭敏なツボを突かれて彼女はたまらない。

加えてデリケートな脇腹とお腹もまさぐられる。

笑いをこらえようにもこれでは不可能であった。

止めようとした笑い声は、逆に激しくなってしまう。【※表情差分。挿絵提供:くの様】

【挿絵表示】

 

「キャ、きゃははは!きゃはハハははは!」

彼女の笑いの発声が木霊する。

こそばゆい感覚が波のように立て続けに訪れ、レヴィアタンは抱腹絶倒となった。

足首をバタバタ波打ってくすぐりに悶える。

上半身は脇腹とお腹を白い手に超速指圧され、小刻みに痙攣していた。

「アハ!はハア…!」

「くクク、いい笑い声ダ」

「あア、素晴らシイ笑イッぷリダナ」

笑い悶える妖将の様を、傍でマリオネス達がほくそ笑んで見ている。

いつの間に訪れたのか、彼らはすぐ向こうでこの光景を見ていた。

彼女が白饅頭にくすぐられてやり込められている間に、接近したらしい。

そもそも、スノウスレイヴマンの元へ彼女を送ったのも彼らである。

ワープ鏡の経路は巧妙に考えられており、彼女が放り込まれた鏡は待ち構える白いモンスターの元へと通じていたのだ。

「く、くぅ…!ひゃ、キゃははは!」

道化師達の姿を目に収めた彼女は、悔しげに声を吐く。

だがすぐに笑い声に変わってしまう。

スノウスレイヴマンのこしょばしは的確にツボを突いていて、笑いをこらえるのが難しいのだ。

ただ力任せにくすぐっているのではなく、イメージとは裏腹に繊細な指先の動きでこしょばしてくるためである。

「(ぐ、くぅ…!こ、こいつ何でこんな上手くくすぐってくるわけ……!)ひゃヒイ!」

身体をよじらせながらレヴィアタンは脳内で当惑する。

逃れようにも4本の腕でがっちりと掴まれているので白饅頭の元から脱するのは容易ではない。

力では向こうが完全に上だ。

そのくせ、指先は繊細に動かしてくすぐってくるから厄介である。

彼女が腕で上半身のくすぐりをブロックしようとしても、彼の手の動きは止まらない。少しはブロックする事は叶うが、もう2本の腕でノーガードの下半身を狙われる。

たまらずそちらをケアしようと手を伸ばすと、すかさず脇腹やお腹を凄まじいこちょこちょが襲うのだ。

これでは笑いから逃れる術はない。

必ず4つの手のどれかは彼女の華奢な身体の笑いのツボを突くからだ。

「んキャ、、!きゃははは!」

またしてもガードに失敗し、彼女の口から笑い声がほとばしった。

白く太い指が妖将のか細い身体を流麗に鍵盤を叩くようにくすぐりなぞっていく。

それに応じて彼女の皮膚神経も反応し、笑いの感覚を付与されていく。

「あは!あはハハハハ!」

妖将レヴィアタンの笑い声が鏡空間に木霊する。

普段は凛として冷静な言葉を紡ぐ彼女は、しかし今抱腹して裏返り声を漏らしまくっていた。

 

それは鏡セカイにおいて新鮮な響きであった。

この空間には普段はマリオネスやスノウスレイヴマンら男連中しかいない。かつて存在していたミラージュ5の者達を含めても皆男性だったからだ。

それが、今は女性がいる。

それも若く可愛らしい少女である妖将が。

彼女の可愛らしい笑い声は、鏡セカイの空気自体も和ませていく。

「あは!キャははハ!!」

くすぐられ始めてから早3分が経過したが、まだまだこの笑い声はやみそうになかった。

 

「くク、いい声ダ」

「マッタク。愛らシイ限り」

その様子をすぐ奥で道化師達が鑑賞していた。

彼らはくすぐり悶えるレヴィアタンを前に、特に攻撃を繰り出す様子はなかった。

今は絶好の攻撃チャンスなはずだが、手を出す事なくこの"可愛い光景"を見守っている。

そうする理由は2つ。

まず彼らには彼女を痛め付けるメリットが薄いからだ。

攻撃を与えて削れば有利にはなるが、倒すのが目的ではない。そもそも女性相手の多対一で本来彼らが有利なはずなのだが、それでも彼女の実力は抜きん出ている。

ポテンシャルを考えれば、まともにやり合えば彼らの方がやられる可能性の方が高いのだ。

今有利に立てているのは、巧妙なプランニングと鏡空間での強烈なデバフのおかげである。

それに加えて彼女の精神面の未熟さを上手く突いた事で、妖将の本来持っている実力の高さを封じる事が出来ていた。

今は彼女が道化師達に上手くあしらわれている状態である。

「くヒ…!(こ、こいつら私をくすぐって遊んでいるわ……!他の攻撃をしてこないし、マリオネス達は笑って見ているだけ……!な、舐めるんじゃないわよ)」

後方から手出しをせずに観察している道化師2人の様子に彼女は気付いた。

彼らはスノウスレイヴマンに加勢する気配はなくただ傍観しているだけだ。

笑い悶えるレヴィアタンの仕草を愛でているのである。

彼らからすればこの戦いは彼女を殺すのが目的ではなく、出来るだけ引き伸ばす事にある。

こちょこちょで悶えさせているのもその一環と言えた。

レヴィアタンは敵がくすぐってくるだけで遊ばれている事に気付き、憤慨する。

(こ、この……!いつまでもこしょばしてくるんじゃないわよ……!)

腕を振り払って彼女は抵抗を試みる。

だがスノウスレイヴマンの腕は4本もあるのだ。

2つの腕を何とか制しても、残る2つの手が彼女を掴んでくすぐってくる。

ただのくすぐりではなく、超速で指が蠢く凄まじい妙技だ。

レヴィアタンの抵抗は4本腕のスノウスレイヴマンからすれば御するのは容易い。

すぐに空いている残りの腕を使って彼女の身体を"こちょこちょ"する。

「ひ、ひヒィ…!は、はヒッ!」

腕を振りほどこうとするも白饅頭に別の腕で死角を突かれ、すぐさま別角度から超速くすぐりが開始された。

たまらず彼女の脇腹が波打つ。

華奢な身体を白く太い指が繊細に高速で撫で回していく。

身体がか細い分、彼女は凄まじいこしょばしの感覚を強めに喰らっていた。

くすぐったい感覚が彼女の神経を占有していく。

「あ、アヒッ!ひゃヒヒヒ!!」

裏返った声を上げて妖将の笑い声が響き渡る。

白い手のくすぐりを止められないため、彼女の笑い上戸も治まる気配がない。

(だ、ダメぇ…!く、くすぐったすぎィ……!)

身体をくねらせて彼女は悶える。

だが白の腕は容赦なく妖将のか細い身体を襲って撫で回す。

彼女がブロックしても腕の数が違うため、すぐに他の箇所が突かれてしまう。

そのため彼女はくすぐりの連鎖を防ぎ切れない。

「きゃ、きゃひゃぁ!きひひ!」

 

 

 

「クク、ホントウ可愛いネエ」

「この分ダト、コノママ水ノ天使のくすぐり劇場で最後マデ終えれソウダな」

笑い上戸を繰り返すレヴィアタンの様を奥の道化師達は満足げに眺めている。

彼らは戦闘を長引かせてタイムアップまで到達すればそれで勝利だ。

戦況がまずそうなら加勢して3対1で彼女を相手取るつもりだが、鏡ジャグリングの連携によりスノウスレイヴマンのくすぐり嵌め技に彼女を掛ける事に成功した。

これならば腕力差で劣る彼女があの白い大男から逃れるのは難しい。

奴の4本腕の拘束力とくすぐりの妙手は相当なものだからだ。

レヴィアタンがいくら四天王の実力者といえど、ゼロ距離の肉弾戦となれば少女の彼女は明らかに不利である。

白饅頭が彼女の身体を収めた時点で彼らは勝利を確信していた。

 

「く、くぅ…!な、舐めるんじゃ、ないわよ、、!」

笑いすぎて痙攣しながらも、しかし彼女は反撃ののろしを上げる。

彼女は普段生身の身体だけで戦うわけではない。

エレメントの得意技を持っているのだ。

悶えつつも彼女は腕を斜め前方に伸ばした。

「マ、まりん、、スノーぉ!!」

声を裏返らせて彼女は技名を言い放つ。

すると広げた手のひらの先から水色の結晶が生み出された。

だがそれは通常のマリンスノーではなく、氷の粒子だけの状態だ。

笑い上戸のまま無理に技を打ったためか半端な生成になっている。

「グクク。そんななまくら氷じゃオレ二ダメージはアタエラレナイ」

未完成な氷機雷の粒子を見てスノウスレイヴマンがほくそ笑む。

彼の皮膚の肉質は見た目通り厚いため、半端な氷技では攻撃が通らないのだ。

「それハ、、、どう、カシラ……!」

悶えた声音で彼女は言い返す。

すると粒子の状態な氷が1ヵ所に集まり始めた。

彼女の手のひらから絶えず粒子が流れ出し、鋭い刃のような形状に集積されていく。

「ム……!オイ、スノウスレイヴマン」

「コレハ普通のマリンスノーじゃナイナ」

奥で見ていたマリオネス達は異変に気付いた。

いつもの彼女の氷の機雷とは形が違う。

新たな形状に生成されたそれはまさに氷柱。

鋭い先端はこれまでのマリンスノーよりも鋭利なフォルムだ。

「いぎなさイ゛!」

レヴィアタンの掛け声が響く。

それと共に鋭い氷柱が白い巨体を襲った。

 

ザシュリ!!!

 

深く刺さるような音が響き、白饅頭のボディにそれが突き刺さる。

「グアあはあ!!!」

白い口から呻きが上がった。

分厚い皮膚の層を氷柱が突き破ったのだ。

鋭く研ぎ澄まされた氷の刃先は肉質に負ける事なく貫いてみせた。

たまらず白い巨体がよろめく。

その隙を突いてレヴィアタンは白い腕の中から逃れた。

痛みで掴む力が緩み、拘束が緩んだためだ。

彼女はすぐさま後ろに飛びすさると、バックステップで距離を取る。

 

「はぁ、はぁ……!」

何とか白い太腕の搦め手から脱出し、レヴィアタンは粗い呼吸を何度も吐く。

恐ろしいくすぐりの連鎖からようやく解放されたのだ。

あのままでは笑い死にしかねない状態であった。

だが咄嗟の機転で氷の技を応用し、彼女は難を逃れる。

「ちい……痛テテエ」

スノウスレイヴマンは貫かれた胴体を腕で押さえて呻く。

どうやら一定のダメージが入ったようだ。

だが致命傷ではなく、顔をしかめる程度である。

「ヨグモやっデぐれだな。怒ッダゾ」

「わ、私を……あんまし舐めないでくれる…?」

よろよろとフロストジャベリンを支えにして彼女は何とか立ち上がった。

辛うじて白い巨体からは逃れたものの、今のくすぐり嵌め技で彼女の方も幾分かダメージを負っている。

裂傷等の怪我をするような攻撃はされていないのだが、恐ろしいまでのこちょこちょによって彼女は長時間笑い上戸となった。

それによって脇腹やお腹が強く痙攣し、筋組織に少なくない疲労がかかったのだ。

くすぐりだけとはいえ確実にレヴィアタンの身体の体力を削っていたのである。

(くぅ……今のでそこそこライフを削られちゃったわ。不覚ね)

彼女は単なるこちょこちょで体力を削られ、罰が悪そうにする。

くすぐりだけを見れば敵の悪ふざけだが、その嵌め技を食うに至ったのはマリオネスによる鏡ギミックに翻弄されたからだ。

警戒はしていたのに、敵の搦め手に苛立った彼女は少々不用意に攻め入ってしまった。

その精神面の乱れを突かれ、彼女は鏡マジックの幻惑に翻弄されてしまったのだ。

「ふフフ、惜しカッタネエ。ダケド次は逃がサナイ」

「マタ君ヲ鏡ジャグリングで回シテ遊んデアゲる」

難を逃れた彼女に、2人の道化師達が不敵に笑いかける。

彼らはまたさっきの鏡遊びをするつもりでいるのだ。

妖将の身体をお手玉代わりにした鏡を使ったジャグリングを。

美しい氷の美少女をおもちゃに出来るのだから彼らからすればこの上なく愉しい遊戯である。

 

「よ、よくも……やって、くれたわ、ね……!」

翻弄された自分を見て愉しそうに笑む彼らに、妖将の顔に怒りが滲む。

「許さない。もうあんなふざけた技は食らわない、いえさせないわ」

「クク、気ノ強い娘ダ。ボクらの鏡ギミックを受けテモ尚ヤレル気トハ」

「いいネ、そんな君でコソ愛でる価値がアル」

「でゅフフ、またくすぐってヤル」

マリオネス達、そしてスノウスレイヴマンがにたりと不気味な笑みを浮かべた。

この状況でも目に光を失う事なくレヴィアタンは立ち向かってくる。

そんな彼女が彼らはたまらなく愛おしい。

 

 

(くっ、むかつくわ。でもカッカしたらまた相手の思う壺よ)

威勢よく啖呵を切った彼女だが、心の中では精神の怒りを自制する。

怒りで思考が浅くなれば先程のように安易な攻めで墓穴を掘ってしまう。

その二の舞は避けなければならない。

 

敵はスノウスレイヴマンが加わった事によって3人に増えた。

ただでさえマリオネス2人の連携技に手を焼かされていたのだ。

それが3人になれば攻略はさらに難しくなる。

だが、そんな苦しい状況でも彼女は戦意を失ってはいなかった。

四天王の彼女は気持ちが強いからだ。

(絶対に……こいつらを倒してみせるわ!)

目に光を宿して彼女は内なる炎を燃やす。

水と氷の力を持つ彼女は本来炎のエレメントは持っていない。

しかし心の中には確かな熱い炎を持っていた。

ただの赤い炎ではなく青い炎だ。

それは静かだが普通の炎よりも火力が高く、より熱い。

水色のエレメントを持つ彼女らしい炎と言えた。

 

「さあ、今度は私がお返しさせてもらう番」

レヴィアタンの反撃が開始される。

くるんとフロストジャベリンをとり回すと、彼女は敵を見据えた。

「や!や!やっ!」

通りのよい発声が3度響く。

同時に槍先からホーミング弾が飛んだ。

(クク、またその技カイ。芸がナイ)

見慣れた初撃が繰り出され、マリオネスがあくびを吐く。

距離が離れている時の彼女は決まってこのホーミング弾を多用する。

今回も例に漏れずこの攻撃だ。

 

既に攻略法を知りつくしているマリオネスはその攻略法通りに弾が近づいたのを見計らい向きを変えて連続ジャンプする。

同じく"白饅頭"も同様の動きで道化師に続く。

寸前で対象に目測を外されるとホーミング弾は追尾し切れず通過せざるを得ない。

道化師達にも白饅頭にも当たる事なく、そのまま弾は後ろへ通り抜けて壁に当たってしまった。

「残念デーシタ」

「ソンナのアタラナイ」

「今度はボクらの番ダヨ」

敵3人が妖将を見据える。

先程とは異なり、彼女は特に次の技を準備している様子はなかった。

今のホーミング弾は単発の攻撃だったようだ。

 

「ジャッ!ジャッ!ジャッ!」

今度は道化師の方が攻撃に転じる。

口を開けてエネルギー弾を3発放った。

小中サイズの光の球が妖将へ向けて飛ぶ。

「無駄よ!」

 

ガキキン!

 

だが凛とした声と共にエネルギー弾は全弾弾かれる。

彼女がフロストジャベリンを高速回転させていたからだ。

高速で回転する槍は盾の役割を果たし、少々の攻撃は通さない。

そして、この技は防御だけではない。

回転と共に氷の機雷も同時に生成している。

攻防一体の技であり、防御から攻撃へ転じるのだ。

「はっ!」

通りのよい発声がまた響く。

その声と共に水色の綺麗な連結結晶が前に飛んだ。

彼女お得意の氷の輪だ。

今回は機雷と機雷の間隔が広がる事はなく、そのままの狭い円周で飛んでいく。

「旧バージョンカ。ならヨケヤスイ」

アップデートされた方の氷の輪なら、機雷間隔が徐々に広がるためよけるのが難しい。

だが旧バージョンならば機雷範囲も狭いため、少しジャンプすればかわす事が可能だ。

道化師達は既に攻略法を知っているため落ち着いて対処する。

 

だが。

 

「ヌッ!?」

ジャンプして上を通り抜けようとした瞬間。

氷の輪の機雷が"上に"動く。

まるで彼が頭上に来るのを待っていたかのようなタイミングで、遅れて機雷が広がったのだ。

時間差で軌道が変化し、彼は機雷を避け切れず接触する。

「ぐアオ!?」

2つ程機雷が当たり、彼は呻き声を上げた。

まさか氷の輪がさらにアップデートされていたとは彼は把握していなかったのだ。

(な、何故ダ……!レヴィアタンの技データは全て解析済みダヨ。氷の輪は2パターンシカナイハズ。こんなウゴキはデータにナイ)

 

「フフ、私が新たに技を発展させれないとでも?」

「ぬッ……!」

レヴィアタンが可愛くも煽るように微笑む。

彼女はデータを取られた後で、独自に氷の輪の変化仕様を増やしていた。

それによって今のようにタイミングを可変させて軌道展開も出来るようになったのだ。

マリオネスはデータ解析により彼女の技を全て把握出来たと見なしていた。

だが、彼女は頭を使ってさらなる技の改良を施したのである。

「チイ……あの後で技ヲ改良シタというワケカ。小癪な賢イ子ダね」

「どういたしまして。データを取ったからといって私を上回れるとは思わない事よ」

くるんと手首を返して彼女は微笑む。

これは相手を軽く挑発する際の仕草だ。

「氷の輪程度デいきらナイ事ダ。喰らったダメージも大した事はナイ」

「そうね。氷の輪で与えられる攻撃量は多くはない。それが単発なら、ね」

「む……!」

言い終わると彼女は今度はジャベリンを持つ方の手をくるんと回した。

そのまま再び高速で回転させていく。

「でも続けてもらえばどうかしら!」

「ぐ……ま、また氷の輪ヲ打つ気カ……!」

彼女はさらに氷の輪を連発する気でいる。

機雷の動くパターンが増えた今、マリオネスは攻略法を組み直す必要があった。

だがそれをすぐに思いつくのは難しい。

その前に妖将は一気に畳み掛ける腹積もりだ。

「はっ!」

見る間に彼女から再び氷の輪が放たれた。

まだ解法を固めていないマリオネスは意表を突かれる。

作成を始めてから技を打つまでのタイムラグが短いからだ。

短縮版を使ったのもあるが、彼女の技スキルは向上しており、以前よりも氷の輪を放つまでの時間が高速化していた。

「チイ……!」

余裕を与えられず再び氷の輪を放たれ、道化師が舌打ちする。

今度は最初から機雷の間隔が広がり始めた。

これはデータにある新バージョンの方の氷の輪だ。

「これはシッテイル」

進行に連れて広がるパターンは既にデータでメモリーチップにインプット済み。その解法も。

彼は落ち着きを取り戻して対処する。

後方にジャンプして機雷から距離を取り、十分に間隔が広がった所を隙間へ行ってかわそうとした。

 

だが。

 

「ヌアッ!?」

しかしかわせなかった。

広がっているはずの間隔がなかったからである。

彼が振り返った時には氷の輪が収束していくのが見えた。

1度広げた間隔をまた狭められた形だ。

隙間がほぼなくなった事で彼はよけるスペースがなく、被弾した。

分身の道化師も、白饅頭も同様に機雷を喰らう。

 

「グオオオ!」

「グアオオ!」

「痛デエエエ」

 

狭い円周になったため氷の輪がまとまって彼らに当たった。

連なる機雷が連鎖して誘爆し、一気に3人にダメージが入る。

 

「ゼエ、ぜえ……!」

「ぐ、ゴハ……!」

「ご、あ゛……!」

焼け焦げた身体を抑えて道化師達が苦悶の顔を浮かべた。

舐めていた氷の輪で彼らはかなりのダメージを負わされてしまった。

「フフ、削れたようね。氷の輪でも」

「グっ……!」

自身の技がしっかり通用し、彼女は自信を得る。

新たに発展改良させた技の効果は上々のようだ。

技データを全て解析されてしまったとはいえ、どうやら敵は新たに発展させたものに関しては把握出来ないらしい。

 

 

その時。

 

 

彼女の脳内に、声が届けられた。

 

【レヴィアタン様……お待たせ致しました】

「ッ!」

マニピュレートの声が、再び彼女の頭に聞こえたのだ。

【マ、マニピュレート…!大丈夫だったの!?】

【はい、しばし回線を遮断されてしまいまして。復旧に時間を要しました】

お待たせして申し訳ありません、とAIの彼は謝ってくる。

【いいのよ。今、ようやく調子が出てきたところよ】

【流石ですね。複数人が相手でもこの戦いぶり。お見それしましたよ】

【でも、敵が1人増えてちょっと厄介なの。また鏡の連携を使われたら一気に流れを持っていかれかねないわ】

【なるほど。ですがご安心ください。レヴィアタン様が粘って抗ったおかげで、機が到来しました】

【え……?】

【戦闘前にお話しましたが、マリオネスの乱れが蓄積されたのです】

マニピュレートは何か秘策があるような口ぶりで話す。

【乱れ……?そういえばそんな事を言っていたわね】

【ええ。あなた様の戦いぶりに彼らは高揚したのです。そして夢中になった。それが"乱れ"です】

【高揚……?私の戦いぶりに?】

レヴィアタンは小首を傾げる。

彼女としては自分との戦いに彼らが何を高揚するのかわからない。

彼女自身は彼らを軽蔑してこそすれ、この戦いに高揚など感じていないのだ。

【意味がわからないのだけれど】

【まあ、詳しい仕組みは理解されなくても大丈夫です。ともかくマリオネス達の乱れは蓄積されました。それによって水門を開く事も可能になったのです】

【…!そういえば、言ってたわね】

彼らの乱れが蓄積されればマニピュレートにより多くの権限が戻り、水門を開通する事が可能になる。そう彼は戦闘前に説明していた。

 

【ただし、水門と言ってもここは鏡セカイ。そのままの水が流れ込んでくるわけではありません】

【え……?ど、どういう事?】

【流れ込んでくるのは鏡因子。それが水とまではいきませんが、気体と液体の中間のような要素と化すのです】

彼の開通させた水門からは水ではなく、変わりに鏡因子が流れてくるという。

鏡因子とは、この鏡セカイにおける特別な構成元素らしい。

気体と液体の中間の特性を持ち、少し空気の抵抗を液体が混じったような状態にしてくれるという。

【鏡因子……それが入ってくると空気中が少し液体の要素も持つのね?】

【そうです。水の中と同じとはいきませんが、これならあなた様にとって少しはやりやすくなるかと】

【……わかったわ。原理はよくわかんないけど、貴方が言うなら信じてあげる】

【ありがとうございます。水門の方は既に先程開通しておりますので。あとはーー】

 

 

「なら、お次はこれにしようかしら」

「!?」

彼女の醸し出す雰囲気が変わる。

集中力を極限まで高めた気が彼女の体内から沸き上がる。

その気配の変化に気づいたマリオネスは焦燥感を募らせた。

(な、何をスル気ダ……!)

レヴィアタンの周囲をオーラが覆っていく。

水色のエレメントエネルギーが高揚して高まっていく。

精神力を研ぎ澄ませて彼女はフロストジャベリンを頭上に掲げた。

「はぁーーーっ!」

手首をくるくるくる、と目にも止まらぬ速さで回転させる。

氷の輪の時よりもさらに速い速度で彼女は回転を繰り出していた。

ただし、前方にではなく上方にである。

「こ、コレハ……!」

技の形態を見た道化師は目を見開く。

この技はもちろん彼は知っている。

妖将レヴィアタンのEX技だからだ。

(トルネード、スピアか……!)

水中で槍を超速回転させる事で竜巻を生み出す大技。

それによって激しい水流を生み、相手を竜巻の中へと吸い込んでしまう恐ろしい技だ。

さらにホーミング弾も複数放たれて対象を襲う。

最後には彼女がスピアで突撃し、大ダメージを敵に与える。

(ダガ、ここは陸上ダ。水中なら危険な技ダガ、ここでは恐ルルにタラナイ)

マリオネスはしかし冷静になる。

レヴィアタンのトルネードスピアは水中でこそ効果を発揮して成り立つもの。

陸上で同じことをしたとしても効果は半減するはずだ。

それならば大して恐れる必要はない。

「フフ、水の中じゃないから安心と思ってる?」

「……!」

まるで心の中を見透かしたように妖将が語りかける。

彼女も敵の心理はお見通しだ。

確かに彼女のトルネードスピアは水中限定の技だ。

しかし、今はマニピュレートの助力によって空気中が液体の要素も含んでいる。

つまり水中以外でも同等のEX効果を発揮出来るようになったという事。

鏡因子の流入した空気中において、水中と同じ効果範囲を彼女は展開出来るようになった。

つまり陸上のハンデはなくなるも同然なのだ。

そして今、マリオネスは彼女の領域展開の範囲内にいた。

 

彼女はジャベリンを頭上に掲げてギュルルル!と大きく回し始める。

「さあ、行くわよ!」

身体から青いオーラをほとばしらせ、彼女は身体のエネルギーを活性化させる。

ジャベリンの超速回転により彼女の周囲には渦を巻くように風が立ちこめた。

まるでつむじ風のような竜巻が彼女を取り巻いて発生する。

「ホウ……これは凄イネ」

目の前で禍々しい妖気を放っていくレヴィアタンに、マリオネスは少し目を見開いて見とれる。

彼女が繰り出すつもりなのは間違いなく大技だ。

その奥義を打ち出すために気合いを込めて全力を出す妖将に、彼は美を感じていた。

(体力ノ厳しい身体ヲ顧みずの凄まジイ気迫……。その燃エルよう二青いオーラを纏ウ姿は何とも美シイ)

苦しい状況ながらなお己を奮い立たせる強い精神力に彼は感服する。

 

「はぁぁぁ~~っ!」

極限まで集中して気を溜め、彼女はその身にエネルギーを集めた。

おびただしい妖気に包まれた彼女は、水の中での使用時と同じように身体を中空に上昇させる。

その身をつむじ風の気流に乗せて宙に“浮かせた”のである。

地上でも水中と違わないかのように見事に大技を操っていた。

「グオ、、!」

「ナニ゛……!」

「ウ ワ ア」

マリオネス達、そして白饅頭の身体が強い力で彼女の元へ引き寄せられる。

強力な竜巻の影響で周囲が風の中心へと引っ張られるのだ。

だが、彼らは強い力で地を踏みつけ、その場で踏みとどまる。

風の力で強く引き寄せられるが、抵抗が叶わないレベルではなかった。

ここは地上だ。

水中に比べて水の流れで身体が押し込まれる事がないので、その分引き込む威力も軽減されている。

(やはりネ。水ノ中じゃナイ以上、この“トルネードスピア”の効力モいささか落チルか)

彼は予期した通りのパワー減に手応えを得る。

そして彼は既にこの技の名称・全容も知っていた。

レヴィアタンのEX技【トルネードスピア】も既に“解析済み”だからだ。

(キミのEX技トルネードスピアはジャベリンを超速回転させ、水流竜巻で対象ヲ引き寄せつつホーミング弾ヲ乱射→着地と同時に氷ノ破片を周囲にバラ撒く強力な技ダ。水中ならバ回避が不可能に近イ、ヤッカイな攻撃だろう。ダガ地上ではソコまで危険な技じゃナイ)

彼はその身に力を入れて氷の地面を踏み込んで耐える。

強い風力で引っ張られはするが、抵抗すればその場からじわじわと動かされる程度に引力を抑え込めた。

 

「はぁぁぁ~~っ!」

なおもレヴィアタンは宙に浮いたまま超速でジャベリンを回し続ける。

途中で、回転する槍からホーミング弾が無数に打ち出された。【挿絵提供:Lotton様】

【挿絵表示】

 

ランダム方向に放たれた散弾が補助攻撃となり進撃。

踏ん張って耐えているマリオネス達の元にもその弾がやってくる。

「ふん!」

だが彼は口からの光球でそれを迎撃した。

踏ん張りながらでもホーミング弾を迎撃するぐらいなら出来る。

これも地上だからこそ叶う動きだ。

「もうっ!抵抗してんじゃないわよ!」

トルネードスピアの作用を受けてなお冷静に対処する彼にレヴィアタンが吠える。

竜巻の中心に引き寄せる事がまだ出来ず、これでは効果的なダメージを彼に与えられない。

「悪イケド喰らっテアゲルわけニハいかナイナ。この技ヲ切り抜けれバお前ハもう為す術なしダ」

「くっ!図に乗るんじゃないわ!」

怒りを織り交ぜた表情で彼女はさらに超速でジャベリンを回す。

竜巻の風速が強まり、風の巻き込むパワーが上がった。

さらに補助弾のホーミング弾も打ち出される数がさっきより増える。

「ぐお、、!」

踏ん張りが通用して耐えていたマリオネスだが、ついに床から足が外れた。

レヴィアタンがフロストジャベリンに込めるエネルギーが増したためにトルネードスピアの効力も増大したのだ。

先刻に比べて2段階ぐらい威力がパワーアップしている。

(な、何ダト……!この細身のドコにこんな力が)

ハイパワーで巻き込む風力で一気に中心部に引き寄せられ、彼は焦った。

まさか彼女がここまでEX技のパワーを上げられるとは思っていなかったのである。

「グアあ……!」

「ふ ん ば れ な い」

分身マリオネスと白饅頭の2人も耐え切れずに押し流される。

あまりの巻き込む威力に力自慢のスノウスレイヴマンでさえ抗えないのだ。

「ちぃ!」

彼は咄嗟にムチを床の突起に巻き付けて無理矢理身体の動きを止めにかかる。

獲物を固定物に巻き付ける事で支えにする事で、引き寄せられる身体をストップさせようというのだ。

ムチを床に固定した事で、彼の流される身体はそのスピードが鈍る。

彼の施した工夫は効果があったようだ。しかし。

「ぐわっ!?」

彼の身体に衝撃が起こった。

見るとホーミング弾が脇腹にヒットしている。

補助攻撃として無数に放たれた弾が彼に命中したのだ。

引っ張られる身体を止める事に夢中になってしまい、彼はホーミング弾の事を意識から外してしまったのだ。

「くソっ!小賢しい攻撃ヲ!」

憤ったマリオネスはさらに飛んでくるホーミング弾を口からの光球で撃ち落とそうとした。

しかし、彼はそれを行使出来ない。

妖将によって生み出された気流の勢いが凄まじく、彼は顔を自由に好きな方向に向ける事がもはや叶わなくなったからだ。

恐ろしく強力な吸引をふんばるのが精一杯で、顔を向こうに向けるには力をそちらへ割かなければならない。ふんばりながらそれは不可能なのである。

そして彼がそれに気付いた時、もう連弾は間近に迫っていた。

「ぐ、、あーーッ!」

ドガドガドガ!と激しい小爆発が巻き起こる。

数発のホーミング弾がマリオネスの生身にヒットし誘爆していた。

彼は少なくないダメージを受け、ボディを損傷する。

そして、ムチを持って踏ん張っていた手が、獲物から外れた。

「し、しまった……!?」

爆発の衝撃でムチを放してしまい、彼の身体は支えを失って風圧で一気に引っ張られる。

同じくもう1人のマリオネスも"分身"なため同様にムチを手放して吸い込まれてしまう。

そして残る白饅頭も、パワー任せだが頭は弱いため、凄まじい風圧の搦め手になす術なく流されていく。

 

一瞬のうちに彼らは竜巻の中心部へと吸い込まれてしまった。

妖将が待つ、眼下の“処刑場”まで。

「フフ、やっと来てくれたわね。待ちかねたわよ」

対象が射程圏までたどり着き、レヴィアタンの口元が妖しく笑った。

逆にマリオネス達の表情は狼狽した。

「さ、今までのお返しを3倍返しでしてあげる」

「グ……!ち、チクショオ、、!」

「や、や バ イ」

「ぎっ……!や、やめロォ!」

「今頃やめるわけ、ないでしょーーッ!」

鬱憤を放つように叫び、レヴィアタンの身体が急下降した。

一気に高い位置から勢いをつけて真下の地面へと落下する。

マリオネスは咄嗟に上を向き、光球をぶつけて突き降ろしの威力を止めようと試みた。

だが猶予がないためチャージは出来ない。

それでも、この鏡セカイで彼が放つ光球はブーストがかかるので並の対象ならば勢いを止めて逆ダメージを与える事が出来た。

しかし、真上から降ってくる少女は並の者ではなかった。

「はぁぁぁーー!!」

「ぐ、ぅおっっp!?」

上向きに放たれた中サイズの光球が瞬間彼女に当たった。

だが勢いに負けてすぐにエネルギー体が砕かれる。

光球は粉々に飛散し、彼女の打ち下ろしが光を突き破った。

突き降ろされたフロストジャベリンがマリオネス達、スノウスレイヴマンの身体に打ち込まれる。

そのままの勢いで、槍の切っ先は鉱石の地面へと衝突した。

衝撃波が発生し、えぐるような打突で固い床は深く彫り込まれた。

 

マリオネス達、スノウスレイヴマンの身体に深く刺さったフロストジャベリンは激しく回転を送り込み、衝撃波と共に彼らを引き裂くように周囲の空気を巻き込んだ。

「ぐおおおぉぉ!!」

「う゛……ぁ…」

「ご……が…ッ!」

マリオネス達の苦悶の叫びと共に、激しい爆音が特殊空間内に轟いた。

地面は大きく陥没し、亀裂が走る。

鉱石の砂塵と氷の破片が混ざり合って舞い上がった。

フロストジャベリンで活性化したアイスエレメントのフルパワーだ。

その勢いを込めた抉り込みにより、辺りにミストのシャワーが立ち込める。

凄まじい地響きが辺りに轟いていた。

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

衝撃波が収まった後には、マリオネス達とスノウスレイヴマンの姿は跡形もなく消えていた。

恐ろしいまでの氷の円舞の直撃を受けたのだ。

鏡ホールで受け流す事も、無効化する事も当然叶わない。

分身だけに身代わりをさせられればよかったが、ジャベリンの回転で生まれた弩級の渦が本物のマリオネスもまとめて引き込んでいた。

妖将による渾身の霹靂降下が決まり、ボス達は完全に消滅したのだ。

 

「はぁ……はぁ……」

レヴィアタンは肩で荒く息をつきながら膝をつく。

EX技『トルネードスピア』の行使は肉体的にも精神的にも大きな負担を彼女に強いていた。

大技なだけに、それだけ反動もあるのだ。

だがその甲斐あってボス達をまとめて仕留める事が出来た。

 

「はぁ、はぁ……。ふぅ……まったく、厄介な相手だったわね……」

額の汗を拭い、彼女はようやく一息つくことができた。

手強いボス3体を同時に相手取り、しかも不利なフィールドだったにも関わらず撃破できたのは彼女自身の高い実力と執念の賜物だと言えた。

(何とか倒せたけど……でも本当に厄介な奴らだったわ。3体1でそれもワープ攻撃で連携してくるんだもん)

道化師達に苦しめられた彼女は、彼らの厄介さを回想する。

ここへ来てからかなりの時間が経過しているが、攻略にこれだけ時間を要するとは彼女も思っていなかった。

しかし手は焼いたがようやく彼らを打ち倒す事が出来た。

「く……流石にちょっと疲れたかも」

激しい戦闘で消耗した身体は休息を求めている。無理もない。彼女は既に少なくないダメージを負っていたし、精神的な緊張や動転もあって精神体力も大幅に削られていた。

(おそらくこれでこの空間のボスは全て倒し終えたはず……。後はゾルベームグの時みたいに空間内に影響が出てくるはずよ)

彼女は過去のゾルベームグとの戦いを思い起こす。

あの時はボスにとどめは刺さなかったものの、瀕死にした事で鏡空間内に揺らぎが生じた。

空間に影響力を持つ者が大きくダメージを受ければ空間の構成力も減衰するからだ。

今回はこの鏡セカイに巣くうボス達を既に倒し終えているため、じきにこの鏡空間も消滅する事になるはずだと彼女は考えた。

 

そう考えていると、不意に背後からカツン……という足音が聞こえた。

「――え?」

レヴィアタンはハッとして振り返る。そこには新たなる影が立っていた。

 

そこに現れたのは、覚えのある金髪と赤いボディを持つ青年だった。

クールだが瞳の中に芯のあるスピリットを宿し、静寂を纏うような独特のオーラを放っている。表情は冷たく硬質で感情を読み取りづらい。

この男の名を彼女は知っている。

「ゼ、ゼロ……?」

よく知る彼の名前を呼ぶ。

紅い見た目、冷静でクールな青年。

彼は本物と見紛う出で立ちでそこに立っていた。

「レヴィアタン。ついにマリオネス達に勝利したか」

眼前の情景を見て、彼は言葉を向けてくる。

彼女の足元の地面は広範囲に地割れが起きており、荒廃していた。

それだけ激しい衝撃が先程のトルネード・スピアによってもたらされたのだ。

「あなたがどうしてここに……?ま、まさか私を倒しに来たってわけ?」

レヴィアタンは不意なゼロの登場に少々動揺する。

一瞬本物のゼロかと思ってしまったが、彼はよく似た鏡コピーの偽物である。

ゼロ亜種と彼女が呼んでいる存在で、3人いる内の1人だ。装甲の色は赤寄りのオレンジで、元のゼロと一番よく似ている。

今彼がこの場に現れた意味は何なのか。

彼女はきっと自分を殺しに来たのだろうと考えた。

「倒す?お前をか」

「そうよ。私を殺しに来たんでしょう?」

「何でそんな事をする必要がある」

ゼロはレヴィアタンにそう言ってみせる。

彼女の考えているような"始末する"という気は全くないようだ。

「え?ち、違うの?」

「当たり前だ。前にも言っただろう。お前は俺達にとって大切な存在だから大事に扱うと」

ゼロからは全く殺気を感じられない。

彼の言う通り、自分を手にかけるつもりはどうやら無いようだ。

「でも私はあなた達のボスであるマリオネスを倒したのよ?報復しに来てもおかしくないわ」

「確かに奴は俺を生み出した。だが倒されて消えてしまえばもう主従関係は無いも同然。奴の命でお前を縛ったり危険な目に合わせる事はもはや完全になくなった」

やれやれ、と息を吐いてゼロは前に進み出る。

彼女の元へ来ると、彼はその手を握った。

「よく頑張ったな。マリオネス達を倒すのは骨だっただろう」

「っ、……べ、別に大した事じゃないわよ。あのくらい」

優しい微笑みでゼロは彼女を褒める。

彼の言葉に思わずレヴィアタンは顔を逸らした。

気のある彼に正面からそう言われるとついそうしてしまう。

「あんな連中私が本気を出せば簡単に倒せるわ。私は四天王だもの」

「確かにな。妖将の実力は伊達ではない。お前の技の前に奴らは完全に消滅した。大したものだ」

ひび割れた鉱石の地面を見やりながら彼は続ける。

「だが鏡のワープを駆使してくるマリオネスは難敵だったのは間違いない。四天のお前の力と奴では本来勝負にならない。それを鏡の特殊空間に連れ込む事でお前にはデバフを、自身にはバフをかけた。そうして卑怯な真似をして優位に持ち込んでいたのさ奴は」

「……うん、そうなのよ。あいつ、私を無理やり鏡のセカイに連れ込んで。そして鏡の不思議な力を使って私の攻撃を無効化してきたの!」

彼女は道化師にやられた不満を吐露する。

「分身とかワープとか何度も使ってきて……!もう、まともにやりあってくれないから攻撃を通すのに一苦労だったわ」

「大変だったな。マリオネスの鏡の力は俺も理解しているからよくわかる。あの鏡能力を打ち破るのは一筋縄ではいかなかったはずだ。本当なら俺も加勢したかったんだが。奴が健在のうちはボスの命が絶対。だから逆らって加勢する事は出来なかった。静観しているのは歯がゆかったぞ」

申し訳なさそうにゼロは頭を垂れる。

謝ってくる彼にレヴィアタンは首を横に振った。

「い、いいのよ。あなたには敵意はないんでしょ?創成主のあいつの命令なら仕方ないわ。でもあなたは私に暴力は一度も奮わなかった。あなたには悪い印象は私は無いわ」

優しく彼女はゼロに微笑みかける。

鏡コピーとはいえ彼はこれまで自分に害は加えてこなかった。

むしろ対妖将用抗電子殻プログラムの件を教えてくれたところもあった。

そのおかげでAIに掛け合ってそれを無効化出来た部分もある。

ゼロとそっくりの姿、色合いなのもあって彼女は彼に敵意よりもむしろ好感を抱き始めていた。

「そう言ってもらえて有難い限りだ。ありがとう」

「い、いいのよ。お礼なんて。私こそあなたには助けられた所もあるし」

ゼロに対して彼女の方も謝意を述べる。

そんな彼女にゼロは言った。

「しかしやはり妖将の名は伊達ではなかったな」

「そうよ。私は妖将レヴィアタン。あの程度の道化師なんかにやられるもんですか」

胸を張るレヴィアタン。

その様子にゼロ亜種は微笑む。

「これでお前は晴れてマリオネス様の試練を乗り越えたわけだ」

「うん。………。え……?どういう意味…?」

笑顔で頷き返すレヴィアタン。

しかし少しして彼女の表情がえ?っとなった。

彼の言った事の意味を彼女はわかりかねたからだ。

試練も何も、マリオネスは今倒した所だ。

「あいつはもう倒したわよ?」

「ここではな。これでお前は元の"鏡セカイ"に帰還出来る」

「え……?」

ゼロ亜種が不穏な物言いをする。

「ど、どういう事……?」

「さ、そろそろこの紛い物のセカイもお開きといこう。次はあちらで頑張る事だな」

レヴィアタンがゼロ亜種を問いただそうとするが、それは出来なかった。

何故ならその行為は強制的にキャンセルされたからだ。

 

が し り

 

「え、、?」

不意にレヴィアタンの足を何かが掴んだ。

気配もなく足元に感覚を感じ、彼女はそちらを見た。

するとそこには"手"があった。

床から黒い手がいつの間にか伸びていたのだ。

その手はレヴィアタンの足首を掴んでいた。

「な、、!」

 

突然表れた手に足を取られ、彼女は驚く。

何の気配も感じなかったからだ。

マリオネスはもう倒したはず。

鏡の厄介な攻撃を使ってくる敵はもういないはずーー。

彼女は勝手にそう判断してしまっていた。

だがここはまだ敵のテリトリー。

他にも難敵が潜んでいてもおかしくはなかった。

(し、しまったわ……!まだ他にも敵がーー)

マリオネスに勝利した事で少々気を緩めていた彼女はその隙を突かれてしまう。

次の瞬間、足元の手が強烈に彼女を引っ張った。

足を取られて彼女は転倒する。

 

「ひゃア!」

裏返った声を上げてレヴィアタンが倒れ込んだ。

手は恐ろしい力で彼女の足を引き込んでいく。

たった1本の手に彼女はバランスを崩されてしまったのだ。

そして倒れ込んだ彼女の周りには黒い領域が出現した。

まるで黒い池のような空間が表れたのだ。

「く、くう……!」

突如引き倒され、彼女は動転する。

倒れた床は半分液状化しており、彼女の身体はズブリと沈み始める。

 

 

「ぐむゅゥ!」

突然、変に揉まれたような声が彼女の口元から零れる。

次の瞬間、彼女の顔は裏返って天井を向いていた。

何が起こったのか、彼女は数秒理解出来なかった。

 

「な、なア……!」

首元を見たレヴィアタンは驚きに目を見開いた。

そこには別の黒い手があったからだ。

首周りに手が伸びて巻き付き、彼女の顔を反り返らせていたのである。

(ほ、他にもまだ手がーー!?)

動転するレヴィアタンだが、まだ終わりではなかった。

真下の黒い池の底から、別の手が伸びてきたのだ。

彼女の視界の端で3、4本の腕が立ち上がるのが見えていた。

それらはレヴィアタンの身体をゆっくりと掴んでいく。

二の腕、胸、お腹等をそれらはがっしりと掴んだ。

「ひゃイ!」

何本もの腕に身体を掴まれ、彼女は声を裏返らせる。

突然の奇襲に動転させられたのが大きいが、特に両方の胸を掴まれているのが余計に彼女を慌てさせていた。

「な、ナにするのよォ……!?//」

呂律の回らない声を上げて彼女は抗議する。

だが敵は手を緩める事はない。

掴んだ手達はしっかりと妖将の身体を拘束してホールドしていた。

 

慌てるレヴィアタンはもがくが、身体は黒い池に徐々に沈んでいく。

もがくほど逆効果に身体が沈んでしまうのだ。【挿絵提供:もわちち様】

【挿絵表示】

 

「ヒ、ひい…!」

このままでは黒い池に引きずり込まれてしまう。

ほの暗い液の中に沈み込めば完全に敵の手中だ。

中にはボスがいるのだろうか。

全身を拘束された状態ではかなり厳しい戦いを強いられる。

その恐怖から彼女は引きつった顔をしていた。

「くく」

「……!」

不意に笑みが聞こえ、彼女はそちらを見た。

するとそこにはフードを被った男達がいた。

オレンジのゼロ亜種のサイドにそれぞれ立っている。

彼らは被っていたフードをゆっくりと取った。

「あ、、ゼ、ゼロ亜種……!」

レヴィアタンの瞳が見開かれる。

そこにいたのは他の緑と紫のゼロ亜種達だったからだ。

いつの間にか彼女の周りには3人のゼロ亜種達が立っていた。

彼女を見下ろすように眺めている。

彼らは微笑ましそうに溺れる彼女を見ていた。

「そ、そのフードを被っていたのはあなた達だったのね……!」

眼前の彼らに彼女は問いただす。

以前にシャボン玉のバリアで自分を拘束して運んだ者達も同じフードを被っていたのだ。

「そうだ。あれは俺達さ」

「お前は今まで気付いていなかったようだがな」

「くっ……私の突きをバリアで無効化したのはデータを使ったってわけ……?」

「ああ。スノウスレイヴマンが取得した電子殻のデータを使ってな。対妖将用のプログラムを」

「まああの後でAIがデータをいじってそのプログラムを無効化したようだが。上手くやられたものだ」

彼らは冷静に妖将の質問に答えていく。

だが液状化した黒い沼に沈みそうなレヴィアタンはとても冷静ではいられない。

 

「たっ、助けて、、!」

下から伸びる手に全身を拘束され、苦しげに彼女は助けを求めた。

このままでは黒い池に沈み込んでしまう。

敵であるゼロ亜種に頼ってでもと彼女は必死になっていた。

だがゼロ亜種達は無情にも否定する。

「悪いが助けてやる事は出来ないな」

「ッ……!」

「お前はこれから元の鏡セカイに帰還するのだ。大人しく行く事だな」

ゼロ亜種は彼女にそう告げる。

「も、元の鏡セカイですって……?」

「そうだ」

「こ、ここはその鏡セカイでしょ……?」

「違うな。ここは虚構世界、つまり精神世界だ」

「え……?」

彼女はゼロ亜種の言っている意味がわからない。

(え……?な、何を言っているの?ここは鏡セカイでしょ?精神世界なはずないわ。だって虚構世界の夢からはもう目覚めたはずだしーー)

彼女は記憶をたぐる。

虚構世界でゼロの偽物にたぶらかされたのは事実だが、それはもう終わったはずだ。

虚構世界は泡となって消え、偽ゼロからも目覚めだと言われたはず。

「それが本当の目覚めだと思ってるのか?」

「え……!」

「偽ゼロがそう言っていただけで、本当はまだお前は目覚めてはいないのさ」

「実際にはお前はまだあちらの鏡セカイで眠ったままだ。これからようやく目覚めとなる」

ゼロ亜種達は真実を告げる。

虚構世界での一連の流れは偽ゼロの虚偽だった。

レヴィアタンはあれで目覚めたと思い込んでいただけで、実際はまだ精神世界で夢を見せられ続けていたのだ

「な……!に、偽ゼロに騙されていたっていうの……!?」

「そうだ。お前はまんまと奴に錯覚させられたというわけだ」

「くっ!よ、よくも私をーーひゃあ!」

喋りの途中で妖将の声がまた裏返った。

掴んでいる腕達が力を強めたのだ。

特に首元の腕が彼女の顔を反り返らせレヴィアタンは動転してしまう。

「ひゃ、キャアァ!」

「くく、そろそろ終わりだな」

慌てるレヴィアタンを"微笑ましそうに"眺めてゼロ亜種が笑みを浮かべる。

彼らは彼女を助けるつもりは毛頭なかった。

いや何もしない事がむしろ助けになっていた。

これで彼女はめでたく帰還である。

「た、助け……、、ごぽ!?」

尚もゼロ亜種に救援を求めるレヴィアタンだが、それも終わりを迎える。

彼女の身体が深く沈み込んだからだ。

見る間に彼女は黒い底なし沼の奥深くに呑み込まれてしまう。

「キャアアァーー!!」

甲高い悲鳴を上げて彼女はドプん!と泥濁の中に飲まれた。

そしてそのまま鏡の奥底へと沈んでいく。

 

 

 

 

「……………」

数秒後、そこには跡形もなく彼女の姿は消えていた。

鏡面の発光が収まった鏡だけがそこに置かれている。

黒い沼と化していたのは実は鏡の鏡面だった。

それが一時的に別空間へと通じるワームホールになっていたのだ。

ただの鏡面ではなく黒い液体だったのは、その先が次元の異なる別空間に繋がっていたからである。

同じ次元の鏡空間同士を繋ぐだけならば普通の鏡の中に入るだけで行く事が出来る。

ただし魂が具現化しているこの虚構世界から生身の身体に戻る通常の鏡セカイへ行くには特殊なゲートを通る必要があった。

"このセカイのマリオネスを倒す" という回帰条件を達成した彼女の前にその通路が開いたというわけだ。

「くく、行ったか」

「もう少しあいつと遊びたかった所だが」

「こちらのマリオネスを倒してしまったのだから仕方がないな」

3人のゼロ亜種達は消えた彼女を見送った後で名残惜しそうに呟く。

彼らはこちらでの役目を終えたのでこれでお役御免だった。

ゆっくりと彼らの身体が霧となって消えていく。

「まあいい。しばしの間だったが俺達も楽しめたからな」

「見ているだけでもなかなか面白いものだったぞ」

「妖将の惑い足掻く姿はなかなかお目にかかれないからな」

ゼロ亜種達の役目は彼女の監視兼誘導役だった。

直接彼女に手を出して倒す等は命じられていない。

マリオネスのEX技は構築した世界内に対象の魂(精神)を隔離して閉じ込める危険な技だが、掛けた相手の実力によって対象への制限が異なる。

妖将レヴィアタンは四天王の1人であり、マリオネスと比べて戦闘値が大きく上回っている。

本来の地力であれば隔たりがある対象なのだ。

しかし隙を突いてここ鏡セカイへと連れ込む事により実力差が埋まった事。

そして鏡セカイのブースト効果で分身能力の正確さが格段に上昇した事で、レヴィアタンを欺き動揺を誘う事に成功した。

それによってマリオネスは格上の妖将相手にEX技であるHallucination death penaltyを掛ける事が出来た。

 

しかし戦闘値に開きがある存在に対しての行使なため、制限が緩くなった。

特殊な理によりゼロ亜種達3人を敵役として生み出せたはいいものの、回帰における純粋な撃破対象には設定出来なかった。

本来ならば彼らを全員倒せなければ帰還出来ない仕様にしたかったところだ。

しかしレヴィアタンに対して攻略が難しくなりすぎないようにセカイのルールが設定される仕組みになっている。

それが妖将と道化師の格の差の表れであるためだ。

EX幻術にかける事は出来ても、その難易度までは取り決められないのである。

マリオネスとしてはハードモードにしたかった所だが、ノーマルモードになってしまったという所だ。

「だがあいつもかなり手を焼いていたようだな」

「鏡の遠隔ワープと分身を駆使してくるのは本物と変わらないからな。ブースト効果のあるこの鏡空間ではそれは強力になり、戦力差も埋まる。四天王でも手こずるのは当然と言える」

「出来ればあのまま翻弄されていてほしかった所だが、そこは流石に妖将。自力で切り抜けるとは見上げたものだ」

「まあ、いくらか可愛い所が見られたのはご愛嬌だろう」

くくく、とクールな彼らの顔から笑みが零れる。

役目を終えた彼らの身体は塵となって消えていく。

数秒と経たぬ内に彼らの存在は完全に消滅したのだった。

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