ロックマンゼロ -episode leviathan-   作:プレイズ

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偽物と本物

紫光迸る鏡面から妖艶な青の影が現れる──それは間違いなくレヴィアタンだった。彼女の瞳は鋭く光り、逃亡中の道化師を射抜いた。

「来ルとは思っテタケド少し早いネ……ドウイウことダヨゼロ」

彼女には監視兼足止め役として鏡のゼロをつけていたはずである。それは目覚めた彼女がこちらにやってくる時間を少しでも送らせる狙いがあった。

ゼロが相手なら実力的にも心情的にもある程度彼女はやりにくいだろうと考えての采配だ。だが逆に鏡のゼロの方が彼女に対して少々甘さを出してしまい、道化師の目論見は崩れ去ってしまった。

「ちぃ、トニカク追い付かれたナラ仕方ナイ」

マリオネスは背筋に冷気を感じつつも、背中の後ろに指先を指して背後に魔力を注ごうとした。

逃避用のゲートを表出させるためだ。

「…………」

だが指を背後に向けたままマリオネスは静止する。

少し考えると、彼は魔力を注ぐのをキャンセルした。

ゲートを出すのをやめたのだ。

 

「さあ、もう逃がさないわよマリオネス」

一方、獲物を見つけた彼女は、眼前にフロストジャベリンを構えた。

今彼女が降り立った地点はマリオネスから5mほどの近くだ。

彼が例え何かやってきてもすぐに対処出来る間合い。

戦闘態勢に入って彼女は語りかける。

「よくも私を長い事眠らせてくれたわね」

「……まさかモウここヘヤッテくるトハ。鏡ゼロは足止めシナカッタノカイ?」

「私がお願いしたらあなたの居場所を教えてくれたわ。おかげでヘンテコなピエロさんを逃がさずにすみそうね」

「グ……」

あいつめ、と彼は内心で憤る。

折角対妖将用に生成して配置したのに、彼の思う効果を発揮しなかったからだ。

むしろ情が沸いて対応を緩めた可能性がある。

「まあイイ。場所がバレたなら仕方ナイサ。ここデ君と戦オウ」

「へえ、逃げないのかしら?お得意の鏡を使って」

「………ボクも使えるナラそうシタイんだケドネ」

マリオネスは罰が悪そうに言う。

レヴィアタンは疑問に思った。

彼は鏡の使い手なのだから自由に鏡を使っての移動が可能なはずだからだ。

「あなたは鏡で自由に移動できるんじゃないの?精神世界でさんざんやってたように」

「それハ精神世界……イヤ"虚構世界のボク"だからダ。あれは本物のボクにヨッテ作られた存在。鏡の能力が得意ナノハ同じダケド、能力の種類は設定デ本物とは変エテあるンダヨ」

「は……?」

レヴィアタンはまさか、と問いかける。

「虚構世界のあなたと本物のあなたは同じなはずよ。私がそうなように」

「キミに関シテはボクの能力デ魂ヲ抜き出サレテ虚構世界二行かサレタからダ。ダカラ本物と同じ存在ト言ッテイイが、キミ以外の虚構世界ノ住人ハ違う。ボクも含めてネ」

彼は虚構世界の自分と本物の自分が別の存在だと言う。

能力が鏡の能力使いなのは共通しているが、能力の種類が異なると。

 

(……!うそ……!?でも、確かに虚構世界というくらいだから、あっちのこいつと目の前の本物のこいつが完全に同一の存在とは限らないかもしれないわ。能力が違う可能性もあるかも)

マリオネスの話にレヴィアタンは少し困惑する。

嘘を言っているに決まっていると彼女は思ったが、確かに虚構世界は魂が本物な彼女以外は全て作られた紛い物だったからだ。

精神世界というのは、あくまで彼女にとっての話。

他の存在にとっては"虚構"の世界でしかない設定された世界だった。

「あちらのボクの能力……キミが言った鏡ニヨル移動能力もソウだネ。それ自体は本物のボクも使エルけど、虚構世界のボクほど超高速デそれヲ出来たりはシナイ。アレはボクが虚構世界用に設定シタ速度ダから。向こうノボクは瞬時に移動鏡を出セテ瞬時に移動デキルけど、ボクはそうはイカナイ。今移動用ノ鏡を出ソウとシタ所で、キミが追撃ヲしてくる前にそれを完了スルのは無理ナノさ」

「本当……?口からでまかせじゃないの?」

「本当サ。デキルならキミとくっちゃべッテナイデとっくに鏡ヲ出して逃げてるヨ。キミと戦うヨリ逃げる方が遥かに有益ナンダカラ」

彼は口惜しそうに呟く。

本音なら早く逃げたかったのだろう、だが予想外に早く彼女が追ってきたために機を逸してしまったのだ。

「フフ、わかってるじゃない。格上の私には適わないってことを」

「あア。キミのツヨサはワカッテイル。だからキミが目覚めるヨリ先に離れたワケだからネ」

「でも今更評価しようと見逃したりなんかしないわよ?あなたが私にした事は許容できる範囲なんて優に超えてるんだから」

「ソウだね。ボクも見逃してもらえるなんて思ってナイヨ」

肩を竦めて道化師が言う。

「だがいくらキミが強いト言ってモ"適わない"トハ思ってイナイナ」

「あん?」

「キミが知ってイルのは虚構世界のボクだろウ?本物のボクの能力ヲキミは理解しキレてイナイ」

不敵な表情を浮かべてマリオネスが笑みかける。

レヴィアタンが眉を潜めた。

「ほとんど同じようなものでしょ?能力が異なるといっても微々たるもの。私の敵じゃないわ」

「本当にソウかな?キミはボクの能力ヲわかっテイナイと思うガ」

「ペテン師の嘘には引っ掛からないわよ」

「ヤレヤレ………ならボクにお得意ノ突きヲ当てレルか試シテみるとイイ。キミじゃ当てラレないカラ」

呆れるように道化師が言ってみせる。

自分の言う事を信用していない彼女を小馬鹿にするように。

「私に対する態度は気をつける事ね。あまり無礼だと、痛ぶって殺しちゃうわよ?」

チャキり、と彼女はフロストジャベリンを構える。

軽口を叩いて挑発してきたマリオネスに応えるように。

お望み通りに突きをお見舞いしてやるつもりだ。

もちろん、奴の言う事が嘘で分身を使われた場合も想定した上での行動である。

 

「いくわよ」

レヴィアタンはすぐ様前方へ走り出した。

道化師は目と鼻の先。

その間に遮る障害物は何もない。

間髪入れずに彼女は突きを放つ。

高速ステップから流れるような五段突きが見舞われる。

「や……ぷフォう!」

だが妖将のそれは強制キャンセルされた。

彼女の顔面がねじ曲がる。

突きに入ろうとした所で、全身が何かに思い切りぶつかったのだ。

しっかり踏み込むために勢いをつけた瞬間、彼女は"何か"に衝突してしまった。

一瞬、レヴィアタンはわけがわからない。

マリオネスと自身の間には何もなかったはずだからだ。

 

彼女の五段突きは決まる事はなかった。

分身に攻撃をかわされたわけではない。

目の前にマリオネスは変わらずたたずんでいる。

ただ、彼に到達する前に何かに阻まれたのだ。

「ふクク、カカッタねえレヴィアタン」

パントマイムのようにそれに貼り付いた彼女に道化師がせせら笑う。

見ると、彼女の眼前には透明な板が存在していた。

突きを放とうとした彼女はそこにぶつかってしまったのだ。【挿絵提供:とーます!?Skeb募集中様】

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「な、なあ……!(こ、こんなものいつの間に、、!?)」

レヴィアタンは板に衝突した事に驚きを隠せない。

何故なら突きを放つ際に何も前方に障害物などなかったからだ。

接近技の攻撃を繰り出す際に彼女は必ず安全確認をした上で行う。

焦っている時であっても状況判断を疎かにして闇雲に技を出したりはしない。

だがそんな彼女を持ってして何も遮蔽物は確認出来なかったのに、突然クリア板にぶつかったのだ。

「ボクの鏡ノ能力ヲ君はマダ理解シキレてイナイようダネ」

「ぐ、みゅウ、、!」

レヴィアタンはすぐにマリオネスへ再攻撃を仕掛けようと考えた。

だが身体がクリア板にめり込んでしまい、すぐに回帰する事が出来ない。

頬や太もも等が吸着してしまい、板から簡単には引き剥がせないのだ。

どうやら板自体にも吸着素材が使われているらしい。

「く、くう……!」

「ふクク、そう簡単には剥ガセナイヨ。特殊なガラス板ダ」

彼は笑って妖将に語りかけると、説明を始める。

「ボクの鏡ノ真ノ能力ハ、対象ノ目に映ル光の反射角ヲ自在に変えラレル事。ソウスルト目の前に見エテいる情景ヲ錯覚サセル事ガ出来る」

「な゛、、ど、どういう事……!」

頬がクリア板に貼り付いた状態でレヴィアタンは問いただす。

パントマイム体勢で訊いてくる彼女に道化師は愛らしさを感じつつ回答する。

「レプリロイドが周りノ状況を確認スルには一般的に視覚情報ヲ用いル。ソレハ目から収集デキル光が情報源ダ。目の前にアル様々な物体二当たって反射シテきた光を目が取り込む事デ、対象は眼前にアル物の位置を把握デキル。ダガ、その目に入ル前の段階デ光の屈折角度を変エテしまえバドウかな?」

1つ間を挟んで彼は続ける。

「さっきハボクの能力デキミの目に入ル光の屈折角をズラしたンダ。それにヨッテ君は目の前にアルはずノクリア板ヲ目視デキズ、ない物と判断ヲシタ」

「……!そ、そぉんな事ガ、、、!」

「デキルんだヨ、ボクにはネ」

ふクク、と愉し気に道化師が笑む。

「最初にキミと戦ッタ時もソノ手ヲ使ッタんだヨ?キミの目に入ル光の屈折角ヲ屈折させてズラした。覚えてイナイかい?」

「え………」

彼女はマリオネスと初めて戦かった際の事を思い出す。

その時は、途中までは順調に彼女優勢で進んでいたのだ。

地力に勝る彼女が順当に敵を上回っていた。

しかし途中で氷の輪が当たったはずなのに、何故かすり抜けてしまったのである。

それが2度続き、動転した所を突かれて彼女は幻想技にかけられてしまう事となった。

「ま、まザか、あの時も゛、、!」

「ソウダよ。マサにあの時にソレをシタのサ」

氷の輪がすり抜けたのは分身に攻撃したからだと彼女は思っていた。

だから分身の身体が透過して機雷が通過したのだと。

だがマリオネスの話によれば、実際は分身などではなく別のギミックによるものだったのだ。

彼女の目に入る光の屈折角を彼が能力でズラしていたのである。

それにより、彼女は実際にはいない場所にマリオネスが見えてしまっていた。

本来ならば何もない空間に道化師がいると誤認させられ、虚空に向けて氷の輪を放ってしまったのである。

「それであの時私の攻撃が外れたのね……!」

「ウン。ヨウヤク気付いたノカイ?まさか分身に攻撃シタカラそうナッタとか思ってハイナイヨネ」

「………!」

彼女はその通り、分身に攻撃をしたせいで技が透過したものだと思っていた。

その後の精神世界でもマリオネスは分身技を多用していたからだ。

精神世界では"対妖将用抗電子殻プログラム"などという特殊な理が働いていて、それによって彼女は何度か理不尽に攻撃をすり抜けさせられていた。だがそれは精神世界限定の話と後にわかった。

だから最初に対戦した時点での攻撃のすり抜けに関しては、マリオネスの得意技である分身技を使われた結果だろうと。

「ふフ、ボクの能力ハ分身技デハないンダよ。キミは精神世界デ見た情報ヲ信じてボクが分身マンと思ッテルようダケド」

「な……ち、違うっていうの゛」

「精神世界デのボクはコッチのボクが作った本物ジャない紛い物。鏡ヲ使うノハ同じダケド当然能力モ異なる。今ノがソノいい例ダネ。あっちのボクはこんな光ノ錯角技ナンテ使ってキタかい?」

レヴィアタンは動揺しながら考える。

虚構世界(精神世界)でのマリオネスは確かに分身や鏡移動を多用していた。

しかしそれはあくまで作られて設定された世界での動き。

本物の彼と同一ではないのは間違いなく、故に"能力が違う"というのはあながちでまかせではないようだ。

「く………」

「ふクク、ヨウヤク理解デキタカナ。デモ脳で情報ヲ咀嚼スルのガちょっと遅イネ。キミは言われテイル程賢クハナイようダ」

彼女を見て微笑ましそうに笑みながら道化師が語りかける。

彼女のおつむの悪さを少し嘲笑うように。

「な、何おう……!」

マリオネスの表情に彼女はムッとなる。

道化師もどきの分際で四天の自分に無礼な言動。

彼女は奴を倒したい気持ちがいっそう高まった。

透明な板の先に映るピエロの顔は尚も余裕を崩さない。【※表情差分。挿絵提供:とーます!?Skeb募集中様】

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