ロックマンゼロ -episode leviathan-   作:プレイズ

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虚像の破り方

レヴィアタンは突如現れたガラス板に衝突し、壁に貼り付く形になった。パントマイムのような体勢のまま彼女は尚も固定されている。

「くぅ……!こ、これ取れないじゃない、、!」

「粘着性の素材ダカラね。しばらくキミのその可愛イ姿を眺めてイヨウか。ふクク」

硝子板に頬や手、太ももが貼り付いた状態の彼女はそれを簡単には取れない。

身体が板にくっついてしまい剥がせないのだ。

これでは戦闘も出来ず万事休すである。

そしてマリオネスはそんな彼女を"鑑賞"する選択に出た。このチャンスに逃げるどころか、パントマイムと化した妖将の姿を目にじっくりと収めるつもりのようだ。

道化師の余裕に彼女はムカっ腹が立つ。

「調子に乗ォるんじゃないわァよ」

彼女はその身に内包するエレメントを活性化させる。

すると程なくして全身に水色のオーラが立ち昇る。

それは彼女がくっついている鏡との粘着を断ち切った。

氷のオーラが皮膚が触れている粘着効果を打ち消したのである。

貼り付けが解消されたレヴィアタンは、すたんと地面に降り立った。

道化師の労した小細工など彼女の前では長時間は通じないのだ。

「さ、これで無効化出来たわね」

「ホウ……まさか氷のオーラで粘着ヲなくストハ」

あっさりと硝子板の貼り付けから脱した彼女にマリオネスが舌を巻く。

あれでもうほぼ戦闘不能だろうと彼は思ったのだが、彼女はそんな甘い実力ではない。

硝子板の前で彼女はフロストジャベリンを軽く回転させて薙いだ。

鋭い刃先の筋が硝子を粉々に粉砕する。

『ガシャアァアア!!』

飛散した硝子が底に割れ落ちる。

硝子なので1度の切りつけで簡単に破壊出来てしまった。

壊された事で、硝子の破片はしばらくして霧散するように消えていく。

おそらくマリオネスの魔力で出来た板だったのだろう。

破壊されれば程なくして消滅するようだ。

「今の代償は高くつくわよ、マリオネス」

「ちィ、ダガ君はボクの光の反射ギミックにハ対応デキナイ。キミの視界ハ真実ヲ見れないノダカラね」

罠を破られるも、尚も道化師は余裕の表情を崩さない。

彼の鏡と光を用いた視覚錯覚ギミックは確かに強力と言えた。

目で見たものと実際のそこにある物理環境が異なる状態になるからだ。

(確かにこいつのその能力は厄介ね。さっきは障害物なんて何もなかったのに、いつの間にかこんな板を挟まれちゃった。そして私にはそれが見えていなかったわ)

レヴィアタンは先程の流れを回顧する。

目では見えていなかったはずの硝子板が突然出現してぶつかる形になったのだ。

だが、彼女は全く何も兆候がわからなかったわけではなかった。

自身の"オーラ"に触れる気配で、直前にそこに違和感のような物を感じていた。

彼女は気を集中させればその身に水色のアイスオーラを活性化させられるが、普段の平静時も実はオーラを帯びている。

それは目には見えないものの、彼女の身体を覆うように展開しているのだ。

四天王の彼女は相当の氷のエナジーを秘めているので、その溢れる豊かなエレメントが自然な形でそうなるのである。

そしてそのオーラは気配も察知する事が出来る。

意識してそれを感じようとしなければ彼女もスルーしてしまうレベルではあるのだが。

(板にぶつかる直前に何か異物の気配を感じた……。私が普段自動展開している見えないオーラは気配を察知出来るけど、それが奴の罠を見抜く鍵になるかも)

硝子板の罠にかかってしまった彼女だが、しかしその中でヒントを掴んだ。

マリオネスの視覚干渉は厄介だが、看破不能なギミックではない。

気配の違和感を感じ取れれば危険の回避は可能なのだ。

もちろんそれは普通のレプリロイドには不可能な芸当で、四天王級の彼女だから出来る事である。

「次はそうは行かないわよ、覚悟なさい」

「ふフ、同じ事サ。マたパントマイムにシテアゲルヨ」

道化師は尚も余裕の顔で彼女に微笑する。

自分の視覚ギミックが破られる事はないと確信しているからだ。

レヴィアタンはくるんとフロストジャベリンを回して彼に構える。

 

「や!や!やっ!」

小気味いい発声が放たれる。

レヴィアタンの声と共に3つのホーミング弾が射出された。

ジャベリンの先から離れたそれらは道化師の元へ飛んでいく。

「おっト危ない」

だが彼は少し後方にジャンプしつつ初弾を回避。

そして大きく前方に飛ぶ方向を変えて二撃目、三撃目もかわした。

見慣れたホーミング弾なのでよけるのももはや慣れたものだ。

回避を終えた彼は回避中にミドルチャージしていた口内の物を放つ。

「ゴウッ!!ゴウッ!!」

道化師の口が大きく開かれ、中サイズの光の弾が飛び出す。それも二連発で。

彼はエネルギー弾のような光球を吐く事が出来るのだ。

ホーミング弾をよけている際も彼は余裕があったため、口内でチャージする事が出来た。

そのためいつもより弾のサイズが大きく、連射する事が叶う。

危険な2発のエネルギー弾が妖将へと飛んだ。

「無駄よ!」

だが威勢のいい声と共にエネルギー弾は弾かれる。

高速回転した彼女の槍が盾となってそれらを防いだのだ。

中サイズのため威力もそこそこあったのだが、彼女の高速ジャベリンはその圧に負けない反発力を生み出す。

「はあっ!」

そして間髪いれずに氷の輪が放たれる。

回転するジャベリンに沿って生成された氷の機雷の輪が射出されたのだ。

それは読めない起動で道化師の元へと飛んでいく。

だが、

「な……!」

その機雷群はどれも当たらなかった。

いや、正確には当たったのだが、触れられなかったというのが正しい。

道化師の身体を透過するように機雷が通過していく。

(く……!こ、これはあの時と同じ……!)

彼女は思い出す。

初回の対戦時に上手くやられた事を。

(これは分身……いや、視覚操作

だわ……!)

マリオネスの視覚ギミックに今度は彼女は引っ掛からない。

1度経験しているのもあるし、さっきの罠で気配の違和感を何となくわかったためだ。

視覚の正誤はわからないものの、気配の違和感を確かに彼女は感じていた。

そして、それを今度は彼女は後方に感じる。

後ろから何か不穏な気配が寄ってくる感覚を。

「後ろね!」

「グあ……!」

咄嗟に薙がれたジャベリンの刃に手応えあり。

背後を振り向くと、そこには何もなかった。

だが"確かに当たった"感触がある。

気配は間違いなくそこにあった。

「ちィ………!」

程なくして部分的に道化師の姿がそこに表れる。

攻撃を受けた事で視覚操作を保っていられなくなったらしい。

「やっぱりそこにいたのね。マリオネス」

「何故ワカッタ……!キミには見えてイナカッタはずダ」

視覚を操作したにもかかわらず場所を当てられ、マリオネスは動揺した。

彼のギミックに不備はなく、彼女の視覚はちゃんと錯覚させられていたからだ。

それなのに正しい自分の居場所を見抜かれ、攻撃を決められた。

「視覚を騙したからといって私を無力化出来ると思わない事ね。初回の対戦でやられているし、さっきもお遊びでやってくれたでしょ?数回経験すれば、私は感覚的にわかるから対処出来るの」

「な、何ダと……!」

レヴィアタンの説明にマリオネスは驚く。

自分の完璧な視覚操作ギミックが、彼女には感覚的にわかるという。

何故そんな事が可能なのか彼は理解できない。

いや、彼は驚きつつも理解はした。

(彼女ハ四天王ダ。何度か経験スレバ気配か何かデ位置を把握デキテしまウとイウコトか……。視覚ヲ欺いてイルのに看破スルとはトンデモナイ奴ダヨ)

上手くハメれていたために、彼は忘れていた。

相手は四天王の一角だという事を。

そう何度も同じ手が通用するほどやわな相手ではない。

「私は同じミスを繰り返したりはしない。同じやり方でずっと優勢でいれると思わない事ね」

「ふン………たまたま当てレタだけダロウ。すぐにマタ錯覚させてアゲルヨ」

道化師は尚も自信を崩さない。

だがそれは彼女には強がりにも聞こえた。

視覚ギミックを破られた事を認められないといった所だろうか。

「なら試してみるといいわ。こっちもまた当ててあげる」

「ふフ、面白いネエ」

道化師は笑って後方にジャンプする。

1度大きく距離を取るつもりだ。

レヴィアタンの方も後追いはせずそのまま。

無駄に追撃すれば相手に逆に隙を突かれる恐れがある。

 

「さテ、仕切り直シダヨ」

十分な距離を取ったマリオネスが言った。

再び戦闘の幕が切って落とされる。

眼前のレヴィアタンがまた先手を取る形で動いた。

「や!や!やっ!」

フロストジャベリンの切っ先を向けて、3回の小気味いい発声。

それと共に3つのホーミング弾が射出される。

追尾機能のついたミサイルの連弾が道化師に向けて放たれた。

「ムダさ!」

前方に軽くジャンプしてマリオネスがのたまう。

1発目をかわすと、彼はそこから大きく逆側に旋回していく。

直前で対象に起動を大きく変えられた事で、後続のホーミング弾は追尾し切れずに目標から外れてしまう。

彼はまたしても上手くホーミング弾を回避してみせた。

「や!や!やっ!」

だが尚もレヴィアタンは同じ技を行使する。

再び三度の発声が響き、ホーミング弾が3つ槍先から飛んだ。

「少しパターンを変エテキタカ」

"氷の輪"ではない技が来たためマリオネスは少し虚を突かれる。

ホーミング弾の後は氷の輪、もしくはマリンスノーが彼女の大方のパターンだからだ。

それがわかっていれば、四天王の攻撃といえどさほど対処するのは難しくない。

水中ならば話は別だがここは陸上。

他の四天王でいう所のパワーやスピードや隠密が特段優れているわけではない彼女相手なら、マリオネスはある程度やれる自信を持っている。

だが今回は彼女がパターンを少し変えてきたようだ。

「だがムダサ。同じ事ダヨ」

彼はさっきと同様に前方に少しジャンプして1発目をかわす。

そして後方に大きく旋回して2、3発目も回避した。

が、その後ろに何かが迫る。

後ろを向いた道化師の死角へレヴィアタンがジャンプして接近したのだ。

「ホウ……背後ヲ突くトハ目の付け所がイイ」

後ろから迫ってくる妖将に、だが彼は焦りはしない。

回避の隙を突いて彼女が攻撃してくるのは想定済み。

もちろん接近戦をしてくるパターンもだ。

「はあっ!」

道化師の背中へフロストジャベリンを彼女が見舞う。

ウォーターサークルが振るわれていた。

だが槍はそのマリオネスを透過するようにすり抜ける。

「ッ……!に、偽物……!」

回転切りを外され、空を切らされたレヴィアタンが体勢を崩す。

そこへその背後から手が迫った。

"本物の"マリオネスが狙い打ちしたのだ。

鏡による光の乱反射によって像を錯覚させられた彼女は、それが見えていない。

『ズバッ!!!』

鋭い音が響く。

それはレヴィアタンの背中へ与えられた衝撃ではなかった。

道化師の胸が切り裂かれた音である。

「グ、、オオあ゛……!」

胸を抑えてマリオネスが呻く。

彼はよろよろと後退した。

完全に居場所を見破られ、驚きに目を見開きつつ。

「わ、ワカルとイウのカ……!」

「ええそうよ。私に同じ手は何度も通じない」

くるんと振るったジャベリンを収めて彼女が言う。

そしてくるんと手を返して彼女が笑う。

「あはは、道化師さんも手がバレれば大した事ないのね」

「な、なんダト……!」

「あなたの単純なペテンギミックなんて私の前では無力。四天の格がわかったかしら?」

軽やかに言ってレヴィアタンが微笑む。

マリオネスはぎりっと歯ぎしりした。

「言ってクレル。ボクの技ヲ舐めるンじゃナイヨ」

苛立たし気に言うと、彼は再び後方に大きくジャンプした。

また距離を取るつもりだ。

レヴィアタンはそれを追う事はしない。

また冷静に迎え撃つだけだ。

「視覚を欺イテヤる!」

叫んでマリオネスが前進を始める。

ゆっくりと歩を進める形で彼女へと近づき始めた。

だが、その姿がすうっと消えていく。

身体が薄れるように、道化師の見えていた像が徐々に見えなくなっていく。

(消えた……!これも光の反射ギミックね)

レヴィアタンは姿の消えたマリオネスに少し動揺する。

だが視界からは消えても、完全に居どころがわからなくなったわけではない。

"気配"は僅かだが感じ取る事が出来る。

彼は音を出さないようにゆっくりと彼女の右からカーブするように近づいている。

それを彼女は気配で察知した。

だが気付いた事を彼女は悟らせない。

あくまでそれとは逆方向に意識が向いたように装った。

左の側方を彼女は見てジャベリンを向ける。

そして左の奥へとゆっくり前進していく。

(くク……ソッチは外れダヨ、レヴィアタン)

見当違いな方角に向かう彼女に道化師がほくそ笑む。

声には出さないように心の中でだが。

左の奥へと進む彼女の背後を、彼は取った。

そして後ろから羽交い締めにすべく両手を伸ばす。

「はあっ!」

「ぐあオオ……!?」

瞬間、振り向いた彼女のウォーターサークルが炸裂する。

喰らった道化師の身体が奥へと吹っ飛ばされた。

死角から隙を突いたはずが、場所が完全にバレていたのだ。

「な、何故位置ヲ……!」

「ふふ、あなたの気配はわかるもの。慣れてしまえば気付けるわよ」

余裕を持った微笑でレヴィアタンが言う。

視覚操作のギミックを見透かされたマリオネスは焦りを隠さない。

「ば、バカな……!ボクの光の錯覚技ガ通じナイ……!?」

「道化師さんの単純な手品じゃ私は騙せないって言ったでしょ?」

うずくまる彼にレヴィアタンが歩み寄りながら語りかける。

「光の反射で視覚をいくら操作しても無駄よ。気配さえわかれば怖くないんだから」

「グ………!」

微笑みながら自負するように呟くと、彼女は自分の周囲に氷の機雷をいくつか生成し出した。

得意技のマリンスノーだ。

綺麗な氷の塊に見えるがれっきとした爆弾である。

彼女はそれを今から彼にぶつける気でいる。

氷を生成しながらくるんと手を返して彼女は道化師を挑発した。

「あなたの手品は"単純"。その程度の浅いマジックじゃ私には………んきゃ!」

会話の途中で彼女の言葉が裏返る。

背後から何かが彼女を襲っていたからだ。

足を引っ掛けられる形で、彼女は体勢を崩されていた。

「きゃア!?」

虚を突かれた彼女はバランスを崩して後ろ向きに転倒する。

わけがわからず彼女は尻餅をついた。

それと共に生成途中だった氷も砕け散る。

 

一瞬、新手か……!と彼女は思った。

だがそうではなかった。

彼女の足を払ったのは見覚えのある得物だったからだ。

(む、鞭……!?)

倒れた体勢で、彼女は足元のそれを見る。

精神世界での戦闘で記憶にあるものだ。

これは確かマリオネスが使っていた武器である。

だが後方からはマリオネスの気配は感じられない。

もし眼前の道化師が虚像で、後ろに本物が潜んでいたならば気配でわかるはずだ。

しかし気配自体は前方の道化師が紛れもなく本物である。

(目の前のこいつは間違いなく本物のはず………はっ、、!)

彼女は気が付いた。

眼前の彼が右手を不自然に後ろ手に隠している事に。

そしてその先にはミニサイズの鏡が見える。

彼の手の先は鏡の奥へ挿し込まれていて見えない。

(ま、まさか、精神世界のこいつと同じ技を……!)

彼女は気が付いた。

自分の後ろにはおそらく同じような鏡がある。

そしてそこから前方の道化師の手先だけが出てきている。

その手は多分、得物の鞭を持っているのではないか……?

彼女の予想は当たっていた。

マリオネスは精神世界と同じ技を使ってきたのだ。

彼女の後方に出現させた"鏡のワームホール"を通して、彼は別方向から遠隔で伸縮鞭をヒットさせていた。【挿絵提供:浦川^p^様】

【挿絵表示】

 

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