ロックマンゼロ -episode leviathan-   作:プレイズ

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Proliferation

「きやあ!」

激しく尻餅をつく形でレヴィアタンは転倒してしまう。その様子に眼前の道化師は笑みを浮かべていた。

後ろ手に隠した小さなミラーを使って彼は手をそこに入れている。

そして妖将の後ろに別の小さなミラーを発生させ、そこから手を出して鞭を伸ばしたのだ。

鏡にはマリオネス自身のような気配がないため彼女はそれに気付かず、足払いを喰らってしまった。

 

「くぅ…!」

レヴィアタンは急いで足を振り戻して、体操競技の演舞のように体勢を元に戻す。

そしてすぐにバックステップでピエロから距離を取った。

 

「どういう事……!あなたは精神世界のマリオネスとは能力の種類が違うんでしょう…!」

先程の道化師の説明とは異なる技を使ってこられたため、彼女は問い質した。

精神世界の彼と目の前の彼は別の存在であり、故に使ってくる鏡の能力も異なるというのがマリオネスの説明だったはずだ。

「ふくく、完全に信ジテいたんダ?ボクの言うコトヲ」

「ッ……!」

「いい子ダネエ。悪いケド敵の言うコトを真に受けるキミは平和ボケと言わざるヲ得ないカナ?ボクは精神世界と同じ能力ヲ普通に使えるンダヨ?」

マリオネスの口から予想外の言葉が話される。

彼は精神世界の彼と同じ能力を全て使えるというのだ。

今の鏡によるワープもその1つだという。

「精神世界と同じ能力が使える……ですって?まさか全部?」

「ソウダ」

「……って事は、分身も……?相手に影響力を与えられるレベルの」

「そうだヨ」

「な……!という事は、さっきの話は完全に嘘をついたっていうのね……!」

「ふクク、やっとお気付きカイ」

「くっ……!このペテン師!」

先程の話は全て虚偽を含んだ話をされていたのか。

それを知らされた彼女は憤る。

だが馬鹿正直に信じてしまった自分も自分だった。

視覚錯覚を初っぱなに見せられた事で、彼の言う精神世界のマリオネスとリアル世界のマリオネスの技は完全に別物だという話を信じ込まされてしまった。

「でも……解せないわね。ワームホールの鏡能力が使えるなら、私がさっき追いかけて来た時に鏡の移動能力ですぐに逃げれたはず。何でそうしなかったの?」

「アアそれはネエ。そうしてもヨカッタんだケド、上手くキミを騙せると踏んダのさ。精神世界とコノ現実世界デハ理が違うノヲ逆手にトッテね」

くくく、と紫鏡の空間に不気味なせせら笑いがこだまする。

「キミも最初の視覚錯覚ヲ喰らってボクの話を信じ込んデクレタ。現実世界ノボクは精神世界のボクとは別の能力使いダトネ。ボクが精神世界だからコソ不可思議な技ヲ使ってコレタと思ッテくれタようだ」

「く……。あなたは精神世界と全く同じ技が使える……だけではなくて、さっきの視覚錯覚みたいに他の技もさらに使えるわけね?」

「ソノ通り。視覚錯覚以外ニモ精神世界で使ってナカッタ技も使エルヨ」

「……………」

ククク、と含み顔で笑うマリオネス。

逆にレヴィアタンは冷や汗を垂らした。

「くっ、じゃあ……精神世界では能力を隠していたっていうのね……!」

彼の話を聞くに、精神世界での彼は能力を幾分か抑えた状態だったらしい。

「ソウダね。アッチノぼくハ本物トハ色々同じデモ違うトコロも多々アッタ。当然キミに見せてイナイものモある」

「く……。でも何でわざわざ能力を抑えていたの?たしかあの虚構世界から脱するには制限時間があったのよね?私を逃したくないなら出し惜しみする必要はなかったはず」

「それはキミがボクより格上ダッタためサ。ボクのEX技は対象の魂ヲ抜き出シテ、ボクの構築シタ虚構世界ニ移す技。それモアッテ、ボクよりモ格ノ高い者相手ニハ不完全な行使トナル」

嘆くように肩を落としマリオネスが言ってのける。

「強キ者ニハ条件が緩和サレルのサ。本当ナラボクのフルの能力が使エル所ヲ、幾分か差し引かれた能力シカ使えなくサレル。ボクが視覚錯覚の能力ヲ使えなカッタノモそれ故ダネ」

「……つまり、あなたより格上の私相手じゃEX技も完全には通らないってわけね?」

「ソウダ。誠ニ残念ナガラネ」

溜め息をつく道化師。

逆に妖将の顔は微笑んだ。

「フフっ、じゃあやっぱり私の方が強いって事じゃない」

「グ……タシカニ地力の部分ナラね。ダガ、能力ヲ一部抑えタ状態のボク相手でもキミは苦戦シタ。やりようによってはキミを抑え込む事は可能ダヨ?」

「はい?」

「確かにキミは優秀ダ。1度見せたダケノ視覚錯覚でさえ、過去の学習記憶カラすぐに対処シテしまウ。それ単発ナラ君は即座に対応出来てシマウんだカラ凄いヨ」

レヴィアタンの対応力に実際マリオネスは舌を巻いていた。

視覚誤認のギミックに2度目以降は引っ掛からず対処してみせたからだ。

まさか気配を感知して正誤を判別するとは、かなりの力量である。

間違いなく四天の彼女にしか出来ない芸当であった。

「ダが、単発ではナク色々組み合わセレバキミは対処が難シイ。今ボクのムチに可愛く転ばされたヨウニ」

「……はん?たまたま上手くムチを当てれた程度で調子に乗らない事ね。次はもう決めれないわよ」

「ふふふ、ソウカナ?」

「あん?」

「ふふ、ボクがさっき鏡のワームホールを使っテ逃げなかったノハネエ。キミは確かに危険ダケド、無力化出来る可能性モそれナリにあるとオモッタからサ。上手く騙せれバダケレド。でも実際に話術と技の見せ方デ上手く騙せたカラネ。キミは"搦め手"に関シテは少々弱いトコロがあるヨウダ」

「私が搦め手に弱い?視覚誤認の技はもう破ってあげたわよ。あなたの浅いペテンマジックなんかじゃ私には通じないの」

「はてサテ、ほんとカイ?キミが倒シタのはアクマデ能力ヲ一部抑えた精神世界のボクダ。本来の力を見セルボクにはキミでは勝てナイ。ではマジックの難度を上げてシンゼヨウ」

言うと道化師の雰囲気が変わった。

身体から紫のオーラのようなものが立ち昇る。

レヴィアタンは異変に気付いて警戒した。

すると、彼の気配が不意に背後に感じられた。

目の前にいた方のマリオネスからは逆に気配が消える。

「後ろ!!」

彼女は間髪入れずに後ろへ薙ぎを放った。

フロストジャベリンを即座に回転させて殴打する。

「ぐおッ!?」

手応えがあり、マリオネスが吹っ飛ばされた。そのまま奥の壁付近まで飛ばされる。一応腕でガードしていたためダメージはそれなりだが、クリーンヒットが決まった。

背後から彼女を狙う作戦だったようだが、もう彼女は視覚ギミックを完全に攻略しているため通じる事はない。

「ふふ、だから言ったでしょ。浅いペテンマジックなんか私には通じないって」

「クク、ほんとうにソウカナ?」

「!?」

不意に真横から声が聞こえて彼女は驚く。

ジャベリンを薙いで半身になった逆サイドにそれは居た。

吹っ飛ばしたはずのマリオネスがそこに立っていたのだ。

しかし気配は感じられず、本物ではない。

という事は、つまりは偽物。

それならば恐れる事はない。

 

だが、彼女は一瞬迷った。

もしかしたら気配がない状態でも分身がこちらに影響を与えてこれるのかもしれないと。

さっきの話でマリオネスは嘘をついていた。

同じ技は使えないと言っていたのにワームホール鏡を使っての遠隔攻撃をやってきたのだ。

ならば実は分身も使えるのかもしれない。

ここで言う分身とは、対象に影響力のない分身ではなく、相手に攻撃を当てれる力のある分身である。

精神世界ではマリオネスはそういう"無視できない"分身を使ってきていた。

もしリアル世界でもそれと同じ事が出来るとしたら?

彼がまだ嘘をついている可能性は否定出来ない。

 

目の前には気配のないマリオネス。

彼は手を頭上に振り上げて、力強く振り下ろしてきた。手刀だ。

「くっ」

彼女は咄嗟にバックステップして下がった。

もし対象に影響力を与えられる分身だったならばダメージを喰らう恐れがある。

まだ確定はしていないが、その可能性が出てきた以上は無視は出来ない。

「ふふフ、お次はこっちサ」

「っ……!」

今度は逆サイドから声が聞こえる。

彼女が振り返ると、そちらにもマリオネスがいた。

今しがたの奴と同様に、このマリオネスにも気配はない。

「なっ……!2人目の分身ですって……!」

2人目の気配なしマリオネスの登場に彼女は少々動揺する。

精神世界でマリオネスは分身を使ってきたが、それはあくまで1体のみだった。

2体以上分身を使ってきた事はこれまでたしか一度もない。

それが初めて2体目を使ってきたのだ。

もし対象に影響を与えられる分身だったなら、実質3体1になってしまう。【挿絵提供:おもち様】

【挿絵表示】

 

 

初めて見る道化師の複数体分身に動揺するレヴィアタン。

もし戦力としてカウント出来るレベルの分身なら、かなり厄介な事になる。

分身も含めて倒さなくてはならなくなるのだ。いや、本体を倒せば分身もおそらく消えるだろう。

しかしその本体を倒すには分身を無視できず、ケアしながら倒さなければならない。

彼らの連携攻撃をかわしつつ本体に攻撃を当てるのはなかなかに難しい作業だろう。

 

動揺する彼女は誰から攻撃しようか一瞬迷った。

だがすぐに彼女は一番間近にいる直近の道化師を選ぶ。

最短でジャベリンを瞬時に振るえるからだ。

「はあっ!」

彼女は咄嗟にフロストジャベリンを大振りで一回転させた。

ウォーターサークルを見舞って防御と攻撃を試みる。

だが、その斬撃は道化師の身体をすり抜けるように通り抜けた。

まるで霧の幻を切ったように空振ってしまう。

「くうっ……!」

やはり気配がないただのハリボテ。

彼女は実体を持った分身である可能性を危惧していたが、それは逆に過剰な警戒であった。

今度は本当に分身ではなくただの視覚錯覚だったのだ。

 

精神世界でのマリオネスの分身は、実体を伴った分身と、実体を伴わない分身があった。

実体を伴った分身ならば攻撃も当てれるし、逆に向こうの攻撃もこちらに通ってしまう。

だが実体のない分身ーーつまり視覚錯覚のハリボテだった場合は何の影響も及ぼさない。

そしてそれを攻撃しても当然すり抜けてしまう事になる。本来そこは何も存在していない空間だからだ。

彼女はその視覚錯覚に引っ掛かかり、虚空を攻撃してしまった。

「くぅ…ッ!」

「ザンネン。外れダヨ」

面白そうに道化師が笑みを見せる。

その姿はゆらりと空気に紛れるように消えていく。

 

「くくく、実体ノアル分身と視覚錯覚の見分けマデハつかないヨウダネ」

後方の奥にいる道化師が彼女に呟いた。

奥の彼からは明確な気配を感じる。

おそらく本物のマリオネスだろう。

「マリオネス……!分身の小細工なんてしてないで自分が来たらどうなの!」

「ナンでさ。分身デ翻弄デキテイルのにボクがデル必要がナイ」

「く……!」

マリオネスは自分が出る気はさらさらないようだ。

2体の分身だけで十分に彼女を迷わせる事が出来ている。

彼は奥で高みの見物をする構えだ。

 

「サア、よそ見ハそろそろヤメにシヨ?」

「はっ…!」

真横から声が聞こえて、彼女は我に返った。

すぐにフロストジャベリンを持ち出す。

「はあっ!」

そしてすぐ様ウォーターサークルを見舞う。

だがマリオネスは両腕をクロスさせて防いだ。

衝撃で壁際の奥に飛ばされる。

攻撃が"当たった"という事はこれは実体のある分身。

彼女は分身にもやはり実体のあるなしがある事を把握する。

「ふフ、なかなかの威力ダね」

「私の技はパワーもあるのよ。女だからと言って威力を舐めない事ね」

レヴィアタンは分身マリオネスにそう言い放つ。

彼女は華奢だが、その技は体内でブースト機構が働くため威力は強い。

 

「サテ、ではボクも出ようカナ」

「!」

奥にいた本物が動いた。

ダッシュして前方へと走ってくる。

そして直進してレヴィアタンへ手刀を突いてきた。

だが彼女からすれば起動が読みやすい。

「はあっ!」

再びウォーターサークルが見舞われる。

素早い回転とパワーを帯びたジャベリンの一回転。

しかし、それは空を切った。

彼女が近接戦闘で"それ"を使うのはマリオネスもデータで把握しているからだ。

予想される動きをすれば、彼女が起動を読みやすいのと同じく道化師にも行動が読みやすいというわけだ。

「く…ッ!」

「ふフ、ザンネン外れダヨ」

かわしたマリオネスはバックステップで後方に飛びすさる。

レヴィアタンは唇を噛みつつ、深追いはしない。

彼女はついいつもと同じルーティンで動いてしまうが、そうすると敵にデータを把握されているため敵からは"読み通り"の動きとなる。

 

「キミはボクの分身ギミックには勝てナイヨ。ボクの技の練度は高いカラネ」

「何ですって……!」

ギリ、とレヴィアタンは苛立つ。

だが確かに攻略は簡単ではない。

2体の分身達と、そして本物のマリオネス。

それらを同時に相手取らなければならない。

 

「や!や!やっ!」

彼女から3つの言霊が放たれる。

お馴染みとなった飛び道具だ。

遠距離のホーミング弾が"本物"と、そして分身のマリオネス達それぞれへ飛んでいく。

3方向バラバラへの射出だ。

「ジャッ!」

「ジャッ!」

「ジャッ!」

「!」

しかし3人のマリオネス達はそれぞれ口から光球を放った。

まるで彼女がホーミング弾を打ってくる事がわかっていたように。

ホーミング弾は光球に弾かれて爆発した。

3方向でそうなったため、辺りには土埃が舞う。

それは敵の視界を塞いだが、同時にレヴィアタン自身の視界も見えづらくした。

(くっ……同時に対処されたわ。しかもそのせいで奴らが見えづらくなってしまった)

彼女は視界に見えない3体を相手にするのは厄介なため、広範囲に広がる氷の輪を放った。

「はあっ!」

綺麗な氷の機雷群がジャベリンから輪になって周囲に飛んでいく。

間隔を広範囲に広げながら。

だがそれは悪手だった。

本物はともかく視覚錯覚の可能性がある分身には効かない可能性が高いからだ。

打った後で彼女はそれに気付いた。

ついいつもの癖で、ホーミング弾→氷の輪の形になってしまった。

 

ドカドカドカ!!

 

「ぐあア!」

「ぐげエ!」

「ぐおオ゛!」

だが煙幕の奥からは道化師達の呻きが漏れた。

3つの叫び声と爆発音が彼女の元まで届く。

(あら……?ちゃんと当たったみたいだわ)

以外にも命中したらしく、彼女は安堵する。

ちなみに気配で位置がわかっている本物にもちゃんとヒットしたようだ。

ジャンプしようとしたがよけ切れず当たったのを彼女は把握していた。

分身達も同様にして煙幕でジャンプの位置をミスったのか回避に失敗したようだ。

 

左右と奥から呻き声が聞こえる。

煙幕の先ではマリオネス達が身体を押さえるのが見えた。

(よし!全員に喰らわせてやったわ。あともう一押し……!)

彼女は前方に感じる本物の気配を注視する。

本物さえ倒してしまえば分身も消えるはずだ。

レヴィアタンは向こうに余裕をなくさせるため、続け様に技を行使する。

「や!や!やあぅっ!?」

だがその声が途中で裏返った。

足を何かに払われたからだ。

見ると鞭のようなものが足元を這うようにうねっている。

「きゃァ!」

彼女はバランスを崩して後方に倒れ込む。

先程のデジャヴである。

またしても後方に鏡が出現し、そこから鞭が伸びていたのだ。【挿絵提供:ねこ山椒様】

【挿絵表示】

 

「くう……!」

煙幕で向こうの姿が見えづらくなったのを逆手に取られた形。

こちらが攻撃チャンスなように、向こうも同様に狙い打ち出切るチャンスなのである。

それを彼女は少々無警戒だった。

「ふフく、これでキミノ槍はキープしたヨ」

「はっ…!」

煙の晴れた奥でマリオネスの不気味な笑みが覗く。

いつの間にか鞭は彼女のフロストジャベリンに巻き付いていた。

鞭に槍を拘束されてしまったのだ。

(し、しまったわ……!)

ムチは彼女の武器であるフロストジャベリンに絡みついた。

そして、マリオネスはそれを元に彼女を振り回し始める。

これも以前の精神世界でのデジャヴだ。

「きゃ、ひゃア!」

おもむろに身体が振られ、彼女は動転する。

ムチはぐるんぐるんと大回しされ、彼女はそれに連れて身体を空中に舞わされる。

「ふハハ、またジャグリング芸をシテヤル!」

「!」

マリオネスが笑って叫ぶ。

見ると、奥にいる分身の道化師が後ろ手に手を隠していた。その奥には鏡が見える。

(く……分身がムチで遠隔攻撃をしてきたのね……!)

煙幕で姿が隠れたのを利用し、分身体が遠隔ギミックを使って鞭攻撃をしていた。

先程煙幕の奥で機雷を喰らったかのように見えたのは、実はブラフである。

 

まず気配のバレている本物はあえて機雷を受けてダメージを受けていた。

しかし分身達は透過でかわしており、代わりに鞭を当てて爆発音だけを響かせていた。

そして被弾したかのような声を上げて、あえて喰らったように錯覚させたのだ。

レヴィアタンの隙を生むために。

そして彼女はそれにかかってしまった。

今からまたあのジャグリング芸が始まる。

「ハハハハ、ソオレ!!」

マリオネスが強い力をムチに込める。

それと共に遠隔鏡を通してムチからレヴィアタンの身体に強い遠心力が加わる。

「きゃあ!………くう!」

だが、彼女は思わぬ行動に出た。

空中を回転する途中で持っていたジャベリンを手放したのだ。

それにより、彼女はムチの影響下から解放される。

支えを失った彼女は地面に落ちるが、受け身を取ってダメージを最小限に抑えた。

 

「ホウ……武器を手放シタカ」

マリオネスが意外そうに言う。

妖将を取り逃がしたため、鏡を通して彼はムチを手元に戻した。

同時に絡みついたままのフロストジャベリンも手に入れる。

「上手く対処シタねエ。デモこれでキミの武器ハ頂イタヨ」

「フロストジャベリンさえナケレバ君の氷能力は半減ダ。ククク」

「……それはどうかしら?」

体勢を立て直したレヴィアタンが道化師達に言う。

彼女は手を上に軽く向けると、気を集中させた。

「はーーっ……!」

すると、マリオネスが手に収めていたフロストジャベリンがすっと消えた。

まるで溶ける泡のようになくなったのだ。

「ナニ……!」

そしてそれはレヴィアタンの手元に戻っていた。

まるで瞬間移動のように、彼女の手元にそれが発現する。

「ナ、なぜフロストジャベリンがキミの手元に……!」

「私のフロストジャベリンはただの槍じゃないの」

彼女は再び手元に愛具を収めて笑顔を見せる。

「アイスエレメントの気を集中させれば消せたり出したり出来るのよ。当然離れた場所にあっても手元まで戻す事も出来るし」

「な、ナニ……!」

「クソ、そんな仕様ナノカ」

「キミもナカナカ魔法ジミタ事ヲスル」

道化師達はフロストジャベリンの機能性に驚く。

ずっと普段彼女が携帯しているように見えたため、奪ってしまえばそれで取れたものだと思っていたのだ。

だが彼女の槍はアイスエレメントの集中加減により、いつでも出したり消せたり手元に移せたりも出来る代物だ。

彼らが技を見せていなかったように、彼女もまた彼らに見せていない事はあるのである。

「上手く対応サレタカ……シカシ、なら精神世界デモ対応ハ出来たダロウ?あの時はカカッテイタケド」

「あれは私も焦っていたからよ。動揺していたから今の対処が出来なかったの。冷静になれば簡単な事なのにね」

彼女は精神世界での"失態"を罰が悪そうに言う。

本来であれば今のように武器を放していればよかったのだ。

だが焦りのあまりそれを考える余裕がなかった。

しかし今は初見ではなかったために上手く冷静に対処が出来ていた。

「クク、小癪な事をスルね。だがボクらの連携にキミが対応し切れナカッタのはワカッタ」

「次はモウ逃さナイヨ」

「今度はキミを完全に捕えてヤル」

「く………」

3人のマリオネス達は彼女に不敵に語りかける。

確かに今の攻防は彼らの方が優勢だった。

さしもの彼女といえど、鏡空間内で強化マリオネス相手に3体1では優勢にはなかなかなれない。

ジャグリング技は何とか切り抜けたものの、彼女は冷や汗を垂らしていた。

 

 

(いえ………冷静になりなさい、私)

しかし彼女は心を落ち着ける。

解法がないわけではない。

今までは槍を主体とした攻撃を主に使っていた。

分身との近接戦闘が多くなり、ウォーターサークルを多様していたためだ。

そして避けられていたわけだが、氷の方はどうだろうか。

確かに今のように、視覚錯覚の分身には避けられてしまうだろう。

だがやりようによっては、本物のマリオネスも無視は出来なくなる。

彼女は戦いの最中、氷を使った策を考えついていた。

 

「はあっ!」

「!」

「!」

「!」

素早くレヴィアタンが氷の輪を放つ。

タイムラグを最小限に抑えた早業だった。

精神を極限まで高めた状態だったため、溜めの時間を極僅かに抑えられたのだ。

放たれた氷の輪は広がって3人の道化師の元へ飛んでいく。

「チイ」

「クソ」

咄嗟だったためマリオネス達は"マニュアル"通りの回避行動が取れない。

本来なら後方に下がって輪の広がり切った所を隙間から回避するのが定石だ。

だが今は後ろへジャンプしている暇がない。

仕方なく2人は両腕をクロスさせてブロックした。

少々のダメージは仕方なしと織り込み済みだ。

そして残りの1人は何もせずそのまま。

機雷は2人の前で弾け、彼らは少し焦げる。

後の1人は透過して氷の機雷をすり抜けさせた。

(なるほど。あいつは視覚錯覚の分身というわけね)

透過させたマリオネスは実体のある分身ではない。

そう彼女は見抜いた。

残りの2人は実体がある。

しかし時間をかければ実体のない分身とシャッフルされてしまう。

ならば、その時間を与えなければいい。

「はあっ!」

「!」

「!」

「!」

またしても妖将の高らかな声が響く。

彼女は再び氷の輪を繰り出していた。

2回連続の行使だ。

(2連続の氷の輪ダト……!ソンナのこれまでシタコトがナイヨ)

マリオネス達は面食らう。

過去のデータではレヴィアタンが連続して氷の輪を使ってきた事はない。本来は作成に時間がかかる技だからだ。だが今、彼女はかなりの早技で連撃を打ってきた。

データにない行動を取られ、彼らは動揺する。

そしてその影響でまたしても彼らは"マニュアル"の回避行動が取れなかった。

「チイ!」

両腕をクロスさせて彼らはブロックする。

実体のない分身は先程同様に特に防御行動は取らない。

 

ドカドカ!

 

さっきと同じく2人の元で機雷が弾けた。

彼らはまた焦げたダメージを受ける。

そして残りの1人はやはり透過させて機雷をすり抜けさせてノーダメージ。

(さっきと同じね。じゃあ次で仕留めましょうか)

レヴィアタンは攻略法を既に編み出していた。

今の2撃はその下準備だ。

 

「はあっ!」

「!」

「!」

「!」

3度目の掛け声が辺りに響いた。

またしてもレヴィアタンが氷の輪を打ち出したのだ。

まさかの3連続での氷の輪の行使である。

(ナニ……!ま、マタ氷の輪ダト)

(ダがそれは流石ニ芸がナイ。いくらナンデモ3回もヤラレレバ対処デキルヨ)

(ま、ボクハハリボテだから元から対処ナンテいらないケドネ)

マリオネス達は動揺しつつも、今度は対応する。

"マニュアル"に示された正規の対応法を。

後方にジャンプして隙間が広がるのを待てばかわせるのだ。

しかし。

「ナニ!?」

「これハ!?」

後ろへ飛ぼうとしたマリオネス達を固いものが阻む。

そこには氷のブロックが出来ていた。

彼らの外周を覆うように、水色の塊が連なって壁となっている。

「ナ、何だコレハ……!?」

「あなた達に飛ばした最初の2つの氷の輪よ」

刹那、レヴィアタンが呟く。

氷の輪が飛んでいく中で彼女は語りかけた。

「あなた達が喰らった機雷は数個だけ。じゃあ残りの機雷はどうなったと思う?ただ後ろの壁に行って弾けたわけじゃないのよ」

先程打ったレヴィアタンの2つの氷の輪。

それは機雷だったが、必ず起爆させられるわけではない。

しばらく爆破をさせずにとどめておく事も出切るのだ。

マリオネス達の背後で一度氷の輪を止めて、そこで彼女はしばらく待機させておいた。

2度目の氷の輪も同様である。

そして3撃目を打とうとした時に、マリオネス達の方へ後方から機雷を詰めていったのだ。

そして今の3撃目。

後ろには多数の機雷が壁となってブロックしており、前方からの氷の輪と完全に挟み撃ちになっていた。

 

本来なら、上や前方にジャンプすればまだ攻略のしようもあった。

だが"マニュアル通りの"回避しか頭になかったマリオネス達は、後方に行く対応しか瞬時に取れない。

後ろには壁となっている機雷があるためそれは不可能だった。

そうこうしている間に、3発目の機雷が迫った。

そして彼らに着弾する。

 

「ギャアアぁーー!」

「ぐギャアァーー!」

2人のマリオネスから悲鳴が上がった。

前方からの氷の輪だけではなく、後ろの壁となっていた複数の機雷群も全て爆発したのだ。

その合計ダメージ量は凄まじく、かなりの体力ゲージが減らされた。

 

「ぐぁ゛、、!」

そして残っていた実体のない分身マリオネスも消えていく。

本体が大ダメージを受けたため、分身を保っていられなくなったからだ。

見る間に彼は姿を消失して霧散した。

本体からの魔力の供給がなければすぐに消えてしまうのだ。

 

「ぐ、あァ゛……!」

さらに、実体のある方の分身マリオネスも消えていく。

実体があろうが彼も分身なため、本体が余裕をなくした状態では姿を保っていられないのである。

彼もまた見る間に霧となって空気に溶けるように消えていった。

 

「さあ、これで残るはあなただけね」

「ぜえ、ぜエ……!お、オノレ……!」

レヴィアタンは最後に残った本物に向き直った。

マリオネスは胸を抑えて片膝をついている。

本物の彼は蓄積したダメージで流石に分身を保っていられなくなったようだ。

肩で息をしながら、彼は言う。

「よ、ヨクモやってクレタねえ。流石に今ノハ効いたヨ」

「あんまり私の事を舐めるからよ。分身を使えなくなったあなたはこれでもう終わりね」

冷たく彼女は言い放つ。

分身さえ使えなくなればマリオネスの驚異は半減する。

だが、マリオネスはまだ自信気な目を崩していない。

「くク………」

「……? 何がおかしいのかしら」

「キミは気付いてイナイようだがネエ」

まだそれを認識していない彼女に道化師は口を三日月にさせる。

 

 

「やはりキミは気付かなかったヨウダ」

「え……?」

不意にマリオネスがそんな事を言い出す。

レヴィアタンは怪訝な面持ちになった。

「どういう意味……?」

「足元を見てミナヨ」

彼に言われて彼女は地面を見た。

すると、床に何かが書いてあるのが見えた。

何かの紋様のようなものが描かれている。

「これは……?」

「それはハイパーリンクダよ」

「は……?ハイパー……リンク?」

彼女はその紋様を一部踏んでいた。

だがそれがどうしたというのか。

彼女が疑問に思うと、道化師は言った。

「次ハ周りを見てゴラン」

道化師に促され、彼女は辺りを見てみた。

すると、何と周囲の景色が変わっていた。

紫鉱石が散見していた場所ではなくなり、開けた紫の夜空の空間になっている。

まるで宇宙のような情景が辺りに広がっていた。

「っ……!こ、これは」

周りの景色が急に変わり、彼女は驚く。

いったいいつの間にこんなところへ飛ばされたのか。

彼女は気付かなかった。

ちなみに変わったのは周りだけではなく、足元にも変化があった。

足場が鉱石から何か棒状のものに変容していたのだ。

赤紫のような柱?にいつの間にか彼女は乗っていた。

「な………」

彼女は周りを振り返った。

幸い他の虚構マリオネス達はもういない。

だが周囲に壁などは何もなく、宇宙のような星空の空間だけが辺りに広がっていた。

(い、いつの間にこんな場所に……!?)

突然周囲の景色が変わった事で、彼女は動転する。

 

(こ、これは視覚錯覚……?)

光の錯覚でありもしない情景を見せられている。レヴィアタンはそう考えた。

彼女は今一度自分がいる場所の周りを見てみた。

後方を振り返ると、下の方には羅針盤の枠のような物がある。

そこにはローマ数字らしき文字が一定間隔で描かれている。

すぐ下には【Ⅻ】と書かれたローマ数字が見える。

他にも【Ⅺ】や【Ⅰ】と書かれた文字もあった。

それはまるで時計の文字盤のようであった。

 

はっとして彼女は足場をもう一度見てみた。

そこに見えたのは、時計の針。

柱だと思っていたものは、実は文字盤の長針だったのだ。

彼女は時計の針の上に立っていたのである。

(こ、これは時計……!?しかも、かなり高い場所にいるじゃない)

時計針の下に覗く景色はかなり底が深い。

まるで宇宙と見紛うような星空が底なしに広がっている。

時計台、いや天高い時計塔と言っていい構造物に今彼女は位置していた。

 

「また変な視覚錯覚を使ってきたわね」

「イヤ、これはソウジャナイヨ。実際にキミ自身がこの場所にテレポートしてキタノサ」

「は……?」

せせら笑いを浮かべる道化師は彼女に説明する。

「キミはさッキ床の紋様ヲ踏んだノハ見えてイタカイ?」

「それがどうしたの?ただの視覚錯覚のギミックか何かでしょ」

「視覚錯覚デハナク、あれはハイパーリンクと言ってネエ。踏ムと対象ヲ特定の場所に飛バス事が出来る仕掛けナノサ。もちろん僕自身モダケド」

「な……何ですって……?」

レヴィアタンは驚く。

あの紋様は踏むと別の場所に転送される仕掛けだったらしい。

彼女はそれに気付かず、流れの中で踏んでしまっていた。

いや、本物と虚構マリオネスの連携によって踏まされたのだ。

そして、転送されたのは彼女だけではなかった。

マリオネスの方も同じく彼女と同じ場所に転送されると彼は言った。

 

彼は文字盤の時計針の上に彼女と同じく立っていた。

彼が立っているのは短針の側で、レヴィアタンからは5メートル程の距離にいる。

「この技は自分と対象ダケヲ特定位置に移動サセル技デネ。少し発動マデ時間がカカルノと、魔力を大幅に消費するノガ難点ナンダ」

肩を竦めて分身マリオネスが言う。

レヴィアタンは怪訝な顔つきになった。

「魔力を大幅に消費……?」

「ソウサ。だから魔力が減ってシマッタヨ。ダガ狙いは成功シタ。キミは一部虚偽を織り混ぜたボクの話ヲ受けて、分身をきっと警戒スルダロウカラ意識を多少ナリトモそれに割かレル。ダカラ、ハイパーリンクを踏まセル隙がデキルと踏んでイタヨ」

「ふん……私はそれにまんまと嵌められたってわけね。でも魔力を大幅に消費したって?だからもう分身達は出せないわけだ?」

「あア。あれヲ使うにも魔力ガイルからネ。まあソモソモさっきノダメージで魔力は不足シテシマッタが」

焼け焦げた腕を抑えつつマリオネスが呟く。

彼はぜえぜえと肩で息をしている。

先程の氷の輪で負ったダメージの影響は大きいようだ。

「ねえ、わざわざ場所を変える意味ってある?こんな不安定な場所へ連れてきて」

「フフ、そうダヨ。ここはトテモ不安定ダ。ダカラ君も戦いニクイだろウ?」

「なるほど。私が戦いにくい場所だからここを選んだわけね」

「それもアルケド、一番の理由ハそれジャナイ。ココガ"特別な場所"ダカラだ」

ピエロは感情が得体の知れない表情を仮面に映す。

彼は不気味に、そして不敵に妖将に微笑んでいた。

「特別な……場所?」

「ソウ。ここは訪レタ者の運命ヲ決める羅針盤」

道化師は彼女が立っている時計の針を指差す。

「キミが乗っているその針はネエ。リミットを表してイルんだ」

「リミット……?」

「普通の時計ハ1時間で長針が一周スル。だケドこの時計は違ウ。"12分"で一周スルのサ」

「え……?」

 

ガチャン!

 

「!?」

不意に稼働音が響く。

すると彼女が乗る長針がガタンと動いた。

体勢を崩しそうになった彼女は慌ててバランスを取る。

「な……」

長針は時計のメモリの1分分動いたのではない。

12時のインデックスから1時のインデックスまで大きく動いていた。

「これは……!?」

「この時計ハこの鏡セカイに来た者ノ運命を司る大時計。長針が一周スルまでニぼくヲ倒セナければ、キミがこのセカイから出る事は一生叶わなくナル」

ククク、と三日月の口をつくるマリオネス。

レヴィアタンは驚いた。

「な、何ですって……!」

「ココハそういう理デ出来た時計ダ。このセカイに誘われた者ヲ乗せるト、リミット経過が始まる。制限時間内にセカイ主のぼくヲ倒せナイト、元のオウチには帰れないヨ」

「く……!」

この時計は制限時間つきの羅針盤のようなものらしい。

マリオネスの魔力で構築されたこの鏡セカイは彼の能力を飛躍的に高めていた。

そしてこの大時計は鏡セカイの理の中で運用されている。

彼がここへ妖将を連れてきたのは、彼女を永久的にこの異世界に隔離して幽閉するためだった。

自分の物とするためである。

「ふフフ、今1分経ったから、残りは11分ダね」

「く……!私を永遠にこのセカイに幽閉する気なの……!?」

「ソウダよ。可愛くて魅力的なキミをネエ」

「ふざけないで」

レヴィアタンは吐き捨てるように言って道化師を睨み付ける。

だがマリオネスは愉し気に彼女に微笑みを向けていた。

彼女の怒り顔すら彼の前では愛おしい仕草に変換される。

 

一方、不安定な時計針の上に移動させられてレヴィアタンは嫌だった。

こんな場所で戦うとなると明らかに向こうが有利になるからである。

それに、もし誤って落下すれば大ダメージは免れない。

「キミはトテモ美シイ。そしテ時計の文字盤も同様ニ。磨き上げられた針ト美しいローマ数字のインデックス。そして盤面の耽美な装飾模様。ソウイウ芸術品トシテ時計は優れてイル。その文字盤の上でキミの保有をカケテキミと戦えタラ、ソレハ志向の余興ニナル。キミを是非永遠ニぼくノマリオネットにシタイ」

ククク、と不気味にマリオネスが笑う。

気味の悪さに妖将の肩が身震いした。

「ひっ……!」

「クク、ソンナ少し怖がるキミもカワイイよ」

「……はっ、いいわ。やってあげる」

少し恐れを抱いただけでも彼に愛おしそうにされ、彼女は諦めた。

さっさと片付けてこの場を切り抜けなければならない。

「あなたを倒せば術は解けるのよね?」

「ソウだよ。ボクがヤラレレバ術が解けて逆転送サレ、キミは戻れル。倒せなケレバそのままサ。時計盤の上に幽閉……イヤ、落とシテ殺してアゲルヨ」

「そう。ならよかったわ。さっさと終わらせましょうか」

チャキリ、と彼女はフロストジャベリンを構える。

不安定な足場だが、気を付ければ落ちる事はない。

「あなた1人だけで私に勝てると思ってるの?この妖将レヴィアタンに」

「ふフフ、タシカにキミを相手にボク1人では難シイ。ダガこの不安定な足場デはキミとて苦シムとオモウヨ?」

「はっ、馬鹿ね。環境を少し有利にしたくらいで優位に立ったつもりだなんて」

チャキ、と戦意を込めた眼差しで彼女はフロストジャベリンを差し向けた。

 

ガチャン!

 

「ぐ……!?」

また長針が進み、残り時間が経過した。

【Ⅰ】から【Ⅱ】へと針の先が移動する。

つまり時間が1分減ったということだ。

「ふフフ、これで残りハ後10分ダ」

「10分ね……あなたを倒すには十分な時間だわ」

「ソウカナ?これまでの苦戦ブリからハとても難シイリミットだと思うヨ?」

「うるさい」

ぴしゃり、と言って彼女が締める。

チャキ、とジャベリンを構えて彼女は殺気を向けた。

殺意を内包した戦意を。

 

「来るカイ。ではボクも始めサセテもらうとシヨウ」

短針に乗るマリオネスが先に動く。

急接近すると、彼は彼女にアイアンクローを放った。

「はっ!」

だがレヴィアタンは即座に反応してジャベリンを回転させる。ウォーターサークルだ。

しかし、切られる射程に入る前にマリオネスは止まり、バックステップで距離を取った。

妖将の回転切りは空を切る。

「それでよけたつもり?」

レヴィアタンの余裕の声が響く。

ウォーターサークルに付随して氷の機雷が飛ぶ。

彼女はよけられるのを見越してマリンスノーをいくつか付与した形でウォーターサークルを放っていたのだ。

「ぐあ゛……ッ!」

2つほどマリンスノーを喰らい、彼は呻いた。

先に仕掛けたはずが、妖将にカウンターをもらってしまった形だ。

 

ガチャン!

 

時計の針がまた動く。

【Ⅱ】から【Ⅲ】まで長針が移動した。

だがレヴィアタンの表情は落ち着いている。

 

「ぢィ……!」

一方、苦悶の顔を浮かべつつもマリオネスは立て直しを図る。

ふっと彼の姿が消えた。

得意の視覚錯覚を行使したのだ。

分身を見せる事は魔力的に難しくとも、自分の姿を消すくらいは出来るらしい。

目の前から獲物が消え、レヴィアタンは少し意表を突かれる。

だが今はもう気配で位置がわかる。

位置さえわかれば予測は難しくない。

 

ガキイン!

 

「ナニ!?」

「フフ、見えてるわよ」

突如、彼女の前方からムチが飛んできた。

何もない所から瞬間的に出てきたのだ。

だが彼女は"見えていた"ため、落ち着いて対処する。

(チイ、なら接近してもう一度アイアンクローダ)

ムチ攻撃に失敗したマリオネスは姿を消したまま走って彼女に近付く。

だが彼女は気配を察知してウォーターサークルを放つ。

「はあっ!」

「オット」

だが道化師は冷静に後ろへ下がった。

彼は反対側にある短針の上に着地する。

短針も同じく細いのだが、彼は器用に着地してみせた。

「安易なウォーターサークルでは喰らわナイヨ?」

「く……」

攻撃をかわされ、彼女は唇を噛む。

接近戦の際はこの技を使う事が多い彼女だが、逆に攻撃の傾向を読まれてしまっているらしい。

あまり多様するのも考えものだ。

 

ガチャン!

 

「く……!」

またしても時計の針が動く。

【Ⅲ】から【Ⅳ】へと針が平行移動する。

残り時間はあと8分となった。

 

「サテ……もう姿を消スのはヤメヨウカ」

「!」

不意にマリオネスがそんな事を言った。

消えていた彼の身体が再び姿を見せる。

視覚錯覚の術を解いたようだ。

「消える技は使わないの?」

「もうキミは対処出来るヨウだからネ。無駄な魔力の消費は避けタイのサ」

肩を竦めて道化師が笑う。

しかし彼はすぐに集中力を高めた。

 

「サア、お次はムチ攻撃ダ」

「!」

そうこうしている間に、今度はマリオネスの方が仕掛けた。

左手にムチを取り出し、前方へと振るう。

それは蛇の蛇行のようにジグザグな起動を描いてレヴィアタンに迫る。

「はっ!」

だが彼女はフロストジャベリンを薙いでそれに対応。

ガキイン!と互いの武器が衝突する。

だが彼女はただ普通に槍を振るったわけではない。

普通に当てるだけでは精神世界の時のように武器をムチに巻き付けられて抑えられてしまう。

そうなるとまた空中をぶん回される羽目になる。

それをわかっている彼女は、瞬間的にムチを"弾いた"。

当てるのではなく弾く事で、ムチに巻き付かれる隙を与えなかったのだ。

「ホウ」

今度はムチの罠にかからなかった彼女にマリオネスは感心する。

やはり一度体験した事には学習して同じ失敗は繰り返さないようだ。

レヴィアタンはジャベリンを余裕の笑みで振るってみせる。

鞭による攻撃はこうやって対処すればいいのよと。

弾かれた鞭は彼女を捉える事なく防がれていた。

だが、彼女の身体は地に転がっていた。【自作の挿絵】

【挿絵表示】

 

直後に後ろから何かに足を引っかけられていたからだ。

足払いをもらったレヴィアタンは後ろ向きにひっくり返される。

「きゃぁ!?」

悲鳴が思わず彼女の口から漏れ出た。

尻餅をついてレヴィアタンは時計針の上に倒れ込んでいた。

 

鞭はちゃんと防いでいたはずだった。

なのにどうして、と彼女は困惑する。

しかし、後ろ向きに倒れた際に彼女はその理由を見つけた。

彼女の背中側には小さな鏡が現れていたのだ。

「か、鏡……!?」

そしてそこからは手だけが出ていた。

その手には鞭の柄が握られている。

そこから鞭が長く先まで伸びているのが彼女には見えた。

はっとして彼女は前のマリオネスの方を見る。

彼は左手からわかりやすく鞭を前方に放っている。

しかし、右手の方は背中ごしに隠れて見えていない。

よく見ると、彼の背中の向こうは淡くだが光っている。

(ま、まさかまた背中の後ろに鏡を……!)

レヴィアタンは道化師のからくりに遅れて気が付いた。

彼の背後には同じく小さな鏡が生成されているのだ。

そして彼はそこにおそらく右手を入れている。

その手の先だけが、レヴィアタンの死角となる背中側の鏡からワームホールで出てきたのだ。

そしてその手には2本目の鞭が握られている。

マリオネスは鞭の二刀流を使って攻撃をしてきていた。

これまでは鞭を使っても1本だけだったので、彼女は1本ケアすれば攻略したものだと思っていた。しかし今回はもう1本新たに加えてきた形だ。

マリオネスの攻撃は以前よりアップデートされているのである。

 

「きゃぅ!」

勢いよく転んだため、たまらず彼女は時計針の上を後ろ向きに後転する。

逆でんぐり返しのような形になり、彼女は足を開脚したまま後方へ転がった。

細い時計針の上でかなり危うかったが、幸い真っ直ぐに倒れ込んだので調度足場の中央を転がる形になり、落ちる事はなかった。

落下しそうになるのを彼女は時計針のヘリを抱え込んで何とか防ぐ。

「くう………!」

危ないところで難を逃れるレヴィアタン。

だが彼女は道化師の罠に気付けなかった。

自分の背中ごしにミニ鏡を出して、マリオネスは右手のムチで彼女を背後から遠隔で狙い討ちしたのである。

まさか二刀流でムチを使ってくるとは思わず、レヴィアタンは前方のムチをケアした事で後ろからの遠隔攻撃から意識がそれていた。

そこを狙われた形だ。

 

ガチャン!

 

「ひゃ……!」

また時計の針が大きく動く。

【Ⅳ】から【Ⅴ】へと針が移っていく。

彼女は振り落とされまいと必死に両手で時計針を抱え込む。

 

「ぐ……ゥ、!」

彼女は辛うじて針の上から落ちずに済み、肝を冷やす。

真下には底なしの宇宙空間。

もし落ちれば恐らく死は免れないだろう。

時計針に腕を引っかけてすぐさま彼女は体勢を止めた。

そして両足を振って、体操選手のように身体を上に半回転させて倒立した。

そのまま針の上へ再び降り立つ。

危うい所で彼女は体勢を戻して切り抜けた。

「くく……倒れテモ上手く対応したネエ」

「……随分といやらしい攻撃をするわね」

二刀流を使っての死角からの狙い討ちに彼女は不満を愚痴る。

敵なのだからそういう嫌な攻撃をしてくるのは自然な事ではあるが、初見の技をまたしても使ってこられたのだ。

彼女としては少しムカついてしまう。

「マサカぼくがムチを2本も使うと思わなかったカイ?」

「…く………」

「1本しか使えナイとは言っていナイヨ。ククク」

愉し気に道化師が笑う。

1対1でも彼は今妖将相手に僅かながら優位に立っていた。

自分に有利である不安定な時計盤の環境に移した事、そして自分には不利にならない制限時間が設定されている事で彼はアドバンテージを得たのである。

レヴィアタンは細い針の上での戦いを強いられ、簡単には移動もままならない。

逆にマリオネスの方は自分の魔力で作った構造物のため、足場の位置や安定度もわかっている。

さらに制限時間があるため、妖将は残り数分でこの厄介な道化師を倒さなくてはならない。

そのため今は道化師の側にアドバンテージがあった。

 

「サ、これで色々ボクには攻撃の選択肢が増エタ。じっくりと制限時間が尽きるまで痛ぶッテあげヨウ」

そう言ってまたマリオネスが消えた。

再びの消える視覚錯覚の行使だ。

今度は不意打ちを喰らわないようにせねばならない。

レヴィアタンはジャベリンを構えて体勢を整える。

 

ーーーーーーー

 

※自作のイラスト下手ですみません汗。あと2週くらいで完結です。

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