ロックマンゼロ -episode leviathan- 作:プレイズ
ついにマリオネスを倒したレヴィアタンは、一息ついていた。
つかの間の休息が彼女に訪れる。
すると、しばしして鏡セカイに異変が生じ始めた。
ぐにゃり、と周囲の景色が歪んだのだ。
辺りにちらばる紫鉱石がゆらりと不安定になっていく。
「やっぱり鏡の中が不安定になってきたわね。これはゾルベームグの時と同じだわ」
彼女は過去の経験を思い出す。
以前も彼女は鏡セカイに取り込まれた経験があった。
そこで彼女は中に巣くっていたボス達、ミラージュ5のズィールとゾルベームグを倒した(後者は倒し切りはせず瀕死でとどめたが)。
すると、その後に鏡セカイが不安定になり、辺りの景色がぶれ始めたのだ。
そのしばし後、いつの間にか彼女は鏡セカイの外に出れていた。
鏡セカイの保持には術者の安定した体力が必要なのである。
それが倒されたり瀕死になったりすれば、安定が保っていられなくなる。
そうなればこのように景色がゆらついて徐々に消えていく事になる。
今の鏡セカイの状況はまさにあの時と同じであった。
「デジャヴね。でもよかった、これならじきに元の外の世界に戻れそう」
レヴィアタンはほっとする。
見知らぬ不気味な鏡セカイに連れ込まれ、いつ出れるかわからなかったからだ。
ボスを倒せば出れる可能性が高い事はわかっていたが、実際にちゃんとそうなるかはわからなかった。
しかしこの状況を見る限りそれは杞憂だったようだ。
「後はここでしばらく待っているだけね」
消えゆく鏡セカイで彼女はリラックスする。
こうして待機していれば、程なくしてこのセカイは終わりを迎え、彼女は外のセカイに戻れるからだ。
早く帰って久しぶりに綺麗な水を浴びたいわ、そう彼女は思っていた。
と、その時。
彼女の前方の壁に、不意に揺らぎが生じた。
まるで4次元空間のような次元が開き、扉のような構造物が形作られる。
レヴィアタンの目の前で、だ。
彼女は思った。
もしやこの先が外の世界に繋がっているのでは、と。
完全に警戒心を解いていた彼女は、扉をあけようとする。
しかし、直前になって、嫌な予感がした。
不安を感じた彼女は手を引っ込める。
すると、扉の奥から音がした。
直後にドアが開かれる。
「………!」
「ヤア、引っかカらなカッタカ。流石ダねレヴィアタン」
扉の中からは見知った顔が現れた。
そこには予想外の人物が立っていた。
先程倒したばかりの道化師マリオネスが。
「な、、マ、マリオネス……!?」
目の前にはさっき倒したはずのマリオネスが立っていた。
散々見飽きた不敵なフェイスを浮かべた、道化師が。
何故倒し終えたはずの奴が立っているのか。
彼女は意味がわからず困惑する。
「ど、どうしてあなたが!?もう倒したはずなのに」
「ふふ、ボクは実体ジャナイヨ。ホログラムさ」
言って彼は自身の胸を指差す。
指が胸をすり抜けるのが彼女からは見えた。
「ほ、ホログラム……?」
「そう、このセカイのボクが倒されたノは事実ダ。残念ナガラね。だからボクは実体ノナイAI映像デシカナイ」
「な、なら安心したわ。それならこのセカイもじきに終わるもの」
確かに彼からは気配がまるで感じられない。
それならば恐れる事もない。
「クク、ソウカナ?ボクにはまだ秘策がアッテね」
「ひ、秘策……?」
「ボクは1度ダケ特権を行使デキル」
不気味な笑みを浮かべて道化師が言った。
「ボクは死んデ命を終わラサレタ場合、1度だけ復活出来るンダヨ」
「え……?」
彼の口から驚くべき事実が語られる。
何と彼は命を復活させる事が出来るというのだ。
1度に限りだが、倒されてもやり直す事が出来る。
故に倒されたはずのマリオネスがこうして復活しているのだ。
「な……!ふ、復活できるですって!?」
「ソウだヨ。だからマタ君と戯れラレルネ」
不気味な笑みが再び妖将に向けられる。
「で、でもあなたは所詮ホログラムなんでしょ?今だって透けてるじゃない」
彼の姿は未だ半透明だ。
口から出まかせのはったりを言っているだけ。
こちらの動揺を誘っているだけの可能性がある。
ぺ た ん
「ふふ、ザンネンだっタネ」
「え……?」
不意に頭に何かが置かれた感触を感じ、レヴィアタンは小首を傾げた。
気付かなかったが、意識すると背後に微弱な気配を感じる。
はっとして彼女は振り向いた。
するとそこには道化師の姿があった。
彼女の真後ろにそれは立っていたのだ。
道化師マリオネスがそこには居た。
「な、な……!」
彼の右手がレヴィアタンの頭を捕えていた。
手のひらが彼女の頭に乗せられている。
彼女は激しい焦燥に駆られた。
後ろのこいつには弱いが気配がある。
そして頭にも触れられた感触が確かにある。
つまりは実体があるということ。
(し、しまった……!ほんとにまだ本物が生きて、、!)
実体のある本物に頭に触れられてしまった。
彼の手に頭に触れられてしまうのは危険だったはずだ。
そして危険を悟った直後、彼女の意識が侵される。
ぐるん、と意識がまどろんで撹拌した。
「ほ、ほふうッ!」
裏返った声を上げてレヴィアタンがひっくり返る。
意識が強力に摩耗して体勢を崩したのだ。
そのまま彼女は意識が飛び、後方に倒れ込む。
"道化師の手"に頭に触れられてしまった事で、彼女の意識は遠くへトリップしていた。
眠りに落とされたのだ。
「ムフフ、上手くイッタね」
後ろに控える道化師が呟く。
彼は実体のある本物のマリオネスだった。
前方のホログラムのマリオネスで彼女を油断させておき、背後から気配を最小限に消して忍び寄ったのだ。
まだ復活した直後だったため、気配が微弱だった事も幸いして彼女に気付かれずに済んでいた。
そして彼女の頭に触れてチェックメイトである。
再び妖将に例のEX技をかける事に成功していた。
「だがヤハリ完全には効かナカッタカ」
しかし技を決めたものの、彼は不満そうに首をひねる。
レヴィアタンは眠っており、戦闘行動の停止を余儀なくされた。
格上の彼女の自由を奪えたのだから、普通ならそれで十分なはずである。
しかし、この技は本来もっと強力なものだ。
ひとたび喰らえば魂を抜かれ、強制的に精神世界へ魂を移される。
そして分離した身体は魂の抜けた抜け殻となり、お人形と化すのだ。
だが今のレヴィアタンはそうなっていない。
可愛い寝息は立てているものの、魂はちゃんと身体に収まって安定していた。
「1度この技に掛けラレている事で、免疫が出来タカ」
レヴィアタンは四天王の一角だ。
エックスのDNAを受け継ぐ優秀な素子を持つ彼女は、1度受けた特殊効果技にはおそらく抗体が出来上がる。
なので、本来のこの技の効果である精神と肉体の分離が効かずに終わった可能性がある。
だが完全に技の影響を阻止出来るわけではないので、意識は落とされてスリープ状態にされたようだ。
「……流石は妖将レヴィアタンだね。免疫でマサカボクのEX技を無効化シテミセルなんて。まあボクが復活直後デ効力が弱まっていたノモあるケド。ダガお寝ンネは避けられナカッタカ、くく」
倒れ込んだ彼女の頭を撫で付けて、道化師が呟く。
精神分離は成せなかったものの、彼女の意識を落とす事は出来た。
彼としては今はそれで十分である。
格上の彼女に自由に動かれては、また強力な氷の技でやられてしまうからだ。
「さ、ジャあトリアエズ場所ヲ移そうカ」
マリオネスは倒れた彼女を両手で抱え込むと、そのまま抱き上げた。
姫抱っこする形で奥の通路へと歩いていく。
その先には1つのドアがあった。
凝った文字で装飾されているその扉は彼が作った鏡ルートの1つである。
彼は妖将を連れたままそこを開けて中に入った。
奥には少し開けた空間があった。
1つの部屋のような場所がそこには出来上がっている。
ファンシーな装飾が内装に施されており、外の紫鉱石に囲まれた景色とは雰囲気が一変していた。
そしてそこには1つの用具があった。
ゆりかごのようなベッドが置かれていたのだ。
彼はその中に彼女を降ろしてやる。
ゆりかごベッドのサイズは赤ちゃん用ではなく、小柄なら大人でも入れる大きさだったためすっぽりと中に彼女は収まった。
「フふ、ぴったりダネ。これでしばらくキミヲあやせソウだ」
楽しげに言って、マリオネスはかごに収めた妖将を見やる。
彼女はその中ですやすやと寝息を立てて眠っていた。
ゆりかごの中に収められて眠っているため、これではまるで赤ちゃん帰りをしたかのようだ。
「ふふ、さあシバラクお寝ンネしようか。今はお昼寝ノ時間ダヨ」
眠る愛らしい妖将に彼はそんな声をかける。
まるで赤ちゃんを寝かしつけるようかのように。
ゆりかごに収められた彼女は、擬似的にそのような形になっていた。
天井にはゆりかごから伸びる垂らし飾りがくるくると回っている。
「いい夢ヲ見るとイイ、レヴィアタン」
ちなみにこれはただのゆりかごのおもちゃではない。
中で眠らされると睡眠の度合いを深くされる効果がある闇のアイテムである。
マリオネスは闇の売人としての顔も持っているため、そのような特殊な代物も保有していた。
眠りに特化した強力な用具、いや宝具を彼は用意していたのだ。
対レヴィアタンにおいて劣勢になった際の保険として。
彼女はマリオネスが倒された場合、彼が1度だけ復活可能という情報を知らなかった。
故に倒された彼がまた蘇ってくる事など思いもしなかったのだ。
その隙を突かれて再び彼女は眠りに落とされてしまった。
「たっぷり タップリ お寝ンネシヨウネ。レヴィアタン」
不気味な笑みを称えて道化師は彼女の頭を撫で付ける。
ゆりかごに収まる彼女は幼児ではない立派な少女なのだが、今はまるで赤ちゃんのように眠りこけていた。
すやすやと健やかな寝息を立てて眠りの世界に浸っていく。
「すぅ………すぅ………」
マリオネスはそんな彼女を愛しそうに眺めた。
そして手でさらに頭を撫で付ける。
頭を撫でられても彼女が目を覚ます気配はない。
この宝具の中に収められた状態では、簡単には眠りから醒めないのだ。
この宝具の名はクレイドル・オブ・スリープ。
眠った状態で入れられてしまうとその睡眠効果が3倍になる闇のアイテムである。
隙を見せて眠らされてしまったレヴィアタンは道化師によってこの危険な宝具に収められてしまった。
免疫により2度目のEX技による精神分離は防いだものの、これでは最低でも数十分は彼女が目覚める事はない。
「まあ、キミは格上ノ強者ダカラネ。故にこの宝具ヲ使っテモ常人に比べて効果は薄イだロウ。並のレプリロイドなら丸1週間は起きれないトコロだが、キミならセイゼイ30分前後といったトコロか」
呟きながら、眠りの沼に再び落とされた彼女を道化師が可愛げに撫でていく。
四天王の格がある彼女は宝具にかけられても、その効果を薄れさせるオーラのようなものがある。
彼女が持つ【妖将】という名の格は伊達ではない。
だが、眠らされているこの状況ではさしもの彼女も無力だ。
眠りの快楽のヒダが妖の身体を取り包み、その身から活力を放散させていく。
この場において彼女は見た目通りのただの可愛らしい少女と化していた。
眠るゆりかごベッドの中には可愛らしいぬいぐるみも置かれており、眠る愛らしい彼女によく似合っている。
妖将の持つ氷の強力な力も眠りの前では封じ込められてしまう。
ゆりかごの効果により、心地よく深い眠りへと彼女は浸らされていくーー。【挿絵提供:rikka様】