ロックマンゼロ -episode leviathan- 作:プレイズ
マリオネスはレヴィアタンが眠りについたことを確認すると、微笑みを浮かべながら彼女の頭を撫で付けた。
部屋の中には彼女の穏やかな寝息だけが響いている。
ファンシーな赤い模様に彩られた空間の中で、ゆりかごに収まる彼女の姿は幻想的でさえあった。
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**数十分後**
レヴィアタンの意識が徐々に浮上してきた。最初に感じたのは冷んやりとした感触だった。背中に当たる金属のような冷たさが彼女を眠りから呼び覚ます。
「ふぁ……?」と彼女は小さく声を漏らし、ゆっくりと瞼を開いた。視界に広がるのは見たことのない天井と、ファンシーな赤い模様だった。
「ここは……どこ……?」
彼女は混乱しながら身を起こそうとしたが、体が動かない。まるで体全体が何かに拘束されたような感覚が全身を支配していた。
周りを見渡すと、そこはこれまでとは全く異なる空間だった。紫色の鉱石の壁はなく、代わりに赤い色の模様が敷き詰められた柔らかな床や壁が周囲に続いていた。何やらファンシーな雰囲気の場所だ。
ここはどこかの小部屋らしく、可愛らしい小物類も色々置かれている。
朦朧とした意識の中、彼女は閉じ加減の瞼を何とか開けて保つ。
まだ目覚めたばかりで頭の中が重い。
しばらく呆けていると、ふと、何かに手足がくくりつけられている感覚を彼女は感じた。
「くく、お目覚めカネ、レヴィアタン」
「あ……」
前方から声をかけられ、彼女はそちらの方を見た。
そこにはピエロの風貌をした男が立っている。
道化師マリオネスである。
「は……!マリオネス……!」
意識がはっきり回帰したレヴィアタンは彼に向けて叫ぶ。
先程、不意を突かれて頭に触れられた事を思い出したのだ。
その後の記憶は曖昧で思い出せない。
おそらく、それで眠らされたのだろう。
すぐさま攻撃に移ろうとする彼女だったが、しかし身体が動かせない。
手足が何かに縛り付けられているのだ。
「く……!こ、これは……!?」
「悪いネエ。眠っている間に少し縛らせてモラッタヨ」
彼女の手足は縄のようなものでしっかりとくくりつけられていた。
いつの間にか彼女は十字架の柱のようなものに固定されているのだ。
「な、何これ……!?」
「キミを自由にスルと思うカイ?枷をカケルノハ当然ダよ」
クフフ、とせせら笑いを浮かべるマリオネス。
レヴィアタンは自分が何故こんな所にくくりつけられているかわからなかった。
「こ、これは……十字架……?」
「ふフ。そうダヨ」
「く……!」
彼女はいつの間にか両手足をくくりつけられ、十字架に磔にされる形になっていた。
完全に彼に捕らえられる形になってしまったのだ。
「キミの氷はトテモ危険ダ。ボクの分身技ヲ凌駕スルホドに。ソシテぼくヲ殺セル程に。ダカラ縛らせてモラッタ」
「よ、よくも私を……!」
「強力な四天王であるキミを自由ニサセタラボクがヤラレテシマウよ。眠らセレタんだカラ拘束スルのは当然サ」
彼は話しつつも機嫌は上々の様子だ。
お気に入りのレヴィアタンをこうして"再度"捕らえる事が叶い、満足の度合いを高くしていた。
一方、レヴィアタンは焦っていた。
マリオネスのEX技は確か魂を強制的に肉体から分離させ、精神世界に移す技だ。
もしそれをされたなら、今いるここは精神世界ということになる。
「ここは、精神世界なの……!?」
彼女は道化師に問いただした。
目の前の男はしかし首を横に振る。
「いイヤ?ここは現実世界ダヨ」
「え……?」
彼の返答にレヴィアタンは疑問符を浮かべる。
さっきは確かに頭に手で触れられたはずだ。
それならば奴のEX技にかけられたはずである。
「本来ならキミノ魂を精神世界ニ移せるハズだったノダがね。どうやらキミノ身体にはボクのEX技ニ対する耐性ガ出来てシマッタらしイ」
「耐性……?」
「キミはエックスの子供ダロウ?それ故に1度受けたファンタジー系ノ特殊技の効果は2度目には効き目が半減スルヨウダ。オソラク、エックスの優秀ナ抗体が作用シテイルんだロウね」
彼女は四天王、つまりエックスの遺伝子から作られた娘にあたる存在だ。
故にエックスの強力な免疫抗体を保有している。
ファンタジー系の特殊技の特殊効果に対しては1度目はまともにかかっても、それで抗体が作られて2度目には同じようには効果を受けないのだ。
だから道化師に頭を触られても精神が肉体から分離する事なく、眠るだけで済んだわけである。
「エックス様の遺伝子による抗体……?そうか、私は四天王だからエックス様の強力な免疫を持っているのね」
「ソウだ。だからボクのEX技は2度目は不完全な効果ニナッテしまッタ。残念な事ニ」
肩を竦めてマリオネスは溜め息をつく。
レヴィアタンは逆にホッとした。
「ここが現実世界なら安心だわ。もう不可思議なファンタジー空間で戦わなくて済むんだもん」
「くく、それはドウカナ?確かにココは現実世界ダガ、今キミはこうして拘束サセテもらっタカラね」
彼は縛られた妖将を見下ろすように言う。
確かに今彼女は十字架に両手足をくくりつけられて自由を奪われていた。
この状態ではいくら彼女でも抵抗は難しい。
「くっ……!私が眠っている間にこんな真似を……!」
「当然サ。折角格上のキミを眠らセル事が出来たンダヨ。このチャンスを逃す手ハナイ」
ふふふ、と愉し気に道化師が笑みを浮かべた。
そして、頃合いだと彼は手を前にかざす。
彼の手からは何かのエネルギーのような光が放出され、物体を生み出した。
「な、何をする気……!それは、、、」
「これは絵の具が乗ったパレットと絵筆サ」
「……?」
突然、道化師はその手に美術道具のような物を持ち出した。
彼のエネルギーか何かの能力で手に表出させたのだ。
左手にパレットを。
右手には絵筆らしき物を持っている。
これを使って何かをする気らしい。
「な、何をするの…?」
「こうするのサ」
含み顔で見て、彼は間髪いれずに絵筆を妖将に振るった。
ヒュン!と鞭のように絵筆が飛ぶ。
「ひん!」
瞬間、レヴィアタンが両肩を跳ねさせた。
痛い思いをさせられると反射的に思ったからだ。
だが幸いにも痛みは全くなかった。
絵筆なので筆先は柔らかく、当たっても痛みは感じない。
「え……?」
彼女が拍子抜けしたようにマリオネスを見返す。
これから拷問が始まると思っていたからだ。
「クク、怖がらなくてもイイ。ボクは君を痛めつける気はないカラネ」
「な……。こ、怖がってなんかないわ……!」
「ソレ」
会話中にもまたマリオネスは絵筆を高速で振るう。
「ひゃ!」
またしても反射的に肩を跳ねさせるレヴィアタン。
今の返答とは裏腹に、どうしても恐怖は感じてしまう。
だが2回目も痛みはなかった。
道化師の言う通り、痛めつける目的ではないらしい。
「ふフ、だから大丈夫ダヨ。痛みは感じないダロウ?」
「く……。い、いったい何が目的なの?」
「しばらくすればわかるヨ」
不適な笑みを浮かべつつ、彼は真意は話さない。
その様子を見てレヴィアタンは不安が募っていく。
痛みはないが、絵筆を当てられた部分を見ると黒い絵の具が付着してペイントが付いていた。
「な……!」
彼女は驚いた。
いつの間にか身体の全身に既に紋様のようなものが描かれていたのだ。
おそらく今の絵筆でペイントされたものだろう。
かなり細かく紋様が身体に塗りつけられている。
これは何かを意図した行為であるのは明白。
そう彼女が考えていると、さらに3振り目が振るわれる。
「ひん!」
またしても彼女は短く悲鳴を上げた。
縛られて防御が取れない状態のため、どうしても攻撃を受けると身構えてしまうのだ。
だが今度も痛みはなし。
ほっとする彼女だが、ペイントはしっかりと塗り付けられていく。
その後も幾度となくマリオネスは絵筆を振るい、レヴィアタンの身体に何かを描いていった。
「はぁ、はぁ……!」
数分後、レヴィアタンは息を乱して困惑していた。
ダメージは全くない。
ただ、彼女の全身にはしっかりと紋様のようなペイントが施され、まがまがしい不安感を感じさせていた。
彼女はその不穏さに精神を乱されて不安の色を濃くしている。
「クク、怖がらなくてイイってバ。君の命を取る事は絶対にナイ。保証シヨウ」
「く……!し、信じられるわけないでしょ……!さっきも"蘇り"でだましてたくせに」
「それは悪かったヨ。でも今回は安心してイイ。君は大事なダイジな存在なんだカラ」
微笑みながら彼はまた絵筆を振るった。
流石にもう悲鳴は漏らさなくなったレヴィアタンだが、相変わらず肩は跳ねさせてしまう。
これで数十回目となるペイントが施された。【挿絵提供:74様】
レヴィアタンの身体には全身に異様な紋様が描かれている。
何かをするのが明らかなそれに、彼女は戸惑いを隠せない。
彼女はマリオネスに問いかけた。
「わ、私を殺して供物にでもする気なのね!?」
「クク、だから殺す事はナイヨ」
まだ疑いを解かない彼女に道化師は苦笑した。
彼女の事はかなり気に入っている彼だが、まだそれ以上の愛らしさのポテンシャルを秘めているナと彼は内心で笑う。
「さ、これでペイントは完成ダヨ」
「ッ……!」
しばらくの間、彼の絵筆を振るわれ続けたレヴィアタンにいよいよ彼は通告した。
ペイントは完成したらしい。
それを受けて彼女は顔がこわばる。
「く……!これから何をする気なの」
「すぐに終わるから、安心するとイイ」
そう言って道化師は彼女の背後に回った。
レヴィアタンは警戒して彼を意識する。
彼女に向けて微笑みながら、彼は片手を前にかざした。
そしてエネルギーを手先に集中させていく。
魔方陣のような紋章が彼の手に表れた。
すると、同時にレヴィアタンにも変化が起こる。
全身に描かれた紋様が呼応し、淡く光るオーラが彼女を包んだのだ。
「こ、これは……!」
慌てるレヴィアタン。
だが尚もそれは進行する。
オーラが彼女の全身を纏い、侵食を開始した。
並行してマリオネスの手先に表れた魔方陣の紋章が発光する。それは怪しい紫色の光をしていた。
そして彼女の頭部に向けて、それは照射された。
「あ、、、」
しばらくその光を見つめた彼女に異変が訪れる。
魔方陣の光は彼女の意識に影響を及ぼし、軽く朦朧とさせ始めたのだ。
同時に全身の紋様から何かの成分が侵食し、彼女の身体を弛緩させていく。
「ぁ、、、あぅ、、」
くらりと彼女の意識がふらつく。
道化師の射出する魔方陣には何らかの泥酔作用があるようだ。
それに気付いた時にはもう彼女の意識は半分ほど朦朧とさせられていた。
入念に描かれた全身紋様によって"呪詛"の効きが全身に及んでしまう。
浸透が遅ければ対処のしようもあったが、何かの投与が始まってから10秒足らずでもう彼女の身体は異変を生じていた。
【あ、ああ……っ、、、何、、この、感覚、、】
呆けていく意識にまどろむレヴィアタン。
何かの力が自分の身体に働いていくのを彼女は感じる。
何とか抵抗しなければ、という意思もむなしく、彼女は体内の何かを変異させられていく。
身体を十字架にかけられているため、抵抗する事は叶わない。
仮に拘束から逃れたとしても、全身に紋様が塗り込まれているためどの道この"呪詛"からは逃れられないが。【挿絵提供:74様】
「サ、いい子ダ。これで儀式ハ完了ダよ」
「あっ あっ あっ」
頭に軽い幻覚麻酔を照射され、レヴィアタンの脳は淡い泥酔状態に近くなる。
道化師への抗いの気持ちが、薄れていく。
【ぁ、、ぁぅ、、、】
意識が摩耗し、レヴィアタンは若干思考が鈍つく。
微弱とはいえ麻酔が身体に行き渡り、彼女の頭と身体を弛緩させていく。
程なくして彼女は完全に大人しくなった。
精神の乱れが無くなり、身体がピクリとも動かなくなる。
「……………」
十字架に磔にされたまま彼女は呆けて虚空を見つめる。
意識はあるが、目に光は宿っていなかった。
呪詛により蝕まれ、身体も弛緩し切っている。
彼女は朦朧とした目で何とか眼前の道化師を見据えるも、異変を感じざるを得なかった。
「ククク、これで身体の調律がひとまず完了カナ」
満足そうに道化師が微笑む。
彼は自分の理想に近い形に妖将を陥れる事に成功した。
これからエネルギーを搾取するにあたって、彼女に事あるごとに抵抗されては敵わない。
なので彼女を掌握すべく、こうして特殊な"エフェクト封印麻酔"をかけたのだ。
彼女の身体に丁寧にペイントを描いたのも、秘術にかけるためである。
彼の絵画道具で特殊紋様を描かれた者は、その身のエフェクトを半減させられる効果がある。
今妖将へのその儀式が完了しつつあった。
「サ、仕上げダ。十字架ヨ、倒レロ」
レヴィアタンの様子を確認した道化師は最後の締めにかかった。
十字架に折れろと命じたのだ。
すると、その言葉に呼応するように十字架が根本からバキりと折れた。
そのまま後方へ十字架ごと倒れていく。
【ドシャアァア、ン!!!!】
レヴィアタンが磔にされたまま、十字架が地面に打ちつけられた。
衝撃で十字架の板が粉々に割れて飛散する。
「ご フ ゥ ッ!」
同時にくくりつけられていたレヴィアタンの身体も反動を受けた。
彼女の両足はオキアガリコボシのように跳ね上がり、上体は背骨から叩きつけられて浮き上がった。
衝撃で激しい土埃が辺りに舞い散る。
「……………」
数十秒して、土埃の中仰向けに倒れ付した彼女の姿があった。
相当な痛みがあったはずの彼女は、しかし無表情だった。
身体が激しく波打ったのとは裏腹に、精神を半分抜かれた人形のように顔は微動だにしない。
周囲には土埃が舞い散り、衝撃の苛烈さを物語っている。
十字架が倒れた影響で、後方の床は一部に亀裂が入って損壊していた。
レヴィアタン自体はレプリロイドとしてはかなり軽量の体重なのだが、十字架がかなり重い物だったらしい。
「痛かったカナ?悪イネ。だが能力封印の成功ヲ祝って、派手に壊す儀式なのサ」
彼女に詫びるものの、彼はククと愉しげに笑う。
彼女を十字架ごと倒してみせたのは、単なる加虐趣味である。
エフェクト封印を済ませたレヴィアタンへの通過儀礼といったところだ。
「な………な、…何、が、、、」
ようやく我に返った彼女は放心した目で天井を見つめた。
緊迫した状況とはそぐわないファンシーな赤い模様が目に映る。
今自分は奴に何かをされた。
体内に何かを施された。
全身に描かれた紋様から何かが染み込むように浸透していくのがわかる。
それによって、身体の中に流れる気の流れが変容したのを確かに感じる。感じざるを得ない。
彼女の真骨頂である氷の能力は、今道化師によって半減させられ、封じられてしまった。