ロックマンゼロ -episode leviathan- 作:プレイズ
壊れた十字架の上で倒れ伏すレヴィアタン。
彼女は放心した顔で天井を見つめていた。
視界に映るのは場違いにファンシーな絵柄のポップな柄。
だが現状の彼女は全身に一定のダメージを受けてしまっている。
謎の紋様を身体に描かれ、道化師によって何かの術式をかけられてしまった。
そして軽い麻酔をかけられて朦朧とした所で、十字架を根本から折られて倒されてしまったのだ。
それによる衝撃によりレヴィアタンはライフゲージの1/4程のダメージを負っていた。
「く、、くぅ………」
朦朧とした意識の中、辛うじて彼女は起き上がる。
全身が痛むが、そのおかげで何とか意識は保てていた。
麻酔の影響でまた眠りに堕ちてもおかしくなかったのだ。
十字架が壊れた事で、彼女を縛っていた拘束縄も解かれていた。
マリオネスの魔力によって十字架も縄も作られていたからだ。
彼がそれを壊した事で、レヴィアタンは拘束を脱する事が出来ていた。
くらつきつつも彼女はフロストジャベリンを手元に発現させる。
そしてそれを支えに立ち上がった。
「よ、よくもやって……くれたわね」
「ふふ、失神セズニ立ち上ガルか。大シタものダ」
何とか立ち上がった彼女を見てマリオネスは笑顔を作る。
厄介な妖将と再び相対する事になったが、彼には焦りは見られない。
それは彼女の得意とするエレメントを封じる事に成功したからだ。
「私に、、、何を、したの……?」
「封じたノサ。キミの氷のエレメントヲネ」
不気味に笑って道化師が言った。
「え………?」
一瞬レヴィアタンは理解が遅れた。
エレメントを封じた。
そう彼は言った。
まさか、と彼女は思う。
「私の、エレメントを……封じたですって……?」
「ソウサ。まあ完全ニデハないガネ。強力な氷技はモウ使えナクなったトオモウヨ」
「ッ……!」
レヴィアタンははっとする。
さっきの異様な全身紋様。
それは自分の氷エレメントを減衰させる作用がある呪いの呪詛だ。
今一度彼女は自分の身体を見てみた。
すると、描かれているはずの紋様が見当たらない。
身体のどこにも紋様の痕は残っていなかった。
「あれ……?紋様は、、、?」
「アア、ソレナラもう消えてイルヨ。キミの身体に染み込ンダからね」
「し、染み込んだ、ですって……?」
彼女の身体にあった異様な紋様は、どれもすっかり綺麗に無くなっていた。
部分的にさえ痕は残っていない。
しかし、それは紋様の効果が消えたという事ではなかった。
むしろしっかり身体に浸透した証なのだ。
「ボクが描イタ呪詛は身体の内部に染み込ム事で効果を発揮スル。今の状態コソ、効いてイルト言えるンダヨ」
「く……!でまかせを……!すぐにまた殺してあげるわ」
レヴィアタンは半ばキレ気味に道化師に叫んだ。
そしてくるんとフロストジャベリンを一回しする。
流れるような動作でチャキリと彼女は敵に向けて槍を構えた。
「出ておいで!」
掛け声が部屋に響き渡る。
レヴィアタンの得意技であり、特別な技を出す時の作法だ。
「スピリット・オブ・ジ・オーシャン!」
技名が読み上げられる。
それは彼女の奥義であり、氷のドラゴンを召喚する大技。
先程マリオネスを倒したのもこの技の発展バージョンである。
彼女は再度その技を繰り出す気でいた。
そのため、まずは氷のドラゴンを呼び出したのだ。
しかし。
【パ キ ン】
すぐに氷にヒビが入る。
パキパキと氷龍の身体に割れ目が生じていく。
見る間にドラゴンは亀裂だらけになった。
そして砕けた。
「な……ッ!」
レヴィアタンの顔が驚きに見開かれる。
繰り出した奥義が3秒と持たずに崩壊したのだ。
氷としての塊を一瞬しか保てずに。
彼女の氷を扱う技量はずば抜けている。
そのため、未熟故に技が不発に終わったわけではなかった。
氷のドラゴンを具現化させた、その過程でエレメントの活性化が抑えられ、氷エネルギーの供給が弱まったのが崩壊の原因であった。
「くうっ……!す、スピリット・オブ・ジ・オーシャンが……!」
自慢の氷のドラゴンが不発に終わり、彼女は動揺を隠せない。
まさかマリオネスの言う通りになるとは思っていなかったのだ。
道化師はそんな慌てる彼女に微笑ましそうに笑う。
「ふクク、ダカラ言ったデショウ。キミの氷のエレメントは封じたト」
「く……!ま、まだよ!」
レヴィアタンは動揺しつつも、まだ諦めてはいない。
今度は手を前にかざすと、再び技を行使した。
今度は大技ではない、通常技を。
「マリンスノー!」
彼女は手の先から氷の機雷を繰り出す。
キュインと小気味いい音がして、今度はちゃんと氷が発現した。
3つのマリンスノーが彼女の眼前に生成される。
すぐに壊れる事なく、立派なトゲトゲのある物体として構築された。
しばらくの間、形を保っているそれを見て、彼女はほっとする。
「よし……!行きなさい」
彼女の号令と共に、3つのマリンスノーは道化師の元へと向かう。
普段通りのスピードと精度で。
それを見たマリオネスは軽く舌打ちしてバックステップで後退した。そして鞭を振るってそれらを破壊した。
『シャリリリィ!!』
綺麗な破綻音を立ててマリンスノーが壊される。
レヴィアタンは少し悔しげな顔を見せたが、しかし手応えを得た。
「……ふふ、何だちゃんと氷の技も使えるんじゃない。てっきり全部の技が封じられたのかと思ったわ」
「ふん、流石に氷の小技マデ全てヲ封じレル程効いてはイナカッタようだナ。だが、大技の氷技に関シテはサッキの通り、もうキミは使えないヨ」
完全にはレヴィアタンの氷技は封じられたわけではない。
それが今の一連のやりとりでわかった。
マリンスノーのような簡易的な技なら使えると。
それを受けて彼女はほっとするが、"大技"に関してはマリオネスの言う通り使えなくされたのは確かなようだ。
これではマリオネスを仕留めるのはなかなか骨かもしれない。
精神世界でも、現実世界でも奴を倒した決定打はEX技だったからだ。
「くっ……確かにEX技が使えなくされたのは不覚を取ったわ。でも、その程度ならあなたを倒すのに十分よ」
「ほう、ボクヲEX技無しで倒セルつもりカイ?流石にキミと言えどそれは難しいンジャないかな」
氷の技の使い手であるレヴィアタンだが、彼がやられたのはいずれも超必殺技相手だ。
通常の氷の技相手ならばある程度以上に彼はやれる自信を持っていた。
「それはどうかしら?私はEX技が使えなくとも貴方程度倒せるわよ」
「クク、それは強ガリだネエ。キミの実力程度デハ、マリンスノーくらいならボクは捌いて御セルからネ」
「な、何ですって……!」
実力を下に見られ、レヴィアタンはカチンとくる。
彼女はフロストジャベリンを再び道化師に向けて構えた。
怒りの感情を敵に向けるように。
「なら、今すぐにわからせてあげるわ」
「ほう、面白イ」
妖将の怒りを受けて、しかし道化師は慌てない。
今精神的に優位に立っているのは彼の方だからだ。
彼女の全ての氷技を完全に封じるとはいかなくとも、EX技を封じる事には成功した。
それだけでも随分と心持ちは変わる。
1、2撃で致命傷になる技を受ける事がほぼなくなった事を意味するからだ。
レヴィアタンの氷の技は美しいが、攻撃力はそれほどあるわけではない。
EX技についてはそのウィークポイントを覆しているが、今それは使用不可の状態にある。
そのため、マリオネスはかなり気持ち的に楽にいられた。
(サテ、ではまずハこちらから行コウか)
彼は珍しく先手を取る事にした。
いつもならレディーファーストでレヴィアタンに第一手を譲る所だ。
だが、彼女の行動手はもう彼には読めている。
今の距離感なら、ほぼ100%例の技だ。
それを見越した上で、彼は罠をかけた。
彼女が前方に集中するであろうその一瞬で、彼女の下方にテリトリーを伸ばして展開したのだ。
彼女の足の下に鏡のゲートを発現させたのである。
レヴィアタンは、例の技を放つモーションに入っていたため、それに気付かない。
「やっ!やっ!やっ、、、きゃあ!」
技の掛け声の途中でレヴィアタンから悲鳴が上がった。
足の下に突如出現した光る何かに落ちたためだ。
それは鏡のゲート。
いや、落とし穴と言った方がいいか。
マリオネスによって設置された罠であった。
レヴィアタンは毎度のごとくホーミング弾を初手に用いるため、それを読まれて道化師に先手を打たれていた。
そしてそれに彼女は嵌まってしまった。
「キャーーー!!」
穴から真っ逆さまに下へ落ち、彼女は悲鳴を上げた。
どこかの空間に彼女は落とされたのだ。
周りを見ると、複数の鏡が存在している。
これは鏡のゲートの中のようだった。
(くっ……!何よここ……!)
慌てる彼女は周りを見回す。
どこかしこに鏡が浮いていた。
まるで落ちていく彼女を全方位から映すようにそれらは存在している。
眼下を見ると底は見えず、ただひたすら深い闇の底へと彼女は落ちていく。
ガ シ リ
「ッ……!」
ふと気が付くと、彼女の両足を何かが掴んでいた。
それは2つの影。
よく見るとそれはよく見知った顔だった。
「ま、マリオネス……!」
「ふふフフ、やあレヴィアタン」
「鏡の穴ノ中へヨウコソ」
気が付けば、2人のマリオネスが彼女の下半身に食い付くように掴んでいた。
落ちる彼女を逃がさないようにがっしりと。
1人は腰と臀部を。
もう1人は足に絡み付くように。【挿絵提供:秋原実様】
「ひゃあ! くう……!放しなさい!」
「ムフフ、イヤだネエ」
「このまマ下まで一緒に行こうヨ」
彼らは愉しそうにレヴィアタンに語りかける。
このまま共に底まで連れて行くつもりのようだ。
しかしそうなれば着地の衝撃で大ダメージは必至。
そうなるのだけは避けなければならない。
「そうはさせないわよ……!」
彼女は間髪入れずに撃退行動に出た。
手に持つフロストジャベリンを思い切り振って薙いだのだ。
空中でのウォーターサークルである。
それと共に彼女はマリンスノーも槍に付与していた。回転切りを繰り出しつつ、氷の機雷も円状に放ったのだ。
2人のマリオネスはそれらの連撃をもろに受けた。
「ぐああ!」
「ぐおウ!」
2つの苦悶声が上がる。
しかしすぐに声のトーンが変わった。
「「ナンテネ」」
「っ……!」
マリンスノー、そして槍の切りつけ。
そのダブル打撃が確かに2人のマリオネスを捉えていた。
だが、それは手応えなくすり抜けていた。
彼らの身体に実体がなかったからだ。
いや、途中までは確かに実体があったのだ。
しかし、レヴィアタンが攻撃を放つ瞬間、彼らは彼女の足を話して距離を取っていた。
その瞬間に、彼らはとあるギミックを行使していた。
それは"視覚錯覚"の技術である。
空中で落ちながら場所を巧みにズラす事で、周囲にある鏡の光の反射角を複雑に乱反射させる事に彼らは成功していた。
その瞬間、妖将の瞳に映る彼らは実像から虚像にすり替わっていた。
それに気付かずに彼女は虚像がいる位置に技を放ってしまったのだ。【挿絵提供:タツナ@skeb募集中様】
彼らの身体を機雷がすり抜けたのを見て、レヴィアタンははっとした。
同時にウォーターサークルの切りつけも、霧を晴らすように空を切ってしまう。
(こ、これは、鏡の虚像……!)
彼らの後ろにはよく見ると光る板が見える。
それは鏡だと彼女は少し遅れて気付いた。
彼らは周囲に浮かぶ鏡を利用して視覚を錯覚させて技を外させたのだ。
(し、しまった……!や、やられたわ)
レヴィアタンは上手く鏡の虚像で欺かれ、動揺する。
本物だと思っていた彼らは、離れた一瞬の内に虚像に変わっていた。
では実体の方はどこにいるのか。
「ココダヨ」
「はっ…!」
真後ろから声が聞こえ、彼女は慌てて振り向き様にそちらを攻撃する。
槍をぶん回すように薙いで。
だがそれは悪手だった。
「残念、ボクは虚像ダよ」
「なァ…ッ!」
背後に居たのは偽物のマリオネスだった。
声だけを反響させて真後ろに本物がいると錯覚させたのだ。
しかしそれもまた道化師が視覚錯覚で見せた虚像。
気配の有無で本来なら把握できるはずなのだが、落下による焦りのせいで彼女は今それが満足に出来ていなかった。
彼女の回転切りはまたしてもすり抜けて空を切る。
そして、その背後から今度こそ本物の男が姿を表した。
霧の中に紛れるように身を潜めていたマリオネスが躍り出てきたのだ。
彼は瞬時に強烈な蹴りを彼女の背中に叩き込む。
ド オ ン ! !
「きゃあ!」
背中にもろに蹴りを受けた彼女が吹っ飛んだ。
前方に一気に彼女は押しやられる。
そこには1つの丸い鏡があった。
空気を切り裂くようにそこへ到達すると、彼女はそのまま鏡面の中へ吸い込まれたのだった。