ロックマンゼロ -episode leviathan- 作:プレイズ
背中を強烈に蹴られた勢いでレヴィアタンが前方に吹き飛ばされる。
その先には丸い大きめの鏡があった。
彼女はそこへぶつかる形になったかに見えたが、鏡面にぶち当たる事はなくそのまま鏡の中へと入っていく。
鏡面は固形ではなく片面が"ワームホール"になっていたためだ。
鏡の中へ飛ばされる形になったレヴィアタンは、奥の床へと跳ねるように落ちた。
「ぐうっ!」
今度は固い地面に打ち付けられ、彼女は呻き声を漏らす。
床を転がりながら、彼女は何とか近くの突起を掴んで身体にかかったGを止めた。
咄嗟の反応で彼女はどうにか"転落"を免れる。
(こ、ここは……!?)
鏡の中に蹴り込まれる形になり、彼女は慌てて辺りを見回した。
すると、視界には長い棒状の床が目に入った。
まるで大きな時計の針のようなそれは、彼女の足元の眼下に伸びている。
これは、少し前に見た覚えがあるものだ。
(これは……さっきの場所にあった時計の針……!?)
彼女は思い出す。
時間制限つきの、危険な仕掛けが施された時計針の亜空間を。
その場所とここは酷似していた。
周りを見渡せば、宇宙空間のような星空が広がっている。
壁のようなものはなく、ただひたすら星々が空間の奥まで散在しているのだ。
ここはまるで亜空間。
先程の場所のデシャヴであった。
ただし、眼下にある時計針の色は赤から緑に変わっている。
そこだけが違うが、時計盤のメモリはしっかり針の下に存在しており、ローマ数字のインデックスも同じようにしつらえられていた。
彼女は今、またしても巨大な時計盤の上に降り立つ形となっているのだ。
彼女は長針のへりを掴んで、何とか落ちずにとどまる形になっている。
「ふふフ、落ちズニ耐エルとは流石だネエ」
「!」
いつの間にか、彼女の前方に1人の男が降り立っていた。
上方奥の鏡から現れた、道化師の姿がそこにはあった。
彼は軽やかに向かいの短針の上へと降り立つ。
「マリオネス…!よくも蹴飛ばしてくれたわね……!」
「ふふ、悪いネエ」
「ここは、さっきと同じ空間なの……!?」
レヴィアタンが困惑と焦りを隠せない様子でマリオネスに問いかける。
また時間制限があるなら、早く奴を倒さなければまずい事になる。
さっきの空間では、乗っている大時計の長針が1周するまでにマリオネスを倒さなければ、永遠に亜空間に幽閉されるというルールだった。
そして今も彼女は同じように大時計の針の上に乗っている。
「同じダヨ?さっきト同じ特殊空間サア。キミが今乗っている針……長針が1周するまでにボクを倒せなケレバ、キミは永遠にココからデラレナイ」
「なっ……!」
レヴィアタンの肩がビクリと跳ねる。
やはりここはさっきと同じ空間なのだ。
長針が1周するまでにマリオネスを倒せなければ、永遠にこの亜空間に幽閉されてしまう。
彼女は焦った。
さっきは危険なこの場所での戦闘を強いられたが、まだ超必殺技であるEX技が使える状態でのバトルだった。
だが今はそれが使えない。
通常の氷技と槍技のみで奴を倒さなければならない。
針が1周する12分間以内に。
「くぅッ!」
レヴィアタンはすぐさま戦闘体勢に入った。
チャキり、とジャベリンを前方の道化師へと構える。
奴の顔は憎たらしいほど余裕を持って三日月に歪んでいる。
「喰らいなさい!」
発声と共に彼女の槍からミサイル弾が放たれた。
「やっ、やっ、やっ!」
「ふフ」
彼女得意のホーミング弾。
お馴染みの十八番だが、彼は落ち着いた様子で軌道を見極める。
その場で軽く飛んでーーいや、小刻みに高速でステップを踏んで、彼はそれをかわした。
大きくジャンプをする事なく。
弾筋を完全に把握している彼は、最低限の動きだけでホーミング弾3発を回避していた。
「くっ!」
攻撃をあっさりとかわされ、レヴィアタンは唇を噛む。
本来ならば次は氷の輪を打つ所だ。
だが、今の様子では奴はそれを"わかっている"。
ホーミング弾を初撃に使ってくる事を彼は読んでいるのだ。
思えば、彼女は最初にそれを使うパターンがあまりに多かった。
そのためマリオネスも攻撃パターンを読みやすくなり、ミサイル弾の軌道も把握されてしまっている。
(よ、読まれているわ……!次に氷の輪を出すのはやめておいた方がいいかも)
連動して氷の輪を繰り出す気でいた彼女は、踏みとどまって違う技を選択する。
今のやり合いで彼は比較的近距離にいた。槍の届く間合いだ。
(なら……!この技よ)
小刻みに手前で回していたフロストジャベリンの回転軸を彼女は一旦止めて、持つ部位を組み直す。
そして間髪入れずに大回しをぶっ放す。
「はっ!」
ウォーターサークルが繰り出された。
強力な槍の大旋回が彼女の周囲を一回転する。
それは範囲内にいたマリオネスにも当たった。
いや、当たったように見えた。
しかし手応えはなく"すり抜ける"。
当たったはずのそれは虚しくも虚空を通り抜けた。
「なぁ…!」
「ふフ、ザンネン。ボクハ虚像ダヨ」
半透明になったマリオネスが妖将に微笑む。
彼女は気配を読んでいた。
しかし、読み違えてしまった。
焦っていたのもあり、そして本物の彼が微妙にだけ範囲外の後ろに下がっていたからだ。
彼は視覚錯覚で虚像をウォーターサークルの範囲内に映し、彼女にその技を選択させていた。
だが姿を消した本物の彼はそのギリギリ範囲外に陣取っていたのだ。
虚像と本物の位置関係は僅か1歩分。
気配を読み違えてしまうのも無理はなかった。
範囲内に虚像を見せて接近技をあえて選択させ、そして本物の自分はそれを安全に回避する。
気配、立ち位置、視覚錯覚を巧みに利用して彼は妖将の目を欺いてみせた。
そして、今度はすぐに間合いを詰めにかかる。
素早いステップで、彼は針の上を滑るように前進した。
まだレヴィアタンは大回ししたウォーターサークルを回し終えていない。
切っ先が前を通り過ぎた直後に、彼はすぐ間合いを詰めていたからだ。
そのため彼女の攻撃が終わり切る前に間合いを詰める事が出来ていた。【挿絵提供:りり様】
「なぁ……!」
「ふフ、今度はボクが間合いだヨ」
不気味に笑う道化師の顔が眼前に出現していた。
消えていた本物が姿を表したからだ。
ウォーターサークルを放った直後にゼロ距離に彼に間合いを詰められた。
彼女は気配察知が一瞬遅れた事で、奴に懐に入られてしまう。
そして、彼は彼女の上体を両手で掴んだ。
そして、間髪入れずに"投げた"。
「そぉレッ!」
「ひゃあ!?」
ぶんっ、と捻り回すように彼は妖将の身体を空中へと投げた。
勢いをつける形で奥へと投げつけたのだ。
そこはもちろん時計針の外。
足場を失った彼女は針の下へと落下する。
「きゃああーーっ!」
広大な宇宙空間に彼女の悲鳴が木霊した。