ロックマンゼロ -episode leviathan- 作:プレイズ
悲鳴を上げながら亜空間を落下していくレヴィアタン。
その底は深く、深淵の闇が拡がっていた。
その中を彼女は恐怖と絶望の中、堕ちていく。
「はっ……!」
と、そこへふと彼女は異物を見つけた。
下方の横を見ると、何か光る物が見えたのだ。
それはよく見ると縦に伸びる板だった。
板状の光る長い板のような物がそこには存在していた。
(あれを利用すれば)
彼女はすぐに対応策を思いつき、実行する。
壁の横まで来ると、そこに手を沿わせていく。
そして足の先を強く叩きつけた。
「はあっ!」
その反動を利用して、彼女は壁を蹴る。
蹴った勢いで落下の勢いが削がれ、止まった。
間髪入れずに2叩き目を蹴りつける。
今度は身体が上に上昇した。
蹴りの反動を使って上方向に向かわせたのだ。
手は壁につけては離し、足は小刻みに壁を蹴りつける。
それを繰り返す事で、"壁蹴り"となる。
上手く壁を蹴り掴みながら、レヴィアタンはどんどん壁を上方へ登っていく。
そして壁の上端まで来た所で、フロストジャベリンを大回転させた。
ウォーターサークルだ。
その終端を壁の上端に叩きつける。
すると、反動で彼女の身体は思い切り上に持ち上がった。
強力なウォーターサークルの打撃を反作用として大ジャンプに利用したのだ。
空を飛んで一気に上昇した彼女は、元の時計盤の上にまで到達する。
そして元の長針の所で調度止まり、降り立った。
再び青い時計針の上に。
「ほう」
「はっ、はっ……!」
何とか時計針の元に回帰した彼女に、マリオネスは少し驚き、そして笑みを浮かべた。
レヴィアタンの方は余裕がなかったため、息を乱している。
「これは驚イタねえ。マサカまた戻ってクルトハ」
「わ、私を舐めるんじゃ、ないわよ」
はあはあと息を荒げながら彼女は道化師を睨む。
咄嗟に配置物を利用しての壁蹴り、ウォーターサークル、大ジャンプの流れは流石の動きと言えた。
いつの間にか時計の針は進んでおり、【Ⅳ】の箇所を明示している。
今の攻防で数分時間が経過してしまったのだ。
彼女は焦りを募らせながら、次の策を考える。
いや、もう考え付いていた。
「流石ハ妖将。ヨク戻ってキタナ。だがEX技の使えないキミにはもう打つ手ハナイヨ」
余裕の笑みを浮かべながらマリオネスが言う。
彼女の技はどれも既にほぼ把握している。
多少被弾した所で、攻撃力はウォーターサークル以外はそれほどでもないため致命的にはならない。
そしてウォーターサークルは視覚錯覚や分身を使えばかわすのはそこまで難しくはない。
他の氷の技などは多少喰らっても"制限時間"を耐え切る事は十分に可能だ。
EX技以外の彼女の氷はそれほどダメージ力はないからである。
「フ、フフ……それはどうかしら」
彼女は槍を支えにしながら不敵な笑みを浮かべた。
その瞳には確たる自信が宿る。
さっきの落下中に彼女はとある策を思い付いていた。
周りには無数の鏡が囲むように浮かんでいた。
それを利用すれば、効果的な攻撃が出切るのでは……?
そう彼女は思い立ったのだ。
「さあ、行くわよ!」
フロストジャベリンをぐるんと回し始める。
高速で彼女は槍を回転させていく。
その軌道上には複数の氷の塊が生成された。
これまでよりも多い数の機雷が。
「ふ、ナニカト思エバ氷の輪か。そんな小技は効かナイヨ」
「ほんとにそうか、試してみる?」
言うが早いか、レヴィアタンの元からキラキラ輝く水色の星が拡散した。
ただしマリオネスの方にではない。
周囲360°全方位に広がるように放ったのだ。
煌めく氷の塊が周囲に散っていく。
そしてそれらは辺りに散らばる鏡に吸い込まれていった。
「ナニ!?」
この光景にマリオネスは驚いた。
鏡を逆に利用された形だ。
レヴィアタンをどこからでも攻撃出切るように張り巡らせて配置していた鏡。
そのゲートをレヴィアタンに逆に反撃に使われたのである。
鏡はそれぞれ別のゲートに通じている。
それは当然マリオネスの元に通じているものも複数あった。
つまり、彼女が放った氷の機雷もーー。
シャリリイィイ!!!
「ぐ、ああ゛アッ!!」
絶叫が道化師の口から木霊する。
周囲の鏡から射出された5、6個の水色の機雷が近距離から彼へと着弾したのだ。
鏡を周囲にいくつも散在させていた事が裏目に出た形。
複数の機雷ダメージを受けた彼のHPゲージが大きく減少する。
1つ1つの機雷には攻撃力がそれほどないが、それが連なれば削られるHP量も大きくなる。
「ぐ、おぁ、、、!」
「フフ、上手くいったようね……!」
策が嵌まり、レヴィアタンから笑顔が覗く。
劣勢だった所で起死回生の妙手であった。
ガチャン!!
だが時計針がさらに運針を進める。
針はⅤのインデックスを指し示した。
レヴィアタンはビクリと肩を震わせる。
残り時間は後半分ほど。
さらに彼女は畳み掛ける。
(もう1度よ!)
くるくると再び妖将の両の手が高速周回を始める。
続け様に技を発動したのだ。
みるみるジャベリンの軌道上には氷の粒が生成されていく。
「はあっ!」
そして間髪入れずに彼女は発声した。
その声と共に、氷の輪が打ち放たれる。
それはまたも直線状ではなく、360°の全方位にキラキラと輝きながら飛んで拡散していく。
それは周りの至る所に配置されていた鏡の中へと吸い込まれていく。
そして、そのゲートの先のいくつかにはマリオネスの姿があった。
再び爆音が彼の元で響き渡る。
「ぐあアぁあッ!?」
またしても道化師から叫びが上がる。
透過でやり過ごそうとしたが、かわせたのは数個だけ。
その近くに本体が存在しているのは避けられないため、彼は複数の氷の機雷を被弾していた。
中ダメージが彼へと入る。
ガチャン!!
時計針がさらに進行する。
レヴィアタンが乗る大針が動き、Ⅵの文字を針が指した。
「ぜえ、ゼえ……!」
焼け焦げた身体を押さえつつ、マリオネスが呻く。
わずか2ターンで彼のHPは5分の1にまで減ってしまっていた。
侮っていた通常の氷の技で大きく削られてしまったのである。
「さあ、これで形成逆転ね」
レヴィアタンが微笑んで言った。
攻撃が通用した事で、彼女は落ち着きを取り戻している。
「ちぃ……いい気にナルナよ、レヴィアタン」
道化師は一瞬顔をしかめたが、だがすぐにまた三日月に笑い出す。
彼はパチンと指を鳴らした。
すると、周囲に点在していた鏡がすうっと薄らいでいく。
そして5秒と経たずに消え失せた。
「な……!」
方々に点在していた鏡が全て消えてしまい、レヴィアタンは意表を突かれる。
あの鏡はマリオネスの魔力によって作られているため、出すのも消すのも彼の匙加減次第なのだ。
ガチャン!!
時計針は容赦なく進み、Ⅶのローマ数字を指した。
真下の時計針が大きく動く度に、妖将の肩がビクリと跳ねていく。
「さあ、コレでもう今の小細工ハ使えナイヨ」
「くっ……!」
折角思い付いた効果的な策だったが、即座にそれを潰してくるマリオネス。
レヴィアタンに負けず劣らずの頭の回転力も彼は持っていた。
「サ、そしてキミノ見ているボクは本物に見エルかい?」
「え…?」
彼女は周囲の鏡が全て消え失せた事に気を取られている。
そのため、気配察知が少々甘くなっていた。
そして彼に指摘されて気付いた。
目の前の彼が本物ではないことに。
(し、しまっ……!視覚錯覚だわ!)
よく感覚を探知すれば、前方の視界に映る彼は気配が弱い。
偽物の擬態に惑わされた。
では本物はどこに?
彼女が気配を探って感知する、それよりも早くそれは彼女の元へ迫っていた。
重い一撃が、その華奢な身体のどでっ腹に打ち込まれたのだ。
ド オ ム !
「ごふぅ!」
お腹に強烈な打撃を受け、レヴィアタンの身体が宙に浮く。
見れば懐に何かがめり込んでいた。
それは道化師の膝であった。
いつの間にか姿を消した彼がゼロ距離に近付いていたのだ。
そして膝蹴りを無防備なお腹に喰らわせたのである。
「こふうッ…!」【挿絵提供:Asariカレー@skebリク募集中様】
身体をくの字に折られるレヴィアタン。
反動で生唾が吐き出される。
ガチャン!!
尚も時計針は進行する。
Ⅷの数字を針が指し示す。
「かはぁ…ッ!」
超速の蹴り技にさしもの彼女も反応し切れない。
気配探知が遅れて惑った隙を、道化師は逃しはしなかった。
さらに、彼女は絶望的な事に気付く。
膝蹴りをされる際に、奴に頭を押さえつけられていたのだ。
道化師に頭を触られるとどうなるか。
強制睡眠で眠らされてしまう。
「しまった……ッ、、」
はっとしたレヴィアタンは頭上の腕をあわてて払い除ける。
だが遅かった。
既に頭に腕は置かれた後。
当然、"催眠効果"も作用する。
「あふ、ン、、!」
ふらりと彼女の足元がくらつく。
そしてそのまま倒れ込みそうになった。
だが、
ザ シ ュ リ
「!」
マリオネスは目を見開く。
眠りこけると思われたレヴィアタンが自らを切り付けていた。
槍の刃で自分の脇腹を裂いたのだ。
「はぁ、はぁ……!」
「ホウ、まさか自分の身を傷付けて眠り落ちを回避するトハ」
まさかの自傷にマリオネスは驚く。
彼としては妖将がそんな手に出るとは思っていなかったのだ。
だが、それによって彼女は本来なら眠りに落とされる所を強制的に痛みで回避してみせた。
咄嗟の対処だが最適な対応法だったと言える。
ガチャン!!
だが時計針はさらに進み、Ⅸのインデックスに至る。
残り時間は3分を切ってしまった。
「ぐぅ……!お返しはさせてもらうわよ」
「ぬフフ、出切るものナラやってミレバいい。モウ周りに鏡はナイシさっきノ手はツカエナイ」
余裕を取り戻したマリオネスが嘲笑う。
もうタイムリミットは僅かだ。
周りを取り囲んでいた鏡がなくなった以上、先のやり方は使えなくなった。
この状況ではもはや道化師の勝利は揺るがない。
だが、それはレヴィアタンにとってはデメリットだけではなかった。
「行くわよ!」
彼女は威勢よく叫ぶと、前方に突進を開始した。
小刻みなステップで間合いを詰めにかかる。
珍しく"いつもの技"ではない初手に少々道化師は虚を突かれた。
(ふふ、珍しイ。やっ、やっ、やっ!ジャナイのか)
脳内で微笑ましく苦笑しつつ、彼は余裕で対応する。
いつものように視覚錯覚で姿を消せばいいからだ。
そして本物の自分の位置を少し横へズラしてやるだけでいい。
そうすれば彼女は突きの軌道を勝手に外してくれる。
しかし。
ザシュリ!
「ぐお…ッ!?」
妖将の槍はそのまま彼を貫いていた。
何故か本物の彼の位置を的確に見抜いて打ち込んできたのだ。
「ガあ、、!な、何故……!?」
「どうやらあなたは理解していないようね」
レヴィアタンが少しほっとしたように呟く。
そして続けた。
「さっきあなた自身が周りの鏡を全部なくしちゃったじゃない。そんな事をすれば光の反射の屈折をズラすギミックも当然使えなくなる。そうなれば私は虚像を見せられる事もなくなるの」
「ナ゛、、そ、ソンナ馬鹿な、、!」
彼はレヴィアタンに指摘されてやっと思い至った。
鏡の光ギミックのおかげで自分は虚像を彼女に見せれていたのだ。
その元手である鏡を取っ払ってしまっては、光の反射を屈折させるギミックは使えなくなる。
そのせいで今彼は妖将の五段突きをもろに喰らってしまったのだ。
彼女の突きは鋭く、実は攻撃力も高い。
これまでは反射ギミックと分身によってほとんどかわせていたから問題化していなかったが、喰らってしまったら話は別。
彼は少ないHPゲージを残り僅かな所まで減らされてしまった。
ガチャン!
「!」
「!」
音と共に、時計針が動いた。
メモリを見ると針の先は【Ⅹ】の所を指している。
制限時間は残り2分だ。
「くっ…!」
「ふ、フふ。悪いがボクの勝ちのヨウダネエ。あと2分くらいナラ逃げ切ってミセルヨ」
腹を貫かれて苦悶の顔を浮かべつつも、道化師はまだ三日月の口を崩さない。
彼はおもむろに槍を握ると、次の瞬間高速でバックステップした。
そして槍を身体から引き抜いた。
ズブリ、という音と共に何とか彼はフロストジャベリンの貫きから逃れ出る。
「し、しまった……!」
「ふふ、じゃあネえレヴィアタン。僕は下に逃げさせてモラウヨ」
そう言うと彼は時計針の下へと飛び下りた。
針の下は広大な宇宙空間が広がっている。
その中へと彼は身を投げたのだ。
「なっ……飛び下りた…!?」
下へと身を躊躇わずに落ちる道化師に、彼女は意表を突かれる。
宇宙空間の中をマリオネスは突っ切るように降下していく。
しかしここは彼の作り出した特殊空間。
何もなく底まで落ちて死亡……とはならない。
何故なら彼をアシストする物が存在しているからだ。
「あ…っ、あれは……!」
底の闇の中にある物を見つけ、レヴィアタンははっとなった。
そこには光る壁のようなものがあった。
落ちていく道化師の傍に縦に伸びる形で存在している。
さっき彼女が命拾いした光る壁と同じようなものらしい。
マリオネスはその光る壁に手を沿わせると、擦りながら降下していく。
そして、先程レヴィアタンがやったのと同じく、足を叩きつけて勢いを殺した。
彼は壁を蹴りつつ落下を止めて、手を沿わしながら壁を蹴っていく。
まさに壁蹴りだ。
レヴィアタンのやった事を真似るように、いや当初からこれを想定していたかのように、彼は壁蹴りを始めた。
「くっ、あいつ……!」
壁蹴りをする道化師だが、しかしレヴィアタンと違って上に上がってはこない。
その場で壁を蹴っては擦り落ち、また壁を蹴っては擦り落ち、を繰り返している。
つまりその場にとどまっており、上がってくる様子がないのだ。
彼のいる地点はレヴィアタンから見て約50mほど下方の場所。
このままそこで壁蹴りを続けられては、攻撃がとどかず逃げ仰せられてしまう。
「くぅっ!小賢しい真似するじゃない!」
焦りを募らせながらレヴィアタンが舞った。
彼女も躊躇なく時計針の上から飛び下りたのだ。
星が瞬く星空の中を妖将の身体が急降下していく。
だが彼女はただ身を投げたわけではなかった。攻撃を兼ねての落下だ。
「はあーーっ!」
フロストジャベリンを真下へ向けて構え、彼女は体重を乗せて切っ先を下方へと突き込む。
そして落下の勢いを乗算させてパワーを増す。
彼女の技の1つ【スピア】が炸裂していた。
下方にいるマリオネスに向けて狙いを定めて霹靂降下していく。
「ちぃっ!小娘メ!」
物凄い勢いで落ちてくる彼女にマリオネスは冷や汗をかいた。
残りHPを考えれば、喰らえばやられてしまう。
壁蹴りをその場で続けていては降下攻撃を受けてジ・エンドだ。
ならば迎撃する。
彼は上を向いて、口を大きく開けた。
そして光る球体を吐いた。
チャージをしている時間はないため、小中サイズを2連発が限界だ。
しかし彼女の勢いを殺すには十分。
そう彼は考えた。
しかしそれは甘かった。
レヴィアタンはその反撃を予測していたからだ。
「甘い!やーーッ!」
槍の切っ先からホーミング弾が1発だけ発車された。
それは彼女の切っ先よりも早く下方へと先行する。
スピアの動作中に彼女はホーミング弾も加えて放っていた。
EX技は使えなくされたが、トルネード・スピアの応用でこれくらいの芸当を彼女は出切るのだ。
落下してくるホーミング弾がマリオネスの光弾と衝突した。
2つのエネルギー弾は縦長1発のホーミング弾と相討ちになり、2人の手前で爆発する。
「ナニイ!?」
まさか対応されると思っていなかったマリオネスは驚きに目を見開く。
そして、その直後から妖将の身体が姿を表した。
鋭い槍の切っ先を真下へと向けて。
「ハァーーーッ!」
ドシャァガアァン!!!
轟音と共に、刃先がドリルとなって道化師の仮面を射貫く。
きりもみとなった彼女は回転まで加えてスピードを増させていた。
そのブースト効果が加わり、道化師のブロックよりも早く彼を貫いていたのだ。
彼の僅かに残っていたHP残量もろとも。
「ぐ、あ、アァ……」
渾身の一撃を喰らったマリオネスは二度目となる感覚を味わう。
またしても妖将の女にやられてしまった。
それも魔封じの儀を施し、EX技が使えなくなった彼女相手に。
通常技の応用だけで自分は倒されてしまったのだ………。
「ち、ちくしょオーーーー!!?」
断末魔の叫びを上げてマリオネスは膝をついた。
ーーーーーーー
全身のエネルギーを両腕に集中させ、渾身の一突きを繰り出す。ジャベリンが珠玉の矛となり突き抜ける。何かの外殻を貫いた感覚──確かな手応え。
「ぐがあッ……!」
呻きとともに道化師がくず折れる。同時に周囲の宇宙空間が霧散した。
星々の瞬きは薄れ、元の紫鉱石の場所へと戻っていく。
最後の瞬間、上方にある時計針は【Ⅺ】を明示していた。
ラスト1分を切っていたが、何とか制限時間内にマリオネスを倒し切ったのだ。
「やった……!」
彼女の突き降ろしは見事に本物のマリオネスを捉えていた。
それも完璧に貫いた突き刺し。これで一撃とはいえ相手にはかなりのダメージが入った。
それにより、道化師のHPゲージは0となった。
会心の矛突きが決まり、レヴィアタンは喜びに歓喜する。
しかし。
その一瞬のぬかりは彼女に隙を生んだ。
前方で膝をつく道化師にだけ、注意を集中させてしまう。
背後から彼女を狙う者がいるとも知らずに。
勝利の直後、太い腕が素早く後ろから彼女の腰に巻き付いた。
「えっ……?」
不意に腰をホールドされ、彼女ははっとなる。
背筋に氷塊が這うような悪寒。反射的に身を翻せば、そこには1つだけ鏡面が浮遊していた。そして次の瞬間、見覚えのある白い大きな“笑顔”が鏡に映った。
「な、まさか……!」
「ぐふふ、うしろがおるす レヴィアタン」
「し、白饅頭……!?」
鏡の奥に出現した白い大男が、不気味な視線で狙いを定める。彼は以前に何度かレヴィアタンに不覚を取らせている雪で出来た中型のレプリロイドだった。今回も隙が生まれたレヴィアタンを背後から襲ったのだ。
「な、なぁ…!?」
「ふ ふ ふ。相変わらず 隙が 多い 娘」
不気味に笑んで彼は彼女の腰をがっしりとホールドする。
完全に組まれてしまったレヴィアタンはしまった、と焦った。
「あ、あなたはもう倒したはずよ……!何でまだ生きて、、!」
「ぐふ それは 精神世界での 話」
「っ……!」
彼女は思い出した。
白饅頭ことスノウスレイヴマンとの戦闘を。確かに彼女は奴を倒していた。
しかしそれは精神世界での話であり、現実世界ではまだ倒していなかったのだ。
「しま、しまった……!?」
「ぐふ おバカな やつ」
勘違いに今更気付いた彼女に、スノウスレイヴマンがほくそ笑む。
一方、前方からは道化師がいつの間にか立ち上がっていた。
「ふフ、かかったネエ」
「! マ、マリオネス…!」
はっとして彼女は再び道化師の方に首を戻した。
彼は腹を深く貫かれていて致命傷のはずだが、まだ息があった。
いや、HP残量が0になり死は確定しているが、絶命するまでに若干の猶予があるのだ。
もう死へのカウントダウンは始まっているのに、だが彼は落ち着いていた。
「キミは相手がボクだけだと思っテイタようだケド、まだそいつもイル。ボクはヤラレタけど挟撃が見事にキマッタねえ」
「くっ…!隠れて挟み撃ちなんて卑怯よ!」
「くく、敵との戦闘デハ相手は何でもシテクルモノ。甘いノハキミの方サ」
敵に隙を見せた妖将に微笑ましく笑うと、彼は命令を降す。
「さ、ヤレ。スノウスレイヴマン」
「あ い」
「ちょ……待っ、、!」
レヴィアタンが慌ててストップをかけようとした。
両足をばたつかせて何とか拘束から逃れようとする。
その様子は反対側のマリオネスから見ればとても可愛い仕草だった。
しかしスノウスレイヴマンの白い巨腕はそのまま彼女をワームホールの中に引っ張り込んだ。
抗えない程の凄まじい力で。
そのパワーに呑まれるように、妖将の両足が跳ね上がる。【挿絵提供:自分 ⭐ただし、これは暫定イラストです。依頼している挿絵が完了次第差し替えの可能性あり】
「きゃあッ!?」
悲鳴を上げて彼女が惑う。
体格差のままにレヴィアタンは一気に大鏡に取り込まれた。
その光景を死にゆく道化師が微笑ましく眺めていく。
「ふふ……最後まで可愛い子ダネ。もうボクは絶命するケド、、、これだけ長イ時間、愛らしいキミト戯れラレテ幸せダッタヨ。トテモ、トテモネ。サア、最後の敵トやり合ッテくるとイイ。キミが君の事をお待ちカネだよ」
意味深な事を言って、マリオネスは含み笑いを浮かべた。
倒されて身体が消えゆくにも関わらず、恐怖してはいないようだ。
妖将レヴィアタンと長きに渡りこの鏡空間で接して戦ってきたのは彼の本望でもあった。
結果彼女をマリオネットにする事はあと一歩で叶わなかったが、それでも彼は満足していた。
殺されるなら愛しの彼女に殺られたいと思っていたからだ。
自分の予想を上回る実力を発揮した彼女に倒される事で、彼はむしろ充実さを抱いていた。
「サラバダ……ボクの可愛イ妖将ヨ」
消えゆく身体は泥土状になり、薄れていく。
レヴィアタンはそれを視界の端で確認した。
これで何とか奴を倒す事が出来た。
しかし、その隙を突かれて背後から白饅頭にホールドされ、鏡に連れ込まれてしまった。
歓喜も束の間、彼女は不思議な鏡の中にまたも取り込まれてしまったのだった。