ロックマンゼロ -episode leviathan- 作:プレイズ
「ーーやはりこうなったか」
モニター画面の状況を確認して、1人の男が溜め息をついた。
今し方行われていた道化師と妖将のバトルを終始見ていた彼は、その結末に少しだけ落胆する。
自身が支援していた道化師の方はあえなく彼女にやられてしまった。
だが意外な結果ではない。
むしろマリオネスは相当に善戦した方だ。
格上の妖将に随分と手を焼かせ、EX技や応用技まで出させたのだから。
「まあ仕方ないか。相手はかの妖将レヴィアタン。優秀な女傑相手だ。やられるのは致し方ない」
ファシュロカはレヴィアタンとマリオネスの戦いを遠くから監視カメラで監視していた。彼はマリオネスと内通しており、マリオネスとレヴィアタンの戦いを通してレヴィアタンの戦闘データを得る魂胆だった。そして目的は達成され、レヴィアタンの有益なデータが採集されていた。
その場所で彼は静かに佇んでいた。静謐な空気が周囲を支配している。
周りには余計な物は置かれておらず、ただ大きなモニター画面があるのみ。
"解析"の間とは名ばかりの、殺風景なコンクリートの小部屋。
ファシュロカはその中心で一人、壁一面を占拠する巨大なモニター群を見つめていた。照明は青白い非常灯だけが灯り、彼の鋭い顔立ちを陰鬱に照らし出す。
「……ふん」
彼は短く鼻を鳴らし、目の前のメインモニターに映し出されていた道化師マリオネスの最期の姿を見届けた。レヴィアタンの一撃がその腹部を深く抉り、生命力が急速に失われていく様は残酷だが、科学者肌の彼にとっては興奮すべきデータ収集の終焉に過ぎなかった。
「やはり格が違う。あのマリオネスの分身や錯覚といったトリッキーな戦術すら、最終的には妖将レヴィアタンの圧倒的な氷能力と判断力で突破されたか」
ファシュロカは指先で端末を操作し、先程までの激闘をまとめた解析結果を表示させた。そこにはグラフや数値が羅列され、レヴィアタンの技ごとの攻撃力、行動パターンの傾向、特定条件下での反応速度などが克明に記録されている。
「氷のエレメント制御の精密さは我々の想像を遥かに超えている。EX技だけでなく、基礎技である氷の輪やマリンスノー一つとってもエネルギー効率が桁違いだ。これがエックスの血統の実力か……実に興味深いな」
彼は満足げに頷きながらも、その表情は冷静で一切の感情を感じさせなかった。
「まあ良い。彼女に関する豊富なサンプルデータは十分に取得できた。当初の目的は果たされたとみてよいだろう」
マリオネスの敗北は計算外ではあったが、戦略的には彼にとって失うものはほとんどなかった。むしろ協力者としてのリスク分散が功を奏したと言える。レヴィアタンという未知の強者を間近で観測でき、彼女の戦術を直接収集できたことは莫大な価値を持つ。
「前回までのデータを合わせてかなりのデータ収集が叶ったと言える。戦闘データはもちろん、他の情報も色々と手に入った」
口の端を少し緩めてファシュロカはモニター画面を再び見やる。
そこにはレヴィアタンの様々な映像が映し出されていた。
初戦のバトルで道化師の視覚錯覚に翻弄された場面が。
ゼロ亜種に頭を撫でられて満更でもない様子を見せてしまった場面も。
そしてジャグリング技の締めにスノウスレイヴマンに捕まった場面。
いくつもの過去映像がそこには映し出されていた。
「くく、あの娘の可愛らしい映像データが撮れたのはよしとしようか」
映像を見て微笑ましく笑い、男は呟いた。
ちなみにこれはマリオネスが得た映像データである。
鏡セカイで各所に配置していた監視カメラの映像を、道化師は記録して収集し、データとして解析していた。
それは彼の個人的な趣味のためである。
気に入った彼女の、戦闘に限らない傾向データを分析するのも彼の目的だったのだ。
鏡セカイの各所にそのためのカメラ機材を彼は設置していた。
どれも鏡の視覚錯覚を利用して他人からは見えなくしていたため、レヴィアタンは気付かなかった。
彼女は知らず知らずの内に、道化師によってデータ映像を録られていたのだ。
そしてそれを最後に逃避する前に、彼は個人用にメモリー媒体に抜き出していた。
しかし、その彼は妖将に倒された。
彼が持っていたデータはその時に一緒に粉々になったはずだった。
なのに、今男はこうしてそのデータ映像を見る事が出来ている。
「マリオネスには感謝せねば。奴のおかげでこうした資料を得る事が出来たのだから」
彼は既にいない道化師に賛辞を送る。
生前、彼らは繋がりがあったのだ。
マリオネスが所属する組織、ミラージュの資金援助を彼は行っていた。
その見返りとして様々な情報を彼は得ていた。
妖将レヴィアタンに関する戦闘データの情報もその中には含まれていた。
「マリオネスはこころよく俺に情報を提供してくれた。資金援助をしていたのもあるが、彼女の美しさに賛同する俺に奴は気を許していた。故に今回も監視カメラや奴のサーチアイを通した情報を遠隔通信で俺に届けてくれた。感謝するぞ」
「あちらのセカイで撮った映像は、精神世界・現実世界共に全て俺の元にあるマザーコンピューターに送られている。だからあちらの解析機器類が壊されても、妖将のデータは既に我が手にあるんだ」
彼女の種々の映像を見ながら男……ファシュロカは薄らかな笑みを浮かべた。
彼はかなりのイケメンで、鎧のようなボディを身に纏っている。
道化師マリオネスは彼とは協力関係にあった。
得た妖将のデータをファシュロカに提供するという約束で、彼は大金を得ていたのだ。
マリオネス自身も魅力的な彼女の解析をしたい。
そしてファシュロカの方も今後のために四天王の分析をしたい、そして道化師同様に愛らしい妖将の様々なデータを得たい。
双方の思惑が一致した事で、協力関係が締結された。
これはファシュロカの側から持ちかけた提案だった。
「奴は今倒されてしまったが……レヴィアタンのデータは今回でかなり集められたな。32%から73%までデータ収集率が上昇した」
データの数値を見てファシュロカは含み顔を見せる。
モニター画面には妖将レヴィアタンのデータ収集率が表示されており、そこには73%と計時されていた。
四天王4人のデータは全てこれまでに何らかの接触で集められており、全員分のデータがある。
ただし、その収集率には差があった。
ファーブニルやファントム、ハルピュイアに関しては10%代しか収集出来ていない。
それは彼らが強く、データを多く収集する前に刺客が倒されてしまったからだ。
その中で、レヴィアタンについては少し多い32%という数値のデータが既に得られていた。
それは彼女が四天王の中ではいくらか与し易く、刺客がいくらか善戦出切るからだ。
そして、事前にそのデータ数値がある中で今回の強豪道化師マリオネスの派遣である。
今回、彼はかなり妖将を苦しめて苦戦させた。
それは、彼が元々ミラージュの中では最強格の隠し球的な存在だった事(それでも素の地力は妖将より劣る)。
鏡属性に優位になる鏡セカイに上手く彼女を引き込めた事。
妖将に有利になる水場を予め完全に除去していたこと。
彼女が精神世界にいる間に魂を通して既存の技を分析し、マリオネスの対応力が上がっていた事、等々が挙げられる。
何より四天王の中ではやはり彼女が一番"可愛く"与し易いというのが大きかった。だからマリオネスも善戦出来たのだ。
しかし最後はこうして倒されてしまった。
「あれだけマリオネス有利な状況下では流石に妖将もこちらの手に堕ちると思っていたのだが。ちゃんと勝ってみせるとは大した娘だ」
口惜しそうにするも、彼は嬉しそうでもあった。
彼女がちゃんと四天王としての力量を持っていて、それを証明する形になったからだ。
「それでこそこの少女には価値がある。美しく可愛らしく、それでいて強さも併せ持つ。こんなレプリロイドは他には類を見ないだろう。あの"ゼロ"でさえ、強さは抜きん出ているがそれだけだ。強さしかない者に俺は興味がない」
ファシュロカはレヴィアタンの身体、そして魂を視つつ、彼女の全てを凝視する。
その姿はとても美しく、彼のお目に叶っていた。
「この娘のポテンシャルはまだ奥が深い。これでも尚な」
妖将の愛らしさに満足しつつも、彼はまだ彼女にそれ以上のポテンシャルを感じていた。
彼はそもそも彼女を殺そうとか倒そうとかは思っていないのだ。
マリオネスが思っていた思想と同じである。
ただひたすら、彼女の可愛いところを出させる。
此度の誘拐と幽閉、そして脱出しようとする彼女と道化師との戦いはそれが目的だ。
彼女を永久に捕獲して管理する、というのもあわよくば達成出来ればというのはあった。
だがそれはあくまでも希望的な副産物。
本来の目的は、妖将レヴィアタンの可愛らしさを発露させる事とその観測だった。
そしてそれは今回十二分に彼らは成し遂げていた。
「たくさんたくさん君の可愛いところが見れたからな。そしてそれら全て映像と音声を記録に収める事が出来た」
不敵に笑みを浮かべてファシュロカが映像を再び見やる。
そこには妖将の膨大なそういうところのシーンが保存され、記録されていた。
アーカイブとしていつでも好きな時に見返す事が出来る。
それを何個かずつ再生しながら彼は愉悦に浸る。
「素晴らしい。魅力的な女の子だな君は。マリオネスはよくここまでやってくれたよ」
やるだけやって散った道化師へ向けて彼は賛辞を惜しまない。
「しかし惜しかったな。精神世界で彼女のHPを0に出来ていればそれで彼女を永久に幽閉出来たのに」
ファシュロカは口惜しさを隠さずに呟いた。
彼はモニター画面を通して精神世界の映像を実は見る事が出来ていた。
能力元のマリオネスから映像提供を受けていたからだ。
そこでは妖将の傍にライフゲージが表示されていた。
精神世界とはいえ、精神の魂体にもライフ限度が存在するためだ。
「マリオネスの精神世界は不可思議で物理法則を無視した事が多々起こる。だが論理のルールもちゃんと存在している。その1つがこのライフゲージに関してだ」
ファシュロカはモニター画面を見ながら言う。
「このライフゲージが現実世界で0になるとその者は死ぬ。だが精神世界ではライフゲージが0になってもそうではない。死ぬ事はない。だが、代わりに二度と精神世界からは出られなくなる」
ふふふ、と不気味に笑って彼は囁く。
「俺が見るこのモニター画面には精神世界での彼女のHPゲージがずっと表示されていた。ダメージを受けた時の被ダメ量も。一時は残り僅かな域まで追い込めてチャンスだと期待したのだが。彼女は自力で"AIマニピュレート"を無意識に生み出し、アシスト能力で回復アイテムを生成させて自身を回復させた。俺の予想を上回ったと言えるだろう」
流石は"四天王"だな、とレヴィアタンを評価するマリオネス。
だがあと一歩で彼女を取り逃がしたのは勿体ないといったところだ。
妖将の魂を精神世界に永久幽閉まであと一歩、というところまで彼は成し遂げていた。
そうなれば彼女にゼロとの甘い夢幻を見せて精神を永久的に捕らえる事が出来ていた。
夢を無限にループさせて永久的に幻を見せ続ける事が出来ていたのだ。
そして彼女の身体の方も当然ぬけがらのまま鏡セカイに永遠に取り置かれる事となる。
それを彼らは恒久的に可愛がる事が可能になっていたところだ。今回道化師は惜しくもそのチャンスを逃した。またとない機会だったが、ファシュロカは口惜しがりつつも納得する。
四天王の一角との実力差を考えれば、咎めるのは酷というものだ。
「あいつはよくやってくれた。おかげでレヴィアタンの魅力的なデータが数え切れない程取れたからな」
マリオネスかと見紛うように不気味に笑ってファシュロカがモニター画面を見つめる。
道化師の犠牲と引き換えに彼の元には彼女の一定量のデータがもたらされた。
それは少なくない、いやかなりの収穫と言える。
「さて、ひとまずは奴は倒されたわけだが、まだこれで終わりではないぞレヴィアタンよ」
気を取り直すように彼は意味深な言葉を呟く。
「さて……」
ファシュロカは視線をモニター画面内のメイン区画に移した。そこにはついさっき起こった緊迫した場面が映し出されていた。レヴィアタンが白い中型レプリロイド――スノウスレイヴマンに背後から組み伏せられ、強引に巨大な鏡の中へと引きずり込まれていく映像だった。【挿絵提供: ⬛様(すみません、黒猫の絵文字なのですが変換が出来ません。)】
ファシュロカはわずかに口元を歪めた。嘲りとも楽しさとも取れる、その場にいない第三者ならではの不謹慎な笑みである。
「これも計算通りだ。道化師が倒されることで彼女に生まれる一瞬の隙。そしてそれを突くために配置しておいた餌(エサ)、スノウスレイヴマン。面白い」
彼は端末を操作し、新たに連行された空間の情報を即座に解析し始めた。青黒い靄(もや)が漂う、複雑な立体迷路のような特殊空間。通常の物理法則が歪められたかのような奇妙な重力感覚が支配するエリアである。
「さあ、次はいよいよ最後のステージだ。君に用意したとっておきの。彼女の持つ高い環境適応能力がどこまで通用するか、あるいは……ここで初めてその仮面が剥がれるかもしれんな」
ファシュロカは椅子からゆっくりと立ち上がった。モニター越しでも伝わってくるレヴィアタンの緊迫した様子――奥に引きずり込まれまいと必死に足掻くが、白い腕はまるで岩盤のように固く冷たくて微動だにしない。【りろ/Riro@Skeb closed様】
「恐怖を克服し続けることが彼女の強みだ。だが、限界はある。この世界では外の世界の理では考えられない事が絶えず発生する。特殊な鏡の空間、未知の敵、そして自身のエレメント能力の一部封鎖……」
彼は淡く息を吸い込み、そして試すように言った。
「……どんな答えを出す? 楽しみにしているぞ、妖将レヴィアタン」
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レヴィアタンの心臓は早鐘を打っていた。マリオネスを討ち取った喜びと安堵は刹那のこと、背後から忍び寄っていた冷たい巨腕によって彼女の希望は無慈悲に断ち切られた。
今、彼女は鏡の中の特殊な通路を奥へ奥へと引っ張り込まれていく。
「ぐ……ぅううっ! 離しなさいッ!!」
腕や腰を鉤爪のような指でガッチリとロックされ、身動きが取れない。背後で醜悪な笑い声が響く。
「ぐふふ……おバカなやつ」と嘲笑うのは間違いなくスノウスレイヴマン。以前、精神世界の洞窟で1度は打ち破ったはずの存在だ。
(なぜ……! 確実に倒したはずなのに……!でも、あれは精神世界の出来事だった……!)
混乱と屈辱が脳裏を駆け巡る。自分より明らかに格下だと思っていた相手に完全に背後を取られ、組み伏せられる。プライドの高いレヴィアタンにとって耐え難い屈辱だ。
「こ……こんなの……!!」
必死にフロストジャベリンを振るおうとするが、背後からの圧倒的な膂力(りょりょく)に押さえつけられ、わずかに槍先が宙を切るだけだ。振り向きざまに氷の刃を突き立てようと試みるが、焦りもあって氷を効果的に生成出来ず、効果的な殺傷を与えられない。
錬度が甘い氷の刃では、スノウスレイヴマンの厚い装甲と脂肪層の前では威力不足だ。
「ぐふふ……大人しくしていろ。抵抗は無駄だ」
低い声が耳元で囁く。悪寒が走る。レヴィアタンの体が、まるで意志に反して動きを鈍らせるかのように重くなっていく。エレメント封印の呪詛がまだ全身に効いているのだ。
(まずい……! このままでは……!)
次の鏡面が目前まで迫っている。吸い込まれるように歪んだ景色の向こうは、未知の異空間だ。かつて体験した時間限定の巨大時計盤のようなエリアとも異なる雰囲気を放っている。
「いや……っ! こんなところで……終われない……!」
レヴィアタンは焦りの中、力を振り絞り全身の気を集めてジャベリンに指向させた。
敵に羽交い締めされているために両手で槍を持つ事は出来ないものの、その槍に冷気を集中させる事は出来る。
得意とする氷の輪の応用――局所的な冷気の爆発。ジャベリンから生じた衝撃波がスノウスレイヴマンの膝関節を襲う!
「ぐぅおおっ!?」
一瞬だが確かに緩んだ拘束。しかし……
「甘 い」
スノウスレイヴマンはむしろ楽しんでいるかのように嘲笑うと、今度こそレヴィアタンを完全に持ち上げた。レヴィアタンの両脚が床から離れ、浮遊感が彼女を包む。
「あ……っ!」
短い悲鳴。次の瞬間、彼女は巨人の白い腕に抱えられるようにして、冷たい光を放つ大鏡の内部へと文字通り放り込まれた。激しい水音に似た衝撃と共に視界が純粋な闇に覆われ、次いで色彩が渦巻くように広がった。
どれだけ時間が経っただろうか。
瞳に映る氷と光と闇のシンクロ。
その激しい瞬きが眩しく虹彩を彩り、網膜の裏で溶け合うような感覚。
それがようやく弱まったかと思いきや、彼女は乱暴にとある場所へと放り出された。
「あんっ!」
荒く身体を叩きつけられ、彼女は短い悲鳴を上げる。
ごろごろとしばらく転がると、何とか彼女は踏ん張って止まった。
レヴィアタンは目を開けた。
身体が痛む。投げ込まれた衝撃で全身を強く打ったようだ。
(ここは……どこ……?)
周りを見渡すと、そこは荘厳な大広間だった。巨大な円形の空間は高くそびえる柱が林立し、天井は見えない程高い。床は磨き上げられた黒曜石で、彼女の姿が鏡のように映し出されている。
(ここも鏡の空間なの……?でも何か違う……)
以前の時計盤のような空間とは明らかに異なる。この場所には圧倒的な威圧感があった。まるで神殿のようでもある。
『ふふ……やっと来たのね』
突然、声が聞こえた。振り向くと、そこには玉座が一つ。
そしてそこに座る者は——
「……ッ!?」
レヴィアタンは息を呑んだ。そこに座っていたのは、自分と瓜二つの少女だったからだ。
ボディの装甲色から顔立ちまで完璧に同じ姿をした。
その見るものをつい見惚れさせるような愛くるしい容姿も。
華奢で美しいプロポーションも。
足の先から頭のてっぺんに至るまで、その全てが自分とそっくりな姿だった。【挿絵提供:匿名希望様】
『驚いた?当然よねぇ。だって目の前に"私"がいるんだもの』
レヴィアタンそっくりの少女は妖艶に笑った。まるで鏡から這い出してきたかのように。
「誰よ……あなたは……!」
本物のレヴィアタンはジャベリンを構えた。目の前の存在が不快でならない。同じ顔、同じ声で語りかけてくるこの異常な状況に苛立ちを覚える。
『あら怖い。でも自己紹介がまだだったわね』
お人形のように可愛い少女は玉座から優雅に立ち上がり、ゆっくりと階段を降りてくる。
『私は"アナタ"よ。正確には、アナタの鏡写しだけど』
「鏡写し……?どういうことよ!」
『簡単よ』
彼女は人差し指でレヴィアタンを指さす。
『私はあなたを元に生み出された鏡のコピー。あなたが先に会ってる鏡のゼロと同種の存在と言ってもいいかしらね』
ぞくりと悪寒が走る。
鏡のコピー。彼女はそう言った。
確かに自分は既に似た存在と会っている。
ゼロの鏡コピーは、ゼロに瓜二つの外見をしていた。
纏う雰囲気もほぼ同じで、おそらく実力も近しいと感じていた。
それは目の前の彼女にも言える。
つまりこの偽者は、彼女の姿から能力まで完全にコピーしているということだ。
『そして今日から私が"本物のレヴィアタン"になるの。アナタは不要よ』
偽レヴィアタンは腕を広げた。その瞬間、周囲の空間が歪む。無数の鏡片が宙に浮かび、全てにレヴィアタンの姿が映し出される。
『この世界であなたはすでに弱っている。エレメント能力も制限されているのでしょう?』
図星を突かれレヴィアタンは歯噛みする。確かに彼女の氷能力は万全ではなかった。
『ふふ、安心して。すぐに楽にしてあげるわ……私の手でね!』
偽レヴィアタンの身体から冷気が迸る。同じ容姿から放たれる氷結エネルギーにレヴィアタンは戦慄を覚えた。
『来なさい本物さん!いや……
鏡写しの二人の少女が向かい合う。同質の存在による決戦が今始まろうとしていた。