ロックマンゼロ -episode leviathan- 作:プレイズ
「ちょ、ちょっと待って…!ゼロ」
彼女は慌てて首を振る。
すんでのところで理性がまさっていた。
「今はやめておくわ。まだ起きたばかりで気分じゃないし」
「……そうか。まあ寝起きだしな。疲れているだろう」
ゼロは返答を聞いて少し残念そうにするが、とりあえず納得してくれたようだ。
行為を無理強いしたりはしない。
「わかった。では今はやめておこう」
「……あ、ありがとうゼロ」
彼の言葉にレヴィアタンがほっとする。
もしや構わずに襲われるのではないかと不安だったのだ。
「じゃあ朝御飯にするか。今日は俺が作ってやろう」
「え?いや、朝食なら私が作るわよ」
「たまには俺に作らせてくれ。いつもお前に負担をかけては悪いしな」
朝食を作るとゼロが申し出る。
普段はレヴィアタンが毎食作っているのだが、今日は彼が代わってくれるらしい。
「いいの…?」
「ああ、お前は休んでいろ」
「ありがとう。ならゼロに任せようかしら」
ゼロの言葉に甘えて彼女は朝御飯を任せる事にした。
それからしばらくして、ゼロが朝食を作ってきた。
「待たせたな。完成だ」
彼が持ってきたのはハムエッグだ。
熱々の出来立てトーストにコーンスープが添えられている。
「美味しそうなハムエッグだわ。作ってくれてありがとゼロ」
「気にするな。じゃあ食べようか」
食卓にお皿を並べて2人は隣同士で食べる事にする。
彼らは普段からこうして一緒にご飯を食べていた。
同棲しているのだから当然だが。
「う〜ん、、、とっても美味しい……」
トーストをほうばったレヴィアタンの頬がとろける。
ゼロが作ったハムエッグは柔らかな黄身がカリカリのトーストに絶妙にマッチしていた。
そこに焼かれた生ハムが加わり美味しい感触となって彼女を満足させる。
味付けも抜群だった。
「流石ゼロ。素晴らしい出来ね」
「いや、お前には及ばん。お前の作る料理はこれ以上に凄いからな」
レヴィアタンの論評にゼロは謙遜する。
これだけの料理を作りつつも自分を評価してくれる彼にレヴィアタンは少し赤くなった。
「あ、ありがとうゼロ。嬉しいわ」
「昼食はお前の料理を楽しみにしているぞ」
「ええ、ランチはとびきり美味しいのを作ってあげる」
ゼロに褒められた事で彼女の気分が高揚する。
彼も相当レベルが高いのだが、その彼に評価されるのは彼女としても光栄だった。
そんな彼のために料理を作ってあげたくなる。
「そういえば、私って何をしていたのかしら」
ふと、彼女は疑問に思い当たった。
「どうした?」
「……何か、大事な事をしている最中だったような気がするのよね」
「ほう、それは気になるな」
「でもよく覚えていないの」
記憶が曖昧なレヴィアタンはあまり過去の事が思い出せない。
そんな彼女を見てゼロは言った。
「まあそのうち思い出すんじゃないか。そんなに不安になる事はない。無理に思い出す事もないだろう」
「…そうね、そのうち思い出すわよね」
ゼロに言われて彼女は少し安心する。
確かに今は寝起きで記憶がまどろんでいるため、しばらくすれば自然と記憶がはっきりするかもしれない。
「チュ」
「え……?」
不意にレヴィアタンの頬に何かが触れた。
彼女がそちらを見るとゼロの唇が触れていた。
「あ……」
「フフ、今はまず朝食を食べるとしようか」
「う、うん」
唐突に”キス”をされ、彼女はドキリとする。
付き合っているので普段からこういう事は当たり前になっていた。
だがいまだに彼女はドキドキして慣れない。
「どうした、顔が赤くなってるが」
「ふぇっ?」
「まさかこの程度で動揺したのか。お前もうぶだな」
「な//そ、そんなわけないじゃない。キス程度でいちいち気にしないわよ」
否定する彼女だが、頬は薄紅色に染まっている。
しっかり意識しているのは明白だった。
そんな彼女の顔を見てゼロの口元が楽しげに笑う。
ーーーーーーー
「クク、良い夢を見ているかナ」
“現実世界では“たたずんだままフリーズしている彼女に言葉がかけられた。
道化師の姿をしたピエロが傍で彼女の様子をうかがっている。
ボスのマリオネスである。
彼は10分程前にレヴィアタンを幻想夢にかける事に成功した。
“イリュージョン“を見せられる彼女は立ったまま半スリープ状態となった。
完全に眠っているわけではないため目は開いたままになっている。
ただし瞳孔は霞み、くすんでいた。
マリオネスの能力によって幻覚を見せられているためだ。
今、彼女は特殊なクリスタルの中に綴じられていた。
より高度な幻想を見せるため、マリオネスが用意した幻覚投影用の宝玉である。
高濃度の幻術作用がある代物で、レプリロイド一体をすっぽり覆える程の巨大なクリスタルだ。
このクリスタルの中に収められた者は、現実と違わぬ程の虚構を見せられる。
本人の精神の意向を汲んだ幻夢を。
「……………」
クリスタルに収められた妖将の身体はまるで人形のように動かない。
瞳は霞み、意識が宿っていないかのように。
現実に居る彼女の身体はクリスタルの中でただ静止していた。
【挿絵提供:識 skeb様】
精神が幻想に浸ってから早10分程。
こちら側の彼女はぴくりとも動かない。
幻夢クリスタルの中に収められた者は無限の幻想を見せられ続けるのだ。
己の願望に沿ったイリュージョンを。
それはとても心地よくて、楽しい世界。
その体験を享受し続ける限り対象が凝固から再稼動する事はない。
「さテ、君を幻想の世界に縛らせてもらうとしよウ。そうすれば美しい君は永遠にボクの手の中ダ」
クリスタルの中で綴じられた妖将に向けてピエロが不気味に笑う。
彼はレヴィアタンを幻想に浸らせて溺れさせようとしていた。
薬物中毒のように幻覚作用に脳を依存させて抜けられなくする。
そんな恐ろしい策略を彼は考えている。
幻想の奇術師ーーそれがこの道化師の又の名である。