女王の秘密   作:白天竺牡丹

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第8話 肩書きと反撃

「その黒崎ってガキ。1人で5人も倒すくらい強ェぜ」

「マジかよ!?」

 

 誘拐された先は空き店舗で、比較的広い空間だが薄暗く、最初はその暗闇に目が慣れなかった。

 男達の体格と制服から見て不良の高校生で、鼻に刺激を与える(くさ)い息から、彼らのほとんどが喫煙者だと判断する。耳に大きく響く声と下品な笑い。会話の内容から、あまり頭は良くないらしい。

 対して自分達女子3人は、後ろ手に縄で拘束されているものの両足は自由にしてあるのは、『夜のお楽しみ』のためだろう。しかし、隙を見て逃げられるという可能性は考えないのだろうかと、観察通りのおつむの悪さに溜め息が出る。自分1人なら突破できる自信はあるが、彼女達を人質にされている以上、これ以上下手な動きはできない。

 

「紬。怖いよ…」

「すまない、カエデ。あたしの判断ミスだ」

 

 あたしを間に挟んで、左にカエデ。右に神崎さんが同じ格好で座っている。二人とも自分と違って怖がっており、『普通の女の子なんだな』と心の片隅で思い、なぜか胸がモヤモヤしている。未熟な自分は、まだこの感情の正体を知らない。

 でも、本当は喫茶店を出て甘い飲み物の会話をした時から、彼らの尾行に気づいていた。しかし、修学旅行を楽しんでいる彼らに不安を与えないために、知らない振りをして自然に振る舞い、成り行きに任せていた愚かな自分がいる。

 そして、脳内で十数秒と短い反省会を終え、重苦しい沈黙を自ら破った。

 

「…神崎さんも、こんな目に遭わせて悪かった。安全よりも、暗殺を優先して提案したあたしに責任がある」

「ううん。私も、黒崎さんの忠告をちゃんと聞いていれば、こんな事にはならなかったの」

『……』

 

 この会話に割って入って便乗してきたのは、名も知らないリーダーの男だ。今すぐ(あご)に蹴りを入れて昏倒させ、後頭部を踏んで便所の水を飲ませたい衝動に駆られる。

 下衆(げす)か奴らが苦しむ姿をこの目で見るのは、きっと楽しい気分になるだろう。

 男は、自分が悪戯(いたずら)に近い衝動を抑えているとも知らずに、手にした携帯電話を操作して、液晶画面に映った1枚の写真を見せてきた。そこに表示されたのは、派手な格好をした神崎さんだった。

 彼は、状況説明だけして群れの輪に戻り、談笑で時間を潰す中、神崎さんが家庭環境と心境を話していく。カエデは彼女の話に相槌(あいずち)を打ち、あたしは、屋内と野外にいる相手の人数と配置を全て記憶し、脱出計画を脳内で練り終え、神崎さんに自分の持論も含めて会話を投げかけてみた。

 

「肩書きを取ってしまえば、みんなただの人間になるんだし、縛られる必要はどこにも無い。それに、あたしはEndじゃなくて、EnjoyのE組だと思ってる。現に、殺せんせーがいる今が一番充実してるし、毎日が楽しいだろう?」

 

 だが、投げた話はリーダーが拾い上げ、『俺らと楽しく過ごそう』と言う男に自分が前に出て、毅然とした態度で堂々と断る。

 

「最低な(やから)とはごめんだ。現時刻までの無駄な時間を返せ」

 

 青筋を立てたリーダーが首を絞めるために腕を伸ばしてくるが、首を軽く振って()(くぐ)り、鍛えた脚力で一気に間合いを詰めて、体重を乗せた蹴りを腹に食らわせた。

 

「がっ…!」

 

 鈍痛に耐えきれず、体をくの字に折り曲げた男子生徒の顔面に蹴りを入れる。

 

「っ!」

 

 蹴られた勢いに任せて後方に倒れかける男の肩を踏み台にして、リーダーの背後に位置した男の顔に飛び膝蹴りを見舞い、前傾姿勢を取って空中で反転。羞恥心など女々(めめ)しい感情など殴り捨て、脚を広げる。

 乱暴に詰めこまれた車内で、万が一の場合に隠し持っていたスタンガンの電源は、カエデ達と話している間に探り当てていた。それを押して、起動する。

 電撃の威力を利き手の親指で操作して上げ、男の首に脚を(から)め、下衆(げす)な考えを抱かせて油断させた隙を狙って上半身を後ろに倒し、自分の背と男の腹を密着させた瞬間、手首を軽く動かして睾丸(こうがん)に押し当て容赦無く電流を浴びせた。

 

「ぎッ!?」

 

 自分の頭と床が接触する前に、(から)めた脚を首から離して腹筋に力を入れ、再度反転。

 上から下へ体重移動させて着地し、上半身を起こす反動で、男に頭突きを食らわせてしまい完全に沈黙する。それを、さも『想定内だった』と言わんばかりの顔をして、バチバチとスタンガンを起動させたまま彼らの前で言い放った。

 

「さて。次は誰だ?」

 

 反撃開始から10秒以内に起こった出来事に、不良達は立ちすくみ、残った4人は戸惑いを隠せないでいる。

 そんな折、複数の足音と声が聞こえた。

 

 渚の声だ。

 

 彼が朗々とした声で、殺せんせー手製(しおり)の一部である拉致(らち)対策を読み上げた後に、不良達は、普通ならあり得ないその内容に驚愕しながらツッコミを入れる。

 

「で。どーすんの、お兄さんら? そこの女子に倒されたとはいえ、これだけの事をしてくれたんだ。アンタらの修学旅行は、この後全部入院だよ」

「中坊がイキがるな。呼んでおいた連れ共だ。お前らみたいな良い子ちゃんは、見た事も無い不良共に――」

 

 回復したリーダーの言葉が一度途切れ、暗闇から黄色い触手が現れるのを視界に(とら)えた時、不思議なほど自然と安堵の溜め息が()れ、彼らを信頼して警戒を解き、ようやくスタンガンの電源を切った。

 

「不良なんていませんでしたねぇ」

 

 間延びした殺せんせーの声が響き、不良達の注意が渚達に向いている間、さりげなく長椅子の所に戻って定位置となった真ん中に座り直して、救援部隊の成り行きを見守る。

 

 

 彼らが気絶していたのは、だいたい30秒前後だろう。

 

「おはようございます、誘拐犯共。約束覚えてるか?」

「先に破ったのはテメェだろ!」

「監禁中に暴れないとは言ってねェからな。黙って歯ァ食いしばれ」

「ひっ…!」

 

 誘拐した輩の顔は全員覚えている。

 気絶から覚めて、起き抜けに容赦なく拳で殴りかかる女子中学生を見れば、恐怖しか浮かばないだろうが約束は約束だ。一度口にした約束を無効にするという考え方を、あいにく自分は持ち合わせていない。

 

「まだ生きてることに感謝しな。クソ野郎共」

 

 そう吐き捨て、一度も振り返らずにみんなから遅れて出口へ向かうために前に進んだ。

 夕日色に染まる京都郊外にて、殺せんせーを含む救出部隊に全員無事救助され、体に悪影響が出そうなほど(ほこり)(まみ)れた店舗を出て、のんきに大きく伸びをする。

 

「あの…。黒崎さん」

「なんですか? 殺せんせー」

「あの荒事の中で的確な判断と指示は、申し分なく満点です。でも、どうしてスタンガンなんて危ない物持ってたんですか!?」

「ああ。これは万が一のために持参したんです。私物ですよ」

「にゅやっ!?」

 

 有無を言わせない言葉と笑顔で、一時的に詮索を免れた。

 

「全員無事で良かったよ」

「ありがとう。助けに来てくれて。後頭部は大丈夫?」

「なんとか。でも、救出前に粗方片付けてたよね」

「いやァ。日没前に『俺らと楽しもう』とか言うから、勝手に体が動いちゃってさ。先に暴れたってわけ」

 

 渇いた笑い声が出たが、赤羽(かれ)は口を結んで笑わなかったせいで、自分の笑みが消えるのがわかった。

 

「…あんま無茶しないほうがいいんじゃねぇの」

「無茶してない。やれたからやっただけだ」

 

 腕の立つ彼は『あっそう』とだけ言って、班員と一緒に旅館へ向かった。

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