女王の秘密   作:白天竺牡丹

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第14話 最悪な輩

「予想外だったとしても、明日また挑戦するぞ」

「うん…」

 

 学級委員長の磯貝とメグだけでなく、みんながこの作戦に全力を注いだが、標的の最終形態で暗殺に失敗した上に意気消沈し、重い足取りで宿泊先のホテルに戻ることになる。自分もボートから降りて桟橋(さんばし)に上がり、ひとまず休息をとった。

 

 そこまでは、まだ良かった。

 

 店先で生徒の約半数が高熱と倦怠感に襲われる中、音声を意図的に変えた者から烏間先生のスマートフォンに着信があった。烏間先生は、ウェイターから配膳された警戒心から、サービスジュースを全く飲んでいない自分を呼んで共に作戦を立案する。

 

「…黒崎さん。条件を出してきた相手に何か心当たりはあるか?」

「…そうですね。殺せんせーを知り、最も背の低い生徒である男女を指定してきたことから、教室に出入りした者。しかも、こんな回りくどい手口をとるなら、鷹岡に絞られます」

 

 彼は自分の意見に肯定し、医療をかじっている竹林と科学に長けている愛美2人を除き、動ける者全員を部隊として編成。治療薬と引き換えに取引に応じて、山頂にそびえ立つホテルを目指した。

 

 

 先月、スマートフォンにダウンロードされていた律が割り出した最短ルートによると、眼前の崖を越えた先に目的地があるらしい。しかし、迷っている時間は無いと考えて、即刻アスファルトの地面を蹴った。

 

「紬!?」

「時間が無い。指揮官は烏間先生にすればいいだろう」

 

 メグの叱咤が後方から耳に届いた後、決行のために腹を(くく)った教官の号令が崖下から飛ぶ。

 

「全員注目! 我々の目的は、山頂ホテル最上階! 隠密潜入から奇襲の連続ミッションだ! ハンドサインや連携については、訓練のものをそのまま使う! いつもと違うのは標的(ターゲット)のみ! 3分でマップを叩きこめ!  二一五〇(フタヒトゴーマル)、作戦開始!」

 

 ひなたに遅れをとったがどうにか登りきり、全員登頂するまでの時間を、全員の体力を考慮に入れて屋上までの時間配分を計算するために使った。

 

 

 1階ロビーは、ワインに酔った振りをして、グランドピアノの演奏で警備員全員の注意を引きつけたイリーナ先生の活躍で突破。

 3階大広間で、『スモッグ』と呼ばれる毒ガス使いの男と対面。小太りのその男は、店先でジュースを配ったウェイターだった。前衛の烏間先生がこれを吸って一時的に戦闘不能になってしまったものの、全員で退路を(ふさ)ぐことによって撃破する。

 5階展望回廊で、赤羽が素手が武器の『グリップ』を撃破。形状は違うものの、スタンガンを持っていたために寺坂と共に男を押さえつけ、赤羽によって刺激物を鼻孔(びこう)と口内に詰めこまれて、悲鳴をあげた暗殺者に表向きは同情した。しかし、内心は『鷹岡(クズ)にこれをやったら、絶対楽しいだろうな』と歪んで壊れている自分が(わら)っている。

 6階の酒場は、『女子だけで潜入』という流れになったが、念のために渚を女装させて行くらしい。女子より非力な彼に『護衛が務まるのか』という不安があるものの、そこは近接戦闘に秀でている自分に任せるそうだ。

 

「…エスコートはいるか?」

「いらないよ」

「冗談だ。渚は、女装してても可愛いからな」

「イケボで男に可愛いって言わないでよ。黒崎さん」

「? 中性的な容姿を使った暗殺もあるのに」

「僕が嫌なんだ」

 

 他愛の無い会話をすることで周囲を欺いて油断させ、酒と色。薬物などあらゆる欲と混沌(こんとん)に満ちた醜い巣窟(そうくつ)へ足を踏み入れたが、結果として渚が親の七光りを体現した男子にナンパされ、桃花の撃退法とひなたの一蹴りによって突破する。

 

 

 防音性を重要視したコンサートホールにて、舞台上から銃身を自ら口に突っこむイカれた男だが、一流の暗殺者により、実弾が顔の傍や頭上を飛び交っていたが恐怖心はなかった。むしろ、自分の命を突き放して考えて、最前線の席に放置されている殺せんせーの指示に従って動き続ける。

 そうして、ようやく最上階にたどり着いた瞬間、その背格好や息づかい。以前より禍々(まがまが)しい気配と声から鷹岡だと看破した。なんばでみんなが接近するよりも、烏間先生が銃口を向けるより早くそうできたのは、幼少期からの忌々しい経験によるもので、ちっとも嬉しくはない。

 

「お前も来ると思ってたよ。黒崎」

「テメェの(つら)を2度も見る羽目になるなんて、最悪な夏休みだ」

 

 顔に引っ()き傷をいくつもつけた状態の鷹岡と対面し、吐き捨てるように言った。

 彼は反論するでもなく満足そうに嗤い、最上階の部屋に隣接するヘリポートに来るよう指示して、その下で強風に負けないほどの声で茅野を指定した理由を饒舌(じょうぜつ)になって話す。その詳しい説明を聞いた全員は絶句し、その場に立ち尽くした。

 

「――そして、黒崎紬! 俺の本性を暴きやがったクソアマで、俺の服を裂きやがった!」

「なんで、そんなことを言われなきゃいけないんだ。元陸自所属ならあれくらい回避できる動きで、それができない時点で、あたし達を見下していた証拠になる。器の小さいつまらん男だな」

 

 何か男が(わめ)いた気がするが、いつも通りただの雑音として処理する。

 

「チビ。筋肉女。お前らだけで登って来い。この上のヘリポートまで」

 

 鷹岡はアタッシュケースを持って待機し、2人でそこに上がった彼を見上げて、渚の意見を隣に陣取りながら否定する。

 

「渚。アイツは、治療薬を渡すつもりは無いぞ」

「どうしてそんな事言えるの?」

「まともな思考回路を持ってないからさ。もう狂っちまってる」

 

 8箇所から照明で照らされている指定された場所へ到着し、烏間先生が銃を取り出して照準を鷹岡に合わせる音を自分の聴覚が忠実に拾った。しかし、次の瞬間、一切の援護を受けられないよう階段を爆破される。

 これは、そこを登っていく際に火薬の匂いがしていたから気づいていたものの、彼の目論見通り完全に退路を絶たれた。

 鷹岡は、あたし達に土下座を強要させる。

 本当は、彼のようなクソ野郎に膝を屈するのが心底(いや)だが、感情を理性でねじ伏せ、渚を真似して彼の言う事をオウム返しに繰り返した。心がこもっていなくても、これで簡単に気を良くした彼は、両者の頭をコンバットブーツの靴底で踏みつけた後、ケースを空中に放り投げて起爆スイッチを押し、炸裂した爆風の中で男の笑いが木霊(こだま)する。

 やがて、耳障りな声がぴたりとやんだ。

 

「おい! 絶望した顔を俺に見せろよ、黒崎紬!」

「そんな(ツラ)を見せなきゃならない理由がわからない。テメェがこうすることは想定内だし、いくら発情期の犬みたいに(わめ)こうが雑音として処理する。だから、絶望しない」

 

 授業の時とは違い、淡々と告げる自分に怒り心頭の男は頭部目がけて蹴ろうとするが、軽いステップで体を横滑りさせて難なく回避する。まともに攻めてこようと、その力を利用して投げ飛ばしていった。

 

「おい。小娘ごときに避けられてる上に、投げ飛ばされてるぞー。…鷹岡。殺す気で来い」

 

 静かに微笑み、指先を軽く前後に動かして挑発した。

 歯(ぎし)りする男がコンバットナイフを持っていようと、丸腰の自分には関係ない。冷酷に容赦なく関節を(ひね)り上げてそのまま脱臼させ、武器を奪って地面に転がし、背後に回り様に足払いをかけ、男にとって軽いかもしれないが、全体重をかけて組み伏せる。

 

 あとは、渚がロヴロさん直伝の猫(だま)しと、自分のスタンガンによる電撃で決着がついた。

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