影山飛雄君へ。
こんばんは。もしくは、おはようございます。突然、このような形で連絡を取ることになり、申し訳ありません。私は、黒
明日12月7日火曜日に、5時間目が終わったら走って最寄り駅に行き、一九時までにE組まで行って下さい。間に合わなければ、あなたの友達が亡くなる可能性が高くなります。
追伸
ご家族には、あなたが東京に行くことを私から伝えます。以下の電車とバスを乗り継げば、指定の時間に遅れません。ついでに私の連絡先を登録して頂ければ、緊急時に連絡が取れます。仕事が終わったらすぐに参りますので、くれぐれもお気をつけ下さい。
早朝、走りこみが終わった後に自宅の郵便受けに父さんが購読している新聞と一緒に、俺宛ての手紙が茶封筒に入っていた。
黒
「影山君。危ないから、黒崎さんに近づかないでくれ」
「黒崎さんを止められるのは、俺だけです。お願いします!」
文化祭とは違って、きちんと椚ヶ丘本校舎の事務室に行ってE組に行く許可をもらい、俺はそこへ全力疾走で木枠の階段を駆け上がって、息を整える暇もないまま幼馴染に声をかけたのが、ついさっきのことだ。
そして、総体の後に黒崎さんが電話で言っていたことを思い出す。
(英語教師が勝手に撮った動画が、クラスのグループラインに流れたんだ。本当に面目ない)
だから、俺のことを知っていて止める目の前のスーツを着た男の人も、きっと先生の一人だろう。
「君は部外者だ」
「っ! じゃあ、なんで誰も止めないんですか!」
「止めようとした…! だが、誰の言葉にも耳を傾けようとしないんだ。もう手段がない。…頼む。影山君」
「お願い、紬を助けて。カゲヤマ…!」
「ウス! ありがとうございます」
お礼を言ってから鞄を地面に置き、燃えているすすきを背にした黒崎さんと対面する。
「なに人殺そうとしてんだ、黒崎さんのボゲェ! 今すぐやめろ!」
「やかましい。仕事の邪魔をするな。お前も殺すぞ」
初めて見た感情が無い瞳と、黒光りする銃。
初めて聞いた背筋が凍る声。
初めて言われた『殺す』という言葉。
「……」
「…そうだ。そのまま大人しくしてろ」
俺から興味をなくして、着ぐるみの黄色いタコさんに向き直り、右手に銃を構えたまま首の後ろから生え出た動く黒い物を相変わらず動かしながら、彼女の行動を止められるかもしれない賭けの一言を叫ぶ。
「やめろ! 黒
タコさんのネクタイの下を狙う黒い物は止まらず、黒崎さんは俺に視線を向けないで言った。
「…誰かと間違えてないか?」
「間違ってねえ。黒崎さんの本名で、5歳の時から一緒だっただろうが」
「何を言ってる? 小学生の時からだろう?」
「
「違わない」
「それなら、『初めて来た』七夕祭りで、笹飾りの前に立って眉寄せたり、ひょうたん揚げ食って首かしげたりしねえんだよ」
「それがどうした」
「俺は、黒崎さんの過去を知ってる」
「……」
黒崎さんが黙りこむ。
彼女の瞳は炎を映し、言葉に答えても俺の姿をとらえてはいない。
「過去なんて、どうでもいい。今まで培った技術を触手で補って標的を殺して、E組の黒崎紬でも君が言うクロハバキ紬でもなく、暗殺者のハヴォックとして死ぬ」
背中を向けたままの幼馴染に、怒りに任せて言葉をぶつける。
「本気で死ぬつもりなら、なんで俺に電話したんだ!? 『死にたくない』って思ったからだろ!! いい加減、この俺にッ! 王様に本音全部ぶちかませ! 女王様!!」
返ってきたのは、いつもの微笑みじゃなかった。
俺に向けられたのは、黒いほうの銃だった。
「夏祭りの仕返しなら失敗だな。王様」
くぐもるだけで、映画のようなパンッと弾けて聞こえるはずの音がしない。
でも、打ち出された物が俺に当たることはなかった。後ろから詰襟ではなく、両肩をつかんで誰かに引き倒されたからだ。
「い゛…ッ!」
「すまん。丁寧に扱ってる暇がない」
「…ッス」
男の人が謝っているのは、黒崎さんを絶対に救うという理由があるからだろう。
「残り11か12発。危険だが、これは影山君にしかできないことだ。援護する」
「ッス」
「カラスマ。本当に撃つの…?」
「威嚇射撃だ。…行け!」
俺は立ち上がって、一歩ずつ黒崎さんに近づいていく。
彼女との距離まで、あと半分。
黒い物はまだあのタコを殺そうとして動き続け、黒崎さんの呼吸も段々浅くなっている。それでも歩みを止めない。カラスマと呼ばれた人は、俺に向かって撃とうとする黒崎さんを止めようとして威嚇射撃をしたけど、弾が彼女の体に当たることはないし、俺にも当たらない。
「黒崎さん!! 影山君もあなたの大切な人でしょう! 正気に戻っ──いたっ!」
人形のように感情が読めず、彼女の冷酷な意志が銃から吐き出される。それら全てを目には見えなくても、タコが止めていて、邪魔されることに腹が立った黒崎さんは、無表情で左手に握られたままの緑色の銃を撃った。
おもちゃに見える銃から何かが出て、ばちゅんと弾ける音と共に俊敏に動いていりは太いほうの両腕が草むらに落ちた。しかし、活きのいい魚みたいにびちびちと両側で跳ね回り続け、なんだか気持ち悪い。
「邪魔するヤツは全員殺す。そう言ったはずだ」
「それでも…! せんせーも影山君も、黒崎さんの命を救うためならどんな手でも使いしますし、絶対諦めません!」
「っ!」
人には効かない物だと判断し、本物の銃を持ったほうの右手首がタコの細い手によってつかまれた隙に、一気に走って距離を詰めたものの腹を容赦なく蹴られ、その衝撃で地面に尻餅をつく。数秒痛みで激しく咳こんで、ひょろひょろした男子生徒に背中をさすられた。
タコの先生と同じく、『必ず黒崎さんを止める』という執念だけで立ち上がって、自分より細く、先生に打撃を与える銃を持つ左手首を握る。至近距離で間近に対面すると、額からびっしり汗をかいていて、肩で呼吸し、触れた肌はインフルエンザにかかったのかと疑うくらい熱かった。
「…もう、やめてくれ。黒崎さん」
「離せ…っ!」
「離さねえ。今度こそ絶対に離してやらねえからな」
「今度こそってなんだ。離せ! 邪魔するな! ちゃんとやらなきゃ――」
「頼む。…死なないでくれ」
「うるさい。あたしは戦って死ぬ! お前なんか、どうなってもいいんだ。クソ…! 離しやがれ!」
平行線のまま死なせるくらいなら。言葉での説得がだめなら、いっそのことこうしたほうがいい。俺は黒崎さんより馬鹿だから、何も考えずに感じたままに、空いた左腕を腰に回して行動に移す。
「い゛っ…!!」
首に思い切り噛みついた。
うっすら歯形がつくほど強く、強く。
鎖骨に近い場所のせいで、首飾りが犬歯に当たった。
「何すんだ、テメェ…!」
「殺すのやめるって言うまで、噛み続けるからな」
炎の逆光で見えねえけど、地味な痛みに顔をゆがめているだろう。
後ろにタコ先生。前に俺が立ち塞がり、身動きが取れない幼馴染は、隙あらば俺の靴を踏んだり脚を蹴ったりと抵抗して暴れ続けている。
いくら衝撃が加わってもそのたびに首筋から離れ、違う場所を噛んでいった。短くか細い耐えるような悲鳴が頭上から聞こえてきて、今までとは全然違うかわいい声に命を失うかもしれない状況で、『もっと聞きたい』という欲求が募っていく。
「やめる気になったか?」
「ッ…!」
しばらくして首を半周した頃、彼女は両手を上げて降参の意志を示した。