地下にいる被検体を全員救出した後、現存している設備を破壊し、子供の犠牲がこれ以上出ないよう研究者達を全員始末する。
関東支部所属の山鹿武彦さん経由で《ハボック》から伝えられた『頂上』作戦なるものの指令書には、要約するとそう記載されていた。
屈辱的な経験をしても冷静さを保っている少女を救出して30秒が経過する。少女は媚薬が効いている体で自動拳銃を手にして、安堵の表情を見せていた。
地下にいるということは、暗殺者として相応の実力を有しているに違いない。実際ドッグタグに刻印されていた検体番号後の末尾『S』は
「お待たせしました。
「呼び捨てで構わないよ、ハボック。行こうか」
「はい」
廊下側にある電子錠は、しのぶのハッキングで操作されて19号室の扉が開き、自分達が退室した後に閉ざされる。彼女は隣の20号室。自分は18号室にいる研究員を射殺し、衰弱している様子の幼児達を腕に抱えて救出した。小学生低学年ぐらいの幼年幼女だ。
地下2階の電子錠が一部屋ずつ解除されて扉が開き、その中から研究員達の怒号や
「こちら千鳥。14、15号室、制圧完了。隼とハボック、両名との合流に成功した」
黒髪をうなじで団子にまとめた同僚が、血が滴るナイフ片手に合流する。
少女同様無感動の瞳をしているが、片腕に抱いている女児を気遣うに抱えていた。一方、少女と僕はタイル張りの床に転がる空
「1階に着いたら、正面玄関から駐車場に行って。
「ハボック。了解」
「千鳥。了解」
エレベーターが少女を含めた10人の子供と女性を乗せ、地下1階に向かって上昇していくのを見送る中、隣の1基は地下6階に降りていく。
来た道を戻り、棚に保管された多種多様な薬物を事前に用意していた緩衝材を敷いた段ボールに梱包。台車に載せて押収する手伝いをしたいが時間がない。僕を含めた4人のうち2人は地上へ行き、子供達とは別の車で脱出する手
腕時計を見る。
「
「監視と『先生』が5人ずつ。今月は、退役自衛官じゃないぜ」
「
「弱者をいたぶるのが好きな前科者だろ。生きてたら、代わりに殺せ」
「
『先生』のほとんどは退役した自衛官で、『生徒』である子供達の正体を知らずに、4月から2月まで、ほぼ1年かけてナイフ術を始めとした技術を教える。その集大成として、『輩』と呼ばれる殺人罪などの犯罪者を殺して合格した後に、さらに半年ほど勉強をさせてどこかへ姿を消していく。そこから先は、僕にはわからない。
検査室とは違う道場の暗証番号が勝手に入力されて、あっさり開かれていく。
「なん──」
白髪が混ざった男に発砲し、衝撃を受けた表情のままその場に崩れ落ちて絶命した。
小学校低学年に見える男児は、拳銃片手に呆然としている。人が死ぬ様子を目の当たりにするのが初めてなのか、理解するまで時間はかかるようだ。とりあえず、自分が敵ではないことと助けに来たことを伝え、幼年を抱えて四号室から脱出し、廊下で待機するように命じる。
『大垣、名取! なにをしている!? まだ試験中だぞ!!』
5つに仕切られた『道場』にそれぞれ繋がってるスピーカーが震えるが、
悠長に『今すぐ武器を捨てろ。さもなくば貴様らを殺す』と
「! な──」
男の側頭部を撃ち抜いて
「だァれ…?」
耳元で弱々しい声が響き、幼女に答える。
「
「はぁうしゃ?」
「そうだ。腕を治した後、家に帰れるぞ」
応急処置を行った後、6分以内に監視員を殺し、最後の5人を駐車場に待機している車まで走って救わなければならない。
そんなことを頭の片隅で考えつつ、怪我を負った少女を抱えて状態で廊下を出て扉を閉めた瞬間、背後で研究者達の悲鳴や激しく咳こむ音が聞こえ、立て続けに発砲音がして、次第にうるさい声が
『こちら
「なんとか無事だ」
腕の中で
地下施設には空調設備や防火設備。電力供給などはあっても、防犯カメラの類は設置されていない。どの部屋も完全防音が施されており、今ではタイル張りの床には血の海が広がっている。
「急げ!」
火の手が上がる前に、火災報知器が作動してエレベーターが動かなくなる前に脱出しなければ、階段が設置されていない地下に閉じこめられ、作戦自体が失敗に終わる。
40秒後。しのぶの干渉外のエレベーターが『ピンポーン』と音を立てて降りてきて、転がりこむように乗り、扉が閉まってから即刻地上2階のボタンを押す。何事もなく上昇していく中、重力を感じつつ両脇に抱えた子供達を床に一度下ろして、8発しか撃ってない自動拳銃を腰に仕舞い、再度幼年幼女を腕に抱いた。
「少し待ってな」
先に子供達が乗り、後から僕達が乗りこんでちょうど子供達を抱えた時、1階に到着していた。
「よし。行こうか」
「こちら、
『
『
受付嬢はおらず、そのまま裏口に回り、タイムカードを押してから警備員のチェックが入るが、左腕を負傷した子供を見て驚き、『急いで病院に送るから』と詮索を避けた。
「ごめんね。走るよ」
裏口から一番近い場所に車が2台停車していて、運転手双方がスマホの灯りを灯して場所を知らせ、幼女の怪我を考慮して名取が奥の車へ駆けていき、僕は手前の車に乗りこんだ。
「2分前。ギリギリだったな」
運転手の今作戦の暗号名は、
青縞瑪瑙色のジャケットの胸元には民間警備会社《瑪瑙》の文字が刺繍されており、通称『Nナンバー』の被検体を安心させる言葉が車内で飛び交う。彼の報告によると、先に脱出した20人の被検体は誰一人命を落とすことなく、
戦果はまずまずだったが、これは破滅への序章に過ぎない。
「任務完了。撤収する」
こうして、静岡にある『東亜総研』の本拠地は警備員を残して墜ちた。